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嘘をつかない医療
2012年10月30日(火)
しかし医者も患者も嘘をつかないことは難しい。
10月28日の産経新聞の連載から、転載させていただく。
医者の本音シリーズ7話 医者の嘘、患者の嘘
失敗した時、正直に謝れるか
医療不信とか、医者不信という言葉をよく耳にします。あるいは医者に酷いことを言われて傷ついたとか、ドクターハラスメントという言葉さえも使われます。最近、「患者目線の医療」と謳われてはいますが、長い間、医療は上から目線だったことは否めません。専門家が、何も知らない病人に施してあげる、といった感じでしょうか。それをパターナリズムといいます。一方、インフォームド・コンセント(IC)という言葉は一般的になりました。説明と同意です。検査や手術や投薬をする際に充分に説明してから患者さんの同意を得て行うことです。しかし「まあ、ぜんぶ先生にお任せするわ。先生がええと思うようにして!」と言われることがあります。一生懸命に説明してICを得ようとしても、「お任せね!」と言われると複雑な気分になります。「それだけ信頼してもらっているのか」と思う一方、「本当に私が決めちゃっていいの?」なんて気になります。
一方、善意で使った言葉が違う意味で取られることが時にあります。がんで闘病中のひとに「まだ3ケ月は大丈夫よ」と励ましたつもりでも、「あと3ケ月しかない。医者に見捨てられた」と悲観的に取られる方もおられます。後で知って、愕然とします。言葉というものは受け取る人によってずいぶん違うものだ、と驚かされる毎日です。
医者も人間ですから失敗をします。失敗したことの無い臨床医なんてこの世に絶対にいません。私自身も、寝るときに「今日も多くの失敗をしたのではないか」と診察した患者さんの顔が出てくることがよくあります。以前、大学病院で心臓病の患者さんと肺の病気の患者さんをそれぞれ間違って手術したという事件がありました。そんな馬鹿な!?と思われるでしょうが、重大事故はたいてい単純な間違いによるのです。そんな事故があって以来、医療の世界では「医療安全」という言葉が強く意識されるようになりました。そんな医療ミスは大学病院だから起こるミスでしょうか?いや診療所でも起こっています。
正直に告白すれば私自身もよく間違いをしています。これまでやってしまった大きな失敗のひとつとして、インターフェロン注射を間違って違う患者さんに打ったことがあります。その患者さんの名前を呼んだときに別の患者さんが聞き違えて入って来られたのです。すぐに間違いに気がついて、患者さんに正直に謝りました。間違えた直後は、頭が真っ白になり、一瞬「訴訟」や「補償」という文字が頭に浮かびました。しかしその患者さんにはその場で赦して頂きました。幸いその夜、微熱が出ただけで大事に至らず助かりました。
新葛飾病院の清水陽一先生(故人)は、「嘘をつかない医療」を提唱されました。これは実は患者さんにも言えると思います。お薬を紛失したはずなのに、「犬が食べてしまった」などと言われると、こちらもどう対処していいか分からなくなります。また、内緒で同じ診療科目を二股かけて、同じお薬が重なったこともありました。嘘をついておられたのです。医療は「信頼」を前提として成り立つものです。どちらかが嘘をつくと、成り立たないどころか、トラブルの種になります。医者も患者も嘘をつかないことが、医療において一番大切なことだと思います。まあ言うは安易し、行うは難しですが。
キーワード インフォームド・コンセント(IC)
医療行為や臨床治験などに際し、起こり得る副作用までも含み患者が納得するまで充分に説明を聞いたうえで、自由意思で同意をすること。その結果、治療を拒否することもICの概念に含まれる。
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この記事へのコメント
お互いに嘘をつかない…おっしゃる通りですね!
幸い今迄医師から嘘をつかれたと思ったことは無いですが
単に気がついて居ないだけかも。
医師もホワイト ライなら許される場合もある?
薬を転売する意図で嘘をつく患者も中にはいるかもしれませんが
たいていの患者の嘘は、担当医に悪く思われたくないという気持ち
からではないでしょうか? 信頼関係がまだ発展途上のケース。
あと不摂生を怒られたら怖いとか。これは自分の首を絞めますね。
高校生の授業で、健康管理や薬の飲み合わせのリスクなどしっかり
教育してあげて下さいね。
それからアピタルの認知症学会の手品のお話、楽しかったです。
手品には一応じっと目を凝らしているのですが欺かれます。不思議です。
そのからくりをお知りになったのなら、上手にお使いになれるかも。
子供達が幼い時、「あっ、飛行機かな」とか言って
子供がそちらに気を取られている間に
お口におかずをパッと神業の速さで入れていました。ウソでしたけどね~。
Posted by 梨木 at 2012年10月30日 05:34 | 返信
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