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二極化する在宅医

2012年10月31日(水)

日本医事新報の10月の連載は、「二極化する在宅医と在宅患者紹介ビジネス」で書いた。
極々一部の在宅医と悪徳企業の仕業ではあるが、本当のことなので書いてみた。
市民の方にはくれぐれも誤解なきように。95%は、善良で優秀で心優しい在宅医です!
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町医者で行こう10月号  二極化する在宅医と患者紹介ビジネス 
             長尾和宏

 http://www.nagaoclinic.or.jp/picture_library/media/nihniji121027.pdf

患者紹介ビジネスの実態

「患者紹介ビジネス」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。いまや大学病院の地域連携室に在宅患者斡旋業者が出入りする時代になりました。業者が紹介するのは在宅や施設入所の患者さん。この夏、当院にも本当に在宅専門クリニックが運営する患者紹介会社の営業マンがやってきた。「在宅患者さんを紹介しますので、登録しませんか」と。そこには過去に患者を斡旋した実績がある開業医のリストが並んでいた。これは明らかに違法である。しかし訪問歯科診療の分野ではもはや常態化しているという。コンサルタント料は診療報酬の2割だそうだ。すなわち1人の在宅患者さんの1ケ月の診療報酬が5万円だった場合、毎月、その会社に1万円を上納する仕組みだ。2割という数字は、人材派遣業での数字を患者紹介業にも適応するとの理屈だった。「完全成功報酬制」と書いてあった。彼らは何度もこれを強調したが、最大の謳い文句のようだ。


 在宅医療元年、地域包括ケアと厚労省も医師会も旗を振っている時に、水を差すような話で恐縮だ。しかしとても看過できない現実だと思うので、敢えて問題提起させていただく。もちろん大部分の在宅医は真っ当であり、このような例は都市部の極く一部のみであろう。しかしその病理は意外に根深いと考え指摘をさせて頂く。厚労省は、国土交通省と協働して、サービス付き高齢者向け賃貸住宅(サ高住)を推進している。「第二の終の我が家」とも言われている。しかし現在、サ高住の「在宅利権」を巡って各地で熾烈な縄張り争いが繰り広げられている。幸か不幸か私自身、サ高住の在宅を経験したことがまだない。


仕入れは街のケアマネから
 在宅患者さんの仕入れは、ケアマネさんがメインである。主治医を見つけたいケアマネさんといかに仲良くなるかが営業マンの腕のみせどころだ。営業マンは、不動産業者や建設業者から新設の情報を入手するが、高専賃は人気が高く、取り合いだそうだ。ケアマネに見返りの報酬はないしそれを要求することもない。ケアマネは在宅医の情報リストが無いので、純粋に喜ばれるとのこと。ケアマネや病院が、情報交換会という名の在宅医と患者のカップリングパーテイを定期的に主催している。 蛇足だが、鍼灸院への往診が、流行っているとも聞いた。鍼灸院の保険診療は、医師の同意書が必要だ。同意書を書く見返りに、鍼灸院に5人の患者さんを集めて開業医をそこに「往診」させるシステムを作るそうだ。開業医は往診で算定し、そう患者さんにも説明するとのこと。その場合も、診療報酬の2割を手数料として徴収するとのこと。どこまでいっても「2割」という数字が登場する。患者さんの「求め」があって出向くのならば往診先が鍼灸院であっても違法ではない、と営業マンは胸を張った。鍼灸院と在宅医が、ギブアンドテイクの関係になっている。接骨院は同意書が要らないので、そのようなビジネスモデルは成立しないそうだ。その斡旋会社のオーナーは医者ではない。若きオーナーの下に10数人の営業マンがいる。


機能強化型が二極化を後押し?

 在宅医は二極化していると感じる。二極とは、「在宅専門クリニック」か「午後から在宅組」か、という意味ではない。一馬力か複数医師かでもない。前述の営利ビジネスとの距離感である。介護保険制度は、営利企業の参入を認めている。一方医療の世界では、固く禁じられている混合診療が、介護の世界では「混合介護」がむしろ推奨されているような印象すらある。その営利と非営利が、協働すべき場が、「在宅」とう場所である。しかし非営利が営利に引っ張られる、大きく左右されるという構図は、病院の先生方には想像しにくい世界かもしれない。またこうして書くことで「在宅=怪しい医療」という誤解や偏見が増幅するという懸念もある。しかしそれを承知の上で書いている。むしろそうした偏見を払拭したいという想いで問題提起している。

 
 本年4月から機能強化型・在宅療養支援診療所制度が新設された。従来型・在宅療養支援診療所とそれ以外の3類型がカテゴライズされることになった。しかし患者さんから見れば、在宅医療費が明らかに一物三価となっている。その差を一体どうやって説明すればいいのだろうか。単独型の機能強化型は僅かで、連携型が大半だ。3つ以上の診療所か在宅療養支援病院が連携することになっている。新制度が始まって半年が経過した現在、聞き漏れて来るのは、連携という名のグループ化だ。似たような形態の診療所がグループを組むことが多いようだ。すなわち前述した営利企業との距離感が似ている診療所同志の連携が進み、むしろ本制度の狙いとは違う方向に進んでいるような気がしてならない。むしろ連携を強化すべきは、多職種であり医介連携ではなか。

 

結局はモラルハザード

 生活保護の不正受給に立法、行政の両面から厳しいメスが入りはじめた。当然であろう。働けそうな人への就労支援も強化されている。しかし現実には就労実績は困難を極めているようだ。生活保護依存症に陥っているひともいるようだ。アルコール依存症、ニコチン依存症同様、依存症からの脱却は容易ではない。それぞれの支援プログラムが必要だ。介護保険に営利企業が参入して12年。非営利の医療保険が、市場原理主義に引っ張られつつあるように感じる。在宅療養を支えるのは本来の在宅マインドを大切にする在宅医療者、介護者の集まり出会って欲しい。


 世界最高である国民皆保険制度という国益を損なう可能性があるのは、なにもTPPだけではない。介護保険という国内法の中にも、皆保険制度を破壊する芽が存在していることを知っておくべきだろう。その芽が、在宅医療の現場で発芽しつつあることを敢えて現場レポートした。こうした芽を摘む手だてを考えた場合、現行法のなかでは「モラルハザード」という問題に突き当たるの。これは医療者も介護者も、そして市民にも言える言葉である。医療者がいくらこのような理屈を並べても何も変わらない。いかにして患者さんに正しく理解してもらい、声をあげてもらうのか、知恵を絞るのが我々の立場であろう。

 

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この記事へのコメント

利用者さんおもいの優秀なケアマネさん(複数)が、「高専賃の仕事はやりたくない」と
自分のブログで書いています。
具体的な中身がわからなかったのですが、このような裏の構図があるとすれば、
良心に逆らって仕事をした経験からの言葉でしょうか。


生保ビジネス同様、我々がおさめた保険料を食い物にしているということで、
タコが自分の足を食べているのと同じことですね。
こんなことを許していたら、いずれ保険制度が自壊するのは目に見えています。


先生が書かれているように、世界に誇る国民皆保険制度。
これがなくなったら、救急車に一回乗るのに9万円自費で払ったり、治療も払えるお金によって
松竹梅とコースに分かれたり、生死まで貧富の格差で決まってしまいそうです。


性善説を前提にした制度の限界を感じます。
生活保護問題同様もっと目を向けないといけない大変な問題だと思いました。

Posted by 花へんろ at 2012年11月01日 03:57 | 返信

ため息が出ます。国民健康保険も、生活保護制度も、社会福祉政策として、戦後の官僚が作った制度のように、NHKで放映していました。
確かに、私達はその恩恵に随分浴していますが、何か、悪賢い人がいて、悪用するのですね。
介護保険も、独居老人や、家庭内の老人虐待の問題を解決する為に発足したのですけど、利益追求の会社が大々的に組織されるとはびっくりです。
鍼灸問題も、身内に、同意書を書いてくれる医者が要る鍼灸師と居ない鍼灸師では天国と地獄です。或る県では、お兄さんがやり手の整形外科医なので、無能な弟が会長になったそうです。
塩野七海さんのローマ人の物語によると、ローマ帝国にしても、あらゆる国家は内部から滅ぶのだそうです。

Posted by 大谷佳子 at 2012年11月02日 12:34 | 返信

ため息しか出ません。本当に由々しき事態です。
背景には、先生の仰るとおり、かなり根深い病理があると思います。

個人的には医師側の要因として、自由標榜制があると考えます。
まっとうな在宅医療を知らず、接する機会もない、入院・外来しか知らない医師が、
ニーズの拾い方も応え方もしらないまま、外来の延長で
聴診器を当てて処方箋を書くことが往診だと認識して、開業してしまう。
そこには心臓外科や脳外科医、循環器内科医など、
癌や慢性疾患をろくに見たこと無い医師がなぜか多く集う…。
ニーズに答えられないから思ったほど集患出来ず、結果、悪徳業者の付け入る隙を与えてしまう。
短絡的な妄想でしょうか?

しかし、こんなスタイルが過半数になれば、いつか標準型となり、
最期は厚労省の締め付けが来て、耐性のないまっとうな在宅医から潰されていく、
当に悪貨が良貨を駆逐する事態になるのではと憂いています。

私の同僚にはプライマリ・ケアをまっとうにやりたい、
そういう思いで、臓器専門医の高給を投げうって薄給で数年のプライマリ・ケア研修に
参加している人たちがたくさん居ます。
こんな真面目な医師たちが馬鹿を見なくて済む、
ひいては患者さんがどの地域に住んでいても素晴らしい在宅医療を受けられる、
そんな世の中になって欲しいと切に願います。

Posted by とある家庭医療専門医 at 2012年11月08日 11:31 | 返信

在宅患者紹介ビジネスは、医師側から見た言い方。

患者側から見れば、在宅医紹介ビジネス。

紹介されなければ、在宅医が見つからない。

ここに「スキマ」があり、ビジネスの成り立つ元があります。

医師の情報開示が制限されているから。

医療と介護。

後ろめたい世界になりがちです。

Posted by まろたん at 2013年02月22日 08:00 | 返信

物が売りにくい時代、情報提供ビジネスが繁盛するのは世の仕組みで、これをとどめることはできないと思います。問題は現状の変化に法整備が追いつかない現状にあるのではないですか。でもそれより重要なのは、紹介された医師が優秀・有能であれば問題はないと思います。
今の日本の医療に欠落しているのは、この作業が手薄になっていることだと思います。わたくしは八王子市在住ですが、とにかく誤診が多く、家族ともども三度経験しており、優秀な医師を探すのに腐心している状況です。
 たとえば母が吐き気がおさまらないのでレントゲンをとったところ、院長に石が三か所ある胆石と診断され、それを溶かす薬を処方されましたが、ひどい下痢のため別の病院にいき、レントゲン写真をみせたところ便がつまっているだけという呆れ果てる診断を受けました。また顔面のヘルペスをかぶれと判断され、手遅れになりかけました。
 正直、在宅紹介ビジネスの暗躍を指弾するより、優秀な安心できる医師を紹介してくれる機関の敷設が国民にとって必須だと思います。医師の技量についての判定制度があれば、紹介ビジネスはむしろ歓迎されるべきでしょう。医師の倫理観が金銭によって損なわれるのを心配するよりも、優先すべきは、多くの国民がいかに適切な医療行為を受けられるかだと思います。何より必要なのは医師の質の向上です。
 医師免許試験のあり様、および医学部ではどういう授業を行っているのか怒りを覚えます。テレビで病名をあてるクイズ式の番組がありますが、ああした授業を多く行えば、誤診はもっと少なくなると思います。

Posted by 現行の医療行為自体に不満をもつ女性 at 2013年08月25日 07:25 | 返信

お医者さんにならなくて、良かった。
私も、ヘルペスは早く見つけなくちゃいけないと、思っていましたのに、母の顔の右の眉間から、鼻の上部のかけて、ブツブツが出来た時は、一日置いて、「あ!へるぺすや!」と気がついて、皮膚科のお医者さんに「ヘルペスではないでしょうか?」と言って受診したので、直ぐ抗ヘルペス剤を出してくれたのは、良かったのですが、82歳を過ぎた、虚弱体質の母は大量の抗ヘルペス剤で布団から起き上がれなくなって、内科のお医者さんに、毎日点滴に、来ていただいて、命を取り留めました。
あとで、NHKの今日の健康を読むと、「80歳を過ぎた老人は若いと、同じ量の抗ヘルペス剤を服用するのは危険」と書いてあったので、驚きました。
私も患者の立場でNHKの今日の健康は読んでいるつもりなんですが、あとから気がつくなんとやらです。

Posted by のんべえ at 2013年08月25日 05:01 | 返信

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