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産経新聞は「在宅療養シリーズ」へ

2012年07月10日(火)

産経新聞兵庫版の毎週土曜日に書いてきた「平穏死シリーズ」は、先週から
「在宅療養シリーズ」に移行、7月7日掲載の第1回分から転載させていただく。
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「在宅療養シリーズ1」 素朴な疑問に答えます
            医療・看護の原点回帰
  長尾和宏

 さて今日からは「在宅療養シリーズ」で書きます。最近「病院はまだ病気が治っていないのに患者をすぐに追い出す」とか「希望もしていないのに在宅療養を勧められた」とか「在宅を勧める変な医者がいる(私?)」といった声をよく聞きます。そうした「今さら聞けない在宅療養に関する素朴な疑問」にできるだけ分かり易く応えてみたいと思います。

 
 最近の病院が患者さんを早く追い出すのにはいくつかの理由があります。「平均在院日数」という指標で診療報酬(病院が受け取る報酬)が変わる制度だからです。昔の病院は、長く患者さんを置いていても診療報酬は一定でした。しかし現在は、長く置いておくと診療報酬が減ります。同じ患者さんを1ケ月以上入院させていると一般の病院は確実に減収になります。従って、入院が2~3週間を過ぎると病院経営陣から早く退院させるように無言の圧力がかかります。病院も「経営」しないと生き残れない制度に操られているのです。

 
 次の行き先はどこでしょうか?亜急性期病院やリハビリ病院?あるいは、介護三施設と呼ばれる「特養」「老健」「療養病床」がありますが、超高齢社会の受け皿としては貧弱です。そこで「じゃあ在宅療養はどうですか?」となります。医療・介護費の財源問題に喘ぐ国から見れば、在宅療養の医療費が安くつく場合が大半なので大歓迎です。ただし最近は、診療報酬制度が変わり、在宅療養のほうが医療・介護費が高くなる場合もあります。

 
 一方、私は「自宅という場」の素晴らしさを再認識させられる経験を沢山しました。自宅に戻っただけで病状が改善した人、痛みが軽減した人、食べられるようになった人、認知機能が改善した人、うつが治り元気になった人などを見てきました。病院という場では「病人さん」ですが、家に帰った途端に「生活者」に戻ります。「生活の場に戻す」だけで元気になるのならば、こんないいものはありません。町医者の立場からは自信を持って「在宅」を勧めることができます。数年前から「はじめての在宅医療」という小冊子を全国に配って在宅療養の啓発をしてきました。この冊子に込めた想いは今も変わりません。しかし「自宅は最高の特別室」とか「自宅という緩和医療」と言ったところで、残念ながらまだまだ病院のスタッフには理解して頂けません。しかし最近の研修医は、地域実習という枠で私のような街中の開業医で実習する制度になりました。今週も歳がちょうど半分の息子のような研修医を連れて在宅患者さんを回っていました。若い医師に在宅現場をしっかり見せることが、町医者の責務だと思います。若い医者は、在宅患者さんから学ぶことが山のようにあります。患者さんが発する言葉にしっかり耳を傾けることを指導しています。


 また看護の原点とは、実は訪問看護なのです。おそらく医療の原点も往診でしょう。在宅医療って決して新しいものではありません。医療・看護の原点に回帰しているだけです。先月、イタリアでのフィレンツエという街で「ルネッサンス」の原点に触れてきました。ルネッサンスとは人間復興。あの有名な裸のダビデ像には、ありのままの人間が描かれています。それを見て「今こそ医療にもルネッサンスが必要だ」と強く思いました。(次回は在宅医療の医療費です)

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