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パンドラの箱は開きつつある
2010年11月18日(木)
昨日、奈良の産婦人科医にひとつの判決が出た。
箱は少しずつ開きつつあるようだ。
扉は、少しずつ開いている。
少しずつなのは仕方がない。
医師の志の維持と一緒でないと扉は開けない。
法は、平等なもの。
もし志の低い医師が、法を振り回したら、逆効果。
医学教育で、哲学、志をしっかり担保しながらの作業でよい。
以下、m3.comの記事より引用させて頂く。
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医師不足への処方せん
「医師の宿日直は通常勤務」、高裁判決の全国への影響大
大阪高裁が一審判決支持、奈良県立奈良病院、時間外手当裁判
2010年11月17日 橋本佳子(m3.com編集長)
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11月16日、大阪高裁で、奈良県立奈良病院の産婦人科医2人が未払いだっ
た「時間外・休日労働に対する割増賃金」(以下、時間外手当)の支払いを求めた裁判の判決があり原告・被告の控訴をともに棄却、一審判決を支持した。両者とも現時点では上告するか否かは未定。
た時間だけではなく待機時間を含めてすべて勤務時間」であると判断、A医
師に736万8598円、B医師に802万8137円を支払うよう命じていた(『「宿直」扱いは違法、奈良地裁が時間外手当支払い求める』、『原告・被告ともに控訴、奈良・時間外手当等請求裁判』を参照)。
宿日直を通常業務と認め、時間外手当の支払いを認めた大阪高裁判決は奈良
県だけではなく、全国の病院への影響も大きい。
原告はオンコール(宅直)についても手当を認めることなどを求めて訴、
この点は棄却されたものの、紙浦健二・裁判長は判決言い渡しの際「原判決
通りの結論になる。時間外労働、休日労働、その分については、全時間を勤務時間とするという認定をした。その理由について詳細に判決文では説示している。宅直勤務関係については業務命令がない以上、法的には(請求を)棄却せざるを得ない。ただし、いろいろな問題点があり、現状のままでいいのかという点について十分に検討してほしい。このようなことについて判決文について記載している」と発言している。
これを踏まえ、原告の代理人弁護士である藤本卓司氏は判決後の記者会見
で、「宅直手当については、『命じられた業務とは言えない』とされ一審判
決と同様、私どもの主張は認められなかった。ただ、高裁判決は法律的には
時間外手当の支払い義務はないものの、かなり無理な状況にあり医師の職業
意識から期待された限度を超える疑いがあるとしている。県などを名指し、
是正措置が必要であると認めている。したがって一歩前進であると考えてい
る」との見方を示した。
これに対し、奈良県医療政策部長の武末文男氏は「判決では、宿日直手当
に加えて実際に業務を行った分について時間外手当を支給するという併給方
式は認められないとされた。判決に基づき、宿日直ではなく時間外勤務の取
り扱いになると、労働基準法上の労働時間の扱いとなるため交代制勤務の対
応も必要となるが、医師不足の折、直ちに実施することは不可能であり夜間
や休日の診療を継続することが困難になる」とコメント。
その上で、武末氏は「今回の問題は、奈良県だけではなく、全国共通の課
題。判決の影響は大きく救急医療の対応が困難になる地域が増えるなど、全
国に波及する」と指摘、「医療法上では『宿直』の形で24時間365日急患へ
の対応を求めている。一方労働基準法の『宿日直』は、軽微な作業を前提と
している。県では国に対し、これらの明確化を求めていく。同時に厳しい労
働環境の改善と救急医療の継続・維持の両立を図れる体制作りのための対策を講じていきたい」と語っている。
この認識は藤本氏も共通しており「県立奈良病院の特殊な問題ではなく、
基本的には全国の病院はどこでもまた産婦人科以外でも同じ問題を抱えてい
ると考えている。宿日直の全時間に対し時間外手当を支払っているところは
恐らくないだろう」と話す。「そもそも提訴したのはあまりにも過酷な勤務
状況の改善を求めたため。医師の勤務状況の改善には医師の数を増やすしか
ないが今、医学部増やしても時間がかかる。地域の開業医と連携を組み診療
に当たる仕組みなども整える必要があるのではないか。また時間外手当を支払うのであれば、予算措置が必要になる。予算、制度という国レベルの対応が必要になるだろう。裁判が確定すれば、影響は大きい」(藤本氏)。
判決後、原告代理人の藤本卓司・弁護士は「医師の職業意識に任せてやって
きたツケが今、生じている」と語る。オンコールの和解交渉は成立せず2人の産婦人科医が支払いを求めたのは、2004年と2005年の2年分の時間外手
当。当時、奈良病院では宿日直については1回2万円の手当が支払われていた
のみ(後述のように、その後、手当を一部見直し)。オンコールの待機料はなかった。未払いの時間外手当として請求したのはA医師4427万9189円、B医師4804万9566円だが、一審では2004年10月25日以前は消滅時効期間が過ぎており、2004年10月26日以降の宿日直に対する時間外手当のみが認められた。
これに対し、原告、被告である奈良県ともに控訴していた。原告は、(1)時間外手当の割増賃金計算の算定基礎額に、「給与、調整手当、初任給調整手当、月額特殊勤務手当」だけでなく、「期末手当、勤勉手当、住居手当」を加える、(2)宅直(オンコール)についても手当を認めるべき、と主張。一審分に追加し、2人分で計約2700万円を請求していた。
一方、奈良県は「実態として通常業務に従事していたか否かにより、宿日
直勤務時間を切り分け、それぞれ割増賃金、宿日直手当の対象とすべき」などを控訴理由としていた。
これらいずれも大阪高裁で棄却された。大阪高裁では9回の期日が持れ、
一時はオンコールについて和解交渉が行われていた。しかし、「金額面で折り合いが付かず、和解には至らなかった」(藤本氏)。
なお、2人の産婦人科医は、2006年と2007年の分についても未払いの時間
外手当の支払いを求めて、別途提訴している。本高裁判決の待ちの状況であり、まだ一審判決には至っていない。
「宿日直は、病院長の指揮命令下にある労働時間」
県立奈良病院では、(1)2007年6月から、宿日直勤務のうち通常勤務分については超過勤務手当を支給、(2)2008年4月から、超過勤務手当に加え、分娩にかかわる業務や勤務時間外に呼び出しを受けて救急業務を行った場合には、特殊勤務手当を支給――などの待遇改善をしている。もっとも、労基法上の「36協定」を締結したのは、2010年7月28日であり、8月に労働基準監督署への届け出を行っている。
(1)の対応は、裁判の過程で県が主張していたものであり2004年と2005
年当時は超過勤務手当(時間外手当)を支給していなかったが、主張通りの対応に変えたわけだ。
控訴審で焦点になった一つが、「宿日直」勤務のうち時間外手当の対象と
なるのは、今の奈良県の対応通り、実際に業務をした分か、あるいは全時間かという点。
奈良県では、「宿日直のうち、通常の労働部分は、宿日直勤務の時間帯の22.3%であり、残りは断続的勤務である」と主張。これに対し、原告はこの22.3%には、(1)外来患者への処置や入院患者の緊急手術に限られ、正常分娩は含まれない、(2 )緊急手術も、手術室にいる時間しか含まれない、と問題視。「22.3%」という数字は、2007年6月から2008年3月までの10カ月間の産婦人科の勤務実態を調査した結果だ。これに、「正常分娩にかかる処置」を加えると23.1%、さらに、その他の業務(分娩・手術を除く処置全般、家族への説明、電話対応など)を加えると23.7%だった。
裁判所は、原告の主張を認め、この調査結果は「当直医の通常業務の従事
割合が過少に表現されている」とした上で「原告の宿日直勤務は、断続的労
働であるとは認められずその全体として被告(奈良病院長)の指揮命令下に
ある労働基準法上の労働時間であり、割増賃金(時間外手当)を支払うき」
と判断した。
宿日直の関連で、藤本氏は「判決の中で、よい意味で驚いたのは、労働基
準監督署の在り方についても批判している点。労基署の対応は最近ではようやく変わってきたが、これまでルーズだと思っていた。その点まで踏み込んだ判決」と評価する。県立奈良病院では、1987年に宿日直の実施について労基署から許可を得ており、県はこの許可が取り消されていないことを根拠に、産婦人科医の勤務が「断続的勤務で宿日直に当たる」と主張していた。判決では、労基署が勤務実態を正確に把握していないことを問題視、この許可は本来取り消されるべきだったと判断している。
「医師の職業意識により期待される限度を超えているか」
もう一つの焦点である、オンコールについて裁判所は、「精神的、肉体的
な負担はかなり大きい」としつつも県立奈良病院長の明示または黙示の業務
命令に基づくとは認められず労働基準法の労働時間に当たらない」とした。
もっとも、裁判所はオンコールを「プロフェッションとしての医師の職業
意識に支えられた自主的な取り組みであり奈良病院の極めて繁忙な業務実態
からすると医師の職業意識から期待される限度を超える過重なものではない
か、との疑いが生じることも事実である」「1人宿日直制度での、宿日直担当医以外の産婦人科医の負担の実情を調査し、その負担が(オンコール制度の存否にかかわらず)がプロフェッションとしての医師の職業意識により期待される限度を超えているのであれば、複数宿日直体制とするか、オンコールを業務として認め、適正な手当を支払うことを考慮すべきものと思わる」と言及。
これが前述のように、藤本氏が「一歩前進」と評価した点だ。
ただし、県の受け止め方は、やや異なる。裁判所が「医師の職業意識によ
り期待される限度を超えているのであれば」とした点について「今回の事例
に関して、超えているかどうかについては判断しておらず、裁判所は逃げているとも受け取れる」(武末氏)。
「医師の職業意識」に依存してきたひずみ
藤本氏、武末氏がともに指摘する通り本判決の影響は大きい。2009年4月
に奈良県が全都道府県に、「医師の休日および夜間の勤務体制」に関する手当について照会したところ、都道府県立病院を有する43団体(残る4府県は独立行政法人化)のうち、(1)宿日直手当のみ支給:5団体、(2)宿日直手当は支給せず、通常業務従事分だけ超過勤務手当支給:1団体、(3)宿日直手当+通常業務従事分については超過勤務手当支給:25団体(現在の奈良県を含む)
――などという結果だった。
今後、最高裁に上告されるか否かは現時点では不明だが上告して最高裁で
確定すれば、その影響は現場の病院だけにとどまらず国の医療政策の根本に
かかわってくる。宿日直は通常勤務であるとされ時間外手当の対象になれば、その費用をどう手当するかは各病院だけでなく、診療報酬で担保するかなど国レベルの問題。また、武末氏が指摘した通り、医療法上と労働基準法上との宿日直の整合性を図る必要がある。
さらに、医師数の問題も出てくる。「36協定」を結び時間外手当を払ば、
何時間でも医師を働かせていいというわけではない。医師の養成や他職種との役割分担などを総合的に考え、医師の勤務時間そのものを減らす施策が不可欠だ。「判決文には、何箇所も、『プロフェッションとしての医師の職業意識』という言葉が出てくるが、何十年もそれに任せてやってきたツケが今、生じている」(藤本氏)。
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