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簡単に「発熱外来」と言うけれど・・・ ー理想と現実の狭間で困っていることー (MRIC,JMM掲載論文)

2009年09月08日(火)

   5月の兵庫・大阪の新型インフルエンザ騒動の時、当クリニックでは入口横にテントを張り、「風邪外来」と称して風邪症状の患者さんをすべて屋外で診療しました。8月以降の第2波を迎え、手挙げをした開業医において「時間的ないし空間的に動線を分離」してインフルエンザ診療を行うことになっていますが、多くの問題点を孕んでいます。

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1) 発熱や臨床症状で見分けるのは現実には困難
38度以上の発熱患者さんを発熱外来で診るそうですが、実際に36度台の新型インフルエンザ患者さんもいますし、臨床症状だけで風邪とインフルエンザを見分けるのは実際には意外と困難です。どの診療所でも受け付けでの体温チェックの網を突破して、一般患者さんにまぎれて診察室に入ってしまう患者さんがいるのではないでしょうか。当然病期によって体温は変化するので、ある一点の体温だけでトリアージすることには当然限界があります。その観点から当院では「風邪症状を有する患者さん全員」を、屋外ないし別室で問診して医師が許可したもののみを一般診察室に入れるようにしています。

2) 「動線の分離」とは絵にかいた餅?
多くの医院では「時間的分離」を選択し、昼休みに予約制で診察しています。しかし同線の分離は現実には極めて難しいと思います。また分離規定を知らない患者さんが通常診療時間内に紛れ込むことが充分ありえます。また患者さん同志の間を2m以上離すのは現実には困難です。ビル診などでは入口の分離自体も難しく、お役所的通達と言わざるを得ません。仮に医療機関内での動線分離ができても、院外薬局での動線分離も同時に行わないと、まさに片手落ちです。当院では調剤薬局の待ち合いも屋外にして、「発熱薬局」を提唱してきました。さらに新型インフルエンザ患者さんは、どうやって家に帰るのでしょうか?タクシー、バス、電車?はたしてその中での動線の分離とは・・・。まさに「動線の分離」とは絵にかいた餅です。医療現場の実情に即した指示に早急に改めるべきです。

3)簡易検査の功罪
簡易検査陰性でもPCR陽性の患者さんが少なからずおられ、検査キットの入手困難という現状も相まって簡易検査無用論も議論されています。一方、疑わしきもの全例をPCR検査というわけにもいきません。また、A医院で簡易検査陰性であった人が、翌日のB医院で陽性であることはよくあることで、無用な医療不信や混乱を引き起こす可能性があります。保険診療では簡易検査は原則1回のみですが、やむを得ず再検することは現実にはあり得ます。特例の範囲内での規制緩和が望まれます。簡易検査陽性となるまでのタイムラグがあること、簡易検査陰性であっても臨床診断のみでタミフル投与もあり得ること、一方48時間以上経過すれば検査やタイフル投与の臨床的意義は低いことなど、簡易検査の意義と限界を政府は国民に分かり易く啓発すべきです。また多発地域によっては検査キットが足りないことなどもローカルニュースなどで広報し無用な混乱を避けるべきです。

4) 予防投与に関する分かり易い啓発活動
インフルエンザ患者さんの周囲には必ず濃厚接触者が存在します。リスクを有する濃厚接触者への予投与のエビデンスは充分でないうえに、健康保険が適応されません。臨床現場ではこの説明に多くの労力を要し、混乱を招いています。予防投与の適応、意義、実際の方法、医療費等はマスコミを通じて国民に早急に啓発すべきです。家族が新型インフルに感染した場合、無症状の家族の出勤や登校についても、十分な啓発がなされておらず混乱が続いています。産業保健分野においても濃厚接触者の心得を啓発すべきです。

5) 在宅医療や医師会の公益活動への多大な支障
国は、強力な在宅医療への誘導政策を行ってきました。全国1万件にもおよぶ在宅療養支援診療所の多くは、昼休みに往診や訪問診療を行うミックス型診療所です。また届けを出さずに昼休みを往診・在宅医療に当てている診療所も多くあります。そもそも昼休みとは、医師会の会議や公務、勉強会、学校医や産業医出務など極めて活発な活動が行われている時間帯でもあります。決して遊んでいるわけではありません。うまく昼の時間をやりくりしながら公務や研修に頑張っている医師がほとんどです。その時間帯に手間がかかるインフルエンザ診療をするとなると、在宅医療のみならず医師会を中心とした公益活動に多大な支障が出ることは必至です。このような現実を全くイメージしていない乱暴な丸投げ政策だと思います。

6) 一刻も早い第一戦現場への感染症対策費の投入を
新型インフルエンザ対策を国策と位置づけるなら、マスク、消毒薬、防具などの消耗品を一刻も早く公費で協力医療機関に投入するべきです。感染症対策には当然コストがかかりますが、診療報酬上の配慮はなく各医療機関が自前で行っています。過酷な医療費削減政策が続く中、地道に地域貢献している医療機関を今こそ国を挙げて支援すべきです。医療従事者は身を呈して診療しています。私たちは常に濃厚接触者であり、家に帰れば家族もいます。しかし病気になっても何の保証もありません。にもかかわらず職業倫理のもと現場で奮闘している医療従事者に、国として相応の予算を早急に投下すべきです。時期を失うと現場スタッフの士気を失う結果になると危惧します。

10月以降は診療に加えて、「季節性インフルエンザ」と「新型インフルエンザ」の予防接種という大業務も加わり、混乱が予想されます。早急に上記の問題点に対する国の具体的行動を期待いたします。

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