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2025年 終の棲家は?

2014年08月05日(火)

現在発売中の日本医事新報の連載に先日の神戸の日本ホスピス在宅ケア研究会
のレポートを書かせていただいた。
2025年 あなたの終の棲家は?これを全国の医師にも聞いてみた。
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日本医事新報7月号  2025年、あなたの終の棲家は? 長尾和宏
 

第22回日本ホスピス在宅ケア研究会全国大会イン神戸
 
 去る7月12、13日に第22回日本ホスピス在宅ケア研究会全国大会が神戸ポートピアホテルで盛大に開催された。大会テーマは、「あなたは考えていますか?2020年終(つい)の棲家を」だった。2020年は東京でオリンピックが開かれ、日本中がオリンピックムード一色になる年だ。その5年後の2025年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり介護を必要とする人口がピークを迎える。2025年の労働力人口は5820~6320万人になると予測され、一方介護職員数が212~255万人と労働力人口の3.4~4.4%すなわち23~29人のうち1人が介護に関係する仕事に従事しなければ成り立たない社会になる。2025年の全死亡数は160~170万人と予測され、そのうち約40万人の終の棲家がどうなるのかが国家的課題になっている。さらに2025年の世帯主が65歳以上の世帯が4983万世帯でその3分の2は高齢者だけの世帯となる。

 2025年に自分自身や家族が無事老いを迎えるために、5年前の2020年までに何を準備しておくべきかが、大会のメインテーマ。2020年に十分な準備ができれば少しは安心して2025年を迎えることができるはず。これは実は患者さんのためというより、団塊の世代やその周辺にある私たち自身の課題でもあるのだ。
 
「日ホス」が目指すのは市民目線の「地域包括ケア」

 「日ホス」の愛称で親しまれている本研究会は、市民の目線で医療・介護・福祉を考える全国組織である、不肖、私も理事を拝命している。日ホスは市民が主役であるため役員や大会実行委員には医療・介護・福祉職以外に市民や学生やボランテイアが沢山数加わっている。会場で「先生」と呼ぶことは固く禁じられていて、間違って口にした場合100円の罰金が取られるくらい徹底してフラット志向だ。同様の全国組織は他にもあるが、日ホスは草分けでありこれほどまでに市民の参加が多い研究会はないだろう。全国大会には毎回数千人の参加者があり、どの会場も超満員となることで有名な研究会でもある。それぞれの専門性をさらに深めてゆくために「市民部会」「グリーフ部会」「スピリチュアル部会」などの「部会」があり、それぞれに独自の企画を任されている。市民目線から、自分が受けたい医療・ケア、受けたくない医療・ケアを前もって提示するリビング・ウィルやアドバンス・ケア・プラニングに関する企画なども目白押しだった。医療・介護・福祉関係者はもちろん研究者、実践者、僧侶、厚労省関係者、ジャーナリストなど実に多彩な顔ぶれが集っていた。ここには病院や診療所というカテゴリーも無い。「ホスピス」という言葉は、ここでは、ハードではなく「ホスピスマインド」という意味で使われている。

 私は「医療は市民が造るもの」だと思っているが、思い返せば本研究会で鍛えられてきた結果、そう確信するに至ったような気がする。在宅医療はもはや「地域包括ケアシステム」という視点で議論される時代だ。またどこに行っても「医療と介護の連携」が話題であるが、裏を返せばそれだけ連携できていないということ。医師の意識変容、介護保険制度の改善が急務のはずだ。そんな中、本研究会が目指しているものは、市民目線での「地域包括ケア」の構築だ。気がつけば今後の医療・介護の本道を議論する場に成長していた。
 
「映像で語る平穏死」で4時間の講演

 今回は、全国規模の研究会にもかかわらず、4時間という極めて長い講演時間を頂く幸運に恵まれた。そこで「映像で語る平穏死」と題して、20本を超える平穏死に関連した秘蔵映像を一挙に観て頂いた。そこで女優の木内みどりさんなど4人のコメンテイターらと語りあうという企画に挑戦した。驚いたことに600人を超える聴衆のほとんどが4時間中ずっと聴いてくれた。メイン会場や他の会場でも興味深いイベントが並行して行われる中、裏番組の制作責任者として素直に嬉しかった。「人生の最終段階」や「穏やかな最期」への関心の高さを、まさに肌で感じることができた。

  こうしたテーマは、ややもすれば観念的になりがちだ。しかし私たちは現場なので難しい理屈より、感覚や実践を重視したい。そうした想いから、4時間すべてを「映像」だけとし、パワポによるプレゼンは一切無しと決めた。一夜漬けの準備でのぶっつけ本番で臨んだが、理屈より感性に訴えようとした企画は成功だったようだ。自分の中では、大冒険だったが楽しい4時間だった。
 
 翌日午後の市民公開講座では、金子稚子氏(流通ジャーナリストの故・金子哲雄氏の奥さま)が、「死後のプロデユースーエンデングノートの向こうにあるものー」という演題で講演された。夫のがん闘病生活や在宅療養の様子、そして在宅看取りまでユーモアいっぱいに熱く語られた。自分の死のみならず、死後のプロデユースをもしていた彼の生き方に深く感動した。また彼の介護経験からがん医療や緩和医療の遅れを痛烈に批判された。私は司会を拝命していたが、稚子さんの話を聞きながら日ホスの目指すものと全く同じであることに気がついた。いや、そのものだった。観客ともども、私自身も沢山の学びを得た。
 
コウノメソッドの河野和彦医師との出会い
 
 2日目の午前中に「地域で認知症を支える」という企画があった。その中でコウノメソッドで知られる名古屋のフォーレストクリニックの河野和彦先生が講演された。その前夜、神戸に到着されたばかりの河野先生とその企画者の御配慮で懇談する時間が偶然与えられた。私は、コウノメソッドは本でパラパラ読んである程度ハ知っているつもりだったが、本人とお会いできたので2時間くらいあれこれ質問してみた。「コウノメソッドとは何か?」「現在の認知症医療とどこがどう違うのか?」から始まって、「なぜ、自分の名前をつけたのか?」など、初対面にも関わらずズケズケと直球の質問を沢山させて頂いた。
 
 河野先生は、間髪をおかず的確な直球で返して頂いた。それも「目からウロコ」ともいえる内容ばかり。「認知症医療にこそ必要な個別化医療」と書いたり語ったりしている自分ととてもよく似た感性であることの気がついた。発売わずか4ケ月で8刷りになった拙書「ばあちゃん、介護施設を間違えたらもっとボケるで!」(ブックマン社)で指摘したことに通じる内容を河野先生から聞くことができ驚いた。これまでいろんな認知症専門家の話を聞いたり質問をしてきたが、これほど的確で腑に落ちる答えを聞いたことはない。
 
 専門医ではない私にいう資格が無いのかもしれないが、現在の認知症医療や多職種連携に大きな疑問と危惧を感じている。誤診の多さ、誤った薬物療法の多さ、誤ったケアなど・・・。町医者の戯言かもしれない。それは、がん対策基本法の基本精神が充分の活かされていないがん拠点病院や地域医療連携の在り方や、本来の精神が活かされていない公的介護保険制度とどこか似ている。そんな悶もんとした中での河野先生との出会いは、よき盟友との出会いに思えた。年齢も同じでファンになってしまった。半ば諦めていた薬物療法に再度期待を奮い立たせて頂いた。さっそく翌日、「コウノメソッドとユマニチュードの統合」という演題で院内で講演したくらいだ。

 「映像で語る平穏死」という宿題のご褒美として、2日間にわたる河野医師との対話が与えられたような気がした。いくつになっても学会や研究会に行くのは、こうしたサプライズをどこかで期待しているのだろう。日ホスに関り続けることで、またひとつ賢くなった。ちなみに日ホスの来年の全国大会は、8月29~30日、横浜で開催される。テーマは、「共に創るー最期まで家で生きる社会―」。沢山の全国の「ヘン」な人との出会いを楽しみにしている。地域包括ケアとは、「ヘン」な人が推進していくものであると思っている。
 

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