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公論12月号「川島なお美という生き方」

2015年11月26日(木)

月刊公論の連載12月号は、「川島なお美といいう生き方」について書いた。→こちら
彼女のファンクラブ会長のA-mさんiのブログの写真に、毎夜、癒されている。
追悼ライブは、名古屋でやる、と言われれいる。

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公論12月号   川島なお美さんの生き方に学ぶ  長尾和宏
         最期まで舞台に立てた理由

 
亡くなる1週間前まで舞台に立っていた

 女優の川島なお美さんが胆管がんのために9月24日に54歳の若さで旅立たれた。川島さんは、2013年7月の人間ドックを受けた際に偶然にも胆管に直径2cmの腫瘍が発見され、その半年後の2014年1月に腹腔鏡手術を受けられた。しかし今年、がんの再発が判明したが抗がん剤治療を拒否し、亡くなる1週間前まで舞台に立たれていた。いつからか死を覚悟し、「舞台で死ねたら本望」とまで語られたという。多くの女優さんは体調が悪くなれば人前にはまず出ない。しかしご病気で痩せられた川島さんは、誰の目から見ても健康体とは程遠いシルエットになってもカメラの前に姿を見せてくれた。和服から仕立てたという美しいドレスを纏って、優しそうなご主人とともにシャンパングラスを片手に、優雅に笑ってみせられて、女優オーラが全開だった。

 「末期がんでも亡くなる1週間前まで仕事ができるものですか?」何人かからそう聞かれた。「もちろん、そんな人はおられます。ただし、いくつかの共通点があります」とお答えする。それは、1)最期まで抗がん剤をやっていない、やっていても末期になる前に止める、2)徐々に食べられなくなって痩せてきても高カロリー輸液をやっていない、3)充分な緩和医療を受けていること、だ。

 一言で言うなら少しずつ枯れていくことを“待つ”ことができるかどうか。“待つ”ためには緩和医療という土台が必要である。3つの条件を満たした時に、川島さんのように、最期まで仕事ができる。亡くなる直前まで、外出して仕事をしていたがん患者さんは、私が在宅で看とらせて頂いた方の中でも決して珍しくない。みなさん、がんの治療の選択だけでなくその“やめどき”も自己決定された。詳しく知りたい方は、拙書「平穏死・10の条件」と「抗がん剤・10のやめどき」(いずれもブックマン社)を参照されたい。
 
 
腹腔鏡手術という選択

 川島さんは胆管がんの腹腔鏡手術を受けられた。そもそも腹腔鏡手術は開腹手術に比べると手術時間は若干長くなるが、傷が小さいため痛みも少なく、術後の回復も早まり入院期間も短くて済む。実は腹腔鏡手術の利点は術者側にもあることはあまり知られていない。開腹手術ではお腹の中の限られた範囲しか見ることができないが、腹腔鏡を使うと内腔の奥までカメラが近づいて開腹では見ることができなかった血管まで鮮明に映るので、より安全に手術ができる場合が多い。ただし腹腔鏡手術は病状などによって適応できるケースは限られる。胃がんや大腸がんにはエビデンスがあり健康保険も適応されているが、胆管がんではまだ標準治療ではない。がんができる臓器によって腹腔鏡手術の現状は全く異なる。また大腸がんなどでは開ける穴が一つの単孔式手術も成果を挙げているなど、まさに日進月歩の領域で、その実績は施設間により大きな差がある。現在、行われているがんの腹腔鏡手術の対象は、開腹手術と同様に根治できると考えられるがん。術後の成績は胃がんや大腸がんでは開腹手術とほぼ同等と言われている。

 腹腔鏡手術を受けるがん患者さんが年々、増加している。川島さんは芸能人なので、傷を小さくして早く舞台に立つために腹腔鏡手術を選択したのだろう。そして手術後、1年半もご活躍され、亡くなる1週間前まで舞台に立てたという事実こそが、腹腔鏡手術という選択が間違いで無かったことを示している。つまり群馬大学での腹腔鏡手術事件は「手術死」だったが、川島さんの場合は「がん死」であった。決して両者を混同してはいけない。
 

がん性腹膜炎や腹水とどう付き合うか

 川島さんのがん細胞は胆管だけでなくお腹じゅうに広がり“がん性腹膜炎”に至り、命を奪った。お腹のがんの最終型は多くの場合“がん性腹膜炎”である。これは米粒大のがん細胞の小さな塊がお腹のなかに散らばっている状態。腸の外側に沢山の小さながん細胞の塊があり、お互いにくっつく結果、“癒着”をおこす。自由に動きまわれるはずの腸管が自由に蠕動運動できない状況に陥ると、消化液が停滞して口側に上がり嘔吐するが、その状態を腸閉塞と呼ぶ。

 川島さんは5ℓの腹水が貯まった状態で、亡くなる1週間前まで舞台に立ったという。そもそもがん性腹膜炎で貯まる腹水とどう付き合えばいいのだろうか。

 私は「腹水や胸水は決して異物ではなく炎症の結果に過ぎない。貯まる理由を考えよう」と常々説明している。実際、“がん性腹膜炎”という根本問題が解決しない限り、いくら腹水を抜いてもまたすぐに貯まる。だからできるだけ水を抜かない方法を提案する。まずは利尿剤により、栄養分を残したまま体内から水分だけを抜くことができる。

 もうひとつは、“待つ”ことだ。人間は生きるために1日最低1ℓの水分が必要だが、もし口から水分がほとんど入ってこなければ、人間は自分のお腹の中に貯まった水分を使って生き延びようとする。つまり何らかの理由で絶飲絶食になれば、生存のために必要な水分は主に腹水や胸水から提供されるはずだ。

 実は私はこの10年間、在宅ホスピスで多くのがん患者さんを最期まで診てきたが、腹水や胸水を抜いた人は一人もいない。ちなみに30年前の私は毎日、水を抜きまわるのが日常だった。まだ「平穏死」を知らなかった。

 川島さんはがんと共存しながら最期まで舞台に立たれた。がんの終末期に“枯れて”いく過程を“待つ”ことができた。川島さんの生き方は我々に穏やかな最期を迎えるヒントを沢山くれたように見えた。ご冥福をお祈りします。

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