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認知症の薬をやめると・・・

2016年05月21日(土)

きらめきプラス6月号には、「認知症の薬をやめると・・・」で書いた。→こちら
認知症の相談が毎日舞い込むが、中止で改善した人がいっぱいいる。
しかし医学会と国では「そんな人はいない」ということになっている。
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[質問内容]
秋田市に住んでいる女性52歳からのご質問でず。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
主人が50歳の若さで前頭側頭型認知症と診断され、6ヶ月目に入りました。
精神障害者手帳が交付されましたが、等級は1級でした(若いので進行が早いと伺ってはいたのですが)。子どもがいないので可能な限り主人と向き合い話を聞くようにしているのですが、肝心なことが伝わりませんし、言った5分後には忘れている状況です。失禁も徘徊もあります。症状は沢山すぎて書ききれないほどです。でも仕事人間だった主人らしく、時々思い出したように「総務に今月いっぱい休むと伝えてくれ」と言われることがあります。そんな時は会社にはもう行けないという事をわかっていないのがかわいそうで辛くて主人に何も言うことができません…。やはり認知症は治らないものなのでしょうか。経済的なこと介護のことなど考えれば考えるほど、先々の不安に押しつぶされそうになりますが、何があってもこれからの人生、主人と一緒に過ごしていきたいと思っています。これから主人の為にどんなことをしてあげればよいのか、何かアドバイスいただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。
 


回答
 
まだ50歳とのことで大変な状況でしょうが、思いつくまま、お話しします。
 
前頭側頭型認知症とは

 まずは認知症=アルツハイマー型認知症である、と思っている人が多いようですが、そうではありません。報告者により差がありますが、私はアルツハイマー型認知症は認知症の約半分程度であると理解しています。第二は幻視やパーキンソン症状が特徴的とされるレビー小体型認知症。そして脳卒中が原因の脳血管性認知症。そして第四の認知症がご主人の前頭側頭型認知症で、1割強を占めるタイプです。言葉どうり脳の前頭葉と側頭葉が萎縮するタイプです。前頭葉の機能が低下すると様々な抑制が効かなくなります。理性を失った状態になると万引きや暴力などの反社会的行動が目立ちます。また毎日同じ行動パターンをとる常同行動も有名です。また側頭葉が萎縮すると言葉の理解力が低下します。「右手で肩を叩いて下さい」と言っても、「右手」も「肩」も分かりませんからトンチンカンな返答しかなく会話が成立しなくなりますがそれを意味性認知と言います。

 前頭側頭型認知症は当初は記憶や場所感覚は比較的しっかりしており外出しても迷うことなくちゃんと戻ってきます。ですからご主人の短期記憶が障害されて「徘徊」されているようですから、わずか半年間でアルツハイマー型認知症の要素も加わっているのだと理解しました。若いだけに進行が早いようですね。一級の精神障害者手帳が交付されたそうですが、今後の準備ができて良かったです。若年者の進行の早い前頭側頭型認知症は稀な病態と思われますが、もしそれが専門施設の診断でないならば専門医に再度診断を確認したほうがいい場合があります。特殊な脳炎など他の病態との鑑別が必要な場合があるからです。以下は、若年性の前頭側頭型認知症という診断が正しいと仮定した場合の話です。
 
進行スピードは一様ではない

 若年性認知症は稀な病態で、私自身も10例程度しか経験がありませんがその印象を述べさせて頂きます。たしかに高齢の認知症と比較して進行は早いようです。しかしある時点から進行スピードがゆっくりするケースがあります。寝たきりになりそうでなかなかならないような場合です。よいケア、よいリハビリスタッフに恵まれれば、寝たきりになるまでの時間をかなり延ばせるケースがあります。具体的には、普通の生活を続けることです。普通に一緒に食事をして毎日散歩することを心がけてください。
 もう介護認定を受けられているのでしょうか。40~64歳は2号保険者なので特定疾患に該当すれば介護認定を受けることができます。もし認知症の在宅診療を得意とする医師であれば特定疾患を合併しているかどうかその場でアドバイスしてくれるはずです。私はそんな時には介護認定をもらえるように様々な工夫をします。精神障害者認定はあくまで医療保険の話です。デイケアやショートステイなどの利用を想定すると介護認定がもらえるのならば、あったほうが助かるはずです。
 
 
薬物療法にはあまり期待しない

 認知症と聞くと、「進行を遅らせる薬があるじゃないか」と思われるかもしれません。しかし現在使用されている4種類の抗認知症薬はあくまでアルツハイマー型認知症のお薬です。一般に前頭側頭型認知症には、4種類の抗認知症薬はいずれも保険適応がないばかりか、興奮や易怒性のため有害です。これは大切なことですが、現実には専門医であっても前頭側頭型認知症に抗認知症薬を投与して暴れるなどして介護負担を増大させているケースを散見しますので、くれぐれも抗認知症薬の功罪について知っておいてください。詳しくは拙書「認知症の薬をやめると認知症がよくなる人はいるって本当ですか?」をご参照ください。
 前頭側頭型認知症は興奮症状が目立つ場合が多いので、抑制系の薬を要する場合が多々あります。その際に用いる抗精神薬はふらつきや転倒などしないような最低量を必要な期間だけ使用することが原則です。私は御主人さんのような場合は、お薬以外の方法を優先したほうが貴重な時間をより楽しめると思います。
 
 
旅行療法で改善例も

 たくさんある認知症ケアのなかでも私のお勧めは、小旅行です。認知症になったらもう旅行などできない、と諦めている人が大半ですが、私に言わせれば「認知症になったからこそ旅行に!」です。団体旅行が難しそうなら家族旅行でも結構です。ヘルパーさんを自費で雇って毎月、温泉旅行を繰り返しているご夫婦は予想以上の効果があります。温泉で体を温める、美味しいものを食べる、カラオケを歌うなどの刺激は、認知症の進行を遅らせます。もし泊まりが不安なら日帰り旅行でも構いません。

 経済的な面では、まずは障害年金について問い合わせてください。精神障害者認定と介護認定を活用して在宅介護で頑張っている人もおられますが、グループホームなどの施設に入所させる人もおられます。どれが一番いいとは一概に言えませんが、若年性の場合は介護負担が大きいようです。しかし身近な家族の存在感は大きく、頻回に顔をみせることは相当な安心感を与えます。

 残念ならが寝たきりになり、食べる量が徐々に減ってきた時に家族に必ず問われる質問は「胃ろうをどうするのか」です。90歳を超えた方なら「もう寿命」とそれを望まぬ家族が大半ですが、若ければ若いほど人工栄養法をするかしないか悩みます。私から見てとても困るのは、「胃ろうはイヤだけど、鼻からの経管栄養か高カロリー点滴栄養をやってくれ」という家族です。本来、鼻から管が辛いから、頚からの高カロリー点滴が生理的でないから「胃ろう」が開発され広く普及してきたはずです。ですからもし人工栄養法という延命治療を希望されるのであれば「胃ろう」にしてください。これは決して胃ろうを勧めている訳ではありませんので誤解なきよう。詳しく知りたい方は拙書「胃ろうという選択、しない選択」を参照ください。たいへん辛い選択ですが、今から「こころづもり」だけはしておいてください。
 

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この記事へのコメント

「前頭側頭型認知症は興奮症状が目立つ場合が多いので、抑制系の薬を要する場合が多々あります。その際に用いる抗精神薬はふらつきや転倒などしないような最低量を必要な期間だけ使用することが原則です。」
「最低量・必要期間のみ使用」へ至る前に、フェルガード100Mハーフを試してみたほうが賢明ではありませんか?
ガーデンアンゼリカが必要最低量でフェルラ酸が多いので、気持ちを落ち着かせ感情を穏やかにする作用を期待できます。
精神薬は微量でも、個体によっては強く反応が出るようです。使わずに済む方法があるはずだと思います。
たとえば、身近な漢方薬でも、半夏厚朴湯、柴朴湯、加味逍遥散など、精神安定作用があります。これらの漢方薬を、その人の他の症状に合わせて、たとえば、のどが詰まった感じとか腹筋が張ってるとか、精神症状を含めた全身を診て処方できる力量ある医師がいればいいな、と思います。

Posted by 匿名 at 2016年05月24日 11:52 | 返信

だいぶ以前に読んだ記事で、ヨーロッパの修道女たちが死亡後に脳を解剖したと。すると明らかにアルツハイマー病の脳であったにもかかわらず、当人たちが生存中はアルツの症状はなかったと。
修道女という特殊な生活環境ゆえに症状が出なかったのかもしれません。
しかし、脳のMRI画像でどこそこが委縮しているとか、そういったことが重要なのでしょうか。
要は、できることが減っていっても、穏やかに日々を過ごせて、短いかもしれないけれどその人なりの寿命を全うできれば、それで良いのではないかと。
認知症薬も向精神薬も、当面のごく短い期間は効果あるように見えるかもしれません。けれども年単位で考察すると、穏やかな日々を壊すだけだと思います。

Posted by 匿名 at 2016年05月25日 12:17 | 返信

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