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善意の拉致入院、悪意の拉致入院

2010年01月25日(月)

3日前のブログで、「地域連携室は善か悪か?」という過激なことを書きました。過激ですが本当のことです。今日は「善意の拉致入院、悪意の拉致入院」につ いて書きます。この数年間、「病院から退院したいけど退院させてくれない。どうやったら退院できるのか」という相談を受けます。慢性期病床の話です。中に は「お金はいくらでも払いますから病院から家に連れ戻しに一緒に来てください」といきなり初対面で懇願されることもあります。なんだか北朝鮮からの救出作 戦のようです。ご家族には「医療にも治外法権があって、一旦入院したら私の力では退院させることはできません。拉致入院から救出できるのはご家族だけです」と入れ知恵をするのが精一杯です。

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Aさんは全身の骨に転移した末期がん患者さんです。足の骨にも転移しているので歩けず車椅子生活です。しかし広 い自宅と介護保険を上手く利用して、私の緩和医療も上手くいって快適に自宅で療養できています。10年間の闘病生活の果てで、かなり弱っているので、何か 治療をするとすれば新しく開発された放射線治療ですが、B病院の主治医は積極的な治療は考えていません。定期受診しても話をするだけで何もしませんし、言 いません。ちなみに在宅医の私には何の情報提供もありません。私は受診時に手紙を持たせますが、主治医からは何の返事もありません。在宅医療や開業医には あまり興味が無いようです。しかし、この1ケ月間、我々がこの独居の医療・介護を支えてきました。まあ、急性期病院なので入院を言い出さないだけでも助か ります。

Aさんは10年間何度も入院してきて、「もう今後一切入院しない」と公言しています。自宅で死ぬと決めているようです。そ んな礼儀正しいAさんが、もうひとつお世話になったC病院の医師に最後のお別れの挨拶を言うべく伺ったところから、問題が生じました。挨拶に伺っただけな のに、緊急CTとMRI検査をして、「これは絶対に入院しなければならない」と無理やり3日後の入院を強く命じました。驚き混乱したAさんから緊急往診依 頼がありました。

Aさん「私は死んでも絶対に入院したくない。先生、なんとか入院しなくてもいいようにしてくださいよ」
私「私が断ることはできません。自分で断るしかありませんね」

A さんの代わりにわざわざご家族が仕事を休んで入院を断りに行きました。しかしC病院の主治医は絶対入院してくれないと困ると言って引きません。主治医の意 見は、「もっと調べたら放射線治療や骨の手術などの治療法が見つかるかもしれない」とのことです。確かにこの医師は先駆的手術で有名な方ですから、同じ医 師として彼の気持ちも分からないわけではありません。

しかし、肝心の患者も家族も入院を拒否されているのですから、もはや拉致入院は不可能 であると常識的には思います。第一そんな手術は存在しないし、もし放射線治療をするとしてもその病院にはそんな設備はありません。入院を断り切れずに困り 果てた御家族が、夕方私のところにまた相談に来られました。

このように、病院の先生には大変失礼ですが、「拉致入院」としか言えないような 「強制入院」に結構振り回されています。結構、時間と労力を費やします。C病院の医師の場合、「車椅子生活で大変そうだから、ご飯も看護助手もいる我が病 院に入りなさい」と、おそらく善意で入院を強要しているのでしょう。ところがAさんは介護保険を活用し何度も経験した入院生活とは比べようもないくらい快 適な在宅生活を送っているのです。はっきり言って余計なお世話なのです。

C病院の先生の頭には、末期がん=入院、というイメージしか無いようです。在宅医療という選択肢は皆無です。B病院の主治医も在宅医療には全く興味もないようです。しかし現実に患者さんは在宅医療で快適に生活しています。医師会の医療連携の委員長をし、「
尼医ネット」を作り、いくつかの医療系メデイアからも医療連携の重要性を発信していますが、足元がこれでは連携など画餅としか言えません。

急 性期病院には拉致入院はありません。あくまで慢性期病院からみの話です。慢性期病床が足りないと言われますが、医療者の勝手な思い込みによる拉致入院も含 まれての数字であることを指摘する人間はいません。しかし経営上の理由もあるのでしょうか?拉致入院としか言えない例が現実にあります。なにかと急性期医 療ばかり注目されますが、最もメスを入れて整理し直さなければならないのは慢性期医療なのです。

そうい えばクリスマスに拉致入院から「エイヤ!」と自宅に帰った患者さんは、無事1ケ月経過して、さらにお元気になってきました。ご家族は「こんなことが本当に あるなんて信じられない!」と言ってくれます。病院スタッフも、こんな現実を話してもおそらく信じられないのではないでしょうか。でも現実なのです。信じ てもらう以外ありません。

先週末の講演でも言いました。


●医療とは点数でするものではない。志でするもの。
●医療連携で医療は再生可能。お金ではない。

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この記事へのコメント

18日のヘルパー研究協議会研修に参加した木谷です。先生のブログ、あれから毎日読んでおります。
話題が多岐に渡り、内容が濃くて、読みながら頷いております。

私どもも、緑虫の洗礼も受け、警察とのやりとりをし、簡易裁判所まで行って不服申し立てしたのですが、やはり違反には違いないという結果になりました。年1回更新なので、申請時に、駐禁除外票が有効な場所を教えてくれと食い下がりましたが、無理。十分な道路幅のある公園のフェンス沿い、反対側は池で、車の進入も少ないところ、住民が通報することはありえない場所でさえ、容赦なかったです。右側余地が3.5メートル以上なかったからだとの事。メジャーを持っていき計りましたが、一度動かしているので証拠にならないとか、巡視員の判断は絶対に正しい等と言いくるめられました。
すみません、感情的になってしまいました。今日のコメントにはふさわしくないです。

「拉致入院」を読んで、医療者ですら「死」を受け入れられないのか?と思ってしまいました。
いや、医療者だからかもしれません。医療者にとってやはり「死」は敗北だと考え、避けるべきリスクなんでしょうか。

医療者ですらそうですから、一般的には、Aさんやその家族のように、死を家で迎えたいと思う人はまだ少ないように感じます。Aさんが在宅を選ばれたのは、長尾先生やケアスタッフ、家族が一体になっているからでしょうね。医療や社会を動かすという大きな目的を持っていてもなかなか難しいですね。少しずつAさんのような環境を作っていくことの実践の繰り返ししかないのでしょうね。

先日の研修会の時に少しお話ししましたが、市内で多職種連携研修の開催を中心になって進めてきております。今年度は10月に「介護事故を通して、介護のあるべき姿を考える」というテーマで、よくある事故事例を5つ用意し、家族側と事業所側に分かれてディベートをしました。
最近、介護事故、医療事故がよく問題になり、保険屋さんが大繁盛とのこと。90歳の高齢者が施設で誤嚥して亡くなると、億が付くくらいの賠償金を支払ったというケースもあり、家族がモンスター化しております。施設はリスクを徹底的に避けるべきだということで、胃ろうの人など、医療的ケアの必要な人のショートステイ利用は断るところが増えてきています。死に近づいている本人はそれを受け入れていても、家族が死を受け入れられないからです。

先日お話しした、老衰で亡くなってケースも、なかなか家族が受け入れられず、朝は元気だったのになぜ急に亡くなるのか、ヘルパーの食事の介助の方法に問題はなかったのか、と思われていましたが、主治医の説明により、渋々納得されました。その息子さんは定職を持たず、亡くなったお母さんの年金で生活をしていたパラサイトだったのです。絶対死なせられないのです。私たちはそういった過酷な現場が結構多いです。

私たちには、まだまだ説明する力が足りないと思っております。そういう現状の中で、多職種連携研修を開催しております。これまでは、各専門職から困難事例を出していただき、多職種でそれについて議論してきました。職種は、ケアマネ、訪問看護、介護、特養、グループホーム、デイ、社協の権利擁護担当、大学の先生などで、残念ながら、医者が参加されたのは去年1人、1回だけでした。まだまだ多職種とは言えないですね。

次回は2月18日の午後、「仙人の死から考える本当の伴走とは」というテーマでグループ討議をします。仙人とは、独居で子どもがない高齢の男性で、数ヶ月前から姿を見ていないことに気づいた地域の人が訪問したところ、布団の中で下半身裸で糞尿まみれになっているのを発見しました。知らせを受けた相談員が訪問した時の印象が仙人のようだったそうです。仙人は、この数ヶ月1日1回知的障害の甥が持ってくるパンと牛乳だけで生きていました。トイレに行く力もなくなってずっと布団の中で死が訪れるのを待っていたようです。相談員が訪問して声をかけると、「大丈夫、ほっといてくれ」「病院には行きたくない、ここで死ぬ」と返答があったとのこと。地域の人や行政を交えてこの人をどうするかを考えた結果、救急車で入院させ、5日後に亡くなったそうです。抵抗があったため拘束されながら点滴され、酸素マスクをつけられ口をパクパクしている姿は、それまであった仙人の威厳がなかったそうです。相談員は、「これでよかったのか」という思いが残ったということで、介護に関わる全ての人に考えてほしいということで事例を出しました。

このような内容で研修を進めています。そして、今年度の集大成として、3月19日に四天王寺大学の鳥海直美先生と、香川大学の松井妙子先生を招いて、「在宅ターミナルの事例から、看取りにおける訪問看護、訪問介護、ケアマネジャーの視点と役割」というテーマで開催します。

長尾先生には、介護の現場ではこんなことをやっているんだ、ということを知って頂きたいのと、来年度の研修に是非とも来て頂きたいと思いコメントしました。長々と申しわけありませんでした。
今後ともよろしくお願いいたします。

Posted by 木谷万里 at 2010年01月26日 11:21 | 返信

木谷さま
コメントありがとうございます。
>救急車で入院させ、5日後に亡くなったそうです。抵抗があったため拘束されながら点滴され、酸素マス>クをつけられ口をパクパクしている姿は、それまであった仙人の威厳がなかったそうです。相談員は、。「これでよかったのか」という思いが残ったということで、介護に関わる全ての人に考えてほしと>いうことで事例を出しました。

ちょっとかわいそうな例ですね。しかし仙人でなくても一般の人でも良くある例です。
今、「尊厳死」についての原稿を書いていますが、おおいに参考になる話です。

また呼んでください。
そして皆で本音で語りあいましょう。
次回はもっとザックバランで行きますね。

Posted by 長尾和宏 at 2010年01月27日 01:33 | 返信

コントみたいですがこれが現実なんですね。わが身がこんなんされたら困りますね。社会が経済が政治が
なんて問題ではなくなんなんですか?強制拉致入院・40年前に私もたかが!乳腺炎を悪化させてというより
某医院での医師の処置が中途半端で膿がどうにもこうにも身体にまわり意識不明になりながら
病院を出してくれないので医師でもない私の父親が夜中に院長と威勢の良い?口論をしてタクシーにフラフラ意識混濁の私をのせて某市立病院院長外科部長に頼み込んで切開して貰いましたら膿が膿盤いっぱい出て
翌日からは食欲も出てもちろん意識もしっかりとしてきました。ケースはいささか違いますが
医師と患者は入院したら拉致状態の関係になることって今も昔もあるのですね。
そのとき某医院の院長と口論した父を恥ずかしく思っていた母も後では「あれがなかったら・・」などといっていましたので、ぞってしながらケースの違うこの長尾先生のブログを読ませて貰いました。

Posted by 狭間紀代 at 2010年01月29日 12:32 | 返信

狭間紀代さま
薬剤師界のカリスマであり革命女史である狭間先生の行動力には感服するばかりです。
私はボヤイてばかりですね。
おっちょこちょいのおっさんですが、どうかよろしくお願いします。

Posted by 長尾和宏 at 2010年02月03日 12:19 | 返信

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