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がんと認知症の合併

2012年01月20日(金)

アルツハイマー病に、がんを合併した患者さんが増えている。
今日も、白血球が8万もあるアルツの患者さんが受診された。
白血病を強く疑っても、実質、検査も入院もできない。

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アルツの講演をされたエライ先生に質問した。
「アルツの患者さんががんを合併した時どうするか?」

そのエライ、ベテランの専門家の答えはこうだった。
「長く多くのアルツ患者診ているが、そのようなことは一度も無い!」

いかに医療が細分化されているか。
いかに医療が、パーツしか見ていないかがよく分かる。

2人に1人ががんになる。
8人に1人が認知症になる時代がもうすぐそこ。
ならば、両者の合併は決して珍しくもなんともないのは自明だ。

当院では沢山おられる。
以前、某雑誌に掲載された文章を引用しておく。


「認知症を持つがん患者への対応」  長尾クリニック 長尾和宏

 

【はじめに】

認知症は生活習慣病、特に糖尿病を基礎疾患としている。一方、糖尿病患者さんは、いわゆる3大合併症以外に、一般の患者さんより「がん」を合併する頻度が高いことが知られている。すなわち、認知症とがんは、「糖尿病」という基礎疾患を共有している。2人に1人ががんになり、10人に1人が認知症になるといわれているが、糖尿病というキーワドで考えれば、「認知症を持つがん患者さん」は、決して稀な症例では無く、今後に迫る超高齢化社会を想定すれば、もはや極めて一般的(common)な病態であると認識すべきであろう。とはいえ、臓器別の縦割り教育で育ってきた医療者には、そのような患者さんの診断や治療に際して、従来の教科書どうりには行かない点に悩む場合が増えるであろう。

そこで本稿では、認知症を持つがん患者の「診断までの過程での配慮」と「治療方法選択の特殊性」について述べたい。


【診断までの過程で配慮すべきこと】

一般に一旦「認知症」と診断されると、中核症状や周辺症状ばかりに目が行き、最もありふれた病気である「癌」を合併する可能性を忘れがちになる。特に在宅医療では、周辺症状、介護、胃瘻の是非を含めた栄養管理などばかりにどうしても目が行ってしまいがち。また特養やグループホームなどの施設入所者は、特に自覚症状が無い場合、医療との関わりは少ない。

認知症患者さんは、自覚症状を訴えることは少ない。たとえば低血糖を起こしても、自ら「気分が悪い」と訴えることが少ないように、かなり進行した癌を併存していても自ら症状を訴えることは通常、少ない。亡くなるまで、自分からは言葉や素振りで全く症状を表出されない認知症患者さんも沢山おられる。

従って通常、特段の症状のない限り、レントゲン検査や腹部エコーや腫瘍マーカーなどの検査をする機会はあまり無い。そのため、がんの自覚症状、例えば肺がんなら呼吸困難、胃癌なら体重減少、大腸癌なら亜腸閉塞などの症状が出た時点では、癌がかなり進行していることが多い。そこで慌てて検査をしてみたら進行した癌が見つかるという機会が増えている。


【画像診断を行うか、行わないか?】

肺癌、膵臓癌、腎臓癌、前立腺癌などは、エコーやCT、腫瘍マーカーなどの非侵襲的検

で診断可能である。一方、食道癌、胃癌、大腸癌などの場合は、内視鏡検査が必須である。たとえ胃内視鏡検査であっても、認知症患者さんにはセデーションを必要とする場合が多い。さらに大腸内視鏡検査は、少々厄介な「前処置」が必要であるが、その患者さんが体力的に可能であるかどうか、またセデーションや内視鏡検査に安全に耐え得るのかの判断が必要となる。すでに癌性悪液質に近いと思われる認知症患者さんの内視鏡検査は、「ハイリスク検査」と認識すべきであり、充分なインフォームドコンセントが必要である。従って検査後の安静の必要性を理解してもらえない場合や点滴の自己抜去、服薬拒否がある場合は、無理に検査を行うべきではない。侵襲のより少ないS状結腸ファイバーや、CT技術を駆使したバーチャルエンドスコピーなどの活用も検討されるべきである。

もし進行した癌が発見された場合、手術に耐えうる体力があるかどうかもよく考えてから検

査の是非を考えるべきだろう。換言すれば、たとえ進行した癌が発見されても、もはや手術に耐えられない全身状態であれば、そもそも検査を行う意義は少ないことを分かり易くご家族に説明しておく必要がある。そもそも何のための検査であるのか。癌が確定した後のことまで、充分にシュミレーションした上での内視鏡検査であるべき。さらに、検査後には、転倒・転落を起こす可能性も充分あり、看護師たちは目が離せない。忙しい医療現場では、このような患者さんを検査する際に他の患者へのケアがいき届かなくなるという悩みもある。

さらに、全身検索として通常行われるであろう、MRI、骨シンチ、PET-CTが可能であるかどうかまで想定してから、一次検査を行うべきであろう。既にサブイレウスに陥っている認知症患者さんに、もし大腸内視鏡検査の前処置として1800mlの下剤を飲ませたらどんなことになるのだろうか?このような検査に伴うリスクも充分に説明しなければならない。また心不全増悪のリスクも充分にイメージする必要がある。さらに心房細動に対するワーファリン投与中の患者さんでは、中止に伴う脳塞栓症発症のリスクも充分に考慮すべきである。


【治療方法選択における患者さんの人権】

 癌の3大治療である、手術、放射線治療、化学療法を行う際にも、認知症患者さんの特性・個別性に充分配慮するべきである。外科手術は、麻酔下で行えば可能であっても、術後管理まで想定するべきである。放射線治療は、周辺症状が強い患者さんには無理な場合が多いであろう。化学療法も、時間を拘束する治療は無理であろう。経口抗癌剤や、前立腺癌や乳癌などのホルモン依存性癌の場合は、ご家族と相談の上でケースバイケースであるが行われる場合が増えている。

 筆者は、中等度~高度認知症を有する前立腺癌に対するホルモン療法を、ご家族の希望でこれまで数例行った。また経口抗癌剤の投与も行ってきたが、経口投与の場合は服薬管理が重要となる。家族や介護者への詳細な説明が前提となるが、治療の中止時期についても予め説明しておくべきであろう。

 在宅で看取らせて頂いた認知症を持つがん患者の中には、亡くなる直前までご家族が抗癌剤を服用させている場合が数例あった。病院の主治医の「死ぬまでしっかり飲むように」との説明を、ご家族は「認知症があるがゆえに充分な癌治療が受けられない」と受け取り、「せめて抗癌剤だけでも主治医の指示どうり死ぬまで飲まそう」との思いでそうされていた。亡くなった後の患者さんの口の中に残っていた抗癌剤を見て、やるせない思いをしたことが何度かあった。化学療法本来の趣旨からいっても、また人権の観点からも、避けるべきことだろう。特に認知症を有する患者さんの場合は、抗癌剤開始時に中止時の目安もしっかり説明すべきである。在宅医療とがん拠点病医の密接な連携が謳われているが、緩和医療と並行して、化学療法の中止時期に関する情報も、ご家族や介護スタッフをも含めた「多職種連携」の中で、抗癌剤開始時から共有されるべきと考える。


【外来化学療法における注意点】

軽い認知症ならば、家族付き添いのもとで外来化学療法を行うケースも増えている。特に大腸癌の場合、2週間毎にFOLFOXやFOLFIRIに、分子標的治療薬を併用するケースが一般的になっている。特有の副作用が知られているが、認知症の患者さんは自ら腹痛などの症状を訴えないこともあり、気が付いた時には消化管穿孔を起こしていた、なんてことがあり得る。従って、通常より入念な状態観察が求められる。

また外来化学療法に通いながらも普段は、近所の診療所や在宅医や訪問看護さんに体力回復のために点滴を依頼する人も増えている。まるでリング(外来抗がん剤治療)の上で闘ったボクサー(患者)を、セコンド(在宅医療者)がマッサージ(在宅ケア)して、再びリングで闘うことができる状態にするかのように。そこに認知症が加わった場合、病院の専門医と地域のかかりつけ医・在宅医との連携がますます重要になってくる。

あと、病院ではTAE後の安静を守れるか?という問題もある。認知症が無い方でも術後せん妄が起きてセデーションが必要な場合がある。ならば認知症の方は、夜間せん妄などの周辺症状は必発と考え、ご家族の付き添いなどが必要となる。術後のケアを含めてご家族で対応できないようなら、検査や治療を諦めざるを得ない場合が増えるであろう。


【インフォームドコンセントと倫理的課題】

検査や治療に際して、充分なインフォームドコンセント(IC)を得ることは言うまでもない。認知症患者さんの場合はご家族からICを得ることになろうが、果たしてそれが本人の本意であるのだろうか?検査や手術を、本人は喜ぶのだろうか?認知症患者さんの場合、そのようなICを巡る根源的疑問や倫理的課題を充分に考慮すべきである。現実には本人の希望を充分に汲み取れない場合が多い。しかしならば、ご家族が患者さんの真の代弁者と言えるのだろうか?

その患者さんが生きてこられた歴史、性格、死生観などをご家族と膝を突き合わせて話し合うことが必要ではないだろうか。最近、高齢者の治療の是非を判断する指標として、「高齢者総合的機能評価(CGA:comprehensive geriatric assesment)」が導入、活用されている。その中には、すでに「認知機能」が重要な指標のひとつになっており、検査や治療の有力な指針になりつつある。認知症を持つがん患者の検査や治療には、ご家族と充分な話し合いが必要であり、EBM(evidence based medicine)以上に、NBM(narrative based medicine)が重視されるべきである、というのが筆者の見解である。一見面倒な作業に見えるが、医療において最も重要なプロセスであると認識し、労を惜しまないで欲しい。そうすることで、無駄、無益な医療が避けられ、真に患者さん本意の医療、そして納得医療へと繋がるであろう。

しかし、独居世帯が複数世帯を上回った現在、まったく身寄りの無い、あるいは身寄りがあっても寄りつかない「認知症を持つがん患者」が増加している。筆者自身もそうしたケースに遭遇する機会が急増している。その場合、成年後見人制度に裏打ちされたICになるであろう。いずれにせよ「無縁社会」や「おひとりさまの老後」の果てにある「おひとり死」を、医療者は直視し、慎重な対応が求められる時代になりつつある。


【結論】

超高齢化社会を目前に、認知症を持つがん患者さんが増加している。「認知症を持つがん患者への対応」について、病院、在宅、施設の垣根を払った上で上記のような議論を行い、価値観を共有する必要性が高まっている。そこではまずCGAを基盤とし、EBMよりむしろNBMを重視した医療が営まれるべきであろう。また、こうしたきめ細かい倫理的配慮が、納得医療、そして医療再生へと繋がるであろう。

 

最後に、そうした医療現場の目に見えない努力は、診療報酬で充分に担保されるべきであることを、この場をお借りして行政関係者各位に切にお願いしたい。

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この記事へのコメント

長尾先生の臨床経験の現場からのご意見に、共感しながら読ませていただきました。最後の「診療報酬で担保されるべき」とのご意見も仰る通りですね。
本人様の良い終末期の為には、患部だけを見ないその方の人生ストーリーを大事にしたNBMを重視しようということは、セミナーでもしばしば聞く言葉です。でもそのためにはゆったりした時間が必要ですものね。報酬で担保されるのが当然。医療費の軽減からまわせば良いことです。
ただ成年後見制度は、契約や財産管理関係には有効でも、手術や医療の同意は含まれていない筈。

希望は、今の高齢者は戦前の教育・民法で育った方達ですが、これからの高齢者(私達)はもっと自覚的であるということ。ITという素晴らしい技術のおかげで、正しい読み方を習得すれば世界が広くなり、より自己実現ができる方法を知り得ます。
長尾先生のブログも大貢献! 今後も現場からのリアルな発信を待っています。

Posted by 梨木 at 2012年01月22日 08:03 | 返信

認知症の患者さんに抗がん剤治療をどうするか。
色々考えされられます。
施設等に入所している方の場合でも、ご家族の希望で化学療法が開始になりますが、入院中にご家族の協力を得にくく、そもそも、離れて暮らしているので、入院しているわが夫やわが親が何を表現したいのか、ご家族であっても分からない。
はじめから治癒が困難であることは分かっている治療。あくまで延命目的。
何のために、誰のために治療をして、辛い副作用に耐えるのか。
医師とはなかなか話し合いの場さえもてず。
「家族が希望するから(化学療法をする)」
化学療法の有害事象出現においては、ある一定のグレードをクリアしていれば治療を続けます。でも、それって、100人が100人ともに当てはまるのでしょうか。
データだけで処理していいのでしょか
「(多忙なため)効率的にしているのだ」と医師は言われますが・・・
治療が済めば施設へ戻るか、元の施設へ戻るのが困難なら別な病院へ転院。
ここは抗がん剤治療の結果を収集する場所なのか?
人ではなく、がんの治療効果をみているのか?
いつも悩みながら看護をする日々です
毎日の積み重ね、それがいつか流れを変えるのでは、そう思うのです。
いえ、そう思いたい

Posted by はる at 2012年01月22日 10:49 | 返信

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