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壊れていく自分に不安

2016年02月06日(土)

認知症になると被害妄想が出やすい。
一方、壊れていく自分に内心不安を抱えている。
そのあたりのことを、産経新聞の連載に書いた。→こちら
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認知症の基礎知識シリーズ第6回  被害妄想
                        壊れていく自分に不安
 
 昔、「認知症の人は病識が無い」と専門家に教わりましたが本当にそうでしょうか。たしかにかなり進行すれば自分が認知症であるという意識が無くなる人がおられます。しかしかなり進行した認知症の人でも親しく話しているうちに「私、オツムがパーになってね」など自分が認知症であることがちゃんと分かっている人が結構おられます。

 ある日突然、認知症になるわけではありません。いつのまにか気がついたら認知症になっていた、というのが認知症です。たいてい2~3年程度の予備軍の期間があります。生活の一部に支障を来すようになって初めて病的として扱われる状態になります。認知症になっていく過程を一番分かるのは家族ではなく実は本人自身です。昨日までできていた料理や化粧がどうも上手くできなくなる。ゴルフのスコアの計算ができなくなる。買い物に行ってお金の計算が出来なくなる。いつも通っているはずの道に迷い家に帰れなくなる・・・。誰だってそんな自分の変化に気が付いた時に愕然となり不安に襲われます。まさに自分が壊れていく感覚を味わいます。そこで誰かの助けを求めたくてもどうしてもプライドが邪魔をします。家族に医者に連れていかれてあれこれ質問されると記憶力の低下を隠そうという本能が働きます。

 「今朝、何を食べましたか?」と聞かれたら誰だって「馬鹿にするな!」と腹が立ちます。しかし本当に思い出せなかったら、次に誤魔化そうとします。実際は食べていなくても「ご飯を食べた」と。それを取り繕いと言います。決して嘘をついているわけではありません。上手く思い出せないので当たり触りのない返答で、とりあえずその場を切り抜けようとしているのです。

 考えてみれば我々の生活も日々、取り繕いだらけです。寝坊して会社に遅刻しても「電車が遅れて」などと言い訳をします。どんな人間でも小さな嘘を一度もつかない日など無いはずです。実は我々も日々、たくさん取り繕いながらもなんとか社会生活を送っているのです。認知症の人は短期記憶が障害されるので周囲の人にバレてしまうだけ。むしろ取り繕いは実は素晴らしい技術であり知恵のようなものです。しかし家族が「そんな嘘をついて!」と間違いを怒り飛ばした瞬間にプライドがひどく傷つきます。自分でも自覚している欠点を他人に指摘されたら腹が立つのは当たり前。ましてそれを責め続ける家族や嫁がいれば、マイナスの感情がどんどん蓄積されます。

 嫁が「お母さん、○○してあげる」という態度で接している限りその場では「ありがとうね」と取り繕っていても、徐々にそうした上下関係がとても辛くなります。たまには自分も「ありがとう」と言ってもらいたいもの。どんな人にも必ず承認欲求があります。そして絶対に逆転しそうもない相手との上下関係を一発で逆転する方法があります。それは「嫁が財布を盗った」と自分が被害者になることで目的が叶えられます。そうした「関係性の逆襲」のことを医療用語では、被害妄想とか周辺症状と呼びます。要は取り繕いや財布騒動は決して否定せずに、笑顔で上手に受け止めることで気分は落ち着かれます。
 
 
 キーワード 短期記憶
アメリカの心理学者 W.ジェームズが一次的記憶と名づけたもので,比較的短い秒単位の時間しか保持されない記憶。復唱しないかぎり自動的に消滅するとされ保持の長い長期記憶とは異なる機序であるとされる。
 

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