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南相馬市の医師のレポート

2011年04月12日(火)

田口空一郎さんから届いた気になる南相馬の医療状況だ。
医療構想・千葉 増山茂先生・田井秀明先生のレポート。

いま、一番必要なものは、やはり情報公開。 インフォームドコンセント。

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南相馬市、相馬市の医療状況報告(2011/4/09,10)

 

医療構想・千葉 増山茂・田井秀明

 

****金田寛之(公立相馬総合病院副院長)、渡辺泰章(南

相馬渡邊病院理事長)、尾形眞一(福島県保健所職員)氏など

の医療関係者、相馬市長、新地町町長ら自治体関係者からの情

報などによる。また双葉厚生病院調査の際のガンマ線量測定資

料も加味する。****

 

 浜通りは、北から、新地町・相馬市・南相馬市(鹿島地区:

ここまで30キロ圏外・原町地区(20-30キロ圏)・小高地区:

ここは20キロ圏内)となる。

 

 南相馬市の医療システムは一時消滅していた。

事故の直後、南相馬市長が、全員避難させたいという方針を提

示した。人口7万のうち、もっとも少ない時期には1.8万人と

なった。

 南相馬市にある6つの病院、ほとんどの診療所は閉鎖され、

病院の入院患者、老健や特養の入所者は南相馬市の外に移った

(相馬市が多くを引き受けた)。

 大熊原発から20-30キロ南相馬の原町地区には、以下の4つ

の病院がある。公立の、南相馬市立病院(ベッド:一般230

療養0、医師14、看護師151)私立の、渡邊病院(ベッド:一般175

+療養0、医師13、看護師83)、小野田病院

(ベッド:一般88+療養101、医師11、看護師79)、大町病院

(ベッド:一般100+療養84、医師12、看護師95)。

 30キロを超える鹿島区には鹿島厚生病院があり、20キロ圏内

の小高地区には小高病院があった。

 南相馬市全体で、一般700床、療養300床のベッドがゼロにな

ったことになる。

 

 しかし、在宅治療の患者さんや動けない方々は残らざるを得

なかった。切実な医療需要はあたりまえだが、存在した。心あ

る医療者も存在した。

 南相馬市立病院では、外来もどきを続け、1週間処方を細々

と行っていた。いくつかの診療所医師は心ある薬局と組んで診

療を続けた。マルイ眼科、うさぎ堂薬局など。石原先生は自宅

で診療した。原町中央産婦人科は、実質的に診療を続けた。ヒ

グチクリニックの樋口先生らは、医師会として、鹿島厚生病院(

原発から32km)を使い、臨時診療所を3/25-4/08まで立ち上げた

 この時、この地域には処方箋を受ける薬局がなかった。相馬

市の立谷市長の強力なバックアップと相馬郡薬剤師会及び保健

所薬剤師の協力でこの地域に薬剤師を集め、二つの薬局を処方

箋の受け皿として用意することができた。

 4/04(月)から、原発から20-30キロ圏にある4つの病院は

、外来部門を再開した。この週の外来は、患者は約500/day

度。医師10人、Ns50人くらいが従事したことになる。来週(4/11)

からは、各診療所は再開予定であるし、鹿島厚生病院も外来診

療を開始する。

 厳しい状況の中でも逃げることなく立ちむかったこれらの勇

気ある医療者こそがこれからの再興の中心になるであろう。

 

 一時退去はしたが、南相馬に戻ってくる住民も増え、現在で

は人口3万人程度と想像されている。ガソリンスタンドの営業

も始まり、給油待ちの渋滞も消滅した。全国からの補給物資も

沢山集積されている。食料品店、レストランやラーメ

ン屋も店を開けている。日常の生活が戻りつつる。ここに発生

する医療ニーズにこたえる地域医療を担う地元医療者の意思は

明確であり、必要なマンパワーがある。薬剤問屋は30km圏内に

は配達しないので自力でこれを取りに行く必要はあるのだが。

 

 しかし、問題の一つは入院体制である。ベッドがなければ重

傷者は診ることができない。私立の病院やクリニックでは経営

上の問題もある。もう1と月も営業できていない。いつまで医

師や看護師や職員を雇用し続けられるかは大問題で

ある。医療はチームで行われる。一旦有機的組織が失われれば

、地域医療の再建は容易ではない。

 そこで、上記4病院は、病床の再開を県・国に打診した。4/06

(水)に浜通りの7つの関連病院が集まり、連絡会議が行われ

た。ほとんどの病院が病床を再開したい、それが医療ニーズに

応えることになる、そのためのマンパワーもある、と主張した

 しかし、県は、国と相談した結果、20-30km圏での病床の再

開は認められない、との立場であった。ただ、暫定的に、72

間だけ入院可能な10床ならば認める、という。ただ患者を振り

分けるためだけのベッドである。

 4病院は、とんでもない、との反応であったが、最終的に2

つの病院が5床づつ引き受けることになった。

 

 これでは、南相馬の医療ニーズはまかなえない、これが続け

ば南相馬の病院医療システムは完全に根絶やしになると、現地

医療人は口をそろえて訴える。南相馬での医療体制がいまのま

まであれば、相馬市のシステム、公立相馬総合病院(ベッド:

一般240+療養0、医師25、看護師147)と相馬中央病院(ベッ

ド:一般49+療養48、医師6、看護師58)にも影響は及ぶこと

は必定である。実際じわじはとその圧力は加わっており、この

1週間、毎日10人程度入院患者が増加しており多くは南相馬地

区からであると、相馬総合病院の関係者は語る。

 もし、南相馬市の医療が崩壊するようなことがあれば、現在

は首長や医療関係者が不眠不休の努力で持ちこたえてきた相馬

市、新地町のそれもパンクしてしまうだろう。相馬が決壊すれ

ば、福島や仙台に影響が及ぶことになる。

 

 県や国と地元の認識の違いは、前者が南相馬住民の30キロ圏

より外への全員避難を避けがたいものと考えているのに対し、

地元の方はかならずしもその必要はない、できれば地元に戻っ

て生活したい仕事をしたいと考える点にある。

 相馬市の医療関係者を含む南相馬の方々がそう考える理由は

簡単である。

 

 南相馬市の毎時被曝線量・積算被曝線量とも、決して高くな

いからである。公開された資料から言えることは、福島県の中

で、被曝線量が群を抜いているのが、飯舘村。次は福島市、3

番目に郡山市である。南相馬市はそれに続くが、30

キロはおろか50キロ70キロ離れたその他の地域と大した差があ

るわけではない(別紙参照)。

 本日(4/10)も南相馬市では、ガンマ線量は0.2μSv/h(マ

イクロシーベルト/時)程度であり、相馬市や新地町と変わら

ず、福島市のそれの1/5以下である。大熊原発の爆発時もその

後も上の傾向は一貫している。この程度の被曝によって計十数

万人の社会構造と生活--被曝線量的に言えば南相馬がダメなら

相馬もダメである--を抹殺することになる判断を下す合理的根

拠はあるのか、と多くの医師を含む市民は考えている。

 

 一方、政府の中では、20-30キロ圏住民の避難指示に向けた

動きがみられるという。実はこれに相当する地域は南相馬市だ

けといっていい。ごくごく普通に考えれば、飯舘村は即刻全員

避難。続いて福島・郡山対策を考えるべきなのではな

いか。どうして南相馬がイの一番の話題になるのか、そもそも20-30

キロ圏は危険なのでなるべく早く避難をという判断は科学的で

あるのだろうか。何も資料がない事故当初であればそれも仕方

なかったであろう。しかし私たちには1か月の

時間があった。(4/11、枝野官房長官は、飯舘村を含む避難を

発表した)

 

 現在まで公開されている大熊原発関連の放射線量測定の結果

によれば、大熊原発事故による被曝には著しい地域特性が認め

られる。最後の爆発(3/15&16)によると思われる放射性物質

の飛散は、双葉・大熊町から北西方向に位置しかつ30

km圏を越えた飯舘村に顕著な集積を見る。爆発直後のピーク値

は、飯舘にあっては、45μSv/h(マイクロシーベルト/時)で

あり、大熊と飯舘を結ぶ線上にある福島市では23μSv/hであっ

た。一方、北25㎞地点である南相馬市にあってはピーク値は5

μSv/hにも達していない。それ以後の観測放射線量はどこも減

衰する傾向にあるので、累積放射線量を含めてこの地域的傾向

は変わらない(別紙参照)。

 

 最近行われた飯舘村での調査結果は興味深いものであるが、

しかしここに集積した放射性物質は途中経路をスキップして落

ちてきたのだろうか。この飯舘村地域内での線量分布を示すだ

けではこれは明らかにはならない。福島県は放射線量測定地点

を来週(4/12)より増やすと報道されているが、この地域的特

性をはっきりさせる、つまり放射性物質の実際の拡散経路を明

確にして災害予測を科学的に行う、ためには飯舘村に至る20km

圏以内のデータも集積する必要があるだろう(本日の枝野発表

でも20km圏以内のデータは表明されていない)。

 

 今回得ることができた、双葉厚生病院調査の際に行われた20

キロ圏内を含むガンマ線測定値の地理的分布を見るだけで(別

紙参照)、この地域的特徴には、大熊町から双葉町の都路街道

沿い(94μSv/h)から原田川を経て、浪江町大柿ダム

26μSv/h)、同昼曽根地区(31μSv/h)へ、そして、浪江町西

端を経て飯舘村(同日は10μSv/h程度)へと、阿武隈山地を抜

けてゆく風の道の存在が示唆される。また気流が停滞する盆地

状地形効果も考慮すべきである。また、放射性物質がトラップ

される植生状態もこの地域的特性に大きい影響を与えていると

考えられる。

 そして大切なことは、この風の道を数百メートル横に離れる

と被曝量は一桁減少することである。

 上の結果は大熊原発を中心とした同心円状の被災予測とはま

ったく異なっている。これらの現実をもとにして、これからの

南相馬市や福島市や郡山市を含む避難計画なども考えられるべ

きである。

 

 現在の放射線量がこのまま逓減傾向を維持するとするのは、

考えうるもっとも楽観的なシナリオであろう。より悪性のシナ

リオも考えられる。しかし、次回に予想される爆発があるとし

ても、それに付随する放射性物質の飛散が今回の地域特性を踏

襲する蓋然性が高いとすれば、同心円状の被災予測などは意味

を持たないであろう。実際を予測計算するする放射性物質飛散

のシムレーションプログラムには、上記地域特性情報が加えら

れるべきである(そのためにはより精密な

データ収集が求められよう)。

 

 「普通に考えれば、飯舘村は即全員避難。続いて福島・郡山

対策を考えるべきなのではないか」と考える相馬・南相馬住民

には、政府は南相馬に格別の災害が必然となる公表できない秘

密情報を隠し持っているのではないか、という疑念が

ある。そうでない限り南相馬の避難を急がせる合理的な理由を

考えられないからである。

 より悪性のシナリオがありうることの周知をも含めて、政府

の情報公開の方法が問われよう。今回の原発事故に関する原子

力安全保安院や東電の発表についての現地の方々の評価にはと

ても厳しいものがある。

 菅総理は、「被災地の方々にわかりやすい説明を」とおっし

ゃっておられる。「わかりやすさ」はもちろん大切であるが、

住民が自己の将来を決定するに値する情報を、これは確率的事

象にならざるを得ないのだがが、worst casebest

caseの幅とそれに伴う社会的経済的費用をを常に示しつつ、「

正確に」開示することが大切である。

 住民をなめてはいけない。かれらはわかる。すべての言説は

、確実な証拠、科学的な事実に基づくものでなければならない

 

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この記事へのコメント

早く安心して生活が送れるようになることを願っています。。。

Posted by 在宅アルバイト at 2011年04月12日 06:50 | 返信

この記事は、そのまま菅首相に読ませるべきですよ!
ほんとに避難区域の科学的根拠って何ですか? 
南相馬でおきている様々な問題をしっかりその目で見て、市民の声を、
怒りと不安と嘆きの声を直にその耳で聞いて来い!と菅首相に言いたいです!

Posted by ゆうゆう at 2011年04月12日 08:13 | 返信

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