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オプジーボ難民と近藤誠医師

2016年05月20日(金)

年間3500万円する免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」。
近藤誠医師に傾倒する患者さんたちからの希望も多いそうだ。
高額な医療費という単純な問題だけでなく、様々な課題を孕んでいる。
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オプジーボ問題は非常に難しい。
さまざまな疑問がある。

しかし私は個人的には、どんどん高薬価の薬を保険適応にするのは
「皆保険制度破綻」への行程を短縮するためなのかなあ、と思っている。

つまり確信犯ではないのか。
何らかの意図に沿った演出だというのは、勘ぐりすぎか。


以下、MRIC編集中の川口恭氏の文章。
いくつかの課題が投げかけられている。


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難民と医療不信が大発生~オプジーボの光と影(2)
 
※この文章は、『ロハス・メディカル』5月20日号に掲載されたものです。
『ロハス・メディカル』編集発行人 川口恭
 
2016年5月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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我が国の国民皆保険制度は、普及した医療行為の中で最善のものを誰にでも保証することによって、世界から羨まれてきました。しかしオプジーボ(ニボルマブ)の登場によって、その前提を足元から揺さぶられています。標準治療を最善と確信できない患者や、希望してもオプジーボ投与を受けられない患者が「難民」と化して、皆保険の網から漏れ始めているのです。
 
オプジーボでは、その投与時にがんに対してメインで攻撃を加えるのは、リンパ球のキラーT細胞だ、と説明されています。
 
と、いきなり大問題に気づきます。非小細胞肺がんの診療ガイドラインでは、オプジーボを試す前に1次治療として白金併用療法を行うことが定められています。そこで用いられる殺細胞系の抗がん剤は、副作用として免疫抑制を起こします。簡単に言うと、リンパ球を含む血液系の細胞が大量に死んでしまうのです。
 
そのように免疫細胞を殺してから、オプジーボによって免疫のブレーキを外すというのは、何かおかしくないでしょうか? 腫瘍がブレーキ系の免疫細胞を周囲に呼び集めているので、いったんリセットした方が免疫は働きやすいのだという説もありますが、白金併用療法がそのような免疫のサポートを目的に行われるのでないことだけは確かです。免疫が健全な薬物治療の最初からオプジーボを使えば、もっと効くかもしれないし、薬の量が少なくて済む可能性もあります。効くか効かないかの判定が速やかにできるようになるかもしれません。
 
これは、ちょっと理論をかじった人なら誰もが抱く疑問だと思いますが、現在の医療では「じゃあ最初から使ってみようか」とは、なりません。
 
というのも、治療の方針を、人間の浅知恵に過ぎない理論で決めてはならず、厳然たる事実のヒト対象臨床試験の結果(エビデンス)に従う他ないというのが、世界の医学界のコンセンサスになっているからです。薬物治療の最初からというのが認められるためには、現在の標準治療と比較する臨床試験を行って、少なくとも劣らないという結果が出なければなりません。
 
そしてその臨床試験も、いきなり始めることはできず、それに参加したために現在の標準治療を受けられないことが非倫理的とならないよう、同等以上の成績を望める場合だけ行うことができます。
 
このため、2次治療のドセタキセルに挑戦するという形でしか、最初の治験は行えなかったわけです。
 
そして2次治療でオプジーボを使った場合に「効いた」(ここにも問題はあるので次回述べます)割合は2割で、1次治療の白金併用療法が4~5割に「効く」と分かっている現段階では、順番を引っくり返した方が良いだろうと根拠付けるデータはないことになります。
 
他の治療では、医師が裁量でガイドラインの順番を引っくり返すということがないわけでもありませんが、オプジーボに関しては薬価が高額過ぎるため、ほぼ不可能と考えられます。もしガイドラインと違う使い方を理由に保険者から支払いを拒否された場合(保険者の側は、拒否したくて仕方ないはずです)、その費用は病院の自腹になってしまうためです。倒産してしまうかもしれません。
 
ドセタキセルを上回ることが確定した現在、ようやく1次治療として使ったらどうかという臨床試験も行われるようになっています。その結果が出てくれば使い方が大きく変わる可能性はあるものの、当面は理論と使われ方の間に矛盾を抱えた状態が続きます。
 
 
●自由診療へ殺到
 
対象となる患者が全員、少しずつしか変化できない医療界の論理に納得すればよいのですが、実際にはそうでありません。近藤誠医師の理論などを支柱に、殺細胞系の抗がん剤治療は絶対やりたくないという人が一定数存在します。このため、この問題は極めて深刻な影響を生みます。
 
現段階で患者は、オプジーボを使いたければ白金併用療法を受ける必要があり、それを拒否するとオプジーボを使えないのです。
 
先ほども説明したように、免疫抑制を起こす殺細胞系の薬物療法を行った後にオプジーボで免疫のプレーキを外すというのは、免疫のことだけ考えれば明らかに変です。
 
それに加えて、白金併用療法自体、半分以上の患者にとっては効果がないという問題もあります。その人たちは白金併用療法で体力を奪われ、また効果と関係なく免疫細胞は確実に死にますので、次の治療が可能になるまでの時間も奪われます。ガイドライン通りに、白金併用療法をやってからオプジーボでいいじゃないと言えるのは、必ずオプジーボを投与できるという保証がある場合だけで、そんな保証はどこにもありません。オプジーボを投与させないため時間稼ぎしている、と邪推されても反論できないのです。
 
こんなことから、標準治療を勧める主治医の説明に納得がいかない患者の一定数は、「オプジーボ難民」と化して、自由診療のクリニックに今現在も殺到しています。海外から輸入したオプジーボ(後述するように国内でメーカーから購入できる医療機関には施設基準があります)を少量、旧来の免疫療法と併用してくれるような医療機関です。
 
そのような自由診療のクリニックで提供されるがん治療は、これまでなら標準治療より成績で劣ることが確実だったため、標準治療ですることがなくなったとか標準治療に加えて何かしたいという場合の受け皿であり、標準治療やその実施医療機関に直接的な脅威を与えることはありませんでした。しかし、抗がん剤で免疫抑制が起きる前にオプジーボを使い、他の免疫療法とも組み合わせるというのは理屈から言うと正しい可能性があるので、その量が適切かどうかはともかくとして、標準治療より成績で劣るとは断言できないものがあります。
 
自由診療のクリニックは、データをきちんと収集・保管・発表しないことが多く、受けた患者全体の本当の成績がどうなのかは恐らく最後まで分からないことでしょう。しかし、生存・生還を果たす患者は一定数出てくると思われます。
 
近藤誠医師に依然として強い支持があること、HPVワクチンの問題が膠着状態に陥っていることなど見ても分かるように、医療界は、自分たちが思っているほどには社会から信用されていません。この下地がある中で、自由診療での「生還者」たちが「体験談」を出版したりしたら、一体どうなるでしょうか。「オプジーボの投与を遅らせるため無駄な抗がん剤を受けさせられた」と邪推しかねない患者の割合が半分以上なのですから、標準医療に対して今以上に社会の不信が高まることは間違いありません。このマグマが溜まった危険な状態に気づいていないのは、業界の中の人たちだけです。
 
●全身状態の壁
 
しかも「オプジーボ難民」は、抗がん剤拒否の人たちだけから生まれるわけではありません。ガイドライン通りに治療を受けてきたのだけれど、オプジーボの投与を病院に断られる、という人たちも発生すると見込まれます。
 
これは治験が、主にPS0・1の全身状態の良い患者を対象に行われており、病状が進んだ状態の悪い患者に使うとどうなるか現時点ではデータがないため、学会は「推奨しない」との立場をとっているからです。最終的には現場の医師の判断に任されていますが、業界には「イレッサのトラウマ」が強く残っており、とにかく慎重を期して無理しないという方針が徹底されています。
 
投与することのできる施設と医師の基準も決まっています。最初から基準を満たす環境で治療を受けている場合は、主治医との信頼関係の中で、全身状態は悪くとも、「ダメ元」で使ってみるという願いが聞き届けられるかもしれません(ダメ元で試すことが許容されるような薬価か、という議論は棚上げします)。
 
しかし対象以外の施設で治療を受けていて、万策尽きたので、基準を満たす施設へ転院してオプジーボを受けたいと希望しても、恐らく願いは叶えられません。PSが悪くなり過ぎている可能性は高く、そのような学会が推奨しない人を引き受けてオプジーボを投与する医療機関や医師は存在しないと考えられるからです。こちらも保険者から支払いを拒否される可能性がありますし、それより何より、そのような患者で有害事象が発生したら、イレッサの時と同様に訴訟を起こされる可能性があります。
 
転院や投与を断られた患者や家族が、そこまでの事情を分かる可能性は低いと思われます。「見捨てられた」という話だけが独り歩きすることでしょう。また、事情を知っていたらオプジーボ投与可能な医療機関で1次治療から受けたのに、という恨みを抱く人もいることでしょう。そして、その何割かは、「オプジーボ難民」となって自由診療クリニックを頼るのでしょう。
 
 
●パンドラの箱開いた
 
希望する患者全員に希望通りオプジーボを投与せよ、などと主張するつもりは毛頭ありません。そんなことをしたら、どれほどの有害事象が発生するか分かったものではありませんし、現在の薬価と用法用量のままなら健康保険財政も破綻します。
 
しかし一方で、投与を希望する多くの患者を納得させられず「難民」化させる現在の対応を正しいと言うこともできません。社会が医療従事者や医療機関を信頼しなくなり、我が国の医療と国民皆保険制度を危機へ追いやるのは明らかだからです。
 
医療従事者や医療機関は、目の前の患者を支えるため全力を尽くすことが職業倫理に適い、それでこそ社会からの信頼も得られます。自らの良心に恥じず最善を尽くしてもなお患者が納得しないというならともかく、自らも疑問を感じながらルールに縛られて「難民」を生んでしまっているのだとしたら本末転倒、医療不信のタネを自ら撒いているようなものです。
 
健保財政やルールの番人として患者や社会と対峙するのは、本来は厚生労働省や保険者の役割です。薬価見直しの音頭取りも彼らがしなければなりません。それなのに現在、オプジーボ使用を抑制する防波堤役は現場の医療従事者に押し付けられ、それを不思議に思う人もあまりいないようです。厚労省や保険者が本来の役割から逃げている間に、標準治療を行っている真っ当な医師や医療機関が患者や家族から恨まれるのです。
 
そして、もしも「難民」たちが頼った自由診療クリニックから標準治療と遜色ない成績が出てきた場合、大変なことになります。
 
というのも、自由診療クリニックで行われている治療は、自己負担額そのものは高額ながら、費用総額を見れば、オプジーボの投与量が少ない分、ガイドラインと添付文書通りの治療を受けるより、はるかに安いからです。医療界に対する社会の不信は爆発し、取り返しのつかないことになるでしょう。
 
患者が希望する場合は1次治療でもオプジーボを使えるようにすれば、「難民」はかなり減り、リスクも軽くなります。ただし、そうした場合の保険者からの支払い拒否を防ぐには、薬価を何分の1かに下げておくことが不可欠でしょう。もし薬価引き下げに時間がかかるのだとすると、「難民」発生は避けられず、自由診療クリニックがやっているような治療法の効果も検証して理論武装しておかないと、好き放題を言われかねません。
 
ところが、その効果検証のために臨床試験を行うのは、現在の枠組みを前提にする限り、ほぼ不可能です。
 
というのも、自由診療クリニックでやっている治療法は、少量のオプジーボと他の免疫療法の組み合わせです。
 
オプジーボの量に関しては、既に相当の検討が行われています。量が少なければ効果は落ちると考えられます。また、既存の免疫療法が単独で大した効果を出せないこともハッキリしています。現時点での知見を前提にする限り、組み合わせたところで、標準治療と比較するような臨床試験実施は「非倫理的」となります。
 
自由診療クリニックが、このように中途半端な治療法を採用しているのは、オプジーボを添付文書通りの用量で使ったら高額過ぎて負担できる患者はほとんどいないからと考えられます。訴訟になるリスクが他人事ながら心配ではありますが、高過ぎる薬価は、このように検証不能な鬼っ子を産み出すことにも、つながっていますす。
 
たとえ医療倫理の問題を乗り越えたとしても、試験費用の問題が立ちはだかります。
 
オプジーボの薬価がとてつもなく高いため、メーカーが協力しなければ、試験実施の費用も巨額になります。しかしメーカーには、有害事象の確率が高そうな試験や売上を減らす方向の試験に協力するメリットがありません。個人的には正しいかもしれないと思ったとしても、売上を減らす方向の試験にお金を使ったら、株主代表訴訟を起こされてしまう可能性があります。
 
つまり、効果検証して理論武装しておくことすら不可能に近いのです。あとは自由診療クリニックを頼って生還した患者が社会に広く認知されないことを祈る他ありません。
 
要するに医療界は今、自由診療クリニックを頼った「難民」たちが多数生還しないことを祈るしかない、という自分たちの良心の底を覗き見るような悪夢の状況に追い込まれているのです。
 
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ご覧になる環境により、文字化けを起こすことがあります。その際はHPより原稿をご覧いただけますのでご確認ください。
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この記事へのコメント

このオプジーボについて 新聞記事で読みました
高いなぁという感想です
お金がないと受けられないんだという率直な感想です
一人の人に 3500万円か…負担は200万円くらいですか?
私みたいな凡人には よくわかりません

先週 お亡くなりなった肺がん末期の方は 〇〇ワクチンを接種していました
もちろん お取り寄せの実費です

また 今も免疫療法を定期的に受けていらっしゃる方もいます
この近所の病院では できないので お医者さまが新幹線に乗って 往診にきてくださっているようです
お値段は〜?…と探ってしまいます

自由診療や民間療法を否定しているわけではありません

一人一人 自由でいいと思いますが…
長尾先生がおっしゃられる「やめどき」があるかな〜と思います

んんん…
それでも 私の仕事は 意思決定支援です

Posted by 訪問看護師 宮ちゃん at 2016年05月20日 11:16 | 返信

ウチは貧乏暇なし病気なしの家系であるためか、両親も私も少々具合が悪くてもお医者に行きません(でした)。
幼いころから遺伝病や難病で病と闘うさだめの方たちから見れば、ほんとに有り難い家族です。
私が中学生のころだったと記憶しています。題名は確か「神の汚れた手」だったと思います。曽野綾子さんの新聞連載小説で、長年子供が欲しかった裕福な夫婦にようやく授かった子がダウン症児だったと、そのとき、どうするか、といったテーマでした。
私は、お金持ちだったら育てられるだろうけど、貧乏人だったら一家心中だろうな、と思いました。なぜかっていうと、ウチは何かにつけて「病気したら一家心中」って言ってたから。

母は84歳まで生きました。
父は89歳でまだ半呆け状態、屁理屈を捏ねて楽しんでいます。

高度医療の恩恵にあずかれない庶民のほうが、案外、幸せなんじゃないかしら。

Posted by 匿名 at 2016年05月21日 02:41 | 返信

なんだか..後半は読み飛ばしました。
研究機関の論理的成果が生じた結果、臨床とか実績とかの必要性があるのだけれども、それは、
それ程、沢山の症例は要らないのです..と言わんばかりの状況という現実なのでは、ないでしょうか?
ある階層の好奇心と欲による、なんだか現実離れした、人を喰った話のようにも思えます。

Posted by もも at 2016年05月21日 11:27 | 返信

冒頭の先生の「つまり確信犯ではないのか。何らかの意図に沿った演出だというのは、勘ぐりすぎか。」について。

勘ぐりすぎです。
厚労省の役人どもは、何も考えていないと思います。
そういう連中がやっているから、オプジーボなんか無関係に普通に皆保険制度が着実に破綻に向かっているのです。

Posted by 匿名 at 2016年06月20日 02:47 | 返信

昨晩のNHKニュース7内のひとコマで、"オブジーボ"を紹介していました。
前後の脈絡も無しに、"癌に新薬"というような、画期的と思わせるような流れでした。
長尾ブログで知った薬品名ですが、このようにリスクと問題点も知らしめているのであれば、
良心的な内容だと思いますが、Newsの数分で、局側の意図のまま紹介されるだけでは、まるで
視聴者は落とし穴にはまってしまうかのようです。
近年では、"癌もどき"を種まきした、その手法に手応えを感じた、大元の主が味をしめたかの
ように、何かをばらまく様子が、国民を愚弄している有様に見えて仕方ありません。
混乱を招くことは、どこかに犠牲者が生じてしまうこと必至ではないでしょうか。
人間の命に関わる問題点なのです。

Posted by もも at 2016年07月14日 09:58 | 返信

初回 シスプラチン 単独投与
2回目 アービタックス ドセタキセル シスプラチン 投与 2クールの予定が1クール
さて、この状態で オプジーボを するのかどうか。
体のいろいろな細胞が壊れてる気がするんですけどね・・。

Posted by 内緒 at 2018年10月31日 12:38 | 返信

> 近藤誠医師に傾倒する患者さんたちからの希望も多いそうだ。


これは違うでしょう。
近藤誠医師はオプジーボの効果については、すこぶる批判的な記事を公開しています。
したがって、同医師に「傾倒する患者」であれば、オプジーボを希望する方は少ないでしょう。


『夢の新薬・オプジーボは無効だった』
https://kondo-makoto.com/report/report002.html


そもそも、川口恭氏の元記事から長尾先生のような「解釈」をするのはちょっと「勇み足」かと。

Posted by NANA at 2018年12月28日 07:48 | 返信

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