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「医療否定本」の正しい読みかた、読ませかた

2013年05月04日(土)

医療否定本が溢れて、医療現場は混乱している。
今週発売の日本医事新報の連載には、「否定本」について書いた。
以下、日本医事新報より引用させていただく。
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日本医事新報5月号 町医者で行こう 
         「医療否定本」の正しい読みかた、読ませ方

 

巷に溢れる医療否定本

 大型書店の医学関連本コーナーを覗くと、「医療を避けるべき」ことを啓発するような書籍が本当に増えたなと感じる。よく売れるため特設コーナーを設置している書店も多い。これらの本を読んでみると、たしかに興味深い点や共感できる点、自己反省させられる点がある。たとえば医者は血圧やコレステロールをやたら病気にしたがる、製薬会社と組んで金儲けをしているという指摘は、先日の医学部教授の医学論文が、利益相反などに問われた騒動を連想する。地域では製薬会社が主催する勉強会が増えている。勉強の機会が増えるのはいいが、本当に正しい情報なのだろうかという疑問が常にある。

一方、否定本にはどう考えてもウケ狙いのおかしな指摘も多い。書いてあることの真偽に関しては、玉石混合としか言いようがない。我々医療者は、こうした否定本とどう対峙するべきであろうか。本稿では「医療否定本」の正しい読みかた、読ませ方について考えてみたい。

 

急増する深刻な「被害者」

 先日、患者さんがめまいを訴えて私のクリニックを初診された。血圧を測ると250もあった。食事、運動療法を指導し、降圧剤を1種類処方した。1週間後に来院されてが、血圧はまったく同じであった。聞くと、薬は全く飲んでいないとのこと。「ベストセラー本には降圧剤は一切飲むな、と書いてあったから飲まなかった」と。また、それまで治療していた患者さんが来なくなり中断した方も何人かいる。家族に聞くと、否定本を読んでから薬をすべて止めたそうだ。その1週間後に脳梗塞で倒れたと聞き、言葉を失った。

胃内視鏡でせっかく早期胃がんを見つけても、病院への紹介状を拒否した患者さんもいた。超高齢者ならいざ知らす、働き盛りの早期がんを本人の意思で放置するという選択をされ、困った。助かる命が、否定本で奪われている例が増えているのではないか。

また別の患者さんは、がんの在宅医療を依頼されている。がん拠点病院で外来抗がん剤治療を受けていたが、否定本を読んでからピタっと通院を止めたと、家族に泣きつかれた。末期がんの患者さん宅には、否定本が置いてある確率が高い。

否定本はがん検診を全面否定し、国が掲げるがん検診の受診率向上をはじめとするがん対策を真っ向から否定している。検診を受ける、受けないの自由はもちろんあるだろうが、余りに偏った情報で患者さんの利益が奪われた場合、その責任は誰が負うのだろうか?また奪われたがん医療の国益に、誰が対峙すべきだろうか。素朴な疑問が頭に浮かぶ。

否定本で患者が幸せになればいが、不利益も相当多いと感じている。また日常診療の中で、否定本を巡る患者と医療者の間で、相当な時間が不毛に消耗されているのではないだろうか。そうした不利益に対して、商業出版の世界は責任を負わない。

 

医療者からの正しい啓発を

 出版社からみれば、情報が玉石混合であっても売れればなんでもいいのだろう。だから、とにかく煽る、煽る。とにかく売れればいいようだ。がん検診の話かと思いきや、がんの手術や抗がん剤治療になり、気がついたら生活習慣病やインフルエンザの話に飛んでいる。

すべて否定すれば読むほうも理解し易くスッキリするだろう。筆者の医学、医療に対する積年の不満、不信が読者の心を掴み大きな支持を得ている。しかし身内が抗がん剤治療中の家族が否定本の広告を見て泣いている現実も忘れてはならない。メデイアによる市場原理主義が良質な現代医療を破壊し、副作用が多々生じている。メデイアという市場介入により、良好な患者・医師の信頼関係が破壊され、歯がゆい思いをしている患者や医療者は多いだろう。

また「インフルワクチンを打ってはいけない」という記述に、我々現場の医療者はどう対峙すべきだろうか。社会的影響力を持った否定本を静観するのではなく、国民に正しい啓発をするのも、医師会や医学会、そして良心ある医療ジャーナリズムの責務ではないだろうか。反省すべきところは反省し、しかし反論すべきところはしっかり反論しないと、静観では認めたことと認識されるかもしれない。国際情勢と同様、医療界は毅然とした態度で否定本と対峙すべきである。関係者の奮起を期待したいし、自らもそう発信したい。

 

「平穏死」は医療否定ではない

私はこの半年間に、タイトルに「平穏死」という文字が入った本を3冊書いた。「平穏死・10の条件」、「胃ろうという選択、しない選択 平穏死からみた胃ろうの功と罪」、「平穏死という親孝行」の3冊だ。お陰さまで3冊とも、多くの医療者を含み市民から大きな支持を頂いている。この3冊は終末期医療の在り方に疑問を呈した本であり、決して医療否定の本では無いことはこの場をお借りしてしっかり書いておきたい。時々、否定本の仲間に間違えられるからだ。緩和医療の重要性や胃ろうという便利な道具の使い方を分かり易く述べていることは、読んで頂ければすぐに理解していただけるはずだ。現代医療をもっと上手く使うべきだ、そのためには患者は自己決定を知り、もっと賢くなろうと説いている。

私は人気歌舞伎役者であった中村勘三郎さんの最期についての否定本の記述に大きな疑問を抱いている。「勘三郎さんは、抗がん剤をしたから死んだ。がんの手術をしたから死んだ」という記載には、故人はもちろん、一緒にご尽力された関係者はどんな想いなのだろうか、と胸を痛めている。すでに某一般メデイアに3ケ月にわたり連載したが、抗がん剤がいいとか悪いとかではなく、考えるべきは「止めどき」であると考える。また「早期発見、早期治療」はたしかにある。2人に1人はがんになる。3人に1人はがんで死ぬ。ならば6人に1人は、がんになるががんで死なない。多くは、早期発見・早期治療で助かっているのだ。市民にはいつもそう説明している。初夏には、そのようなことを書いた書籍を世に問い、医療否定本に疑問を投げかけたい。その節には、ふたたび本誌の読者のみなさまの、ご批判も賜りたい。

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この記事へのコメント

私も先生の、「平穏死10の条件」、「胃ろうという選択、しない選択 平穏死からみた胃ろうの功と罪」は読ませていただきました。「平穏死10の条件」を読んだ段階では、正直なところ理解できず、どちらかと言えば "何もしないことを美" としていると勘違いをしていました。 その後、石飛先生と講演会をされているときにお話を聞いて、「あぁ、この先生の言いたいことはこれなんだ」とやっと理解できました。頭が良くないので、すみません。

私の周りの方や、訪問看護の方も、クリニックの医師なども、長尾先生のことは知っているものの、以前の私のように勘違いをされている場合もあるように思います。 文章は、その時の読み手の考え方や、状況にもよるのかなと、思う時があります。

テレビも雑誌や本も、マスコミは一方的な内容ですし、インターネットも双方向とは言えない部分もあると思います。 一つの分野ではなく、幅広く多くの本を読んだり、ネットでも深く検索をしたりして、たくさんの情報を持ったうえで、判断をしてゆき、場合によっては方向転換をする勇気も必要に感じます。
けれど、年齢がある程度になると、頭が固くなるのか、理解力も判断も、厳しくなるように、自分の家族を見ても思いますし、自分もそういった部分があるので気を付けなければならないと思います。

最近は在宅医で大失敗しています。悪徳な方、身近にいるものなのですね。。。遠方でガン治療を続けているとことを知っている循環器内科医に酷い目に合っています。訪問看護師も始めは善意であったようですが、いつの間にか、医療経営に関する波に流されてしまいました。
こうして、反省も多くある日々ですが、自分たちの医療を家族で考える際には、多くのお医者様たちが教えてくださる情報には大変助けていただいています。

長尾先生を始め、多くの医師の意見を読みつつ、自分たちにとって納得できる医療を選び、家族の残された時間を大切に過ごしてゆきたいと考えています。

Posted by よしみ at 2013年05月05日 05:41 | 返信

”読ませ方”! 本性が出てしまいましたね。(なんとarrogantな)

Posted by 通りすがり at 2013年05月06日 01:23 | 返信

確かに、抗がん剤を、服用しない治療をするなら、抗がん剤を否定していらっしゃるお医者さんに、診て貰うべきですね。抗がん剤の代わりに、放射線療法をして下さるそうですから、何もせずに、放置していらっしゃるわけではないようです。
ただTVで、癌幹細胞の説明では、抗がん剤は、一般的癌細胞を死滅させるが、癌幹細胞は、死なない。かえって、癌幹細胞「、転移し易い」というような事を。NHKの「関西熱視線」で言っていたように聞きました。それで、「では抗がん剤は飲まない方がよいのかしら」と思いました。朝日新聞では「大腸癌の薬が、癌幹細胞に効く」と書いてありましたけど。

Posted by 大谷佳子 at 2013年05月07日 02:26 | 返信

「正しい読みかた、読ませかた」という所に興味を持ちました。
こういう本て、人によっては、ものすごい影響受けてしまうんですよね。
正しいか、正しくないかは置いといて、極論に走りがちになるんですよね。
自分は、どちらかと言うと、「否定本」寄りの、意見を持っています。
本屋でチラリと立ち読みした位で、「胃ろう」も「抗がん剤治療」もやりたければやればいいし、厭ならやらない、好きにすればいいのに、で、俺はやらない、といった考えでした。
とはいえ、興味はあったので、図書館で、「否定本」を二冊借りて読んでみました。
『「平穏死」という選択』石飛幸三と、『「医療否定」は患者にとって幸せか』村田幸生を、読みました。
制度の問題やら、世間体やら、感情的な問題やらで、自由でええやん、好きにすればええやん、などと言ってられない問題ではないのだなと痛感した。
でも、やっぱり「胃ろう」は、厭だなと思う。

Posted by 匿名 at 2013年08月15日 11:50 | 返信

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