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10万円の抗菌剤

2010年02月22日(月)

IVH(中心静脈栄養)、在宅酸素、人工呼吸器をつけて自宅に帰ってきた患者さんが、さっそく高熱を出しました。ご家族が相談した病院主治医から「IVHルートから抗生剤や抗真菌剤の点滴」を依頼するFAXが届きました。2種類の抗菌剤の1日薬価は1万円をゆうに超えています。開業医にすれば極めて特殊な最新抗菌剤2種を早々に購入しました。10バイアル単位ですから合わせて合計10万円以上です。しかし主治医からの指示はわずか2日間です。もしこれで本当に治れば、医療機関には8万円の不良在庫が発生します。患者さんが知ることのない下請けの裏話です。

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在宅現場でご家族によく聞かれるのは、「このお薬はどこから来ているのですか?」という質問です。空から降ってはきません。医療機関がちゃんとしたルートから購入しています。たいてい最低10ケ単位です。薬価10万円の薬を、9万6千円で買ったとして、消費税を合わせると10万1千円を卸問屋さんに払います。損です。これを逆ザヤと言います。普通の商売ではあり得ないことでも医療は公的資源ですから、表だってはオカシイとはなかなか言えません。

そして10本中2本を使うと、2本分は保険請求できますが、残りの8本は返品不能ですから、同じ薬を使う別の患者さんが現れない限り、2、3年後には不良在庫として廃棄します。すなわち8万円のマイナスになります。胃ろうのセットや、気管切開のカニュレ、種々のチューブなども10本単位が普通です。中には20本単位もあります。1本単位のバラ売りはしてくれません。胃ろうチューブは患者ごとに異なりますので患者ごとに色んな種類の器具を揃える必要があります。だから、管ものの在宅医療は敬遠されがちです。特殊な抗菌剤、抗がん剤、インターフェロンなどの高い薬も保険で却下されるリスクがあるので敬遠されがちです。

医療器材や特殊な点滴薬剤などを、もし単品から調達できるシステムがあればどんなに在宅医は喜ぶでしょうか。この辺にもメスを入れないと在宅医療の推進は難しいと思います。
こういう細部にこそ真実は宿ります。細部まで考慮されない政策は前進しません。まあ、在宅でそんな難しい医療行為はしたくないのですが、病院やご家族の強いニーズでどうしてもそうなってしまう時があるのです。

在宅医とは。悲しい下請け器材調達係でもあるのです。
 

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