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救急医療崩壊への処方箋は2万円?

2009年10月31日(土)

朝から在宅患者さんにインフルエンザワクチンを打って回りました。嵐のような外来を終えて、数件往診を回り、順天堂大学の河盛先生の糖尿病治療の講演を聞きました。10回くらい聞いたでしょうか。相変わらずエネルギッシュな河盛先生に2つ質問しました。

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「ブドウ糖以外にも中性脂肪もすい臓のβ細胞を障害するのではないか。だから糖尿病治療にもっとコレステロール吸収も強調されてもいいのではないか」。もう一つは、「メトフォルミンにβ細胞のオートファジー促進作用があるとのことだが、他の組織でもあるのか。またその観点からメトフォルミンはアンチエイジングドラッグを言えるか」でした。

 その後、大阪に移動し大阪市大学系の消化器の勉強会にハシゴしました。「すべての患者さんにピロリー菌除菌は必要か」という興味深いシンポジウムを拝聴しました。太古の昔から日本人の胃袋に生き続けていながら寿命にはそれほど影響しないピロリー菌の存在意義について考えました。
 
 その後、大阪府医師会理事の山本時彦先生の講演「救急医療崩壊は救えるか」を聴きました。大阪は日本でも救急医療が充実した地域です。しかしその大阪でも「たらいまわし」や「診療拒否」事件が報道されています。救急車が動き出すまでに20件以上の病院照会を要するケースは3倍に増えています。救急医療崩壊はまさに医療崩壊の象徴なのです。

救急医療は公立病院が主に担っているという印象がありますが、なんと90%は民間病院が受けています。公立病院には補助金があり、また大学病院などの3次救急にも政治的予算がついてきます。しかし民間病院は自力で2次救急を担っており。やればやるほど赤字になる構造です。山本病院の収支決算書を見せて頂きました。毎月、なんと250万円もの赤字が続いています。これは国の役人も我々開業医も知らない驚くべき事実だと思います。

山本先生はその解決策として、救急車1台ごとに2万円の収入があればなんとかやっていけると提言しました。1万円は病院収益に1万円は救急診療医にフィードバックすればいいのです。私は、さらに「救急搬送1件について2万円の自己負担をお願いしたらどうか」と思いました。みなさん簡単に救急車を呼びすぎです。単なる発熱であったり目まいでも簡単に救急車を呼ばれます。タクシー代わりに呼ぶ人も沢山います。そして搬送先がみつからないと暴れる人までいます。2万円提案は、全国で1000億円、大阪で90億円あれば実現します。これは結構、現実的な改善策ではないでしょうか。ダムを一つ中止すれば可能ではないでしょうか。
 
さらに消防隊と医療機関の連携にも予算をつけて強化すべきです。尼崎の在宅現場ではすでに亡くなっている人を乗せて走る救急車がいます。「看取りで話がついているからちょっと待って」と言っても救急車を呼ぶヘルパーが沢山います。「低血糖だから看護師をよこすからちょっと待って」と言っても、一介の在宅医の意見など無視して勝手に搬送する救急隊もいます。開業医なんて彼らの眼中にありません。「救急と在宅医療の連携について説明しますよ」と消防署長に申し出ても、断られるのが現実です。
 
「民主党政策は公立病院優遇に傾きすぎている」という指摘にも頷きました。たしかに2次救急の90%を担っている民間病院を助けない政策は間違っています。
またモンスターペイシャントについて聞きましたが、どこも同じなんだなと思いました。

95歳の老人が受診して外科医が診たら息子さんが「整形外科専門医が見なかったのは大問題だ」と新聞社に連絡した話がひとつ。
 持病が悪化して死亡到着した患者さんに心肺蘇生を試みるも生き返らず「残念ながらご臨終です」と家族に説明したら、いきなり110番された話など、ブラックジョークのようです。
志を持って進んだ救急医が現場から逃げ出すのはこんな市民がいるからです。

 山本先生は、最後に「臓器別に専門分化しすぎた医療」を指摘し、「専門医と総合医は半々ぐらいでいいのではないか」と述べられましたが、まさに我が意を得たりでした。妊婦の救急や精神疾患の救急などの各論についても触れました。懇親会では大阪市立総合医療センターの部長さんとも意見交換でき、大変有意義な夜になりました。

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この記事へのコメント

素人からするとよく分からない高度な話ですが お金が無いと何もできない現状だということですね 救急車 確かにこの運用も難しい問題山積みですね

Posted by 医療には素人 at 2009年11月03日 09:46 | 返信

実はお金はいらないのです。
必要なことは発想の転換です。
平均年齢以上に年をとれば病気になったり死ぬこともあります。しかたがないのです。
しかし日本は病院神話が根強く、専門病院に行きさえすれば不老不死があるかもしれないという
幻想を抱く方がおられます。
死ぬときには死ぬという死生観の成熟と総合医の育成という2つの発想の転換で十分に医療は再生できると考えています。これが根治療法です。
しかしそれが市民にも医療者にも大変高いハードルになっている現在、対症療法として「お金を増やしては」と言っています。しかし本当に必要なことはお金ではなく知恵なのです・

Posted by 長尾和宏 at 2009年11月24日 01:36 | 返信

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