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町医者と生活保護問題

2012年02月03日(金)

いわゆる生活保護問題、貧困ビジネスは、社会保障の大きな闇とも言える。
生活保護費の半分は、医療費であるので、町医者と大いに関係する問題だ。
日本医事新報1月26日号に掲載された文章から、転載させて頂く。
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町医者で行こう!  「町医者と生活保護問題」   長尾和宏

 

生活保護費が3兆円を突破!

生活保護(生保)受給者が全国で200万人を超えた。生活保護費も3兆円を突破し増加の一途だ。医療給付の支出総額は、生活保護費全体の47.5%、14515億円であった(2009年)。先日の橋下徹・大阪市長の「保護費の半分はどうせ医者に行く」との発言は、あながち間違いではない。生保受給者の医療費は全額が公費負担である。医療扶助は憲法第25条に基づいた生活、住宅、教育など8種類の扶助の一つだ。国が4分の3を、残りを市町村が負担する。外来患者は128万人と10年前の2倍に増加。受給者1人当たりの年間医療費は815千円。1日平均では約7500円で、受給者1人あたりの通院医療費は高齢者を含む一般患者の1.3倍である。生保受給者の頻回受診が問題になっている。最近の厚労省の調査によると2割が剰受診とみなされた。在宅医療に関するデータは知らないが自分自身の経験ではこの数年、生保の在宅患者さんが急増している。マスコミでは連日、消費税増税の議論がなされている。社会保障政策の継続には消費税財源が必要だと政府は主張している。我々医療者は、まず生保に関するこれらの数字、現実を直視することからはじめたい。

 

生保の半分を占める医療費増大の要因

 なぜここまで生保医療費が増大したのであろうか。私は患者、医療者、制度の3者にそれぞれの原因があると考える。患者側の要因として、有病率、重症率が高いため、どうしても頻回受診、多重受診が増える。従って医療費がかかるひとが増えるのは仕方がない部分もある。一方、窓口負担がゼロのため、軽い風邪や腰痛などの軽症であっても、安易に頻回受診、多重受診に走る傾向の方もいる。また、大変残念なことだが医療者側にも原因がある。いわゆる「貧困ビジネス」に手を貸す医療者が極く一部であるが存在する。患者負担がゼロであることは、自然な医療需要以上の過剰医療に陥り易い。さらに、窓口負担ゼロを継続している行政にも責任の一端があるのではないか。かつての老人医療費無料化政策は、現在にも禍根を残している。生保制度も同じ轍を踏まぬよう速やかな方向転換を望む。生保受給者の医療費増大への取り組みは、患者さんのモラルハザード、医療機関のモラルハザード、そして行政の知恵と勇気、という3方向から対策を練る必要がある。

 

生保問題にメスが入り始めた

大阪市は全国最多の14万人もの生保受給者を抱えている。生活保護費は、2975億円(歳出の17%)にも及ぶ。大阪府選出の参議院議員・梅村聡氏は昨年から生保問題に取り組まれている。大阪市では生保患者のレセプト点検が強化されているが、当然のことだろう。その後、大阪市長に就任された橋下徹氏も生保問題に取り組み始めた。大阪の生保問題は、全国の生保問題のさきがけとなる。これらの勇気ある政治家の活動を支援するとともに、我々医師は生保行政の知恵袋になるべきであろう。話はそれるが、東北の被災地では震災後に生活保護になった方は決して多くないと聞いた。福島県相馬市ではたった一人しかいない、とこの正月に立谷秀清・相馬市長に伺い驚いた。東北の方は本当に我慢強い。我慢強すぎて、むしろうつや自殺が心配になったが、大阪では考えられない数字だ。最後のセイフテイーネットといわれる生保制度だが、今後、いわゆる年金問題、ワーキングプア問題の解決策として期待されている「ベーシックインカム」構想を含めた議論への修正を期待したい。受給資格のための資産調査の支障になっているが個人情報保護法だ。この見直しも必至だろう。不況の影響で、病気があっても受診を控える人が増えているなか、生保受給者の頻回受診は増加の一途だ。この「逆格差」は社会保障制度の根幹に関わる重要課題だと思う。

 

医師のモラルハザードの試金石

生保患者さんの頻回通院は、窓口負担がゼロであることが大きい。もし街中の食堂が全部無料で、どの店に入っても食べ放題であったらどうだろうか。生保患者さんにコスト意識を持って頂くためにも、多少の窓口負担は必要ではないか。あるいは1割負担など一般の患者さんと同様に定率負担とし、自己負担限度額を定めて後で償還するというシステムも考えるべきではないか。この不景気の中、真面目に働き保険料を納め、かつ窓口で3割負担している方とあまりに公平性を欠く現状に大きな疑問を感じる。

診療所経営者にとって生保問題は、もはや看過できない課題だ。生保受給者の中には、残念ながら若年者かついわゆる「働けるけれど働かない」方も含まれているのが現実だ。政治・行政にも当然頑張って頂かなければ我々医療者は、彼らを支援するのは当然だが、患者さんによってはエネイブラーとならぬよう気をつける必要がある。毎日、多くの生保受給者を診ている町医者として、医師のモラルハザードの試金石にも感じる。現在、大阪では生活保護の方の医療機関を指定しようという動きがある。生保の方の就労支援を強化するなら、生保受給者の診療にもある程度の、「社会的専門性」が求められる時代なのかもしれない。

 

町医者こそ就労支援に協力すべき

公共工事は35兆円(1995年)が、17兆円に半減した。一方、生活保護者は88万人(1995年)が、200万人に増加した。全就労者の3%に相当する。一方、昨年末の介護職の有効求人倍率は、1.53倍。仕事はあるのだ!高齢者でも、障害者でもない「就労可能な生活保護受給世帯」が、保護世帯全体の16%(22万世帯)もあるそうだ。また全国の75万世帯の母子家庭のうち、10万世帯が生活保護を受けている。働けるけどなかなか仕事に就かない現実に政治はどう対峙しようとしているのだろうか。 しかし一昨年、就労支援に成功した人は埼玉県では83人、大阪市では27人しかいない。大変厳しい数字だ。いかに就労支援が難しい作業かが分かる。しかしこれに取り組まないと、日本の社会保障の将来は無い。当院では地域の医療・介護職が集まり、生保行政の担当者を招いて勉強会を開催したり、日々の診療の中でも就労支援に積極的に関わっている。町医者こそ、就労支援に協力しやすい立場にいると思う。

 


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