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開業医の労働問題
2013年01月04日(金)
24時間365日の在宅医療を真面目にやれば死んでしまうかも。
ある意味、これは新しいパンドラの箱かもしれないが、敢えて書いてみた。
町医者で行こう12月号 開業医の労働問題 長尾和宏
開業医の平均寿命
開業医の平均寿命は、一般人より10年短い!?以前、医師会関係の雑誌に年配の医師が書いていたことを記憶している。正確な統計があるのかどうか知らない。しかし保険医協会の新聞などで、開業医の朴報を見て愕然とすることがある。60歳代の朴報が並んでいる時だ。
昔の開業医が診察中に倒れたという話をよく聞く。あるいは往診の帰りに倒れて亡くなったという話も聞いたことがある。それで本望だと本人が願っていたならば、他人がとやかく言うことではないかもしれない。しかし「医師とはそんな職業だよ」では済まないのが、若い世代の医師の感覚だ。新臨床研修医制度になり、研修医が奴隷からお客様に変わった。さらに診療報酬の改定により、勤務医の労働条件は少し改善された。医師の労働問題は、病院の管理職クラスの問題であり、もはや若い医師には無縁になりつつある。
一方、開業医の労働環境はどうだろうか?そもそも開業医は自営業者、経営者なので労働問題が存在しない。しかし、外来や在宅への24時間対応を求められる作今、自営業者の労働問題も考えなくてはいけないのではないか。週40時間労働として計算すると、1人の患者を24時間365日管理するには、理論上4人の医師が必要ということになる。
「24時間365日」の光と影
2006年、在宅療養支援診療所制度が創設された。その要件のひとつとして「24時間365日対応」が謳われた。市民や役人には、たいへん聞こえがいいフレーズだろう。しかし一馬力の診療所がそれを真面目に実行したらどうなるのか。どう考えても体を壊すことは想像に難くない。知り合いの在宅医が軒並み体調を壊している。もちろん過重労働と無縁ではない。いくら事業主といえども、真面目に取り組めば取り組むほど、病気になり易いのは自然の理だ。また酒気帯び診療が問題視されるのならば、代理医師ないし当直医を置かなければ一生酒も飲めないことになる。労働者にはメンタルヘルスケアという領域があるが、経営者にはそのようなものは無い。あるのは自己管理あるのみ。かくして在宅医療は、私のようないい加減な医師がやり、真面目な医師にはとても無理、という印象を与えてはいないだろうか。
地方に講演に行くと驚く話がたくさん転がっている。70歳代の医師が結構、深夜に結構往診しておられる。また医師会長自ら夜中に走り回っているところも多々ある。それは長年身に染み着いた医者魂なのだろう。しかし若い医師にも通用するのだろうか。地域包括ケアの推進に身を粉にして奔走する年配医師にはただただ脱帽するばかりだ。しかしよく聞くと、どこも「午後から在宅組の高齢化」に悩んでいる。一方若年層は、以前述べた「ビジネスとしての在宅医療」に熱心だったりする。「24時間365日」の光と影の影の部分に、そろそろ目を向けてもいい時期ではないだろうか。
在宅医を守るのは訪問看護師
結局、在宅医の命を守ってくれるのは訪問看護師しかいない。という意見に、在宅医は全員一致するだろう。私自身も、深夜帯は訪問看護師が「身代わり」になってくれている。
だから訪問看護師には常に頭が上がらない。24時間対応のファーストコールは、訪問看護師の管理職が受けている場合が多い。緊急携帯を持てる看護師は限定されることが多く、特定の看護師に負担が偏る傾向にある。
平成25年2月24日に開催予定の第3回近畿在宅医療推進フォーラムのテーマについて先日、話合った。訪問看護師から異口同音に出て来た言葉は、「もう疲れ果てた」だった。的確な表現ではないかもしれないが、頑張っている訪問看護ステーションほど医療依存度の高い症例が集ってきて疲弊するという悪循環に陥り易い。結局、フォーラムのメインテーマは「そうはおいやすけど、しんどおすな、在宅医療」に決まった。「そうはおいやす」とは、「24時間365日での地域包括ケア」という意味だ。年1回開催されるこの「在宅医療、そこまで言って委員会」は、関西ならではの本音トークがウリのイベントだ。もちろん嘆き節だけではいけない。何か光明を見出そうと、大阪市浪速区医師会のブルーカードシステムも紹介予定だ。在宅スタッフと後方病院が情報を共有する新しい地域連携システムだ。いずれにせよ、在宅医や訪問看護師を疲弊させないシステム作りが急務である。
看護師を「7:1病院」から「地域」へ
勤務医の労働問題は、かつて「パンドラの箱」と呼ばれた。最初の論点は、当直は勤務時間に含まれるかどうかだった。一方、開業医の労働問題という概念はそもそも存在しない。開業医は事業主だからだ。しかし開業医も外来や在宅で、24時間対応を求められている現在、絶対的なマンパワー不足は明らかだ。医師の偏在が論じられているが、私は、看護師の偏在の方が優先すると考える。看護師が7:1病院に集中し、街から看護師が消えた。しかし今後の日本に必要なものは慢性期医療や在宅医療で間違いない。看護師を20:1以上の病院や地域にシフトさせる大胆な政策が必要ではないか。もし訪問看護ステーションに10人以上の看護師が配置すれば、24時間対応の負担も軽減される。開業医の労働問題を考えるなら、看護師の偏在にメスを入れることから始めて欲しい。地域包括ケアを成功させる肝は、看護師政策にあると感じる。
在宅医療の目的は「楽しむこと」だと私は考えている。これは、患者さんはもちろんであるが、ご家族も同じことだ。さらに、在宅医や訪問看護師とて例外ではないと考える。
最後に私ごとで恐縮ですが、7月に出版させて頂いた「平穏死・10の条件」(ブックマン社)が、10万部を突破した。そして12月3日発売された「胃ろうという選択、しない選択」(セブン&アイ出版)もお蔭さまで好評を頂戴している。この場をお借りして、みなさまに深く御礼を申し上げます。
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この記事へのコメント
父の時のお医者さんは、点滴するのでも、看護師さん2名に一時間点滴の管理をさせるので、時間と、労力が大きいので、二回目の点滴を、頼んでも、来てくれませんでした。
母が父の葬式の疲れで、2度目のヘルペスに罹患して、抗ヘルペス剤でダウンした時に来てくれた別のお医者さんは、点滴の針を刺入するのは看護師さんでも、一時間後に針を抜くのは、患者の家族を信頼して、まかせてくれたので、効率的でした。
在宅医療でも、お互いに研究して、どんどん合理的にしていけるのではないかと思いました。
まあでも、私みたいな、元職鍼灸師のケアマネジャーは役に立ちませんね。
Posted by 大谷佳子 at 2013年01月05日 03:03 | 返信
病院内では、ヘルパーさんが、看護師さんの、補助として、働いていらっしゃるらしいですが、在宅医療では、禁止でしょうね。
注射とか、点滴の針の刺入は医師でも下手な方がいらっしゃるし、看護師さんでも、上手下手がお有りなんでしょうね。
看護師さんの仕事を盗りたいと思っている訳ではないのですが、在宅医療で、訪問看護師さんがあんまり、「しんどい!しんどい!」と仰ると長尾先生が書いているので、どうにか、ならないのかと思ったのです。以前岡村ヒロ子さんが施設の中で、同じCAREをしても、お給料が違うのは、やり甲斐がないと、皆が思っているというような事を、仰っていたように記憶しています。私の思い違いかもしれませんが。いろいろ、むつかしいですね。長尾先生も、「忙しい!忙しい!」と嘆いていらっしゃるのは、お気の毒ですが、どうして欲しいのか、分かりません。お忙しいのを、楽しんでいらっしゃるだけなのかも。
Posted by 大谷佳子 at 2013年01月06日 04:31 | 返信
戦前に、医専、薬専だった学校が、戦後は医大、薬大になっているように、看護師さんも、法律的にも、社会的にも、自立、独立できて、やりがいがあるようになれば良いなあと夢見ています。
現在の在宅医療の中で、訪問看護師さんが、如何に生きがいを持って、在宅現場で働いているかと言う、ドキュメンタリーでも良いし、フィクシォンでもいですから、映画とか、TVドラマができたら、看護師さんになりたいと言う人も増えるのではないかと考えます。
私は昔、「暖流」という映画の中の左幸子さんの演ずる看護婦像を見て、なんだか、看護婦になりたくありませんでした。
彼女の生きがいは、患者さんの治療をすることではなく、いかにして、医者と結婚するかと言う事でしたからね。
中学校3年生で、盲腸炎手術で入院した芦屋市立病院の看護婦さん達が、揃いもそろって、皆、もの凄い美人だったので、「わあ!私は美人じゃないから看護婦に向かない」と思いました。当時の、中院長が美人好きだったのかも知れませんが。
長尾先生も、いまだに、「人生の最後は、うちの美人看護師さん達に、お風呂に入れて貰う認知症老人になって死にたい」等と冗談をキャリア.ブレインで仰っているくらいですからね。笑えないですよね(笑)。
Posted by 大谷佳子 at 2013年01月06日 05:24 | 返信
野間昭夫と言う医師が「長生きって、迷惑ですか」と言う本(幻冬舎新書)で、施設:在宅は半々といっています。いろんな本が出て、面白いです。日本はろくな国じゃないけど、言論弾圧は無いので、いろんな意見が聞けます。
個人医院の医師の健康は御家族や、日頃の職場で働く看護師さんや、たまに会う知人が気を付けて「顔色が青いね」とか「太り過ぎじゃないか」とか言ってくれるのを参考にするしかないように思います。
在宅医師会とか、医療の会でも組織化できたら、そういう在宅医療に関わる人の健康問題を、話し合えるのではと、思います。
Posted by 大谷佳子 at 2013年01月08日 02:53 | 返信
このまま言論弾圧が法律上禁じられている日本であってほしい。
私もいろいろな意見や自分に無い視点からの提案を読むのが大好きです。
その分、自分の理解力・判断力も磨いていかないとなぁと思うこの頃。
3年前には、こんなにあからさまに生死を語る著作が相次いで発刊され
しかも読まれるなんて想像していませんでした。
一人の投じた一石が波紋を広げ、大きなうねりになって来ていると感じるのは
まだ早い?
出版社の戦略に惑わされず、一般市民も読み、語り合い
自分がほんとうに何を望んでいるのか見つめたいです。
昨年の読書会最後11月のテキストは津村節子『紅梅』でした。
(終末期にあった夫君吉村昭氏の自死を扱ったもの)
図書館の掲示を見て、初めての方もゲスト参加され
7人で思う存分しゃべりあいました。
今年も10冊読むことになっているので楽しみです。
このブログでコメントされた本の情報も来年の選本の参考に。
Posted by 梨木 at 2013年01月08日 07:34 | 返信
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