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医師法21条に関する最高裁判決
2014年11月28日(金)
医師法21条という難問について連日、アピタルに書いている。
都立広尾病院事件がどのような決着だったのか、
福島県大野病院事件がどうだったのか、知っている人は少ない。
都立広尾病院事件がどのような決着だったのか、
福島県大野病院事件がどうだったのか、知っている人は少ない。
11月28日(金) 医師法21条に関する最高裁判決
医師法21条の解釈を巡って、医療界は揺れています。
その専門家である田邉昇弁護士(医師)は医師法21条の
解釈の変遷について解説されました。
1994年に出た日本法医学会の異状死ガイドラインでは、
「明らかな診療中の疾病死以外は全て異状死」とされ、
21条の拡大解釈との批判がありました。
その経緯については当時、脳死移植を進めている現状があり、
脳死判定につなげたいという背景があったと説明されました。
そして、1999年に起きた東京都立広尾病院事件では、
担当医と院長が異状死体の届け出を定めた医師法21条違反
に問われました。(担当医は略式命令で終了)。
(1)異状死体の定義(A:「異状」とは、外表面説か、経過異常説か、
B:「検案した医師」とは診療中の死亡診断は、検案に当たるか)と、
(2)医師法21条は黙秘権の侵害に当たるかの2点が裁判の争点でした。
そして都立広尾病院事件の2004年の最高裁の判決では、
「検案とは医師が死因等を判定するために死体の外表を検査すること」
「検案して異状があると認めた時は警察署に届け出る」とされ、
「外表面説」を採用する内容でした。
(2)の医師の黙秘権についてはあくまで「外表の異状」の有無を
届け出るにすぎず、「届出人と死体とのかかわり等、犯罪行為を
構成する事項の供述までも強制されるものではなから、
黙秘権侵害に当たらない」とされました。
以上は、すなわち違憲判決をするのではなく、医師法については
合憲限定解釈をし、黙秘権侵害の問題を解決したことになります。
田邉氏は、外表面説を取る医師法21条の届け出範囲は意外に狭いため、
「医師法21条による介入を恐れて、医療事故調を作るべきという
議論は誤りである」と強調されました。
また厚労省や医師会が、医師法21条の解釈を医師や市民に
正しく伝えないことも問題として指摘しました。
私も田邉氏の見解にまったく賛同するものです。
一般の市民にとっては、何の関係もない話に聞こえるかもしれません。
しかし医師は、全員、まずは訴えられないことを考えて医療をします。
すなわち「医師法21条」が、かならず頭の片隅にあるものなのです。
だから医療機関で、あれほど承諾書にサインをさせられるのです。
医師と患者の関係とは、ひとつ間違えれば、被告と原告の関係に
豹変する可能性を常に秘めています。
ですから、訴訟の根幹をなす医師法21条の憲法解釈はすべての医師
にとって根源的な問題でその解釈次第ではハイリスク科(外科や産科)
の医療崩壊が加速する可能性があるため、極めて重要な議論なのです。
PS)
昨夜は、群馬県前橋市で終末期医療について講演しました。
医師会長と市長がしっかりタッグを組んで認知症ケアに
取り組む決意を表明され、とても頼もしく感じました。
このように、これからは医療界と行政・市民が普段から
近い関係を構築しておくことが大切だと思います。
前橋市のような自治体が、良い見本となって欲しいです。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
11月29日(土) 届け出ると逮捕されるか?
浜松医科大学医学部法学教室の大磯義一郎教授は、
「医師法21条の法的問題と医療事故調査制度への課題」
という演題で、田邉氏に続いて論じられました。
大磯氏も、田邉氏と同様に、2004年の東京都立広尾病院事件の
最高裁判決に触れ、医師法21条が合憲とされた理由について、
(1)(異状死体の届出は)公益性が高い、
(2)医師免許に付随する合理的負担、
(3)異状死体があったことのみの届け出である
と整理しながらも、いずれに関しても疑問を投げかけました。
たとえば、(3)については、都立広尾病院事件の場合、
院長は、医師法21条違反だけでなく、
「虚偽有印公文書等作成および同行使罪」で有罪になっています。
医師は、死亡診断書もしくは死体検案書の作成も求められ、
「異状死体の届け出のみ」では済まない状況にあるのが現状です。
実際、広尾病院事件の最高裁判決以降、医師法21条に基づく
異状死体の届け出やそれに基づく立件送致数が増加しました。
萎縮医療や“医療崩壊”が起きたのは、リスクを他者に「転嫁」
することができず「回避」する行動の結果だと説明されました。
但し、福島県立大野病院事件の2008年の無罪判決以降は、
「裁判所の医療に対する理解が進展し、検察も無理しなくなり、
司法と医療の相互理解」が進みつつあるとの見方を示しました。
大磯氏は、「悪者を作り上げて、徹底して責任追及するのではなく、
医療安全を進めていくことが、一般国民の最大の利益」と指摘した。
医療事故調査制度の設計に当たってはWHOドラフトガイドラインに
準拠し、事故について報告する者に対する「不可罰性」と、
患者や報告者の個別情報の「秘匿性」を厳守する重要性を強調された。
医師自身が信頼できる仕組み作りのためにも、これら二つが重要であり、
厚労省令やガイドラインも「不可罰性」と「秘匿性」が求められるとも。
特に課題は「出口」であり、遺族に対し、何を説明、
報告、通知するのかが最大のポイントになるとしました。
この5日間の記事は、一般の方はチンプンカンプンかもしれません。
しかし医師法21条と医療事故調の議論はこれからの日本の医療を
大きく左右する極めて難解で本質的な議論であるので紹介しました。
医師法21条の解釈を巡って、医療界は揺れています。
その専門家である田邉昇弁護士(医師)は医師法21条の
解釈の変遷について解説されました。
1994年に出た日本法医学会の異状死ガイドラインでは、
「明らかな診療中の疾病死以外は全て異状死」とされ、
21条の拡大解釈との批判がありました。
その経緯については当時、脳死移植を進めている現状があり、
脳死判定につなげたいという背景があったと説明されました。
そして、1999年に起きた東京都立広尾病院事件では、
担当医と院長が異状死体の届け出を定めた医師法21条違反
に問われました。(担当医は略式命令で終了)。
(1)異状死体の定義(A:「異状」とは、外表面説か、経過異常説か、
B:「検案した医師」とは診療中の死亡診断は、検案に当たるか)と、
(2)医師法21条は黙秘権の侵害に当たるかの2点が裁判の争点でした。
そして都立広尾病院事件の2004年の最高裁の判決では、
「検案とは医師が死因等を判定するために死体の外表を検査すること」
「検案して異状があると認めた時は警察署に届け出る」とされ、
「外表面説」を採用する内容でした。
(2)の医師の黙秘権についてはあくまで「外表の異状」の有無を
届け出るにすぎず、「届出人と死体とのかかわり等、犯罪行為を
構成する事項の供述までも強制されるものではなから、
黙秘権侵害に当たらない」とされました。
以上は、すなわち違憲判決をするのではなく、医師法については
合憲限定解釈をし、黙秘権侵害の問題を解決したことになります。
田邉氏は、外表面説を取る医師法21条の届け出範囲は意外に狭いため、
「医師法21条による介入を恐れて、医療事故調を作るべきという
議論は誤りである」と強調されました。
また厚労省や医師会が、医師法21条の解釈を医師や市民に
正しく伝えないことも問題として指摘しました。
私も田邉氏の見解にまったく賛同するものです。
一般の市民にとっては、何の関係もない話に聞こえるかもしれません。
しかし医師は、全員、まずは訴えられないことを考えて医療をします。
すなわち「医師法21条」が、かならず頭の片隅にあるものなのです。
だから医療機関で、あれほど承諾書にサインをさせられるのです。
医師と患者の関係とは、ひとつ間違えれば、被告と原告の関係に
豹変する可能性を常に秘めています。
ですから、訴訟の根幹をなす医師法21条の憲法解釈はすべての医師
にとって根源的な問題でその解釈次第ではハイリスク科(外科や産科)
の医療崩壊が加速する可能性があるため、極めて重要な議論なのです。
PS)
昨夜は、群馬県前橋市で終末期医療について講演しました。
医師会長と市長がしっかりタッグを組んで認知症ケアに
取り組む決意を表明され、とても頼もしく感じました。
このように、これからは医療界と行政・市民が普段から
近い関係を構築しておくことが大切だと思います。
前橋市のような自治体が、良い見本となって欲しいです。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
11月29日(土) 届け出ると逮捕されるか?
浜松医科大学医学部法学教室の大磯義一郎教授は、
「医師法21条の法的問題と医療事故調査制度への課題」
という演題で、田邉氏に続いて論じられました。
大磯氏も、田邉氏と同様に、2004年の東京都立広尾病院事件の
最高裁判決に触れ、医師法21条が合憲とされた理由について、
(1)(異状死体の届出は)公益性が高い、
(2)医師免許に付随する合理的負担、
(3)異状死体があったことのみの届け出である
と整理しながらも、いずれに関しても疑問を投げかけました。
たとえば、(3)については、都立広尾病院事件の場合、
院長は、医師法21条違反だけでなく、
「虚偽有印公文書等作成および同行使罪」で有罪になっています。
医師は、死亡診断書もしくは死体検案書の作成も求められ、
「異状死体の届け出のみ」では済まない状況にあるのが現状です。
実際、広尾病院事件の最高裁判決以降、医師法21条に基づく
異状死体の届け出やそれに基づく立件送致数が増加しました。
萎縮医療や“医療崩壊”が起きたのは、リスクを他者に「転嫁」
することができず「回避」する行動の結果だと説明されました。
但し、福島県立大野病院事件の2008年の無罪判決以降は、
「裁判所の医療に対する理解が進展し、検察も無理しなくなり、
司法と医療の相互理解」が進みつつあるとの見方を示しました。
大磯氏は、「悪者を作り上げて、徹底して責任追及するのではなく、
医療安全を進めていくことが、一般国民の最大の利益」と指摘した。
医療事故調査制度の設計に当たってはWHOドラフトガイドラインに
準拠し、事故について報告する者に対する「不可罰性」と、
患者や報告者の個別情報の「秘匿性」を厳守する重要性を強調された。
医師自身が信頼できる仕組み作りのためにも、これら二つが重要であり、
厚労省令やガイドラインも「不可罰性」と「秘匿性」が求められるとも。
特に課題は「出口」であり、遺族に対し、何を説明、
報告、通知するのかが最大のポイントになるとしました。
この5日間の記事は、一般の方はチンプンカンプンかもしれません。
しかし医師法21条と医療事故調の議論はこれからの日本の医療を
大きく左右する極めて難解で本質的な議論であるので紹介しました。
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