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医師法21条改正を巡る議論
2014年05月22日(木)
憲法議論、集団的自衛権議論に比べたら優先順位は低いかもしれない。
しかし今後の医療の方向性を定める上で極めて重要な議論であると思う。
とても全貌を説明できる能力は無いが、以下の論評から推察して欲しい。
ちょっと難しいので、一般の方はパスして下さい。
このブログは私自身の防備録でもあるので・・・
以下,m3.comから転載させて頂きます。
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医師法21条、法改正の必要なし - 田邉昇弁護士に聞く◆Vol.1
最高裁判決の「外表異状説」で通知を
2014年5月15日(木) 聞き手・まとめ:橋本佳子(m3.com編集長)
医師法21条に基づく医療機関による警察への異状死体の届け出数はここ数年
は、ほぼ横ばいだが(『医療事故、被害者からの届出は微増』を参照)、いま
だ21条の解釈や届け出をめぐっては、医療現場で混乱が続き、届け出を契機に
警察の捜査が始まるケースも後を絶たない。
医師で弁護士の田邉昇氏は、21条の解釈について、2004年の東京都立広尾病
院の最高裁判決に基づき、「外表面説」で判断すべきと主張する。外表面説と
は何か、最高裁判決をどう理解すればいいのか――。今通常国会に提出されて
いる“医療事故調”法案では、「予期しない死亡」を第三者機関に届け出ると
しており、この問題と併せて、田邉氏にお聞きした(2014年5月8日にインタビ
ュー。計3回の連載)。
――2004年の都立広尾病院事件の最高裁判決において、「医師法21条に基づく
異状死体の届け出」がどのように判断されたのか、改めてその解釈をお教えく
ださい。写真田邉昇(たなべ のぼる)氏名古屋大学医学部卒業後、血液内科
医として研さんを積む。厚生省(当時)勤務などを経た後、司法試験に合格、
今は臨床医を続ける傍ら、弁護士として活躍。
都立広尾病院事件の最高裁判決は、二つの規範を立てています。一つは、異
状死体の定義で、「外表面説」を採用したこと、もう一つは、診療関連死であ
っても、検案の対象になるということです。
まず「外表面説」ですが、医師法21条には、「医師は、死体又は妊娠四月以
上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に
届け出なければならない」と書いてあるわけです。最高裁の「異状」の解釈に
ついてですが、この文言の解釈は、いろいろな取り方がありますが、「外表面
説」は法律論的に言えば、合憲限定解釈という手法を用いています。
どうして「外表面説」という考え方を取ったかと言うと、医師法21条につい
ては、憲法38条1項の黙秘権を侵害していないかが問題になっていたからです。
例えば、医師が自分の診療で、医療過誤の疑いがある事例を異状死体として届
け出ることを罰則付きで強制することは、医師に、自ら犯罪を強制的に告白さ
せるという点で、憲法38条1項に違反する可能性があるのです。だから、最高
裁判決では、診療関連死か否かとは全く無関係に、あくまで「外表を検案して、
異状があると認めたとき」を届け出るとしています。こう解釈しておけば、黙
秘権侵害の問題が生じませんからね。
合憲限定解釈することは、罪刑法的主義の観点から問題視する刑法学者もい
ます。刑罰を科す際には、刑法の条文から一義的に「何が刑罰の対象になるか」
が分かる必要があるというのが、罪刑法定主義の基本です。最高裁判決は、「そ
のように書いてあると普通に読める条文だ」と言っているわけですが、「二つ
の規範が明確に読み取ることが難しい」というのが刑法学者の指摘です。
合憲限定解釈も、これはこれ自体で法律論的には問題視すべきですが、もう
一つ問題点があります。最高裁調査官による権威ある解説本である『最高裁判
例解説』でも記載されていますが、「診療関連死は、死体検案書ではなく、死
亡診断書を書く」というのが、当時までの厚生労働省の解釈。医師の間でも、
診療関連死は検案の対象ではないので、異状死体の届出対象にはならないとい
う認識が一般的でした。
しかし、最高裁判決の直前ぐらいから、国立大学附属病院長会議常置委員会
中間報告(2000年5月)、国立病院リスクマネジメントマニュアル(2000年8月)、
4病院団体協議会報告(2001年3月)や外科系13学会(2001年4月)が、「診療
関連死でも、異状死体として届け出る」という提言を出すようになり、その流
れで、最高裁判決でも、診療関連死を検案の対象に含める定義付けをしたと解
釈できます。
医師法21条は、過失犯の処罰規定がないので「うっかり異状に気づかなかっ
たので、届けませんでした」という場合は処罰の対象とはしていません。「異
状が分かっているのに、届けなかった」「これは、届け出るべき対象だ」とい
った認識があるにもかかわらず、届け出ない場合に処罰の対象になります。
では当時、「診療関連死があったら、検案して、異状が認められた場合には
届け出るものだ」という認識が、医師の間で醸成されていたと言えるのか。醸
成されていない場合、「違法性の意識の可能性がない」ことになり、一般的な
刑法の考えではやはり故意がなく、処罰できないことになります。そこを踏み
込んで、厚生労働省の通知もないのに、「学会でも、診療関連死体も異状死体
だと言っているのだから」と、「診療関連死も検案の対象に含む」と端的に言
ってしまっていることが、最高裁判決の怖いところであり、刑法理論としての
問題です。
もっとも、最高裁判決には問題があるものの、医師法21条の解釈としては、
比較的限定的に扱っている一つの明確な基準であると私は考えています。
――2004年の都立広尾病院事件の最高裁判決以降、21条について判断した判決
は。
(2008年8月の)福島県立大野病院事件の福島地裁判決でも、医師法21条の
判断がされていますが、前述の最高裁判決に全く触れていない上に、「診療中
の患者が、診療を受けている当該疾病によって死亡したような場合は、そもそ
も同条にいう異状の要件を欠くべきと言うべき」と判断しています。裁判官は、
最高裁判決を読んでいなかったのか、読んでも意味が分からなかったのかは分
かりません。そのほか、2004年の最高裁判決が出された以降にも、何例か医師
法21条違反で問われた事例はあります。
県立大野病院事件の福島地裁判決が出る前の頃は、「原因が分からない診療
関連死については届けた方がいい」と届け出るケースが多かったようですが、
最近はそうした事例が顧問先の病院では少し、少なくなりましたね。「遺族が
騒ぐから届け出る」というのも、以前は多かった。近頃は届け出ても、警察の
方が、遺族が動いていなければ、以前に比べて、あまり動かなくなったのでは
と思います。
――それでも医師法21条について、いまだ混乱がある中、「何らかの解釈通知
を出すべき」という意見もあります。この辺りはどうお考えですか。
そうですね。都立広尾病院事件の最高裁判決の解釈を通知で明確化すれば、
特に法改正をする必要はないと思います。
――医師法20条については、厚生労働省は通知を出しました(2012年8月31日
の検案書交付の解釈通知。『24時間後も診察すれば死亡診断書の交付は可能』
を参照)。
その通知は、「現場が混乱しているから」という理由から出されたものです
が、医師法20条以上に、21条の方が混乱していると思います。けれども、今の
“医療事故調”の話があるから、通知を出すのを止めているのかもしれません。
役所は、通知を出すときに関係省庁や省内の関連部局に合い議を出しますが、
いろいろ言われそうな通知になりそうですからね。
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“事故調”の届出、刑罰追加の懸念 - 田邉昇弁護士に聞く◆Vol.2
――今国会に提出されている“医療事故調”の法案では、「医療に起因する、あるいは起因すると思われる死亡・死産であって、当該管理者がその死亡・死産を予期しなかったもの」を第三者機関に届け出る仕組みになっています。これはどう解釈すればいいのでしょうか。
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法案では「医療機関の管理者が予期しなかったもの」と規定されています。医療機関の管理者は医師ですが、個別の診療の全てに関与しているわけではありません。個別事例について、管理者が具体的に死亡・死産の予期の可能性を判断するのは無理であり、それを求めるのは、そもそもおかしな話。したがって、管理者に求められるのは、「一般的な事例の知見として、そうしたことが予期できるかどうか」という判断になります。例えば、整形外科の手術後に、急に患者が死亡した場合、「肺塞栓か」とは医師であれば誰でも予期できるでしょう。急な死亡自体は全て、医師である管理者は予期していたということになりますし、誤薬についても、多数の誤薬事件の報道があるのですから、当然予期していた事件ということになります。
もっとも、個別事例と一般的な事例の予期について、両者の間に線を引くことは難しい。引こうとすれば、恣意的な線の引き方になります。今後、厚労省は、届け出基準などについてガイドラインを作成するとしていますが、果たしてどこまで具体的に定めるのでしょうか。類型を適当に作って、例えば、「手術時に、血管損傷が起きたら、予期しなかった、とすべきだ」などとしたら、現場感覚とは異なるガイドラインになってしまう。血管損傷が予期できるかどうかは、やはり個別事例によって異なります。
法律論から言えば、国民に義務を課す法律の構成要件を、行政機関のガイドラインで規定するのは、かなり危険なことです。刑法上は普通はやらない方法ですが、今回の改正医療法の“医療事故調”の届け出については、今の法案では刑罰が伴わないので、かまわないと思っているのかもしれません。まずガイドラインで定める。それが浸透し、既成事実になり、「このようなものを届けましょう」というのが、医師の中の規範化された段階で、刑事罰にする。このような流れを狙っているのだと思います。
――後から刑罰を追加することが予想される。
はい。ガイドラインで届け出対象が定められると、マスコミが「届け出数が少ない」「悪徳病院が、届け出るべき事例を隠している」などと批判するようになると、「刑事罰を科して義務化していないから問題だ」という風潮になる。まずガイドラインを作り、あとは緩やかな罰則を作り、どんどんその罰則を強化する。これは当然予想される流れであり、厚労省も当然、考えているのではないですか。
さらに、もう一つ、怖い点があります。例えば、キシロカイン10%の投与で、患者が死亡した事案があるとします。キシロカイン10%をいまだに救急カートに置いていること自体が問題であり、置いていたとすれば、管理者がその管理責任を問われ、業務上過失致死罪を科される可能性があります。管理者自身が届け出ることによって、自分の刑事責任を負わされることになると、黙秘権の問題がまた生じてきます。管理過失は広範ですから、黙秘権の保障の範囲も広範で、届け出の強制は許されないというべきです。
――“医療事故調”も、届け出制としている限り、入口の部分から様々な問題が生じる。
だから届け出の基準はガイドラインに委ね、刑事罰は置かないとしているのでしょう。(厚労省が2008年にまとめた、“医療事故調”の)第3次試案の時は、医師法21条改正が念頭にあったため、届け出に対しても刑事罰的な考え方が入っていた。今回はあえて入れなかったのでしょうね。しかも、届け出ないことに対して、何のペナルティ―も科していない。届けた後で、調査に応じない場合には、名前の公表という非常に緩やかな規定がありますが、実効性はまずないでしょう。「そんな緩やかな規定であれば、届け出なくてもいい」という解釈もできる。
――「届け出なくてもいい」という判断ができるものの、一方で、ガイドラインでどう定められるか、今後刑罰が追加される怖さもある。
今の医療現場には、「医療事故はシステムで論じるべきであり、個々の医師の責任を問うのはおかしい」という声が強い。そうなると、システムを構築できる管理者に処罰を科す話にもなる。JR西日本の福知山線の脱線事故、明石花火大会の歩道橋事故などでも、管理責任がある人を処罰しようという動きがあるでしょう。
これは、捜査機関としては、手間はかかるけれど、権限が拡大する話でもあります。医療事故では、今まではカルテなど関係書類しか押さえられませんが、管理責任を問うとなると、院長室まで入れるようになり、全ての記録を押収できるようになるからです。システムの「問題」としても、それを誰が、どのような形で問うかは大きな問題です。
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