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町医者と教育
2012年05月28日(月)
「健康」という教育を強化することは、国益になると思う。
昨日発売の、日本医事新報に書かせて頂いた文章を転載させていただく。
町医者で行こう5月号 町医者と教育
夜間高校の検診から見える未来の日本
ある夜間高校の校医を拝命して10年になる。最初に検診に出務した時は驚いた。15歳の背中に、将来の病気が見えたのだ。聴診器を当てる時に、肌がカサカサであることにすぐに気がついた。アトピー性皮膚炎、極端な側湾、無気力、そして高度肥満が15歳ですでに始まっていた。さらに驚いたのが喫煙率の高さ。胸のポケットにタバコを入れた15歳が何人もいた。「先生、ここでタバコ吸っていい?」検診の中でこんな会話が交わされた。既にブリンクマン指数(BI)が200を超えていた生徒が何人かいた。さっそく校長先生に志願して「禁煙・防煙教室」を全校生徒対象に開催した。ニコチン中毒に陥り死んでいくマウスのビデオを見せたあと、希望者に呼気中のCO濃度を測定するスモーカライザーを吹かせた。そうした効果もあってか現在では喫煙率は大幅に減少。3年前からは春・秋の2回講座とし、秋には管理栄養士も帯同して栄養の講義を中心にするなど工夫を加えた。今年からは薬物依存や薬物乱用の話も加える。年2回では、追いつかないので基本的に毎月講義することにして頂いた。
予防医療は学校教育から
尼崎はメタボ検診発祥の町だ。メタボリックシンドロームという概念は出身医局である大阪大学第二内科で生まれた。それを尼崎市役所の保健師である野口緑氏が尼崎市職員に内臓脂肪に着目した検診・指導として実施した。その成果が厚労省の目に留まり国策として採用された。医療費抑制効果としての検証は別の機会に譲るとして、国を挙げての初めての予防医療としての壮大な試みである。しかし検診対象者が40歳~65歳ではあまりにも遅すぎる。もっと若いうちから、できれば高等教育、いや初等教育から検診を始めるべきであると考えるのは当然だろう。小学生~40歳までのメタボ形成の一番大切な時期が完全に抜け落ちている。産業保健におけるメタボ対策があるものの弱い。予防医療こそ、学校教育からではないのだろうか。
生活保護にならない、させない教育
生活保護費が3兆円を超え国家的課題となっている。貧困と病気は密接に関連している。さらに貧困と喫煙率はさらに密接だ。年収600万円以上の人の喫煙率は10%弱なのに対し、生活保護(年収ゼロ)の喫煙率は73%に及ぶ。その差、実に7倍。貧困は子供時代から始まっている。貧困が貧困を呼ぶという、負の連鎖からタバコ病が生み出され、最終的に在宅医療の現場、すなわち私たち町医者の元に戻ってくる。
生活保護対策として現在、重複受診の調査や注意喚起が行われている。向精神薬の重複投与が最重点項目として精査され、処方した医師に警告文書が届いている。一方、就労支援にも力が注がれているものの思うような効果があがっていない。それどころか、受け持ちケースの増大に伴うケースワーカーのメンタル不調問題が浮上している。これらの生活保護対策は病気の治療に例えれば、後手後手の感がある。
生活保護対策こそ予防的視点が大切ではないだろうか。すなわち、生活保護にならない、させない教育を施すべきではないか。と考え、今年からは夜間高校で「生活保護にならない方法」を教えることにした。まず「健康」や「病気の仕組み」についての授業をする。ライフスタイルの無知が病気を生むことを子供たちに分かり易く伝えたい。さらに生活保護制度についても解説する。社会保障制度の理念や仕組み、そしてどうしたら生活保護にならないかまでを教える。手に職をつける方法も教えたい。無料で2級ヘルパー資格を取得する方法のみならず介護という仕事の素晴らしさ、楽しさも教えたい。「健康」という学校教育こそが、生活保護の最大の予防施策であることを実証してみたい。
町医者と町の子供の教育
町の子供の教育こそ町医者の仕事ではないかと考える。尼崎市医師会は医師会のA会員全員がどこかの学校の校医になる「全校医制」を採用している。医師会という組織ならではの素晴らしい制度だと思う。ただし「健康」の授業は全くのボランテイアだ。しかし考えてみるとちゃんと「校医料」を頂いていた。従って正確にはボランテイアではなく、志願して余分な仕事をやっているだけだ。私はご縁あって地元の大学の客員教授や非常勤講師も拝命している。そこには医学生や社会人も予防医療や医療制度について聴きに来る。
町医者こそ非医療系大学や地域の高校、中学、小学校における命や健康の授業をするのに適した立場はないと考える。勤務医はあまりにも忙しい。町医者は医師会を通じて地域の学校保健のみならず学校教育に気軽に参加し易い環境にある。
町医者は産業保険への参画も重要だが、子供の教育にも重要な役割を果たすべきだ。もはや椅子に座って、待っている時代ではない。地域包括ケアシステムの一員として老人医療に参画するだけでなく、学校教育にも積極的に参加すべきであろう。老人医療は個別医療で手間がかかるが、子供の教育は集団指導が可能でありITの活用も大いに期待できる。医師会クラウドを通じて共通の教育ツールを配信することは、その気になれば可能なはず。手遅れ感が漂うメタボ検診・指導より効率的な国家戦略としてこの場をお借りして提案したい。
医学教育と町医者
新臨床研修医制度に地域実習が取り入れられている。短く言えば「在宅見学」に私の診療所にもいくつかの病院から研修医がやって来るのが慣例である。研修医を連れて在宅現場を回る姿は患者さん側ももう慣れた。ケアマネや訪問看護師さんとも必ず同行して頂けるよう工夫している。介護認定審査会の見学も義務づけられ介護との連携も学んで頂いている。そのような教育に熱心な開業医に臨床教授という称号を授与する大学も増えてきた。「もし1年間、現役の大学教授と在宅療養支援診療所管理者が入れ替わればどうなるか?」とある会議で聞いてみた。えー、そんなことあり得ない!という人には、「じゃあ、1週間だけ変わればどうなるか?」と聞いてみた。そう、たったそれだけでも医療界は大きく変わるだろう。教育という原点に立ちもどるなら、時には逆転の発想も必要ではないだろうか。
以上、町医者と教育の関係を思いつくまま述べてみた。教育への投資は必ずや「国力」増強に寄与すると思う。
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