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タイから日本の皆保険制度を想う
2016年03月27日(日)
抗がん剤とは異なるオプジーボという免疫チェックポイント阻害薬は、
皮膚がん、肺がん、その他のがんに、人によってはよく効く薬だ。
しかし年間の薬剤費が、なんと3500万円かかる。
がん患者が長生きするのはいいことだが、医療費を誰が負担する?
こんな難問から逃げてはいけない。
みんなで知恵を出さないと。
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公論4月号 タイの医療ツーリズムを体験
堅持できるか、国民皆保険制度 長尾和宏
去る2月11~14日、3泊5日の強行軍であったが、タイ国の医療を見学する機会に恵まれた。タイへはまったく初めての旅であり予備知識ゼロで深夜に大阪を出発。まずはタイ東北部のコンケン県の片田舎の村にあるお寺にお邪魔した。今回、コンケンの片田舎と大都会バンコクの医療を見聞し、日本の医療を見直すいい機会になった。
タイに認知症は無い?
コンケン県の片田舎の人口200人のある村に2日間滞在。町の中心にあるお寺の何人かのお坊さんと村人たちには涙が出る位の歓待をして頂いた。タイの僧侶には日本と違い妻帯や飲酒の禁止をはじめ200もの厳しい戒律があるという。村の中でも別格であるが村人たちは僧侶たちを心から尊敬しているように感じた。一番驚いたのは托鉢後の朝食に続いて昼食は正午までに終了しなければならず、その後は翌朝まで食べることができないことだ。つまり17時間くらいの断食を毎日していることになる。日々、空腹になりケトン体を脳のエネルギー源にする時間帯を持っているタイの僧侶たちは真面目で穏やかであった。また1日2食の素晴らしさを改めて確信した。
翌日、村人たちの家々を訪問した。タイには在宅医療など無いが、自宅で療養している数人の村人たちを訪問した。日本で言えば在宅患者さんの訪問診療であろうが、あくまでお坊さんと一緒の慰問だ。タイも日本と同様、糖尿病と高血圧の人が多い。片足を切断した人や脳卒中で半身不随の人がおられたが、みなさんインスリンを打っていた。おそらく主食である白飯やもち米の食べ過ぎであろう。しかし肉や魚は高価で米を主食としかできないのであろう。現在、日本で議論されている低炭水化物ダイエットの答えはちゃんとタイにもあった。
実は「タイには認知症の人はいない」と聞いて行ったのが今回の旅の目的だったが、村には認知症らしき高齢者がいた。しかしたしかに認知症という言葉は村人の中では使われていなかった。歳をとれば当たり前のこと。コンケン大学病院の医師に聞くと「脳が壊れる」という意味のタイ語はあるが市民は、一昔前の日本のように親の物忘れを「老い」として受けとめていた。
村の小学校のハーブ園
その村の小学校も見学し歓迎昼食会までやってもらった。全校生徒わずか数十人の小さな学校であったが、教師陣は充実していて士気が高かった。子供たちに「将来何になりたいか」と質問してみた。多かった答えは男の子は軍人で女性は教師と看護師さんだった。満丸で澄んだ目をした男の子たち全員が、「軍人」と答えたことは意外で新鮮だった。小学校内にはアセアンセンターがあり、アセアンに関する教育も熱心に行われていた。また校舎の裏には、ハーブ園があり子供たちが様々なハーブを植えて薬効に関する教育も行われていた。小学校世代からハーブを用いたがんのセルフメデイケ―ション、つまり統合医療の関する教育が実習という形で行われていることに感心した。
村にはたくさんの犬や猫や鶏がいたが、一匹として繋がれている動物はいなかった。そして衰弱した高齢者も玄関先で犬や子供たちと一緒に寝ている姿が印象に残った。
30バーツ医療
タイには「30バーツ医療」という医療がある。数は限られているが指定された公立病院で、1回30バーツ(日本円で約100円)でインスリンなど必要な医療が受けられる。公務員の地位は高くその家族も含めて医療費はゼロとのことだった。日本でも生活保護者の医療費はゼロである。4年前、参議院の予算委員会で「生活保護者も1回100円でもいいから窓口で払いコスト意識を持って欲しい」という趣旨の議論がされていたことを思い出した。こうした庶民がかかれる公立病院の建物は古くて医療機器も古かった。しかし彼らは30バーツ医療をとても有難いものだと受け止めていて、そこで働く医師達も高い誇りを持っているように感じた。
帰国前日に大都会バンコクに移動して、タイ国日本人会の皆様に認知症についての講演をした。日本人会には7000人の会員がいるという。リタイア組、仕事組などさまざまだがみなさん若々しく、活き活きと生活していた。懇親会では医療についての話になった。日本人は30バーツ医療を受ける人はいない、とのこと。「30バーツ病院に行ったら医学生の実験台にされる」とか「ろくな治療しかしてもらえない」と散々な評価であった。「日本人はそれなりの民間保険に入るので超豪華な病院で最高の医療を受けられる」とのこと。
「医療ツーリズム」を体感して
講演後、バンコク市内にある超豪華な民間病院を4つほど見学した。いわゆる「医療ツーリズム」として有名な病院群である。どこも一流ホテル以上の豪華な設備を誇り日本人専用カウンターがあり日本人医師もいた。しかしそこで見かけたお客さんは、アラブ人や中国人ばかりで日本人は少なかった。たしかに美容整形やアンチエイジング医療など至れり尽くせり感に溢れ、スタッフ達も颯爽と立ち振る舞っていた。
タイには30バーツ医療というセイフテイネットがあるとはいえ、国民皆保険制度はない。その一方、自由診療や医療ツーリズムでアジアのトップを走っている。いわば、両極端の医療が混在している国だ。タイ在住の日本人はもちろん超豪華な病院しか眼中にない。もし私自身がタイで医師として働くことになばいったいどちらを選ぶだろうか、とふと考えてしまった。また、現在の日本のほころびだらけとはいえ堅持されている国民皆保険制度とタイのような最低限医療と自由診療の混在のどちらがいいのだろうか、と。色々と噂されている「医療ツーリズム」を体感しながら、複雑な想いに耽ってしまった。
結論から申し上げると、日本にはタイのような豪華ホテル仕様病院は無いが、それはそれでいいではないか。やはり現在の国民皆保険制度を死守した方が日本国民は幸せだと思い至った。そのためには高齢者の多剤投与や残薬問題に象徴される無駄な医療費の削減は不可避であることも確信した。
皮膚がん、肺がん、その他のがんに、人によってはよく効く薬だ。
しかし年間の薬剤費が、なんと3500万円かかる。
がん患者が長生きするのはいいことだが、医療費を誰が負担する?
こんな難問から逃げてはいけない。
みんなで知恵を出さないと。
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公論4月号 タイの医療ツーリズムを体験
堅持できるか、国民皆保険制度 長尾和宏
去る2月11~14日、3泊5日の強行軍であったが、タイ国の医療を見学する機会に恵まれた。タイへはまったく初めての旅であり予備知識ゼロで深夜に大阪を出発。まずはタイ東北部のコンケン県の片田舎の村にあるお寺にお邪魔した。今回、コンケンの片田舎と大都会バンコクの医療を見聞し、日本の医療を見直すいい機会になった。
タイに認知症は無い?
コンケン県の片田舎の人口200人のある村に2日間滞在。町の中心にあるお寺の何人かのお坊さんと村人たちには涙が出る位の歓待をして頂いた。タイの僧侶には日本と違い妻帯や飲酒の禁止をはじめ200もの厳しい戒律があるという。村の中でも別格であるが村人たちは僧侶たちを心から尊敬しているように感じた。一番驚いたのは托鉢後の朝食に続いて昼食は正午までに終了しなければならず、その後は翌朝まで食べることができないことだ。つまり17時間くらいの断食を毎日していることになる。日々、空腹になりケトン体を脳のエネルギー源にする時間帯を持っているタイの僧侶たちは真面目で穏やかであった。また1日2食の素晴らしさを改めて確信した。
翌日、村人たちの家々を訪問した。タイには在宅医療など無いが、自宅で療養している数人の村人たちを訪問した。日本で言えば在宅患者さんの訪問診療であろうが、あくまでお坊さんと一緒の慰問だ。タイも日本と同様、糖尿病と高血圧の人が多い。片足を切断した人や脳卒中で半身不随の人がおられたが、みなさんインスリンを打っていた。おそらく主食である白飯やもち米の食べ過ぎであろう。しかし肉や魚は高価で米を主食としかできないのであろう。現在、日本で議論されている低炭水化物ダイエットの答えはちゃんとタイにもあった。
実は「タイには認知症の人はいない」と聞いて行ったのが今回の旅の目的だったが、村には認知症らしき高齢者がいた。しかしたしかに認知症という言葉は村人の中では使われていなかった。歳をとれば当たり前のこと。コンケン大学病院の医師に聞くと「脳が壊れる」という意味のタイ語はあるが市民は、一昔前の日本のように親の物忘れを「老い」として受けとめていた。
村の小学校のハーブ園
その村の小学校も見学し歓迎昼食会までやってもらった。全校生徒わずか数十人の小さな学校であったが、教師陣は充実していて士気が高かった。子供たちに「将来何になりたいか」と質問してみた。多かった答えは男の子は軍人で女性は教師と看護師さんだった。満丸で澄んだ目をした男の子たち全員が、「軍人」と答えたことは意外で新鮮だった。小学校内にはアセアンセンターがあり、アセアンに関する教育も熱心に行われていた。また校舎の裏には、ハーブ園があり子供たちが様々なハーブを植えて薬効に関する教育も行われていた。小学校世代からハーブを用いたがんのセルフメデイケ―ション、つまり統合医療の関する教育が実習という形で行われていることに感心した。
村にはたくさんの犬や猫や鶏がいたが、一匹として繋がれている動物はいなかった。そして衰弱した高齢者も玄関先で犬や子供たちと一緒に寝ている姿が印象に残った。
30バーツ医療
タイには「30バーツ医療」という医療がある。数は限られているが指定された公立病院で、1回30バーツ(日本円で約100円)でインスリンなど必要な医療が受けられる。公務員の地位は高くその家族も含めて医療費はゼロとのことだった。日本でも生活保護者の医療費はゼロである。4年前、参議院の予算委員会で「生活保護者も1回100円でもいいから窓口で払いコスト意識を持って欲しい」という趣旨の議論がされていたことを思い出した。こうした庶民がかかれる公立病院の建物は古くて医療機器も古かった。しかし彼らは30バーツ医療をとても有難いものだと受け止めていて、そこで働く医師達も高い誇りを持っているように感じた。
帰国前日に大都会バンコクに移動して、タイ国日本人会の皆様に認知症についての講演をした。日本人会には7000人の会員がいるという。リタイア組、仕事組などさまざまだがみなさん若々しく、活き活きと生活していた。懇親会では医療についての話になった。日本人は30バーツ医療を受ける人はいない、とのこと。「30バーツ病院に行ったら医学生の実験台にされる」とか「ろくな治療しかしてもらえない」と散々な評価であった。「日本人はそれなりの民間保険に入るので超豪華な病院で最高の医療を受けられる」とのこと。
「医療ツーリズム」を体感して
講演後、バンコク市内にある超豪華な民間病院を4つほど見学した。いわゆる「医療ツーリズム」として有名な病院群である。どこも一流ホテル以上の豪華な設備を誇り日本人専用カウンターがあり日本人医師もいた。しかしそこで見かけたお客さんは、アラブ人や中国人ばかりで日本人は少なかった。たしかに美容整形やアンチエイジング医療など至れり尽くせり感に溢れ、スタッフ達も颯爽と立ち振る舞っていた。
タイには30バーツ医療というセイフテイネットがあるとはいえ、国民皆保険制度はない。その一方、自由診療や医療ツーリズムでアジアのトップを走っている。いわば、両極端の医療が混在している国だ。タイ在住の日本人はもちろん超豪華な病院しか眼中にない。もし私自身がタイで医師として働くことになばいったいどちらを選ぶだろうか、とふと考えてしまった。また、現在の日本のほころびだらけとはいえ堅持されている国民皆保険制度とタイのような最低限医療と自由診療の混在のどちらがいいのだろうか、と。色々と噂されている「医療ツーリズム」を体感しながら、複雑な想いに耽ってしまった。
結論から申し上げると、日本にはタイのような豪華ホテル仕様病院は無いが、それはそれでいいではないか。やはり現在の国民皆保険制度を死守した方が日本国民は幸せだと思い至った。そのためには高齢者の多剤投与や残薬問題に象徴される無駄な医療費の削減は不可避であることも確信した。
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この記事へのコメント
先の認知症研究会 in パシフィコ横浜 で発表されました、国立病院機構菊池病院 木村先生に
よります「前頭側頭葉変性症に対する臨床研究シリーズ」の中で、ラベンダーアロマセラピーの
有用性が表明されていました。患者の襟に1日/3回:1滴 を付けること4週間で効果が認められた
というアロマ効果についての話が印象に残っています。漢方の抑肝散も項目にありました。
タイの小学校でハーブを植えて、薬効に関する教育が行われていたとあり、セルフメディケーション、
統合医療教育とは、とても先進的な気がします。
Posted by もも at 2016年03月27日 10:20 | 返信
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