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移動、徘徊という尊厳

2016年04月04日(月)

老年臨床看護の3月号には」「移動、徘徊という尊厳」を書いた。→ こちら
ただしこいうした尊厳、自由、権利は、リスクと引き換えにある。
認知症の人を閉じこめてはいけないことを看護師さんに知って欲しい。
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臨床老年看護3月号  移動、徘徊という尊厳  ―放牧療法、旅行療法―   
                             長尾和宏
 
動物は移動する生き物

 私は生来ズボラであるくせにジッとしているのが苦手な人間です。吉本新喜劇のギャグではないですが「止まったら死ぬねん!」です。我が人生には寝たきりという言葉は無く、もしそうなったら管を噛み切り這ってでも逃げようとすることでしょう。考えてみれば、ジッとしておらないのは動物の性でしょう。犬や猫でも狭いところに閉じ込めておけば元気が無くなります。しかし散歩に連れ出したら嬉しそうに走り出します。動くこと、移動することは動物が動物たる所以です。

 一方、人間は、相手が動物であろうが人間であろうが狭いところに閉じ込めることが大好きな生き物です。対象を管理するためには閉じ込めることが一番簡単な方法だからです。まあ、そんな理由からでは無いでしょうが街を歩けばハコモノだらけです。学校、役所、オフィスピル、ホール、ホテル、ショピングモール、そしてマンションなど。しかしこれらはその建物を出ようと思えば、自由意思でいつでも「脱出」できます。一方、自由意思で出られないハコモノも散見します。病院、施設、老人ホーム、刑務所などです。これらは勝手に出入りすることは許されません。そこには必ず、「管理する側」と「管理される側」がいて、その関係性が逆転することもありません。人は好んで前者のハコモノ群には入りたがりますが、人によっては後者のハコモノ群にも入りたがります。それは何らかのメリットがあると期待するから。たとえ「移動の自由」を制限されてもそれを上回る利益があるだろうと考えるからです。しかし歳を取れば取るほどその勝率は下がり、100%負け試合と分かっていても「移動の自由」を返上する人がいます。時にはすでにボケて判断できなくなったり、時には家族の意思でそうなります。

 
「歩く」効用の再確認

 「歩く」という動作は人間の基本動作ですが、そんなことを意識して歩いている人はまずいません。しかし歳を取り腰が悪くなりしばらく歩かないと歩き方を忘れそうになります。若い人でも歩くのが面倒くさくなれば簡単に自転車やタクシーに乗ります。それがクセになれば徐々に平均歩数は減っていきます。江戸時代の東京人は公共交通機関など無かったので、山手線の中くらいは全員平気で歩いて毎日通勤していました。関東と関西も東海道を歩いて普通に往復していました。現代人の数倍~数十倍の距離を歩いていたのです。それだけ歩けば、骨や筋肉はさぞかし鍛えられたでしょう。しかし現代ではそんな人は奇人変人の部類です。80歳を過ぎてエベレストに登った三浦雄一郎さんは東京都渋谷区千駄ケ谷の事務所から東京駅までの9kmを、20kgの荷物を背負い両足に各2kgの重しをつけて歩いて往復していると聞き、現代でもそんな人がいるのだ、と驚きました。私はまだ57歳なのに、80歳の人の1割も歩いていないと愕然としました。そこで歩く効用を書いてました。「歩くだけで9割の病気は治る!」(山と渓谷社)という本です。
さすがに「9割」という数字には専門家や世間様から怒られるだろうな、と相当な批難を覚悟していました。しかしお咎めはゼロで、むしろ賛同の手紙や思わぬ仕事がたくさん舞い込み驚きました。そして発売2ケ月以上経過した現在でもアマゾンの医者部門1位が続いていて著者が一番驚いています。本書の出版で確実に分かったことは「歩くことは意外と新しいこと」。実際、診察室内を患者さんにできるだけ綺麗な歩き方でと命じて歩いてもらうと、上手に歩く人など一人もいないことに気が付きました。そしてなにより自分自身の歩く姿を鏡で見た時に愕然としました。どこのメタボオヤジががこんなひどい歩き方をしているのか、と落ち込みました。上手に歩くには、それなりの知識と練習が必要なようです。
 

徘徊療法、放牧療法

 私は、認知症の予防や治療として「徘徊療法」を勧めてきました。徘徊とは目的を持ってウロウロすること。松尾芭蕉は東北を徘徊しながら後世に残る俳句を作りました。京都の学者さんは哲学の道を徘徊しながら思索に耽りさまざまな発見をしました。人間は、移動して徘徊する動物なのです。徘徊すると頭の中がスッキリしていろんなアイデアが浮かびます。セロトニンという幸せホルモンが分泌され自然な「セロトニン顔」になります。副交感神経優位になり全身の血流もよくなり、脳の神経回路も活性化します。生活習慣病はもちろん、うつ病、パニック障害、気管支喘息、膠原病などにも効果があります。認知症の人は中核症状も周辺症状も改善します。認知症予備軍(MCI)が認知症に移行する最大の予防法も徘徊であると考えています。本音をいえば抗認知症薬はほとんどの場合、必要ありません。早期発見・早期投薬という製薬企業や専門家のスローガンの嘘を見抜くことが市民や介護職にはもっとも大切なことです。それよりも「移動」、「徘徊」。

 認知症の人こそ住み慣れた街を徘徊することが大切なのです。徘徊できる環境造りや見守りシステムの工夫が認知症の進展を防ぎ、その人らしく地域で生活することを可能とします。そうした街づくりこそが地域包括ケア。略して地包(=痴呆)ケアだと全国各地での講演会で数えきれないくらい話をしてきました。

あるお寺さんがデイサービスをやっています。拉致車で集めた認知症の人をお寺の境内に「放牧」しているのです。要は特定のレクレーションメニューはできるだけやらず、各自の自主性に任せて放置しているというのです。将棋、砂遊び、庭いじり、昼寝・・・。管理せずに放牧すると、夕方帰宅する頃にはみな子供のような満足した顔になります。軽く日焼けしています。当然、夜はぐったり疲れているのでよく眠り、不眠や昼夜逆転とは無縁だそうです。その話を聞いた時、なるほど人間の本能を知っているデイサービスだなあと感心しました。
 

 
「移動支援」を支援する

 認知症家族や介護者を支援する西宮市のNPO法人「つどい場さくらちゃん」には「おでかけタイ」というボランテイア組織があります。どこかに行く時についてきてくれる有償ボランテイア。「つどい場さくらちゃん」では、毎年要介護5の認知症の人と介護者を連れて北海道や沖縄や台湾を旅行してきました。歩けない人はもちろん車椅子です。「え?要介護5なのに外国旅行?大丈夫?」と昔は私も思いました。要介護5なのに、ではなく要介護5「だから」外国旅行だそうです。もはや言葉が出なくなった高度の認知症の人でも旅行するとみなさん表情が柔らかくなり自然な笑顔が出ます。認知症の人こそ移動という尊厳を大切にしなければいけない、ということを教えて頂き、毎年「つどい場さくらちゃん」が主催する「かいご楽快(がっかい)」でお話をしています。今年は1月10日に開催され全国から700人もの人が集まりました。

団体旅行は性に合わない、ちょっと無理という人は、ヘルパーさんを自費で雇っての個人旅行をお勧めしています。毎月のように温泉旅行を楽しんでいるカップルがおられます。日曜日の宿泊ならどんな人気施設でも半額で泊まれます。どんなに認知症が進んでもその場が気持ちが良い悪い、料理が旨いかまずいかは一瞬で分かります。むしろ我々より敏感に一瞬のうちに嗅ぎ取ります。かくして認知症の人は外出したり旅行に行く度にどんどん元気になり、いい笑顔の時間が長くなります。それをお出かけ療法、旅行療法と呼んで宣伝しています。しかしハコモノの職員には「アホか!」という目で見られます。

人手不足で超多忙なハコモノ施設には無理なことを言っているのかもしれません。半ば諦めていた先日、あるグループホームの御一行様がある神社に参拝されている行列に出くわしました。なんと施設長以下スタッフ全員、入居者全員が団体で徘徊しているのです。数台の車椅子、手引きなど歩く姿はそれぞれですが、私が日頃こうして言っていることを実行してくれている現場を見て本当に嬉しかった。利用者さんたちはみな満足げでした。ちょっと太陽が眩しそうでしたが。バカにされても言い続けることが大切だ、と元気ももらいました。ハコモノ全盛時代には、普通に徘徊、旅行することが難しくなりつつあります。しかしだからこそ工夫して企画する喜びも大きいでしょう。「移動という尊厳」を感じる機会がどんどん増えることを願っています。そして移動を支援する人を支援する制度を考えていく時期です。

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この記事へのコメント

先生のような考え方が普通になってくれるよう、まずは自分の担当している利用者さんと、水平な関係を築きたいものです。
「徘徊」を好む利用者さんとは、この季節、自宅訪問(業界用語でいうところの「モニタリング」)と称して、お花見徘徊に嵩じています。笑顔満開です。

Posted by 平穏CM at 2016年04月05日 10:58 | 返信

移動、徘徊、旅行と言うお考えは、素晴らしいと思います。
でも団体で旅行する時は、70歳代、80歳代、90歳代と分けるか、それとも、「下肢のマヒはあるが、全体的に、健康」あるいは「90歳代で、どこも悪くいないが、全体的に機能低下が見られる」と言うランクでグループ分けが要るのではないでしょうか?
お医者さんは長尾先生お一人ですから、ベテランの看護師さんもついて言って下さればより安心と言う気がします。これまでは、少人数で、家族的雰囲気で、長尾先生を信頼していらっしゃるご家族ばかりですけど、大人数になれば、いろんなアキシデントが、起きるかもしれません。
こんなことを申し上げると、また長尾先生にお目玉を頂戴するかもしれませんけど、沖縄旅行では、ちょっとお疲れの様にお見受けしたお年寄りも気になりました。

Posted by 大谷佳子 at 2016年04月06日 08:12 | 返信

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