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あの日を忘れない

2015年01月17日(土)

あれから20年生きてきた。
開業して20年経った。
感無量で今日の日を迎える。
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以下、今日の産経新聞からの転載 →こちら

産経新聞・生と死シリーズ第4回   あの日を忘れない
                                1・17に考える、人間の「覚悟」とは 
                 
 あの日から丁度20年が経った。あの朝のことは鮮明に覚えている。大袈裟ではなくこの世の終わりかと思った。大きな箪笥の横で寝ていたが、もし私の上に倒れていたらこの世に私は居なかった。築30年のマンションはなんとか倒壊を免れた。生かされたのはたまたま運が良かったから。あれから町医者に身を転じ必死で生きてきた。大切な人を失い、今も毎日悲しみに暮れている人が自分の周りに何人かいる。せっかく生き残っても復興計画の会議のストレスで倒れた人も見てきた。表面的には復興したように見えても、失われたものは現在でもあまりに大きい。あの災害から何を学んだのか。そして東北の被災地の人に何をお返しできているのか。3.11以降、自問自答は大きくなるばかりだ。

 当時、宝塚市民病院の副総婦長だった黒田裕子さんは病院を出たきり帰らなかった。体育館の避難者に寄り添い、西神第七仮設住宅の入居者を抱きしめ、そして気仙沼の面瀬仮設住宅で雑魚寝するうちに病に倒れて旅立たれた。しかし“災害看護”という道を開き多くの後進を育てた。私も黒田さんの影響を強く受けている。あの震災は人生の大きな転機だった。政治や行政機能も麻痺したあの混乱状況の中では、頼れるのは自力だけだと知った。非常時には個人の力が大きくなることを、20年前のこの日に学んだ。

 復興住宅の高齢化が50%を超えたという。都会の中の限界集落になりつつある。その中で昨年も独居死が40人あったという。発見まで11日以上かかった人が6名、1ケ月以上かかった人が2人。仮設住宅が解消した00年1月以降の独居死の累計は864人に達するそうだ。年々、復興住宅の住人から往診を頼まれることが増えてきた。行くとどこか閑散としている。部屋の中に入るとガランとした部屋の中に叫んでいる高齢者がいる。魂の叫びに聞こえる。いや、本当に魂の叫びなのだろう。医療者としてその苦悩にどこまで寄り添うことができるのか、黒田裕子さんのように抱きしめることはできなくても、何かお役に立つことはできないものか。地元の復興住宅にさえ寄り添えていないのに、東北を支援するなんて本当にできるのか。答えの出ない課題を抱えたまま正月を越えた。

 光明は、震災を知らない世代が成人式を迎え、テレビのインタビューに「防災が大切だ!」と言ってくれることだ。戦争と同じで残されたものが語りつがないと、犠牲になられた人にあまりにも申し訳ない。そう、「防災こそが最大の予防医療」なのだ。ちゃんと備えることでたくさんの命が救えることを我々は学んだ。その教訓を次の災害に活かさなければいけない。防災を専門に学ぶ高校生は明るくて、希望の象徴だ。防災とは「覚悟」でもある。人間の力が及ばないものへの畏敬の念とともに、災いを最小限に食い止めることを考え、広めようとしている震災を知らない子供たちこそが、阪神間の宝だと思う。20年間のみなさまの努力の結果であると感謝したい。願わくば、阪神の経験を東北に送り続けたい。我々は震災の20年後の姿を知っている。しかし東北の人は、20年後をとてもイメージできない。お金や物以外にも「知恵」という支援もあるはずだ。20年前、たしかに我々は自助と共助で立ちあがってきた。2011年7月に出た拙書「共震ドクター 阪神そして東北」を読み返しては、生涯この日を忘れまいと言い聞かせている。
 
キーワード 復興住宅
阪神大震災では、兵庫県や神戸市等の被災自治体が約4万2000戸の災害復興公営住宅を供給した。当初は被災者に限定されていたが、その後は一般の入居者も受け入れている。

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