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医療の不確実性とは?

2013年12月15日(日)

「医療の不確実性」とは?
「医療事故調査委員会議論」とは?
市民のみなさんにも分かり易く書かれた文章がMRICから流れてきたので転送する。
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医療事故の再発防止のために

 

東京都葛飾区おその整形外科 

於曽能  正博

 

20131215日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

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●医療の不確実性

医療機関で治療を受けても思ったようにうまく治らないことがおありではないでしょうか。「どうしてこんなことになってしまったのか」ご不明な点があれば、先ずは担当の医師にお尋ね下さい。現代の医療は日に日に進歩しています。マスコミなどで「こんな病気でも治る」との紹介がなされていますから、病気や怪我をしたときに「完全に元の体に戻りたい」と願うのは当然ですし、それを医療者に期待する気持ちも良く分かります。しかし現実はほとんどが「治る例がある」というだけのことが多いのです。そして残念ながら医療には不確実性と限界があって、「やってみないとわからない」ことが少なくありません。そのために「この治療をすれば良くなります、絶対安全・大丈夫です。」という約束はできないのです。このあたりは車の修理等とは大きく違うところです。

診察や治療の瞬間瞬間では医療者は常に最善と考える方法を選択しているのですが、後から振り返ると「ああしたほうが良かった」ということが少なくありません。たとえうまくいった手術や処置であっても、さらにより良い方法がなかったのかを繰り返し検討する事によって医療は進歩してきたのです。「医療は昔から常に試行錯誤の繰り返しであり、かつ結果を保証するものではない」のです。そして、これからもできる限りの安全を確保しながらも試行錯誤は続き、医療は進歩していくのです。

「いくら準備や練習をしていても、必ずよい結果が出せるものではない」というのは何も特別なことではなく、たとえばアイススケートや体操の演技、オーケストラの演奏などと同じです。「瞬間の判断を迫られること・やり直しがきかないこと」は同じですが、医療の場合は「健康と生命に直結する」ということが決定的に違うのです。

 

●システムエラー

ところで、医療事故の再発を防ぐにはどうすべきでしょう。たとえば間違った薬を注射された場合など、間違えた医師や看護師を処罰すれば二度と同じ事故は起きなくなるでしょうか。実際に起きた過去の例では、看護師が消毒薬を注射器に入れて使おうとしたとき、それを知らない別の看護師が患者さんに注射してしまったという痛ましい事故がありました。この事故ではどちらの看護師を罰しても再発防止になりません。看護師に注射器の中に消毒薬を入れるという発想をさせた病院の「文化・風土(システム)」そのものを変えない限り事故はなくなりません。他には、似た名前の薬を間違えたり、同じ薬でも2%と10%の濃度のものを取り違えたり、1週間に一回投与すべき注射を毎日打ってしまったり、といった例がありました。これらも事故を起こした医師や看護師を罰しても、また別の医療者が同様の事故を起こしてしまいます。再発防止のためには、似た名前の薬を作らない、濃度は1種類にする、薬剤部は1週間ごとに使う薬は連日出さない、といった対策(システムの変更・改善)が必要です。

 

●「カイゼン」

皆さんは「なぜ、事故が起こる前に現場の医療者が危険を感じとれないのか。『カイゼン』をしないのか。」と思われるかもしれません。日本の製造業が世界に誇る「カイゼン」は経営陣から指示されるのではなく、現場の作業者が中心となって知恵を出し合い、ボトムアップで問題解決をはかっていくシステムです。必要なら製造ラインを止め、皆で集まって対策を協議します。もちろんラインを止めた作業者が罰せられる事はありません。

医療の場合は一刻を争います。手術・治療を止めて皆を集めて協議する事はできません。その瞬間に一瞬の判断が求められ、目の前の患者さんの治療を継続しなければならないという特殊性をもっているのです。

 

●「業務上過失致死罪・業務上過失傷害罪」と「後出しじゃんけん」

医療事故に関与した医療者には「業務上過失致死罪・業務上過失傷害罪」が課せられることがあります。これは、「どんなに医療者が最善を尽くしても結果が悪く、且つ『後から調べて問題点があれば』罪に問う」という法律です。これは例えて言えば「転倒したらスケート界・体操界追放、演奏中の不協和音はクビ」というのと同じです。「後出しじゃんけん」で罪を問われてしまうのです。

 

●立ち去り型サボタージュ

僅かな判断の遅れが重大な結果を招いたときに、それまでの医療者の功績は一切考慮されないのでしょうか。どんなに技術が優れていても、責任感が強く長年患者さんのために頑張ってきても、たった一つの結果が期待通りに行かなかった時に担当医を罰しようとするならば、現場の医師は訴追の不安に耐えられなくなります。

リスクが多いほどやりがいもあります。今まで医師は「ありがとうございました。」の一言で疲れも吹き飛び、徹夜をしても食事抜きでも喜んで頑張ってきました。しかし「うまくいって当たり前。失敗をしたら責任を取れ。」では、医師はリスクを避ける方向に追い込まれてしまいます。4回転ジャンプを常に成功させることはできないのです。よく効くが強い副作用の出る可能性のある薬の使用や、命に直接関わる手術の実施を躊躇する場面も出てくるかもしれません。今、産科が危機的な状況に立たされています。なぜなら、お産そのものが健康だった妊婦が次の瞬間に命を落としてしまうこともある危険性をはらんでいる上に、どうしてもある一定の確率で障害児が生まれてしまうからです。

 

●医療事故の再発防止のために

世界を見回せば、飛行機のパイロットと医師は、故意に起こした事故でない限り刑事訴追を受けないことが主流です。医療事故に対してWHO(世界保健機関)は、再発防止のための調査が行われるべきで、責任追及のための調査を行うべきではないと勧告しています。責任追及の調査と再発防止の調査は目的がまったく異なるために両立しません。再発防止のためには、事故の原因になり得るものを徹底的に洗い出すことが必要ですが、当事者がそれに全面的に協力しなければ、正しい調査はできません。しかし責任追求型の調査を行えば、当事者の全面的な協力を期待することには無理が生じるのです。「あの時ああすれば良かった。こういう方法もあった。」という「カイゼン」は望めません。自らの責任を問われかねないからです。当然医学の進歩も止まります。

再発防止型の調査によって事故を減らして将来の医療被害を防止するか、責任追求型の調査によって当事者に厳しい処罰を行い将来の利益を見送るか、二者選択が求められているのです。

 

●医療事故調査委員会

いま厚労省は医療事故調査委員会を制度化し、すべての医療における死亡事故を調査して、調査結果を裁判に利用できる法律を準備中です。医療において意図しない結果がすべて第三者に調査され当事者の責任を追及されるようになれば、多数の医師が現場を立ち去る恐れがあります。

医療は患者さんと医師との間で、リスクを含めた話し合いを基盤に行われる「相互の信頼」に基づいた共同作業です。不幸にして発生した予期せぬ出来事も、双方で選択した医療行為の結果なのです。万一「事故」と呼ばれる事象が発生しても、医師が誠実に説明し遺族の了解を得ることができれば、医療は完結します。そしてその事故調査の結果は将来の医療の安全性を高めるために役立てなければいけません。日進月歩で進歩する医療を崩壊させないために、すべての医療「事故」を犯罪捜査の目で監視する世界標準から外れた事故調設立の見直しを心から希望します。

 

この文章は東京保険協会の雑誌「診療研究」12月号に掲載されたものです。

作成に当たっては日本全国の方々から多くのご助言を戴きました。ここに厚く御礼申し上げます。

 

追記。

●「再発防止」

個々の事故報告書に再発防止策が盛り込まれていると、訴訟の際にかなり不利になるようです。以下はメディカルトリビューン11月14日号17ページからの引用です。「現在も、医療事故があった場合、院内で委員会が開かれることがありますが、『改善点』などを書いてしまうと、あっさりと裁判所は有責を認めてしまいます。これを覆すのは至難の業です。」

●医師の自律

医師は医師である前に人間です。憲法で保障された基本的人権を有しています。「医師の自律」も必要ですが、その「自律」を行なった根拠となった情報は行政・司法などまわりの世界と完全に切り離されていなければなりません。「正直者ほど得をする」制度にしていただきたいと思います。

●医療の内と外

本文にもありますように、医療は患者さんが亡くなられ遺族に説明をするまで続きます。いくら説明を行なっても遺族が納得されないのなら、それ以上は医療の外となり司法の仕事です。この「医療の内と外」をあいまいにし、かつ強制権を持つ制度ができてしまうなら、取り返しのつかない事態となることでしょう。

 

本文・追記ともに著作権は放棄しますので、よろしければご自由に改変・転送なさって下さい。

 

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この記事へのコメント

私の父が、在宅医に「インフルエンザに罹患している」と診断されて、39℃の熱があるのに、突然スキーに遊びに行ってしまったので、在宅医の母親(看護婦)の命令で、救急病院に、入院したら、10日後に「MRSAに罹患している」と言われて、尿道カテーテルを、急きょ引き抜かれました。
父は20日~25日くらい苦しんで死にました。
救急病院の担当医に「父がMRSAで死んだ事を皆に話ますよ」と言ったら「どうぞ」と仰いました。死亡診断書を貰いに行った時に看護婦さんに、お世話になりましたと挨拶したら「私達皆、MRSAの保菌者なんです」と仰ったので、保険所にそのことを話しました。そうすると、怒られたのです。別の開業していらっしゃるお医者さんにですけど。
MRSA(メシチリン耐性ブドウ球菌)を病院内でペットとして飼っていらっしゃるなら、看板に「当病院にはMRSAを飼っています。老人や体力のない人は入院しないでください」と明記してくださったら、入院しなかったのにと悔やまれます。
看護婦さんが「私達は皆、全員MRSAの保菌者だ」と仰っているから、保険所に相談しただけなのに、裁判でも起こして、お金を請求したように怒られるなんて思いもよりません。
他の上品な奥さんも、私を自分の車に呼び入れて「姑がこの病院の療養病床で、MRSAをうつされて死んだのよ」と仰ってしました。
病院が黙っているから、知らない老人が何人もMRSAに感染しては死んだのです。
私が保険所に報告して、厚生省の感染症研究所のメールを送ったから、今は皆、当たり前みたいに「肺炎球菌ワクチン」を打って貰えるのです。
私のしたことが悪いことなら、それこそ訴えて、警察に引き渡したらいいじゃないですか?
因みに、芦屋に住んでいる時は、開業のお医者さんは皆、阪大卒の優秀はお医者さんばかりだったので、このように悔しい思いはしたこともないし、聞いたこともありませんでした。
私の申し上げている事でなにか、間違いがありますか?

Posted by 大谷佳子 at 2013年12月17日 03:05 | 返信

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