高齢者の前で納棺体験や死ぬ話をすることはいくらでもある。
しかし本物のお骨、祭壇を前にして平穏死の話をすることは初めての経験。

来られている方がたは先輩の医療人も多く、
緊張して何を話したらいいのか頭の中が真っ白になった。

場所が場所だし、笑うような話をする場所でもないし・・・

故人は素晴らしい医療人として生を全うされた。
私より２０年先輩。

その先生は、病気になっても病院医療と在宅医療の両方を
上手に使われて、神から与えられた「生」を楽しまれた。

胃瘻になっても、口から美味しいものを食べられて
温泉旅行を楽しまれていた。

平穏死から平穏生へ。
そう話すつもりだったが、しどろもどろになっていた。

その先生と私はいくつかの共通点があった。

私が無我夢中で研修していた３０年前に、その近くで
病院を立ち上げられ、無我夢中で診療されていた。

生まれたのは、滋賀県の伊吹という場所。
実は「抗がん剤１０の条件」に登場する娘さんの名前も「伊吹」。

なんという偶然だろう。
「抗がん剤１０のやめどき」を御霊前に置かせて頂いた。

会場には、顔見知りの方が何人かおられた。
「なんでお前がここにいるの？」と聞かれた。

会が終了しても、初めて出会った方が何人か話しに来てくれた。
まさに故人が新しいご縁を提供してくれている。

お通夜やお葬式は大切だ。
しかしどうしても行けない場合がある。

偲ぶ会はいい。
新たなご縁が生まれる。

人のご縁が活きる。

生前葬より偲ぶ会。
同じ食事をして酒を飲んで故人の話をしたら、故人も喜んでいるのでは。

生まれて初めての偲ぶ会での講演が無事終わった。
恥ずかしくて穴があったら入りたかったが、いい夜であった。