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雨の中の夜間緊急往診

―命を巡る対話―

2010年03月25日(木)

降り続く雨の中、夜の往診を回っていたら、訪問看護師からの電話が鳴りました。ある神経難病で在宅療養していた患者さんが、夫が帰宅したら意識レベルが低下して虫の息だったそうです。私が駆け付けた時には、すでに訪問看護師の処置が効を奏し意識レベルも酸素濃度もかなり回復していました。その後、将来の延命処置を巡る対話が続きました。

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私 「近い将来、また急変します。胃ろうや気管切開などの延命処置はどうしましょうか?」
夫 「無様な姿をさらしたくないので、拒否します」
私 「誰にとって無様なのですか?」
夫 「周囲のみんなです」
私 「ご家族ですか?」
夫 「・・・」
私 「家に帰った時、息が止まっていたらどうしますか?」
夫 「救急車を呼びます」
私 「救急車を呼ぶということは、気管内挿管、人工呼吸をしてくれ、という意思表示ですよ」
夫 「知りませんでした。それは困ります」
私 「人工呼吸器をつけたら困りますか?」
夫 「困ります。本人は意思表示できないし・・・」
私 「意思表示はいくらでもできます。頭はクリア―です。頭は全然大丈夫だけど体が全く動かない、認知症と全く反対の病態です。しかし一旦人工呼吸器をつけたら外せませんね。本人・家族の希望で外せば、外した医者が逮捕されて刑務所に入る国ですからね。日本は。ちなみに外国では延命処置を希望される方はほとんどいません。日本では3割程度でしょうか?この差は医療制度にあります。」
夫 「私はお金がないので、お金が要るなら結構です」
私 「それが日本の医療制度は優れているので、医療費はあまりかからないのです。だから日本だけ、このような議論が要るのです」

ここで患者さんのベッドサイドに移動しました。

私 「また今日みたいに死にかけたら、どうします?人工呼吸や胃ろうはしますか?」
患者 「私は絶対にイヤ。そのまま死なせてください」 (夫も頷いている)
私 「どうしてですか?」
患者 「家族の負担になるから・・・」
私 「在宅が負担だったら、預かってくれる病院もあるしね」
患者 「絶対イヤ。生きていても意味がない」
私 「たしかに。私もイヤですね。訪問看護師さんは自分がその立場だったらどうですか?」
訪問看護師 「私もイヤです」
私 「でも子供さんやご家族が希望されたらどうしますか?」
患者 「本人の意思が優先するでしょ」
私 「おっしゃるとうり。でも生きたくないのですか?延命処置をしたら、5年も10年も生きられるのですよ?お孫さんの顔は見なくてもいいですか?」
患者 「私は、夫が呆けてその世話ができるのだったら長生きしたいのですが・・・
    それが出来ないなら生きている意味がありません」

この言葉を聞いた瞬間、夫は、いきなり鼻をすすり始め部屋の奥に引っ込みました。

看護師と2人、帰る時、見送る夫の目にはまだ涙が溢れていました。妻が発したひとことで、夫の気持ちは明らかに揺れ始めました。

お2人に言いました。
「急に来て嫌な話をして御免なさいね。でもいつか、もしかしたら近い将来にそのようなことを考えないといけないと思うので許して下さいね。今日、明日のテーマではないので機会を作ってみんなでゆっくり話し合ってくださいね。私も何度でも来ますからね」と。

難しい選択です。どれだけこの仕事をしていても答えは見えません。正直、どうしていいか、このようなケースの場合は分かりません。どちらを選択しても同等に正解だと思います。決定権はすべて患者さんにあります。

このような会話をしていたら、帰宅がまた午前さまになりました。
2日連続、純粋な仕事での午前様です。
昨日、16時間連続取材してくれたマスコミさんは、「ションベンも昼飯もする暇がない」という意味を分かってくれたと思います。
これでも「地域医療貢献していない」とお国には、4月1日から言われるのです。
死なないと分かってくれないのでしょう。役人さまは。

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この記事へのコメント

本当に難しい問題ですね。私も身寄の方(というか縁遠くなってしまった親戚の方はいたのですがわけがあり、疎遠になっていました。)の延命措置について西市民病院でのDR.NS.さんの話し合いがあり、参加したことがあります。(DRから御親戚の方とは疎遠とご本人から聞いているのでCMに来てほしい、と連絡があったので)結局、延命措置はしないこととなりました。ご本人様は少し物忘れがありますが御自分で意思決定のできる方です。食べることが唯一の楽しみなのに胃ろうになってしまうのであれば残念で仕方がない、とおっしゃっていました。それから2週間後に西市民病院のNSさんから私宛に「急変しました。」と連絡があり、その夜にお亡くなりになりました。
亡くなった後は生活保護でのお葬式でそこで役所がはじめて遠い親戚の方に連絡したそうです。その親戚の方からお礼の連絡がありました。今でもその方の住んでいたところの前を通ると複雑な思いです。私はあの選択で良かった、とは思っていますが・・・ところで私も3日連続24時帰りです。さすがにもう今日はしんどいです。会社からは残業40時間以上は駄目、といいますがとてもこなせません。今日も大病院でのケアカンファレンスでした。医療と在宅との大事な時間です。大きな病気を4つくらい持っていらっしゃる利用者様です。DRがやさしく、わかりやすく説明してくださったのでとても助かりました。

Posted by 山崎裕子 at 2010年03月26日 09:39 | 返信

結局、年齢が重要なファクターだと思います。

Posted by 和 at 2010年03月28日 12:53 | 返信

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