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医療事故調の論点とは

2015年06月04日(木)

医療事故調の論点がどんな感じか知りたい方へ。
現在以下のような議論があり論争になっている。
予期せぬ結果→事故調→警察→逮捕となれば、ハイリスク科の医者がゼロになる。
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シリーズ: 始動する“医療事故調”「新たな被害者を作るな」、事故調査に

警鐘医療制度研究会で講演、浜松医大教授の大磯氏レポート 2015年5月18日(月)
配信橋本佳子(m3.com編集長)
 
 5月16日に開かれたNPO法人医療制度研究会の第86回講演会で、浜松医科大学
医学部法学教授で、医師で弁護士でもある大磯義一郎氏は、「医療者の人権保
護からみた医療事故調査制度の問題点」と題して講演、この10月から医療事故
調査制度が始まるのを踏まえ、「医療事故の調査で、医療者の新たな被害者を
作ってはいけない」と警鐘を鳴らし、同制度を医療者個人の責任追及ではなく、
真に医療安全に資する制度として運営していく重要性を繰り返し強調した。浜
松医科大学医学部法学授の大磯義一郎氏。
 
 そのためのカギとして、大磯氏が挙げたのは、2点。一つは、弁護士の利益
相反と病院管理者の利益相反という、二つの利益相反をいかにマネジメントす
るかだ。もう一つは、「国際標準から50年遅れている我が国の医療安全への取
り組み」(大磯氏)について、その遅れを早急に取り戻すこと。
 
 大磯氏がこれらの二つの問題が内在している例として挙げたのが、昨年4月
の国立国際医療研究センター病院の造影剤ウログラフインの誤投与事故(『造
影剤の誤投与事故、「間違いない」と担当医』を参照)。病院管理者は、個人
責任に帰着させて事故対応をするのは、病院管理者らの利益相反に対する認識
不足と、医療安全に対する知識不足に原因があると、大磯氏は指摘。病院管理
者と医療者の利益相反の考え方(提供:大磯義一郎氏)
 
 同事故では、誤投与した医師個人の責任が追及され、業務上過失致死罪に問
われ、現在公判中だ。「病院管理者と医療者の間には利益相反がある。病院管
理者は、落とし所を考える。個人責任に帰して、全面謝罪をすれば、社会的な
バッシングも受けにくい」(大磯氏)。これに対し、現場の医療者は、病院が
組織の問題として対応しなければ、民事・刑事・行政責任を問われ得る。「病
院管理者は、悪気がなくても、トカゲの尻尾切りをしてしまう。だからこそ、
利益相反の存在を知ることが必要」(大磯氏)。
 
 また大磯氏が、「弁護士の利益相反」と指摘するのは、患者側だけでなく、
医療側の弁護士にとっても、医療事故が紛争化すれば、仕事につながり、メリ
ットがあると見るからだ。「2000年代前半の医療界の失敗は、医療者がバッシ
ングを受けた時に、法律のプロに対応策を求めた点」とし、弁護士のアドバイ
スは参考程度にとどめ、医療者が自立的に対応すべきとした。
 
 「医療安全の50年の遅れ」とは、誤投与事故の原因を、ヒューマンファクター
に求めるやり方だ。その後の医療安全は、組織上の問題、さらには「複雑なシ
ステム」として捉える「レジリエンス・エンジニアリング」の考え方で対応す
る流れになっていると紹介(『なぜ繰り返される異型輸血の事故 - 中島和江・
阪大病院中央クオリティマネジメント部部長に聞く』などを参照)。
 
 組織的に対応する場合、医療事故とその要因は「スイスチーズモデル」に例
えて説明されることが多いが、大磯氏は、「穴にパッチを充てると、別のとこ
ろに穴が開く」と指摘。パッチとして、事故が起きるとマニュアルやチェック
リスト、ガイドラインが新たに作成されることが多い。これらは病院管理者の
「免罪符」になり得るが、現場の医療者にとっては、マニュアル等以外のこと
に対応できなかったり、それが膨大になると業務負荷が高まり、結果的に遵守
できないなどの問題が生じ得るとした。
 
 さらに、厚生労働省の「医療事故調査制度の施行に係る検討会」の構成員も
務めた大磯氏は、同制度の省令や通知についても、医療者の人権保護の視点か
ら解説。同検討会で議論になったのが、事故調査報告書や事故調査の際のヒア
リング内容などの文書の取り扱い。これらが民事裁判や刑事裁判に使われるこ
とへの医療者への懸念は根強い。大磯氏は、医療者に対して、事故調査のため
の聞き取りを行う際には、「医療安全のために行うものであり、責任追及のた
めに使われるものではない」旨を説明するとともに、報告書の冒頭などにこの
旨を記載すれば、民事訴訟手続きで「文書提出命令」が来た場合でも、裁判所
が「提出義務なし」と判断すると大磯氏は説明した。
 「我が国の人権感覚、レベル低い」
 
 大磯氏は講演の冒頭で、福島県立大野病院事件(2004年12月に事故発生、20
08年の福島地裁判決で医師無罪)や、東京女子医大の人工心肺事件(2001年3
月に事故発生、2009年3月の東京高裁判決で医師無罪)で医師が業務上過失致
死罪に問われた例を挙げ、「責任追及のために行う事故調査は副作用が大きい。
医療事故調査制度は、患者のためだけではなく、医療者が安全な環境で医療を
行うためにも、医療安全を目的として運営することが必要」と指摘し、患者と
医療者との「Win-Win」の関係を構築すべきとした。
 
 しかしながら、国立国際医療研究センター病院のほか、群馬大学の腹腔鏡事
故、東京女子医科大学のプロポフォール投与事故など、昨今発生した事例を挙
げながら、事故対応は依然として個人の責任追及型から変わっていないと問題
視した。
 
 国立国際研究センター病院の事故について、「事故が起きたことだけではな
く、その後の対応が残念だった」と語る大磯氏。事故対応の問題として、(1)
医師法21条の異状死体の届出対象ではないものの、2014年4月16日の事故当日
に、警視庁牛込署に届け出た、(2)翌々日の4月18日に記者会見し、「医師の
誤投与」としてヒューマンファクターに絞った形で事故を公表、(3)ウログ
ラフインのアンプル等にある「脊髄造影には禁止」との警告に、担当医がなぜ
気付かなかったのかは不明、などと発表しただけで、医療安全の観点から気付
かなかった理由について検討していない、(4)8月の外部委員を含めた医療事
故調査委員会の報告書を公表した際にも、ヒューマンファクターが原因である
とし、マニュアル整備や相互チェックの実践などの再発防止策を掲げ、「職員
が一丸となって診療に当たることを決意する」などと結んでいる――などの点
を指摘。
 
 記者会見等の在り方について、医師個人を特定し得る形で公表したことから、
大磯氏は、「トカゲの尻尾切りの対応をした。人権蹂躙の程度が尋常ではない」
と問題視。その上で、医療安全の観点から次のように述べた。「マニュアル類
の一定の整備は必要だが、何か起きるたびにマニュアルを作っていると、マイ
ナスに働くこともある。これまで造影剤の同種事故で8件が刑事事件化してい
る。役に立たない再発防止策を並べ、最後は精神論に任せていても、何も解決
にもならない。残念ながら9件目の同種事故は起き得る」(大磯氏)。
 
 アンプル等の警告について、大磯氏は「人がよく見ないと分からないのは、
警告ではない」と指摘。この点について、フロアからは「警告」を書いたラベ
ルをはがさないと、アンプルを切れないような構造にするなど、「フール プ
ルーフ(fool proof)」の対策を取り得るにもかかわらず、なぜ医療界はこう
した対応を取らないのか、との疑問も呈せられた。
 
 そのほか大磯氏は、群馬大学の腹腔鏡事故については、外部委員も含めた院
内事故調査の報告書において当初、「過失があった」と個人責任を追及する表
現が多用された点を問題視(『群馬大学腹腔鏡事件の報告書は小学生レベル』
を参照)。「過失があった」との表現は、医療界などからの批判を受け、削除
された(『最終報告書から「過失あり」を削除、群大病院』を参照)。
 
 女子医大のプロポフォール投与事故については、術後管理に関わった中央IC
Uの医師らについて、外部委員会の報告書で、「診療行為についての供述を避
けようとする態度が認められた」「はなはだ無責任な言動と言わざるを得ない」
などと指摘されている点を、大磯氏は問題視。「本当にひどい。事故調査に当
たって、医療者の秘匿性や非可罰性が担保されていない。我が国の人権感覚は
このレベル」(『「死因は禁忌薬の使用」、女子医大第三者委』、『東京女子
医大プロポフォール投与事件』を参照)。
 「ミランダルールに則った調査を」
 
 10月からの医療事故調査制度について、医療者の人権保護の視点から強調し
た一つが、事故調査報告書の匿名化だ。大磯氏は、「個人の責任逃れの議論を
しているのではない。個人責任追及は、本制度と別個に議論にすべきという主
張であり、この点は間違わないでもらいたい」と前置きした。その上で、厚労
省の検討会で、報告書の匿名化を提言した理由について、「いくら匿名化して
も、当事者には分かってしまう。個人が特定できないようにするためではなく、
医療事故調査・支援センターに対する個人情報保護法に基づく、事故調査報告
書の情報開示請求を回避することが匿名化の目的。匿名化すれば、センターは
個人情報を有していないことになり、開示請求の対象外になる」と説明した。
 
 また、民事裁判における裁判所から医療機関に対する、事故調査報告書など
についての文書提出命令への対応についても大磯氏は説明。裁判所は、(1)
内部文書性(外部に開示することが予定されていない文書であること)、(2)
不利益性(開示によって所持側に看過し難い不利益が生じる恐れがあること)
――という視点から、提出すべき文書か否かの判断をするという。「判例から
言えば、報告書は非公開だが、報告書の冒頭に、内部文書性と不利益性に該当
することが分かるように記載すべき」と大磯氏はアドバイスした。
 
 しかしながら、一方、刑事責任が追及される場面で、警察の強制捜査が入っ
た場合には、報告書は保護できないと説明。「捜索差し押さえがなされた場合、
厚労省や業界団体が一体となって、抗議すべき」。大磯氏はこう述べ、医療事
故調査の結果により個人責任追及のリスクが払拭できない以上、人権保護の手
続きである「ミランダルール」に則り、(1)報告書が刑事訴追の資料として
捜査機関に提供されることがあり得る、(2)黙秘権がある、(3)弁護士に相
談することができる――などの点を、聞き取り対象の医療従事者に事前に説明
するとともに、報告書に対する訂正申立権や拒否権、異議申立権を求めるべき
とした。

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この記事へのコメント

私も、稚拙な鍼灸治療で、患者さんを殺しかけたことがあります。
鍼灸では、人体の背面は陽とみなし、腹面は陰とみなします。
ですから腰部や臀部は中国鍼の太くて、長い鍼を刺しても、そうそう医療事故にはならないのですけど、「便秘」等で腹面に治療する時は、お灸だけにするか、日本鍼の膏鍼の00番くらいを浅く刺すのが、せいぜいです。
それを、中国鍼を使ったので、大分痛かったらしい。えらく怒られました。
そういう失敗を考えますと、やはり学生時代の実務研修をよほど積み重ねなければいけないと思います。
それとマイケルクライトンの「ER救急救命室」ではカウンター市民病院の中で、事故とか事案な起こるたびに院内の検討会を開いてかなり厳しい追及がされていて、見ている私も「怖いなあ!」と思いました。
でも小さな事故のうちに院内で厳しくお互いに討論していたら、大きな事故を防ぐ一歩になるのではないかと思いました。
日ごろから憎い相手だったり、同情してしまったり、人間的要素も当然あるのでしょうけど、アンスポー病院長や、カラードの補助婦さんが温かい人柄で、追及されている女医さんや女性看護師長も救いわれる場面もありました。
あんな風にはなかなか行かないのでしょうけど。

Posted by 大谷佳子 at 2015年06月05日 03:26 | 返信

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