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安房医師会

2012年10月31日(水)

2週間前、日本を代表する病院である亀田総合病院・副院長の小松秀樹先生の
息子さんと御一緒する機会があった。理事長も一緒だったが。
その小松秀樹先生がされている無料低額診療への安房医師会の対応を考えたい。
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千葉といえば、医聖・関寛斎が生まれ、活躍した地。
彼がこの話を聞いたら泣くだろうな。

以下、MRICから転載させていただく。

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だいじょうぶか安房医師会:無料低額診療に反対する理由がひどい
 (その12

 

亀田総合病院副院長 

社会福祉法人太陽会顧問 

小松 秀樹

 

20121031日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

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●原徹文書

2012109日、安房医師会理事会(会長、副会長以外に6名の理事が出席)において、原徹安房医師会副会長が「安房地域医療センター 無料低額診療施設としての位置付けに関して」と題する文書を配布した。原徹医師は、千葉県医師会副会長であり、日本医師会代議員でもある。医師会活動に長年取り組み、医師会内で地位を獲得してきた。理事会では、間宮聰会長と3名の理事が、原徹文書の論理に沿って、安房地域医療センターで計画されている無料低額診療に対する反対意見を述べた。

文書には署名が入っていなかった。私の問い合わせに対し、原副会長は、自分が健康福祉指導課に懸念を伝え、文書を書いたと答えた。文書中には、「安房医師会としての下記懸念がある事を(千葉県庁健康福祉部・健康福祉指導課に)お伝えした」とあり、懸念の主体が安房医師会であることが示されている。

 

安房地域医療センター 無料低額診療施設としての位置付けに関して

安房地域医療センターが無料低額診療を開始するとの情報を得た為、103日所管となる千葉県庁健康福祉部・健康福祉指導課から御意見を求めた。また安房医師会としては下記の懸念がある事をお伝えした。

1)地区医師会所属の会員施設の患者さんも生活に困窮されている方は少なくない状況下にあり、無償ないし低額での保険医療提供は患者誘導、集患行為に当たるのではないか?

2)社会福祉法人 太陽会が運営する病院であることは承知しているが、社会福祉法人の理事、評議員の構成が医師会組織や行政の意見を充分に反映する内容となっているのか? また経営の実態は鉄蕉会が担っている様に見受けられますが、社会福祉法人の趣旨を徹底する事が可能なのか?

3)本制度に該当する患者さんを選定する会議などが公正に機能するのか?

4)生活保護者に対する医療行為等を勘案すると、保険医療費が増加する可能性が否めないのでは? 本制度を運用する施設は、これまで民医連系等が運営する施設など、受診者自身の選択がある程度伴う施設が主であったが安房地域医療センターの位置付け、役割を再度考えるべきではないか?

等々の疑問が生じます。

 

●無料低額診療を計画した理由

なぜ、社会福祉法人太陽会が無料低額診療を計画するに至ったのか。『厚生福祉』2012720日号掲載の「日本社会の変化と医療・介護」で、小松俊平(現太陽会理事長補佐、鉄蕉会経営企画室員)が理由を述べている。

 

2010年度の国保被保険者3920万人の前年の平均所得は、1世帯当たり145万円、1人当たり837千円だった。

これに対して、2008年度の国保被保険者の前年の平均所得は、1世帯当たり168万円、1人当たり956千円だった。2010年度と比較すれば、リーマン・ショックの影響の深刻さをみてとることができる。

さらに遡って、1993年度の国保被保険者の前年の平均所得は、1世帯当たり239万円、1人当たり109万円だった。IMFの「World Economic Outlook Database」(2012年)によれば、2009年の日本の名目GDPは、1992年と比較して3.4%減少したにとどまる。これに対して、国保被保険者の平均所得は、1世帯当たり39%、1人当たり23%減少したことになる。」

国保被保険者は、平均世帯所得145万円の中から、平均保険料144千円、さらに受診時に自己負担分を支払っている。これと生活保護の基準を比較すれば、我が国セーフティ・ネットの矛盾と破綻の状況が浮かび上がってくる。

 

社会保障推進千葉県協議会が行った市町村への国民健康保険アンケートによれば、2010年の館山市の総世帯に占める国保加入世帯の割合は45.3%、国保加入世帯に占める前年度滞納世帯の割合は30.5%といずれも高率である。国民健康保険実態調査によれば、2010年の市町村国保被保険者1人当たりの課税標準額は、全国638094円に対し、館山市598316円である。館山市にある安房地域医療センターでは、医療・介護へのアクセスに困難を抱える患者をよく目にする。例えば、独居で移動手段がなく、交通費や医療費の自己負担分を嫌って病院に行かず、症状が顕著になってから救急搬送され、初診で入院となる患者がいる。あるいは、自宅に戻るのが困難であるにもかかわらず、資力の関係で療養病床、老人保健施設を利用できず、特別養護老人ホームの利用を待機している患者もいる。

 

事態は極めて複雑かつ困難で、問題の統一的解決は不可能である。国や地方自治体は、法規範の権威的決定とその執行というスタイルで作動する。公権力という強い力を持つがゆえに、手足を厳密に拘束せざるを得ない。複雑かつ困難な状況を的確に認知し、迅速かつ臨機応変に対処することを期待するのは無理である。

結局、現場にあるそれぞれの医療・介護の経営主体が、目を見開いて世界をよく認識し、認識した世界と自己を対照して、自らを変え続け、さらに社会を変え続けていくしかない。工夫に工夫を重ねた特殊な成功例を積み重ねることである。国や地方自治体の役割は、特殊な成功例が多く出るような環境を整えることである。現場に自由を与え、環境の公正さを保障しなければならない。

亀田グループでは、医療・介護の供給増のネックとなっている看護師の養成に全力を挙げると同時に、安房地域医療センターにおいて、社会福祉事業として医療を公定価格より安く提供すること(無料・低額診療事業)、従来の居宅での生活が困難になった地域の高齢者へ、安房地域医療センターの近隣で集合住宅、在宅医療、居宅介護を一体的に提供すること(安房セーフティ住宅構想)などを検討している。

 

無料低額診療は、経済的負担に病院が耐えられる範囲でしか実施できない。安房地域医療センターは破綻した医師会病院を、県と地元の自治体の依頼によって負債付きで引き受けたものである。未だに補助金なしでは赤字である。無料低額診療を実施するための資金は、寄付で集めたいと考えている。寄付集めの専門家とも相談を重ねている。

無料低額診療を行うにあたって3つの原則が重要だと考えている。第一に病院の存続が脅かされてはならない。第二に安房地域医療センターが担っている急性期医療の機能が損なわれてはならない。第三に受療行動にモラル・ハザードをもたらすことのないようにしなければならない。

モラル・ハザードは社会保障の根本に付きまとう問題である。アリストテレスの配分的正義「等しきものは等しく、不等なるものは不等に扱わるべし」が問われる。社会保障によって、負担する費用と受け取るサービス水準の逆転を許せば、働くことを忌避する風潮が生まれる。ごね得を許せば、ごね得が社会にはびこる。結果として市民の士気(morale)が損なわれ、あるいは社会の規律なり道徳なり(moral)が損なわれる。

無料低額診療を開始する前に申請、審査、承認を行う。虚偽の申請に対しては、詐欺罪による刑事告発、および減免された費用の返還を求める民事訴訟などができるようにしたいと考えている。さらに、外来診療については、一定期間で終了とし、入院診療については、原則として、退院許可をもって終了とする方針を考えている。

様々な制約の中で、ささやかな規模にしかならないかもしれないが、医療にアクセスできない生計困難者を救済したいというのが今回の試みである。

 

●安房10万人計画

実は、無料低額診療を推進すべきもう一つの理由がある。安房10万人計画である。首都圏の高齢者を招いて安房の人口を増やそうというものである。亀田グループでは、20123月以後、安房10万人計画について議論を重ねている。

首都圏では、団塊の世代の高齢化によって、今後20年間で介護需要が約3倍に増加する。団塊ジュニア世代の高齢化がこれに続くため、高齢者の絶対数は長期間にわたって大きく減少することはない。介護需要の増加の規模が余りに大きいため、首都圏だけの対応では、介護需要に応じることが難しいと考えられている。  

一方で、安房31町(館山市、鴨川市、南房総市、鋸南町)では、高齢化率が首都圏よりはるかに高くなり、人口が急速に減少する。2030年には館山市、鴨川市、南房総市、鋸南町の高齢化率はそれぞれ41.1%、43.7%、51.2%、49.3%になると予想されている。高齢化率が50%を超える自治体は、限界自治体と呼ばれる。日本社会保障人口問題研究所の2008年の市町村別将来推計人口によれば、限界自治体数は、2010102020392030105に達すると予想されている。限界自治体は、有効な対策がなければ自治体としての存続が難しくなる。

安房には利点がある。温暖であり、亀田総合病院という日本を代表する病院の一つがある。医療と介護施設、介護施設同士の連携が極めて良好である。

この利点を生かそうとするのが、安房10万人計画である。ミッションは以下の3点。

 

1. 首都圏の高齢者、要介護者に、安房で、楽しく穏やかに人生の終末期を過ごし、死を迎えてもらう。

2. 高齢者を介護する若者に、安房で、結婚し、子供を産み育ててもらう。

3. 安房を活性化することで、住民に職を提供する。

 

さまざまな経営主体に参加を呼び掛けたいと思っている。亀田グループで利益と手柄を独占しない。参加した施設には、医療提供で協力する。異なる立場の関係者が参加するNPOを設立し、これが全体のルールの設定や改定など調整業務を担うようにしたい。亀田グループにとっての最大のメリットは、この地域の人口を増やすことである。

政府も似たようなアイデアを進めようとしている。2012108日の日本経済新聞電子版によると、厚労省などが、高齢者の地方移住促進のための仕組みを検討しているという。送り出す自治体が費用を負担する。来年度、東京都杉並区と静岡県南伊豆町が協定を結ぶことになっている。

安房10万人計画を推進するのに、地元の生計困難者が医療にアクセスできないのを放置していたのでは、地元の住民の共感が得られない。安房で医療、福祉が充実していることを示さないと、首都圏の高齢者に信頼されない。

 

(その22へ続く)


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だいじょうぶか安房医師会:無料低額診療に反対する理由がひどい 
(その22

 

亀田総合病院副院長 

社会福祉法人太陽会顧問 

小松 秀樹

 

20121031日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

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(その12より)

 

●原徹文書の反対理由1

原徹文書では、4項目の反対理由が挙げられている。

反対理由1は「無償ないし低額での保険医療提供は患者誘導、集患行為に当たる」という文言に示されている。自分の収入が減る可能性があると根拠なしに自分が感じていることを理由に、医療にアクセスできない生計困難者を助けようとする合法的な活動に反対し、安房医師会の名称、あるいは、千葉県医師会副会長の立場を利用して県庁に圧力をかけたと理解される。前置き部分で「懸念をお伝えした」とあいまいに表現されているが、実質的にどう受け取られるかが問題なのである。

「生活に困窮されている方は少なくない」という認識については、我々と共通している。それにもかかわらず、反対しているのである。

暴力や政治的圧力を背景に正当な業務に対して正当な根拠なしに文句をいうことを、関西言葉で「いちゃもんをつける」という。yahoo辞書では例文として、「暴力団員は彼にいちゃもんをつけた」とあった。「因縁をつける」も同義である。

療養担当規則の2条の42は「保険医療機関は、患者に対して、第5条の規定により受領する費用の額に応じて当該保険医療機関が行う収益業務に係る物品の対価の額の値引きをすることその他の健康保険事業の健全な運営を損なうおそれのある経済上の利益の提供により、当該患者が自己の保険医療機関において診療を受けるように誘引してはならない」として割引診療を禁止している。割引が禁止されているため、生活保護受給一歩手前の患者が医療にアクセスしにくくなっている。これを救済するために、無料低額診療がある。

歴史の流れの中で、あらゆるものが変化していく。一つの業種の収入が永遠に保障されることなどあり得ない。駕籠屋も炭鉱労働者も日本にはいなくなった。医療をめぐる状況は大きく変化しつつある。医療提供者は、社会の要請を受けて、自らを変革し続ける必要がある。亀田総合病院も社会の要請に応える努力を怠れば衰退し消滅する。

治療が医療の主役になったのは、ペニシリンの発見によって病気が治せるものになって以後である。最近半世紀の間に、治療手段が急速に発達し、病院が大規模化した。社会の高齢化に伴い、加齢現象にまで病気の概念が広がった。しかし、加齢に伴う身体の衰えは治癒せず、しばしば、介護を必要とする。高齢者に対する胃ろうや経管栄養の普及は、日本人の寿命が限界に近いことを示している。高齢化に対して、治療を主たる業務とする病院だけでは対応できなくなった。

国民皆保険が始まった1961年当時と比べて、外来での投薬の役割が相対的に小さくなった。一方で、在宅診療の役割が大きくなっている。

医師会は、既得権益を維持するために、しばしば社会の要請に答える努力を抑圧してきた。間宮会長、原副会長は、社会が必要としている活動の邪魔をせずに、自分たちでも努力してみてはどうか。無料低額診療は、社会福祉法に第2種社会福祉事業として規定されている。第1種社会福祉事業と異なり診療所でも実施可能である。20121025日のNHK「おはよう日本」で、高知県の診療所が実施している無料低額診療事業が取り上げられた(「“病院に行けない”高齢者医療をどう支える」)。社会の高齢化、貧困化によって、無料低額診療の必要性が高まっている。

 

●原徹文書の反対理由2

反対理由2の前半は、社会福祉法人太陽会の理事、評議員の構成が、医師会組織や行政の意見を十分に反映していないのではないかというものである。そもそも、法制度上、医師会は理事のポストを要求できる立場にあるのか。

厚労省のホームページによると、社会福祉法人は、社会福祉事業に対する社会的信用や事業の健全性を維持するために、公益法人に代わる新たな法人制度として創設された。社会福祉法は、重症心身障害者施設などのように、多額の費用を要し利用者の施設に対する依存度が高いものを、第1種社会福祉事業と規定している。第1種社会福祉事業を安定的に運営するには公金を投入するしかない。ところが、憲法89条後段は、公金その他の公の財産は、「公の支配に属しない慈善博愛の事業に対し、これを支出してはならない」と規定している。これを回避するために、社会福祉法人は、強い公的規制の下、助成を受けられる特別な法人として創設された。

1種社会福祉事業は、原則として行政及び社会福祉法人が実施するものとされている。しかし、行政が直接行うと、活動が硬直化してサービスが低下する。敢えて、民間の社会福祉法人を創設したのはサービスを高めるためである。社会福祉法5条(福祉サービス提供の原則)では、「創意工夫」が推奨されている。また、同6112号は、「国及び地方公共団体は、他の社会福祉事業を経営する者に対し、その自主性を重んじ、不当な関与を行わないこと」と定めている。行政は、社会福祉法人の事業に不明朗なところがないか監督するのであって、活動方針について口をはさむ立場にはない。

安房医師会は公益法人であるが、社会福祉法人ほどの強い公的規制を受けていない。太陽会が、一部の市や安房医師会の影響下に運営されるとすれば、法的には不適切である。原徹文書が証明しているように、医師会はときに私利私欲を公益に優先させて、強引な主張をする。社会福祉法人は、安房医師会幹部の言いなりになってはならないのである。

 後半では、医療法人鉄蕉会と協力関係にあることを問題視している。

太陽会は、従来、障害者支援施設、障害福祉サービス事業所、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設を運営してきた。破綻した安房医師会病院を引き受けるまで、病院を運営していなかった。安房医師会病院は、224000万円の公費による補助を得て、2000年に、24時間365日の救急医療を目的に移転新築された。土地は館山市の無償貸与だった。労働条件の悪化のため、医師、看護師の退職が相次ぎ赤字になった。破綻の直接的な理由は、医師会幹部が借入金の裏書を書く勇気がなかったことである。

200841日、千葉県と、館山市を含む31町から、押しつけられる形で、太陽会に、負債込で経営が移譲された。移譲後、安房地域医療センターと名称を変えた。亀田総合病院を経営する医療法人鉄蕉会だと、贈与税がかかるため、引き受けられなかった。より公益性の強い、社会福祉法人で引き受けた。千葉県、31町、安房医師会いずれも、承知の上で、鉄蕉会との協力関係を前提に太陽会が引き受けた。

安房医師会病院が破綻した当時も、原徹医師は安房医師会の副会長だった。原徹文書の第二の理由の後半は、自分の関与と責任を一切無視しており、大人なら口にできる文言ではない。

 

●原徹文書の反対理由3

無料低額診療の対象とする患者の選定の公正性に疑問が投げかけられている。

生活保護受給者は自己負担なしに医療を受けられる。自己負担を免除する対象は、生活保護を受給していない生計困難者である。対象者の状況は地域によって異なる。しかも、無料低額診療に費やすことのできる予算を含め、病院によって、あるいは同じ病院でも年度によって、対応能力が異なる。このため、無料低額診療についての平成13723日の厚生労働省社会・援護局長通知(社援発第1276号)では、運用を細かく指定せず、各医療機関の裁量部分を残している。また、自治体(安房地域医療センターに関しては千葉県)による指導監督が指示されている。

対象者の選定については、安房医師会が金銭欲を背景に口をはさむようなことではない。理由3もいちゃもんの類である。

 

●原徹文書の反対理由4

前半は、無料低額診療により保険医療費が増加すると予測し、これを問題視している。保険医療費が多少増えても、医療が必要なのに受けられない患者を診療できるようにするのは当然である。保険医療費が増えるから生計困難者に対する必要な診療を差し控えるべきだという意見は、医療保険を廃止せよというに近い。国民皆保険は病者の医療へのアクセスをよくするためにあるのであって、開業医の収入を保障するためにあるのではない。

20022月、アメリカ合衆国・ヨーロッパ内科4学会が「新ミレニアムにおける医療プロフェッショナリズム 医師憲章」(李啓充訳)を発表した。3つの根本原則の3、社会正義では、「医師には医療における不平等や差別を排除するために積極的に活動する社会的責任がある」と規定している。10の責務の6、医療へのアクセスを向上させる責務では、「医師および医師団体は医療へのアクセスの平等性を確保することに努めなければならない。患者の教育程度、法体制、財政状態、地理的条件、社会的差別などが医療へのアクセスに影響してはならない」と規定している。保険医療費が増えることを理由に生計困難者への医療提供の努力を妨げるとすれば、医師として非難されることを免れない。

病気が生活保護を受けるきっかけになることは少なくない。無料低額診療によって生活保護受給者にならないで済むとすれば、保険医療費、社会保障費の支出は少なくなるのではないか。

理由4の後半については、文章が何を意味するのか読みとれないので言及しない。

 

●震災時の言動

私は、20113月、東日本大震災の後、原徹副会長を怒鳴りつけたことがある。顛末を書いた記事を紹介する。http://medg.jp/mt/2011/04/vol103.html#more

 

千葉県の房総半島先端部には、安房医療ネットという在宅医療を行っている医療・介護の勉強会グループがある。あふれるほどの善意を持っているが、ナイーブで政治的な動きに慣れていない。このグループが、要介護者とその家族の受け入れ体制を整えた。迎えに行くバスまで用意した。南房総市の石井裕市長は、「生命尊重が第一、特に要介護状態の被災者を積極的に受け入れる。国が(一泊三食付き5000円の支払いを)認めてくれない場合、南房総市が宿泊費を立て替えよう!」と英断を下した。

このグループに、千葉県医師会の原徹理事から、医師会主導で動いていることにするよう申し入れがあった。原理事は地元医師会の有力者である。メンバーは困惑した。医師会幹部は権力意識が強く、中央指令で横並びの行動を強いるからだ。医師会主導になると、多様な活動を抑制する方向に働く。加えて、面倒な合意手続のため、活動が致命的に遅くなる。

彼らは圧力をかけられたと理解し、私に相談してきた。実は、原理事は泌尿器科の後輩で、若いころ親しくしていた。すぐ、原理事に電話した。個人の多様な活動を理解する人物だと思っていたが、それが誤りであることがすぐに分かった。

小松 「災害があまりに広範囲で大きい。情報が上がり過ぎて、官邸が対応しきれていない。現場で迅速に動ける個人が動くべきだ。今、インターネットで情報を共有しつつ、個人が迅速に動き、大きな役割を果たしている。」

原理事 「個々に対応すると、違いが生じて問題になる。医師会と県の合意を得て行動すべきだ。」

同じ意見を繰り返して譲らない。自分の見苦しい権力意識に気づいていない。つい、「馬鹿もの」と怒鳴りつけてしまった。

「誰の許しを得てここで商売しとんのや。」とすごむB級映画にでてくるやくざのようだ。ただし、阪神・淡路大震災では、神戸のやくざは、他人の炊き出しの邪魔をしたり、自分の手柄にするようなことをせずに、自分の力で大量の炊き出しをした。

 

●医師会のイドラ

人間の認識は偏見に影響される。フランシス・ベーコンは、人間の正しい認識を妨げる偏見、先入観を4つに分類した。種族のイドラとは、人類の持つ感覚に基づく錯覚である。洞窟のイドラとは、個人の性癖、習慣、教育によって生じる誤りである。市場のイドラとは嘘や無責任な憶測による誤りである。劇場のイドラとは、伝統や権威ある学説を信じることによる偏見である。

原徹文書は、第一に、人間は金銭欲によってのみ行動するものであるというイドラに支配されている。これは洞窟のイドラの一種である。原医師の世界がそのようなものかもしれない。第二に、「医師会」は「公的立場」であり、既得権益を守るために、横並びを強要して社会に有用な活動を抑圧しても、「医師会」の立場で主張する限り、金銭欲による発言ではないことにできるというイドラに支配されている。個々の医療施設の改善努力を阻害し続けると、千葉県のような医療過疎県では致命的な効果を及ぼしうる。これは、劇場のイドラの一種であり、伝統的に医師会で培われてきた。2つのイドラに対する思い込みの強さが、しばしば医師会内部での発言力を決めているように見える。医師会幹部に似たような人物が集積されがちなのはこのためではないか。

原徹文書は後始末を必要とする不祥事である。安房医師会の見識が問われるどころの話ではない。反社会的団体だと言われかねない。このまま間宮医師、原医師が会長、副会長に留まる限り、安房医師会は原徹文書の烙印を引き受けざるをえない。

 

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この記事へのコメント

とてもとても考えさせられました…この情報が必要と思われる支援機関に早速情報を流します。長尾先生、ありがとうございます。勉強させられてます♪

Posted by あい at 2012年11月01日 11:15 | 返信

「1が三つ並んだ今日」今、アピタルを読みました♪大変教えられます。平坦な言葉で最大限の思いのたけを語られる先生のお心が伝わってきます。「怒り」よくわかりました。治らない病気ではありませんでしたが「死ななきゃ治らない」と公言していた私の言葉通りに?!自死した亡き父への「怒り」に、私は苛まされていました…しかし、最近は、先生の「怒り」に通ずるものを自身の中でも体感してるようで、父にはいい人生勉強をさせられたと、今では心からの感謝と共に私自身が勝手に?!(笑)癒され続けています。小さい療養病棟だけの職場で、病院でもできる?!「平穏死」に近い看取りについての医師の、家族への説明…まだまだ整理しきれない私の頭で、医師の説明を聞いていますが。今、小さい療養だけのこの病院の現場で、現実に起こってることに対して、私はどうあるべきかと自身の役割を常に常に常に考えさせられています。毎日、先生のブログを拝見してたら…自然とそうなります…「体力とハート」心して…感謝します(^^)

Posted by あい at 2012年11月01日 11:50 | 返信

問題が難しくて、分かりません。
千葉県に医療過疎地区があるのですか?
千葉大学とか、良い大学も有るし、成田空港もあって、東京の近郷の富裕な農村と思いましたけど。
東北大震災の被災地でも、医療を無料にしようという運動がありましたけど、期限付きだったのでしたか。
全国的に、医師が行く前に、保健婦さんとかその補助をする人とかの、訪問相談が制度化したら、重症化する前に、治療できるんじゃないかとか考えました。
私は頭が悪いので、あんまり良い考えは有りません。

Posted by 大谷佳子 at 2012年11月02日 12:51 | 返信

すごく考えされられました。
特に震災時のことは、過去記事も拝見させて頂きましたが、先生のようなお考えを持つ方がたくさんいらっしゃれば…と思います。

Posted by 看護師求人サイトの選び方 at 2012年11月02日 04:05 | 返信

思い出しました。ちょっと、問題が、違うかも知れませんが、北海道の夕張炭鉱の夕張市が、赤字で、夕張市民病院も閉鎖することになった。その時、長野県から、村上先生という、医師か、医学博士か忘れましたけど、来て下さって、病院を、診療所にして、経費を節約した。それから、介護保険を利用して、入院していた、お年寄りの在宅医療に切り替えて、冬でも、雪の降る日も訪問医療をすることで、夕張市の赤字財政を削減して、頑張っているとのドキュメントを見ました。最近夕張の映像はTVではあまり見かけませんが、頑張っていらっしゃるのかなと心配します。
長尾先生や、在宅医療に携わっていらっしゃる方達は市の財政に貢献していらっしゃるわけですから、もう少し、報酬や、権利や、社会的地位が上がって、健康を維持できても良さそうなもんです。夕張市の問題と、千葉県の安房医師会の問題は少し違うのかもしれませんが、思い出したので、コメントさせて頂きました。

Posted by 大谷佳子 at 2012年11月03日 01:22 | 返信

「夕張診療所」を、ブログで検索したら、大変な事になっていました。
救急病院では無いのに、救急搬送で患者さんが回されてくる。
ことわったら、「自殺して、死にかけてる患者を見殺しにした」と非難されたとか。
何と言って良いのか、分かりません。
地域には、救急病院が必要なんでしょう。市長さんも政治力で、救急病院を作れる、財政力を作らなければ、診療所の先生や数少ない看護婦さんに何もかも、お任せするのは、医療関係者にはつらいですね。残念です。
そもそも、何故、夕張市が財政破綻して、少ない人数の診療所にしなければ、いけなかったのかを考えたいですね。人ごととは思えない。

Posted by 大谷佳子 at 2012年11月04日 03:07 | 返信

私は、同じ千葉県で無料・低額診療実施医療機関(歯科診療所)をしています。昨日、千葉県保険医協会の医療交流集会で、「無料・低額診療実施医療機関の認可を受けてみて」という演題で発表しました。そこで、歯科医師会の対応について質問されたのですが、「安房医師会と違って、歯科医師会としては特に何もないですよ」と胸を張って答えました。安房医師会の対応は、大人気ないですね。

Posted by 岡永 覚 at 2012年12月10日 04:36 | 返信

夕張診療所の村上医師は(お目に罹った事は有りませんが)今も期待している先生なのですが、何でも、夕張市民病院時代から、看護婦として働いていた女の人が実はヘルパーの資格しか、持っていないのが、保険所にばれて、村上先生が注意を受けていたそうです。
そのあと、どういう事情か、その偽看護婦(実はヘルパー)が、村上先生の食事を作っていた女性の腹部を包丁で刺して、重症を、負わせたそうです。
村上先生は女難の気があるんですね。悪いけど、笑ってしまって、でも、ホントに残念ですし、寒い北海道で、頑張ってるのに、なんで、女達がヘマをして、足を引っ張るのか、
やっぱり、笑ってしまいます。私は包丁で、若い女性を刺す高齢女性の方か、刺される女の方か、どっちなのかなあ?

Posted by 大谷佳子 at 2013年02月23日 10:13 | 返信

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