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グループホームと抑肝散
2015年04月24日(金)
最近、いくつかのグループホームとご縁を頂いている。
施設に入ると環境の変化で落ち着きがなくなる人が多い。
かと言って、向精神病薬はあまり使いたくない。
施設に入ると環境の変化で落ち着きがなくなる人が多い。
かと言って、向精神病薬はあまり使いたくない。
[漢方と診療」という雑誌の連載に
グループホームと抑肝散で書いてみた。→こちら
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漢方在宅診療日誌第6回 グループホームと抑肝散 長尾和宏
グループホーム(GH)入所で認知症が増悪!?
グループホーム(GH)とは認知症の人の”住まい”である。9人が1つのユニットとなり、2(18人)ないし3ユニット(27人)であることが多い。住民票をGHに移さない人もいるが、あくまで“自宅”である。従ってGHに訪問すると、“在宅医療”扱いとなる。ただし集合住宅であるので、平成26年4月から1回の診療報酬単価が4分の1に減額された。月に1回は一度に全員を診察して、もう1回は1人ずつ別の日に診察すれば以前の診療報酬が算定できるという摩訶不思議な通達が出たので毎日1人ずつ診察するという方法もあるらしい。筆者は面倒くさいので従来どうり2週間に1回のペースでまとめて診察している。ただし状態不安定な患者さんへの往診は労を厭わずにすることを心がけている。
自宅に訪問する在宅医療は20年前からやっているが、GHへの診療経験はまだ数年で、現在、数件のGHの在宅医療を依頼されている。認知症の人が自宅からGHに移ると、別人のように様子が変化することがある。特に自宅ではそれなりに生活していた軽度認知症の人は、入所当初は帰宅願望が強く出る。なんとかしてGHを脱出しようと暴れることも多い。しかし2~3ケ月もすると“抵抗”はしだいに“諦め”に変わり、“抑うつ状態”に陥る人もいる。共同スペースには利用者が料理を作る台所があるが、実際に料理を作っているところを見たことはない。入所者ができることまで介護職がしたり、バリアフリーなどの至れり尽くせりだと認知症が進みやすい。一方、介護職員不足が著しい昨今、散歩に同行する職員がいないため1年間以上、一歩も外に出してもらえない入所者もいる。まさに牢屋と変わらないGHに閉じ込められたら、認知症が進むのは当然であろう。
多剤投与と抗認知症薬の功罪
入所者の多くは、前医からの多剤投与がある。筆者は入所後2週間程度は、なるべく薬を変更しない。なぜなら、入所というストレスと減薬を同時に行うと、いわゆる周辺症状などの変化の要因分析に迷うからだ。新しい環境に少し落ち着いてから、ひとつずつ投薬を減らしていく。訪問薬剤師と施設の看護師に予め減薬候補に優先順位をつけてもらい、訪問診療時にそれに同意していくだけで薬剤数は確実に減っていく。あるいは本連載の第1回目に書いたように西洋薬数種類を漢方1剤に置き換えていく。漢方薬という合剤も多剤投与から脱却するための有用な処方箋である。
さて、筆者はこの1年間に抗認知症薬に関する本を3冊出版した。「ばあちゃん、介護施設を間違えたらもっとボケるで!」、「家族よ、ボケと闘うな!」(以上、ブックマン社)、「その症状、もしかして薬のせい?」(セブン&アイ出版)という3冊。そこで指摘したいことのひとつは、抗認知症薬の功罪である。中枢神経系に作用する薬剤は至適薬剤量の個人差が大きい。がん性疼痛ではオピオイドのタイトレーションを行うのに、なぜ抗認知症薬では国が定めた増量規定に一律に従わないといけないのか?抗認知症薬に個別化医療という視点が無い。それに従った結果、周辺症状が増悪するケースを沢山診てきた。抗認知症薬中止で簡単に回復するのだが、「無効だから増量」と誤って評価してしまった結果、興奮状態となり「炎上」するケースが多い。特に4種類の抗認知症薬は、前頭側頭型認知症(ピック病)には適応が無い。しかしアルツハイマー型認知症と誤診、誤処方されているケースも多い。こうした薬剤による興奮の炎を鎮めるために抗精神薬が加わるとフラフラになり転倒する。骨折→入院→寝たきり、認知症増悪という悪循環に至ったケースを沢山見てきた。つまり“医原病としての認知”症も増えている気がしてならない。
GH在宅に必要な抑肝散
もし突然に軟禁状態に置かれたら精神的に不安定になるほうが正常であり、なんともない、という方が異常であろう。実はGHにおいてそうしたことが起こり易い。しかし抗認知薬と抗BPSD薬を同時に投与されている人が相当いる。本来は、抗認知症薬を中止してもなお残るBPSDに対しては、パーソン・センタード・ケアやユマニチュードで対応すべきだ。それでも収まらない時にはじめて抗BPSD薬を考慮すべきだろう。
抗BPSD薬として知られている「抑肝散」のお世話になる機会が年々増加している。抑肝散の肝とは「肝臓」ではなく「心(エモーション)」であると理解している。また「抑肝散」は決して老人専用薬ではなく、小児の夜泣きや肝の虫にもよく効く代表的な瀉剤である。BPSDに対して我が国では抗精神病薬が安易に投与されている。その投与により死亡率が高まるという事実が知られるにつれて、「抑肝散」の使用頻度が高まっている。特にGH入所者においては、抗認知症薬ではなく「抑肝散」がファーストチョイスとなるケースが多い。エキス製剤が上手く飲めないという人には、訪問薬剤師さんに相談して服薬の工夫をする。ただし抑肝散も決して漫然と投与すべきではなく、必要な期間だけに留めるよう心がけている。周辺症状が落ち着くと、抑肝散も減薬する。抑肝散を上手に使いこなすことが、GHでの在宅医療成功の秘訣だと思う。
グループホームと抑肝散で書いてみた。→こちら
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漢方在宅診療日誌第6回 グループホームと抑肝散 長尾和宏
グループホーム(GH)入所で認知症が増悪!?
グループホーム(GH)とは認知症の人の”住まい”である。9人が1つのユニットとなり、2(18人)ないし3ユニット(27人)であることが多い。住民票をGHに移さない人もいるが、あくまで“自宅”である。従ってGHに訪問すると、“在宅医療”扱いとなる。ただし集合住宅であるので、平成26年4月から1回の診療報酬単価が4分の1に減額された。月に1回は一度に全員を診察して、もう1回は1人ずつ別の日に診察すれば以前の診療報酬が算定できるという摩訶不思議な通達が出たので毎日1人ずつ診察するという方法もあるらしい。筆者は面倒くさいので従来どうり2週間に1回のペースでまとめて診察している。ただし状態不安定な患者さんへの往診は労を厭わずにすることを心がけている。
自宅に訪問する在宅医療は20年前からやっているが、GHへの診療経験はまだ数年で、現在、数件のGHの在宅医療を依頼されている。認知症の人が自宅からGHに移ると、別人のように様子が変化することがある。特に自宅ではそれなりに生活していた軽度認知症の人は、入所当初は帰宅願望が強く出る。なんとかしてGHを脱出しようと暴れることも多い。しかし2~3ケ月もすると“抵抗”はしだいに“諦め”に変わり、“抑うつ状態”に陥る人もいる。共同スペースには利用者が料理を作る台所があるが、実際に料理を作っているところを見たことはない。入所者ができることまで介護職がしたり、バリアフリーなどの至れり尽くせりだと認知症が進みやすい。一方、介護職員不足が著しい昨今、散歩に同行する職員がいないため1年間以上、一歩も外に出してもらえない入所者もいる。まさに牢屋と変わらないGHに閉じ込められたら、認知症が進むのは当然であろう。
多剤投与と抗認知症薬の功罪
入所者の多くは、前医からの多剤投与がある。筆者は入所後2週間程度は、なるべく薬を変更しない。なぜなら、入所というストレスと減薬を同時に行うと、いわゆる周辺症状などの変化の要因分析に迷うからだ。新しい環境に少し落ち着いてから、ひとつずつ投薬を減らしていく。訪問薬剤師と施設の看護師に予め減薬候補に優先順位をつけてもらい、訪問診療時にそれに同意していくだけで薬剤数は確実に減っていく。あるいは本連載の第1回目に書いたように西洋薬数種類を漢方1剤に置き換えていく。漢方薬という合剤も多剤投与から脱却するための有用な処方箋である。
さて、筆者はこの1年間に抗認知症薬に関する本を3冊出版した。「ばあちゃん、介護施設を間違えたらもっとボケるで!」、「家族よ、ボケと闘うな!」(以上、ブックマン社)、「その症状、もしかして薬のせい?」(セブン&アイ出版)という3冊。そこで指摘したいことのひとつは、抗認知症薬の功罪である。中枢神経系に作用する薬剤は至適薬剤量の個人差が大きい。がん性疼痛ではオピオイドのタイトレーションを行うのに、なぜ抗認知症薬では国が定めた増量規定に一律に従わないといけないのか?抗認知症薬に個別化医療という視点が無い。それに従った結果、周辺症状が増悪するケースを沢山診てきた。抗認知症薬中止で簡単に回復するのだが、「無効だから増量」と誤って評価してしまった結果、興奮状態となり「炎上」するケースが多い。特に4種類の抗認知症薬は、前頭側頭型認知症(ピック病)には適応が無い。しかしアルツハイマー型認知症と誤診、誤処方されているケースも多い。こうした薬剤による興奮の炎を鎮めるために抗精神薬が加わるとフラフラになり転倒する。骨折→入院→寝たきり、認知症増悪という悪循環に至ったケースを沢山見てきた。つまり“医原病としての認知”症も増えている気がしてならない。
GH在宅に必要な抑肝散
もし突然に軟禁状態に置かれたら精神的に不安定になるほうが正常であり、なんともない、という方が異常であろう。実はGHにおいてそうしたことが起こり易い。しかし抗認知薬と抗BPSD薬を同時に投与されている人が相当いる。本来は、抗認知症薬を中止してもなお残るBPSDに対しては、パーソン・センタード・ケアやユマニチュードで対応すべきだ。それでも収まらない時にはじめて抗BPSD薬を考慮すべきだろう。
抗BPSD薬として知られている「抑肝散」のお世話になる機会が年々増加している。抑肝散の肝とは「肝臓」ではなく「心(エモーション)」であると理解している。また「抑肝散」は決して老人専用薬ではなく、小児の夜泣きや肝の虫にもよく効く代表的な瀉剤である。BPSDに対して我が国では抗精神病薬が安易に投与されている。その投与により死亡率が高まるという事実が知られるにつれて、「抑肝散」の使用頻度が高まっている。特にGH入所者においては、抗認知症薬ではなく「抑肝散」がファーストチョイスとなるケースが多い。エキス製剤が上手く飲めないという人には、訪問薬剤師さんに相談して服薬の工夫をする。ただし抑肝散も決して漫然と投与すべきではなく、必要な期間だけに留めるよう心がけている。周辺症状が落ち着くと、抑肝散も減薬する。抑肝散を上手に使いこなすことが、GHでの在宅医療成功の秘訣だと思う。
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この記事へのコメント
鹿児島でGH管理者させていただいているものです,いつも長尾先生のサイトで勉強させていただいております。一度鹿児島での講演拝聴させていただきました。以来ずっとサイトにお邪魔させていただいておりますが 、何より驚くのは先生のタフさです。私も立場上常時GHより連絡を受け、自分の親のような世代の方、その親御様方の命と救急時の判断、GHでみることはできない、などの特変や入退去のジャッジを一手に受けております。その中で保険制度の未熟さに悩み、介護を取り巻く現実にタメ息します。看る側も人、様々な現実があり、看られる側も人、年々adl は落ちます。依頼する側(家族)も人、忙しい暮らしの中、家族は利用者ばかりでもない。思うような協力も得られず、それにサポートする側(行政等)も人です。制度が改正改正と手探りで進む中、現場の私たちは毎日の現実をいなすことばかりで精一杯です。だからこそ私などに比べ物にならないほどに命と現実に向き合う先生の活躍ぶりとその苦心は想像もつきません、呉々もお体を大切にされてください。そして少なからず先生の 思いを受けている「人」達もいることは雄弁ならざる真実だと確信致します。今後ともご活躍をお祈り致します。
Posted by okaru at 2015年04月24日 10:30 | 返信
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