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終の棲家はどうあるべきか

2015年10月18日(日)

Docters Magazine11月号のオピニオンには
「終の棲家はどうあるべきか」で書いた。→こちら
難しいテーマだがこれから10年間、ずんずん大きくなる。

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ドクターズマガジン11月号  終の棲家はどうあるべきか    長尾和宏

 
 在宅医療推進政策がとられてはや10数年が経過した。メデイアには在宅看とりに関する記事が溢れているが、病院勤務の先生方にはどう映っているのだろうか、とても気になる。一部には「自宅での看取りをあまり啓発しないで欲しい」という声が出ていると聞く。「患者のためには、やっぱり家でしょう?」という空気は、「大切な家族を家でケアしない人間は冷たい人間だ」というメッセージを与えてしまうのではないか、という指摘である。
 
もし在宅看取りが押しつけに感じられたり、親の人生の最期の場として病院や施設を選んだ家族を不快にしているのであれば、考え直さなければならない。本来、穏やかな最期は、在宅でも施設でも病院でも同様に叶わないといけない。それが地域包括ケアであると理解している。しかしその実現のためには、様々な社会資源(家族の介護力、地域の医療資源、訪問看護ステーションの人員、地域による医師不足、などなど)の不足や偏在という重要な課題に、もっと踏み込まないといけない。
 
そもそも介護保険制度は国民のニーズに合っているのだろうか。またケアマネ制度も本当にこのままでいいのだろうか。在宅、在宅というスローガンは耳障りはいいかもしれないが、現実には患者さん全員に適応できるものではない。実際、在宅医療は国が狙うほどには伸びておらず、理想と現実のギャップを議論すべき時だと思う。在宅医の夜間対応の煩わしさ、家族の介護力不足、そしてコミュニテイ―の崩壊と言われるようにご近所力の低下などがあげられている。特に訪問看護に従事する看護師が全体の2.8%と少ないことも大きな課題だ。もし、様々な理由で在宅療養が困難であるならば、地域の療養病床や介護施設の活用にもっと目を向けるべきだろう。
 
また地域包括ケア病棟の活用で在宅療養が継続できるというケースも今後、増えてくるだろう。夢を語るならば、もし地域包括ケア病棟が地域の在宅の夜間対応も担ってくれたら開業医はどれだけ気楽に在宅に取り組めることか。もし夜間対応が無い在宅医療なら、取り組む医師や訪問看護師は爆発的に増えるのではないか。台湾の在宅医療では、がんに限ってであるが既に実現していた。
 
先日、知人が経営するある有料老人ホームの開設記念講演に呼ばれた。入居金ゼロで食事代と24時間見守り代を含めて家賃が月に15万円だという。介護サービスが内付けの施設を特定施設というらしい。サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)とよく似ているが、サ高住はすべて外付けである。従ってサ高住から有料へ流れて来る人が少なくないという。サ高住は比較的元気な人が対象で、有料は軽度の要介護者向けなのかと勝手に想像してしまった。私の診療所がある尼崎では、特養は10年待ちである。待ちきれない人は四国に行くか、老健狙いとなる。本当は小規模多機能がお勧め、と言いたいところだが数が少なくて、これまた狭き門だ。そうなると、月15万の有料老人ホームないし、月20万円のグループホームになるのだろうが、国民年金の人にはハードルが高い。
 
よく、施設か在宅かと言われる。しかし、両方という選択があり得る。つまり1ケ月の半分を自宅で過ごし、半分を施設でのショートステイで過すという方法がある。あるいは、施設に入所していても、月の3分の1を自宅に帰る“自宅への逆ショート”を活用している人もいる。行ったり来たりを上手に利用している人を見ていると、決して2者択一ではないことに気がつく。「住み慣れた地域で最期まで」というスローガンは、決して自宅だけとは限らず、このように相当に幅がある言葉だと理解したい。もし在宅療養が限界と感じた時は、躊躇なく施設や療養病床を活用することを広く啓発しないと、虐待や共倒れ、最悪の場合は介護殺人になりかねない。
 
在宅医療も質を問われる時代に入った。看とり数や看とり率が週刊誌で公表されて、悪徳業者は駆逐されつつある。しかし患者さんの視点に立てば、終の棲家選びで大切なことは、選択肢があることではないか。選択肢が多いほど、そして行ったり来たりできるほどいい。そうした自由こそが人間の尊厳であると考える。
 
 

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