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5年前の今日、この時間に「最後の生存者」が救出された

―朝日新聞WEBサイト アピタルブログより(第7回)―

2010年04月27日(火)


2005年4月25日午前9時19分、尼崎でJR宝塚線脱線事故が起きました。

救急車やヘリコプターの音の中、事故現場からそう遠くないクリニックで、私は通常の診察しながら、受傷者の搬送を待っていました。
しかし結局、すべての方が病院に搬送され、当院には一人も来られませんでした。

翌26日の朝8時のテレビ中継で、真っ黒な人間が救出されている映像を見ました。
「まだ生きている人がいたんだ!」
数日後、さらに驚くべき再会がありました。

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ゴールデンウイークの休日、母を見舞いに某病院に行きました。
廊下で、見知らぬ中年男性に「おお、長尾、何しとるんや」と声をかけられました。
よくみると小学校時代一番仲のよかった近所の幼馴染でした。
なんと、35年ぶりの再会です。

「お前こそ何してんのや?」と聞き返すと、
「ワシの息子があの事故で怪我してしもうてなあ・・・」と返ってきました。
話していくうちに、数日前のライブ映像のあの真っ黒な若者が、
彼の息子さんであることに気がつきました。

「生きて救出されたのは、俺の息子が最後やったんや」
驚きました。言葉が見つかりません。
「お前に似て、しぶといな」。
35年ぶりの再会なのに、不謹慎な冗談を言いながら、息子さんの病室を恐る恐るノックしました。

負傷した両足を切断したことには触れませんでした。
母親から、あの夜、車両の下に潜り込んで徹夜で点滴をしてくれた救急医の優しさと勇敢さを聞きました。

午前4時頃、生きることを諦めかけた若者の手を強く握り、励まし続けた救急医療チームの話を聞くうちに、10年前の阪神大震災の時を思い出しました。
(この様子は拙書「町医者力」にも書きました)

真っ暗な中での一夜。
「一晩中、車両の下から手を握ってくれた医者の顔をまだ知らない」
「覚えているのは手をジッと握ってくれたこと」
「そしてくじけそうになった僕を励まし続けてくれたことだけ」と。

後に、時間がたつにつれて、さらにいろんな出来事がありました。
彼を助けた救急医にも、そして彼自身にも。

いま、彼はとても頑張っています。
素晴らしい人生を切り開いています。
なにせ僕が一番喧嘩した幼馴染の息子さんですから。

御縁とは恐ろしいもの。
彼の祖母、すなわち幼馴染のお母上とも、現在、医者と患者という関係でいます。

鼻たれ小僧だった頃、いつも怒られていた近所の「おばちゃん」と、今なお、ご縁があることは、これまた不思議です。
さすがに偉そうにできません。

5年前の今日、この時間に「最後の生存者」として救出された若者がいた。
そして彼を間違いなく助けた、滋賀県から来てくれた優秀な救急チームがいた。
そのことだけは、しっかり伝えておきたいと思います。

(当ブログは、朝日新聞WEBサイト"アピタル"にて掲載中です。)

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