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産経新聞抗がん剤シリーズ第１０回　　食道がんの抗がん剤治療

    勘三郎さんは何故死んだ？

人気歌舞伎俳優の中村勘三郎さんが、食道がんのため５７歳の若さで旅立たれたニュースはショックでした。あんなに元気だったのに何故帰らぬ人になったのか、誰もが知りたいところでしょう。２回にわたり勘三郎さんの全治療経過を振り返りながら考えてみます。

 昨年５月３０日、５７歳の誕生日を家族や仲間に祝ってもらった２日後、開業医での内視鏡検査で食道がんが発見されました。６月５日、がん研有明病院でＰＥＴ検査を行いリンパ節転移が判明し７日、同病院に入院。６月１１～１５日、第１回の抗がん剤治療を受け、１８日の記者会見で食道がんを公表しました。７月３～７日、２回目の抗がん剤治療を受けました。各回１２０時間、延べ２４０時間の時間を費やしています。７月１８日、一旦退院し舞台に立ち、２４日には自ら主催するゴルフコンペで準優勝するほど元気でした。その翌日、再入院し、２７日、１２時間にも及ぶ外科手術を受けました。翌日には廊下を１５ｍ歩行。８月１日、鼻から胃に入っていた管が抜去されましたが、翌日、嘔吐し吐物を誤嚥したようです。３日、肺炎の治療として人工呼吸器を装着し、ＡＲＤＳ（急性呼吸窮迫症候群）と診断され気管切開が施されました。９日に東京女子医大の医師が泊まり込み、１０日には東京女子医大に転院。その後、一進一退が続きました。９月５日、ＥＣＭＯ（体外式膜型人工肺）による治療のため今度は日本医大に転院。一時は驚異的な回復をみせましたが、呼吸不全は改善しませんでした。１１月１０日に肺移植が検討されたものの２２日には意識不明に陥りました。１１月２４日には、ＣＴ検査で脳内出血が確認され、翌日に旅立たれました。

 最初の入院日から、ちょうど６ケ月目に亡くなられました。手術の前に術前化学療法（抗がん剤治療）が２回行われ、手術から数えると４ケ月後でした。勘三郎さんの抗がん剤治療は、術前化学療法といいます。食道がんのⅡ期とⅢ期には標準的治療で、いきなり手術をするより治療成績が良いとされています。５－ＦＵとシスプラチンの２剤による治療でしょうか。５－ＦＵは２４時間の点滴を４日間続けます。シスプラチンは１日目に２時間かけて点滴します。勘三郎さんの抗がん剤入院は２回とも５日間でした。この治療は４週間毎に２クールすることが決まりです。勘三郎さんは、２回目を少し前倒しして行われていますが、抗がん剤治療そのものは著効したようです。シスプラチンは、いわば抗がん剤の代表格。吐気、倦怠感。脱毛などの副作用はあまりにも有名です。白血球や血小板が減少しますが、１～２週間目が「底」です。２回目の抗がん剤終了後３週間目に手術が行われていますが、この時期には、抗がん剤の副作用はもう無かったはずです。手術の３日前のゴルフコンペで準優勝しイタリア料理店で打ち上げまでされています。もし抗がん剤の副作用が残っていれば、準優勝も打ち上げも無理だったでしょう。

 以上、勘三郎さんが受けた抗がん剤治療の経過は非常に良好で、特に問題が無かったように思えます。しかしそのあと、いったい何が起きたのでしょうか？どうやら抗がん剤治療とは違うところに原因があったと想像します。（続く）

キーワード　食道がん

60歳代の男性に好発し、消化器のがんの中では難治性。早期がんは、ほぼ無症状。日本では９割が扁平上皮がんであるが、欧米では腺がんの割合が多い。喫煙とアルコールとの関連が深い。