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「財布を盗られた」
2016年02月06日(土)
産経新聞・認知症の基礎知識シリーズ第7回 関係性の逆襲
嫁が財布を盗る?
「先生、ここだけの話ですが嫁が財布を盗るのです」。診察室に入って来るなり真顔でこうささやく高齢女性がいたなら、それだけで認知症かなあと疑ってしまいます。嫁がヘルパーさんであったり財布が宝石であったりもしますが、そういった訴えを「もの取られ妄想」と言い、たいていは女性です。ひとりで来院される場合もあれば、家族に付き添われて来られる場合もあります。泥棒にされたお嫁さんは、たいてい後ろで泣いていますし、息子さんはもの被害妄想だと分かっていても、どちらの味方につこうかオロオロしています。私は、「それは大変でしたね。注意しときますね」なんて言いながら、盗難を主張するご婦人の肩を持ちながら話題を全く別の方向に変えます。5分も話しているうちに、さっきまで盗難の訴えをしていたこと自体を忘れていることに気が付くことがあります。本人は最初は渋い顔をしていても、その頃には笑顔で自慢話に花を咲かせています。
そういえば「嫁が財布を盗った」というご婦人が3人連続で入って来られて面くらったこともありました。それくらい診察室で被害妄想の話を長々と聞かされる機会が増えています。そもそもこうした被害妄想はどこから来るのでしょうか。そして何故「嫁」なのでしょうか。ある介護の達人から「それは関係性の逆襲だよ」と教えられました。最初は「関係性」の意味がサッパリ分かりませんでした。達人曰く「認知症は医療の世界では脳の病気なんだろうけど、介護の世界では関係性の障害と呼ばれているんだ」とのこと。その関係性とは、人間関係とか夫婦関係とかいうように人と人との関係のことだそう。人の世にある関係性の多くには上下関係が伴います。たとえ家族や友人関係であっても微妙な上下関係が存在します。もし認知症の義母と嫁の間に知らず知らずの間に上下関係が生じた時、下になった側の心のどこかに必ず悔しい気持ち、可能なら逆転したい感情が生じます。多くの人は相手より上に立ちたいもの。それは人間の本能であり性なのかもしれません。
先週も述べましたが、お世話する人とお世話される人の間には知らぬ間にどうしても上下関係が生じがち。そしてお世話される側が「ありがとうございます」を何度も言っているうちにマグマのようなパワーが蓄積されます。いつかは自分も「ありがとう」と言われたい、上下関係を逆転させたい、という願望です。固定した上下関係を逆転させる方法は意外と簡単。自分が被害者になることです。被害者になるためには、モノを盗られたと主張することが最も簡単な方法です。それが真実かどうかなどもはやどうでもいいのです。嘘でもいいから自分が被害者になることで関係性を一挙に逆転できるのです。被害者になれば立場が上になれるのです。これはなにも認知症に限らず、世間一般で起きる人間関係のトラブルの報道を見渡しても同様の現象がよく観察されます。そう、被害妄想の正体は関係性の逆襲であることが多いのです。ですからその高齢の御婦人に薬を処方することは正しい解決法とは言えません。そうではなくお嫁さんの関わり方を変えることが正解なのです。そしてその「嫁」とは時に医者であったり看護師であったり介護士であったりケアマネであったりします。詳しくは「家族よ、ボケと闘うな!」(ブックマン社)を参照ください。
キーワード 被害妄想
「実際に被害を受けていない」にも関わらず自分が「実際に被害を受けている」と思い込んだり、被害を受け決定的な証拠もないのに犯人を決めつけてしまうような状態。「病気の症状である場合」と「精神的な不安定さから来る場合」の2種類がある。
嫁が財布を盗る?
「先生、ここだけの話ですが嫁が財布を盗るのです」。診察室に入って来るなり真顔でこうささやく高齢女性がいたなら、それだけで認知症かなあと疑ってしまいます。嫁がヘルパーさんであったり財布が宝石であったりもしますが、そういった訴えを「もの取られ妄想」と言い、たいていは女性です。ひとりで来院される場合もあれば、家族に付き添われて来られる場合もあります。泥棒にされたお嫁さんは、たいてい後ろで泣いていますし、息子さんはもの被害妄想だと分かっていても、どちらの味方につこうかオロオロしています。私は、「それは大変でしたね。注意しときますね」なんて言いながら、盗難を主張するご婦人の肩を持ちながら話題を全く別の方向に変えます。5分も話しているうちに、さっきまで盗難の訴えをしていたこと自体を忘れていることに気が付くことがあります。本人は最初は渋い顔をしていても、その頃には笑顔で自慢話に花を咲かせています。
そういえば「嫁が財布を盗った」というご婦人が3人連続で入って来られて面くらったこともありました。それくらい診察室で被害妄想の話を長々と聞かされる機会が増えています。そもそもこうした被害妄想はどこから来るのでしょうか。そして何故「嫁」なのでしょうか。ある介護の達人から「それは関係性の逆襲だよ」と教えられました。最初は「関係性」の意味がサッパリ分かりませんでした。達人曰く「認知症は医療の世界では脳の病気なんだろうけど、介護の世界では関係性の障害と呼ばれているんだ」とのこと。その関係性とは、人間関係とか夫婦関係とかいうように人と人との関係のことだそう。人の世にある関係性の多くには上下関係が伴います。たとえ家族や友人関係であっても微妙な上下関係が存在します。もし認知症の義母と嫁の間に知らず知らずの間に上下関係が生じた時、下になった側の心のどこかに必ず悔しい気持ち、可能なら逆転したい感情が生じます。多くの人は相手より上に立ちたいもの。それは人間の本能であり性なのかもしれません。
先週も述べましたが、お世話する人とお世話される人の間には知らぬ間にどうしても上下関係が生じがち。そしてお世話される側が「ありがとうございます」を何度も言っているうちにマグマのようなパワーが蓄積されます。いつかは自分も「ありがとう」と言われたい、上下関係を逆転させたい、という願望です。固定した上下関係を逆転させる方法は意外と簡単。自分が被害者になることです。被害者になるためには、モノを盗られたと主張することが最も簡単な方法です。それが真実かどうかなどもはやどうでもいいのです。嘘でもいいから自分が被害者になることで関係性を一挙に逆転できるのです。被害者になれば立場が上になれるのです。これはなにも認知症に限らず、世間一般で起きる人間関係のトラブルの報道を見渡しても同様の現象がよく観察されます。そう、被害妄想の正体は関係性の逆襲であることが多いのです。ですからその高齢の御婦人に薬を処方することは正しい解決法とは言えません。そうではなくお嫁さんの関わり方を変えることが正解なのです。そしてその「嫁」とは時に医者であったり看護師であったり介護士であったりケアマネであったりします。詳しくは「家族よ、ボケと闘うな!」(ブックマン社)を参照ください。
キーワード 被害妄想
「実際に被害を受けていない」にも関わらず自分が「実際に被害を受けている」と思い込んだり、被害を受け決定的な証拠もないのに犯人を決めつけてしまうような状態。「病気の症状である場合」と「精神的な不安定さから来る場合」の2種類がある。
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