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5月25日(月)

2009年05月25日(月)

今日から「風邪外来」改め「発熱外来」へ

 医師会からFAXが来ました。発熱外来をするかという誘いに当院は参加することにしました。この時点から、先週から開設した風邪外来は発熱外来になりました。本日、私がインターネットメデイアに投稿した原稿を引用します。

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PCR検査をめぐる疑問
兵庫・大阪の新型インフルエンザ騒動から何を学ぶかー

2009年5月25日 長尾クリニック(尼崎市)  長尾和宏

5月25日現在、兵庫県・大阪府における渡航歴と関係のない新型インフルエンザ発生は一応の収束に向かいつつあるようだ。今日からほとんどの学校での授業が再開された。各地での新たな患者発生や秋以降に予想されている第2波、第3波に対して医療者はどう備えるべきなのか。 また今回の騒動から何を学ぶべきか。大阪府と隣接する兵庫県尼崎市の一開業医の立場から、今回、PCR検査をめぐる素朴な疑問について述べたい。

【発端となった渡航歴のない患者へのPCR検査】

どうしてまた神戸だったのか?風評被害を含めて兵庫・大阪の経済損失は800億円にのぼると試算されている(5月24日神戸新聞)。今回の騒動が関西の地域経済に及ぼす影響は極めて深刻だ。まず神戸でおきたことの発端を振り返ってみる。

「季節性インフルエンザの予防接種を受けているのに、なぜ発症するのか」--。新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)の国内感染が明らかになったきっかけは、患者に海外渡航歴の該当条件がなかったにもかかわらず、「新型」を疑った神戸市灘区の開業医(52)の機転だった。

1例目となった兵庫県立神戸高3年の男子生徒(17)は11日午後、せきとのどの痛みを訴えて来院。熱がなかったため、医師は風邪と考えたが、翌12日午前に再来院した際、37・4度の発熱があり簡易検査を実施したところ、A型陽性を示した。

 生徒に海外渡航歴はなかったが、医師は海外では、若者を中心に拡大している男子生徒は以前に季節性インフルの予防接種を受けている生徒が所属するバレーボール部で複数の生徒が発症している--などを総合的に判断。「新型が検疫をすり抜けていることもありうる」と考え、地元医師会を通じて市に遺伝子検査を依頼したという。(5月19日 読売新聞)                                                     

通常の簡易キットは、1×10の3乗から10の5乗つまり1000個から10000個のウイルスがあれば検出可能だが、PCR法は一番簡単なやり方でも1000個以下で検出可能、さらに感度の良い方法を使用すれば10個単位で検出可能であると言われている。

第一発見者となった神戸の医師の機転は高く評価される一方、この医療機関には1週間の診療停止命令が下った。同様に大阪府八尾市で最初に新型インフルエンザの感染が確認された女児を診察した医師が、感染を拡大する可能性があるとして、八尾保健所から休業を求められた。医師は16日、八尾市内の医療機関で小学6年生の女児(11)を診察。17日夜になって保健所から連絡があり、「休むか休まないかは先生の判断ですが、新型インフルエンザ が蔓延したら知りませんよ」などと言われたという。このため、医師は八尾市内の医療機関を一時休診にしたという。(産経新聞)

PCR検査による各地域での新型インフルエンザの新規発見は、皮肉にも医院の一時閉鎖という憂き目にあった。後で院内での感染症対策がきっちりなされていれば閉鎖はしないとの通達が出たようだが、新型が混じっている可能性がある風邪の患者さんを毎日診ている開業医としては医院閉鎖の不安を抱きながら患者さんと向き合っている。

【PCR検査の意義と素朴な疑問】
 神戸市の指定病院の発熱外来では、発熱患者の全員にPCR検査を施行したそうだ。一方、同病院でPCR陽性例の半数は迅速検査陰性であったとか、症状も微熱だけだったと聞く。A型陽性者に対してPCR検査を実施して病状の軽重を問わず医療機関や市民や保護者不安に応えることは大切だ。科学的判断を求められる医療者として当然の態度であろう。もちろん処理数には限度があるだろから、ある時点からは定点観測に移るだろうが。

新型インフルエンザは世界的な対応が必要な疾患であり、しっかりしたサーベイランスを行いデータを出す必要があり、その分析から限られた医療資源をどう分配するかも考えなければならない。私は、診断を確定させて事態を正確に評価するという意義を持つPCR検査は蔓延期までは積極的に行うだろうだと予想していた。しかし現実には必ずしもそうではなかった。 

連日、行政や医師会から様々な指示がFAX等で来た。当初は渡航歴があるインフルエンザ様症状を呈する患者は医院に入れてはいけないという指示であったが、蔓延期に近くなると、入口を別にするとか時間帯をずらすとかで患者動線に十分配慮するならば一般診療所でも、発熱患者を診察しても良いという指示に変わった。

5月20日から私の診療所では風邪の患者さんは敷地内の入口付近(敷地内)に設けた屋外テント内でまず問診し、状態によっては診察することにした。院内感染を防ぐためだ。テントは問診用に1ヶ、診察用に1ヶを借りた。レンタル料は1週間で1ヶ2万4000円だった。その日から簡易検査はすべてここで行うことにして少しすっきりした。保健所への届け出敷地外での診療は医療法では禁じられていると思ったので、医師会に問い合わせると、届出をFAXするなら許可するとの回答を得た。PCR検査に関してよく分からなかったのと、新規の発熱患者さんが押し寄せないよう、あくまでかかりつけの患者さんを風邪と定期受診に分けたかったからだ。発熱外来を名乗ることもできないため、とりあえず「風邪外来」と名づけた。初日、簡易検査でA型の患者が出たが、保健所の電話がつながらないためいったん帰宅させた。後から出た指示に従い指定病院の発熱外来に紹介した。しかしどの時点でPCR検査をするのかについては不明のままであった。

当初、小児にはPCR検査は不要であるとの指示が出ていた。これはもし感染症法に従うと小児が措置入院となった場合には、親御さんなども入院として扱うことになり、病院側に大きな支障が生じるために出された通達だったと聞かされた。

休校が解除された24日には、年齢を問わずA型陽性者はもちろん、簡易検査陰性者でも新型インフルエンザを疑う全患者は保健所に連絡してPCR検査を行うべしとの指示に変わったが、いくつかの素朴な疑問が残った。2簡易検査陰性でもPCR陽性となる患者が多くおり、簡易検査をスクリーニングに用いることには当然限界がある。しかしこの点を明確にしないまま事が進んでいたように感じた。もし発熱外来の届け出をした一般診療所でもPCR検査を行うとして、具体的にどのような手順で行うのか明確でない。たとえば検体の運搬を誰がどうやってするのか、結果は知らせてもらえるのか、陽性だった場合のご家族や医療関係者の予防内服をどう扱うのかなど明確にされていない。

【PCR検査に何らかの圧力がかかった可能性】

そうした煩わしさを避けたいのか、簡易検査でA型インフルエンザが出たので保健所に届けたが季節性として扱えと言われた、県指定の発熱外来からPCR検査を県に依頼したが取り下げるように言われた、などの話が全国から聞こえてくる。 そのような理由からか、PCR検査が一件も行われていない県もあると聞く。神戸の例を見て、自分の管轄から新型インフルエンザが出ることを恐れたのだろうか。

PCR検査を巡って各地でさまざまな恣意的な圧力がかかったことは間違いないだろう。それが自治体の利益のためなのか、政府の利益のためかは、一町医者のレベルでは到底知る由もないが、サーベイランスという科学的目的とは次元が異なる不自然な力が働いているように感じた。うがった見方かもしれないが、

  • 海外渡航歴のある患者にのみPCRを行い新型インフルエンザとして扱う
  • 海外渡航歴のない患者はPCRを実施せずすべて季節性インフルエンザとして扱う

とすれば、国としては都合がよかったのかもしれない。どうせ重症化しないのなら新型でも季節性でもどちらでもいい、とういうことだったのか。選挙を間近に控えてパフォーマンスをするには今回の騒動は絶好の機会だったのかもしれない。深夜に緊急記者会見を首相官邸で行ったり「徹底した水際作戦が功を奏して侵入を阻止できた」と宣伝してみたり、ちょっと首をかしげる大本営発表が続くなかに、神戸からの一報が入った。

 そして神戸での第1号発生の会見が民主党の代表選挙と同時刻に行われたのは単なる偶然だろうか?5月16日夕方に配布された新聞の号外を見たとき、何らかの政治的意図を感じたのは私だけだろうか。なにか違和感のある紙面だった。号外の1面の右側には鳩山新代表誕生、左側には神戸で第1号発生、と書かれてあった。

なぜグレーゾーンの患者に医療機関受診を勧めるのか

発熱相談センターはなぜグレーゾーンの患者に発熱外来などの医療機関受診を勧めるのだろうか? 発熱外来を重症のみの対応とし中等症以下の患者には「受診」ではなく「自宅待機」を指示するのではいけないのか。受診させることで感染拡大の片棒を担ぐリスクを考えるべきではないか。

マスクの枯渇が顕著となった5月20日、筆者は尼崎市休日夜間診療所の当直業務に出務した。屋外に設けられたブースを訪れた10数人の発熱患者に対応したが、大半は不安からの受診のようだった。微熱程度でも簡易検査を希望する患者さんが多い。本人の希望だったり、会社からの指示であったり。幸い屋外での待ち合いの患者間距離も十分に確保されていた。しかし、看護師さんの問診をくぐり抜けて、うっかり屋内にいれて診察してしまう可能性も感じた。臨床現場にいるものとしては、発熱前の潜伏期後半の患者さんをどうしても想定してしまう。

視点を変えて、発熱患者には、保健所職員ないし地域の開業医や看護師が自宅を訪問して、簡易検査や投薬を行うという発想はどうだろうか。全くの私見だが、新型インフルエンザ蔓延期には、地域によっては在宅医療の発想で対応した方が蔓延防止や社会活動停止による経済的損失の観点から有効ではないかと思う。患者宅の玄関先で簡易検査やPCR検体採取すれば、サーベイランスは十分可能だ。必要な薬剤も薬局などが配達すれば、投薬待ち合い内での感染蔓延も防止出来る。発熱外来の想定には、発熱薬局も含まれるべきであり、煩わしければ、在宅医療というオプションも認めてはどうだろうか。

【厚労省の対策の検証】
インフルエンザを封じ込めることは不可能であるというのが専門家の常識であった。WHOは今回の騒ぎが始まった当初より、封じ込めは不可能であると何度も報じてきた。しかし 厚労省の新型インフルエンザ対策はインフルエンザウイルスを封じ込めようとする無理な目標を設定した結果、患者の恐怖心を必要以上に煽った。弱毒性を謳う一方、もしインフルエンザと診断された場合、行政や住民から迫害されると思わせた。その結果、インフルエンザを隠すことを奨励することになった可能性が指摘されている。

一方、強毒性を前提につくられた法律(感染症法)が足かせとなり各自治体の事情に応じた柔軟な対応ができなかったという指摘もある。法律に基づいた行動を要求される行政や保健所が、的が違う(強毒弱毒)法律(=感染症法)に振り回された側面が大きいのではないか。今後、ウイルスの毒性に応じた対応が可能となる法律に修正する必要があるのではないか。

さらに、今回のインフルエンザ対策が、感染症専門家による科学的思考ではなく、政治的パフォーマンス優先で進められた点は決して見過してはいけない。特にPCR検査をめぐっては、政治的意図が優先されたため、現場に論理的な指示が伝わらず、いたずらな混乱を招いた。連日、全国各地の患者数が発表されているが、十分なモニタリングの成果とは言えないだろう。また、行政と保健所、医療機関の連携にも多くの課題が露呈した。

大きな経済的代償を払わされた兵庫・大阪の騒動だが、秋以降に予想される第2波に向けて今回講じられた対策の十分な検証と今後に向けた修正が行われることを期待する。


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