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歪む医療(その1)

2012年01月21日(土)

医療介護の診療報酬の同時改定が近ずいてきた。
これまでまったくピントのずれた政策・規則に何度も苦言を呈してきた。
以下、坂根みち子先生の文章を、MRICから転載させていただく。
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「歪む医療」-医療の現場から-(その12

 

つくば市 坂根Mクリニック 

坂根みち子

 

2012120日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

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2年に1度の診療報酬改定作業の大枠が決まった。医療界は2年に一度、必ず財務省側からの診療報酬減額のプレッシャーにさらされる。今回も同じことが繰り返され、社会保障費における医療費の比率を見直すような抜本的な議論はされずに少額の予算配分の付け替えで終わってしまった。

 

近年、医療はコストではなく成長産業だと言われ、医療関連ビジネスは大きく発達した。各企業が次々参入し、IT化が進み、高額医療機器が続々と発売されている。営利企業は当然のことながら、医療分野での社会貢献を目的に参入してくるわけではない。高く売って利益を出さなくてはいけない。ところが医療の現場では公定価格に縛られ、どんなサービスをしてもどれだけ良い機器で検査をしても価格に反映されない。

 

たとえば、心エコーは18800円かかるが、エコーの機器は200万から4000万程度まで価格差がある。アメリカでは当然病院によってエコー検査の価格が違う。また、エコー技術も初心者とベテランでは当て方から読み取り方まで大きな差が出る。日本では全く考慮されない。エコーを専門とするものならなるべく良い機器で検査をしたい、従って高い機器を購入することになる。企業側からしても売れるのは高ければ高いほどいい。ところがこのコストを医療機関では一切値段に反映することができない。消費税さえも受け取れない。

CT検査も内視鏡検査もMRI検査もすべて同じ構造である。診療報酬はずっと据え置かれたままなのに、医療機器はとても進歩し価格も上がっている。

 

原価計算は全く考慮されていない。するとどうなるか。同じ医療行為をしても利益が出るようになるまで今までより時間がかかる。クリニックではある一定の数をこなさないとリース代も払えないので、ある程度の検査をせざるを得ない。ここに患者さんにとって無駄な検査をする余地が生まれる。また企業側からすると競争が激しい分野、たとえば、CTMRIではダンピング合戦が始まり、業者は損益分岐点ぎりぎりで売るということが頻発する。従って一旦売った後はどこかで元を取ろうとする。日本にあるCTMRI機器の数は世界一である。患者さんの医療被曝も世界一である。病院経営的に言えば撮影さえすれば検査代は取れる。放射線科医は少ないので、きちんと読影されているとは限らない。患者ごとに情報管理する制度になっていないので、目的や医療機関ごとに頻回に検査することになる。とりあえずの利便性と企業の論理を優先して、本当に患者さんのことは考えていない。医療費も無駄に使われている。安いようで高くつく。

 

IT化の名のもとに、電子カルテが導入され画像もフィルムレスになっている。一度ある企業のものを導入すると途中で変えることは難しい。クリニックレベルでは電子カルテの導入費用に400万円前後かかり、災害に強いクラウド型だと、月々のランニングコストが最低12,3万円。レセプト数が増えてくれば支払いも増える契約である。画像の読み取り装置(CR)も導入に200-400万円、たったの1年で保証期間が切れ、その後は月2-4万のメインテナンス費用が請求される。採血検査についても、その日のうちに結果を知りたい患者さんのニーズに合わせて院内検査を導入すると医療機器に300-400万円かかる。院内検査は試薬代が非常に高く外注検査に出す場合と比較して検査費用は3倍ほどかかる。新規開業ではこれだけ余分にお金がかかるようになっているが、公定価格のもと価格転嫁する術もない開業医は全くお手上げ状態である。

 

医療は宣伝ができない、儲けてもいけない、患者さんから受け取る金額は決められている、箸の上げ下ろしまで厚労省から指図される。反面、その公定価格は原価計算したものではない、国がなんとなく決められてきたものである。ある分野に競争相手が少なければ、医療機器の売値はその企業の独壇場である。オリンパスがいい例だ。内視鏡業界で圧倒的なシェアを誇り値引きはしない(らしい)。一度売れば消耗品からメインテナンス代まで努力せずとも売れ続ける。医療機関の赤字は関係ない。オリンパスでは内視鏡部門での黒字を他部門の赤字に回していた。高く売られたしわ寄せは医療機関が一方的に負う。

 

実際の例を挙げる。今あるX線装置とCRで骨塩定量測定できますとCR導入企業から宣伝された。それならと会って話を聞いてみた。導入のスタートキットに2万円だった。ところが、メインテナンス契約に最低月8000円、さらに検査するたびに800円をその企業に払えという。患者さんから受け取れる代金は1検査1400円のものである。これでは月14人検査してもプラスマイナス0。必要のない検査を無理やりすることはできない。どうしてこんなひどい提案をするのかと問うと、おっしゃる通りです、すみませんと言って帰って行った。

 

ペースメーカーは機械本体の値段が100万円前後する。年月が経つと電池切れとなり機械本体を交換しなくてならない。この交換手術には、医師2人とナース、放射線技師、生理機能検査技師が立ち会い2時間ほどかかる。もちろんペースメーカー会社のスタッフも来て、術中術後のペースメーカーチェックをする。病院のスタッフだけでも5人前後必要とする。最初のペースメーカー植込みの技術料こそ78200円だが、交換術は36100円という安さで(ついこの間までは20000円台だった。あまりにも安すぎるということで、珍しく学会が動いて署名活動をして値上げされたという経緯がある)赤字必須の手技である。原価計算も何もない。ペースメーカー本体の値段が高いので、技術料は払えないと言っているとしか思えない。

 

循環器の分野では心臓カテーテルについても同様の構造がある。日本の循環器内科医は優秀である。急性心筋梗塞がくると、夜中だろうがなんだろうがさっと集まり匠の技で詰まった血管を通していく。ところが原材料費が異常に高くカテーテル代とステント代で200万円程度かかることもざらである。夜間に何人も集まって生命を救ったことに対する技術料(手術料)はたったの22万円程度のもので、これとて医師がもらえるわけではない。1回呼ばれると5000円程度の報酬であるところはざらである。

 

医療側としては、これだけ使っているのだから市場原理にのっとって安く輸入して、きちんと技術料を払ってほしいが、厚労省はこの部分でタフに交渉をしてくれる気はないらしい。高いデバイスを使わせて、人件費を抑えて帳尻を合わせている。高額な医療費はほとんど病院を素通りして企業に流れていく。医師には働いた分の報酬さえきちんと支払われていない。原価計算をしていない保険点数を責めるべきか、営利企業を責めるべきか。いずれにせよこれを世に問う術がない。

医療は公定価格と営利目的の企業の論理の狭間に落ちたままの業界である。

 

医療社会主義体制の日本では医師にはなんの決定権もない。訴えるルートもない。日本医師会には弁護士会のように自律的に処分する権限もなく、医師は報酬から医師免許にいたるまですべて厚労省に殺生権を握られている。反対に行政の不作為や失政があってもフィードバック機能もなく、新型インフルエンザ騒動のように現場を大混乱させてもだれも責任は取らない。2年毎に不安定な医療政策に振り回されて、病院がつぶれようとも、クリニックが倒産しようとも、官僚は責任の一端も感じないシステムである。そもそもグリーンピアやいい加減な年金管理で社会保障費を無駄に食いつぶしてきた責任はだれか取ったのか。そんなことはすっかり忘れて机上の計算をして、自分たちの計算に合わせて私たちが右往左往しているのを楽しんでいる。

こうやって医療は歪んでいく。

 

(その22に続く)

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