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高齢者のHbA1cは7%台が最も安全

2016年09月14日(水)

産経新聞の毎週の連載コラムは8月30日から、糖尿病シリーズにうつった。
あまり面白くはないだろうが、基本的なことを書いていきたい。
第1~3回分をまとめて紹介したい。


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産経新聞・糖尿病シリーズ第一話   糖尿病を放置すると
                 糖尿病とがん・認知症の深い関係   →こちら
 
私は町医者として日々、糖尿病の患者さんを診ています。今日から8回、糖尿病に関連する話題を書きます。ご存じのように糖尿病患者さんは年々増えています。糖尿病が増えている理由とはなにでしょうか?歩かなくなったから?脂肪分の多い食事になったから?肥満が増えたから?どれも正解かもしれません。しかし最近の研究では高齢化が一番の要因であるという意見もあります。なるほど日本の糖尿病患者の3分の2が高齢者です。このように糖尿病の原因は加齢や生まれもっての体質や生活習慣などさまざまで、その人によって違います。

そもそもなぜ糖尿病を放置してはいけないのでしょうか。専門医はいわゆる3大合併症(網膜症、腎症、神経障害)の発症と進展を食い止めるためと答えるでしょう。2010年の日本糖尿病学会の発表では、糖尿病患者さんは一般人と比べて腎障害による死亡率は3.8倍、虚血性心疾患(心筋梗塞など)による死亡率は1.4倍でした。検診で糖尿病を指摘されて病院に行くと医師から「糖尿病を放置すると血管が詰まって心筋梗塞や脳梗塞になるぞ」と脅かされるでしょうが、たしかにそのとおりです。糖尿病があると脳梗塞や心筋梗塞の危険性が2~4倍も高くなるのです。だから放置してはいけないのです。しかし町医者としてつけ加えるとすれば「糖尿病を放置するとがんになるぞ、認知症になるぞ」です。実はこれが今日、一番言いたいことです。

糖尿病とがんは明確に関係があります。1990年代から糖尿病患者さんの死因の一位はがんであり、約40%を占めています。たとえば肝臓がんは2.5倍、膵臓がんは1.9倍危険性が高まります。特に膵臓がんは現在がんの第4位(男性は5位、女性は4位)で元横綱の千代の富士さんもこの病気で亡くなりました。一般に糖尿病があると、がんの危険性は1.2倍高まります。ちなみに喫煙は1.6倍ですからタバコの方がもっと危険であることも知っておいてください。両方あるとさらに危険です。

一方、糖尿病と認知症の深い関係も大きな注目を集めています。九州大学の福岡県久山町における長期間の疫学研究では、糖尿病は認知症の危険性を2倍高めることが分かりました。糖尿病になると記憶の中枢である脳の海馬の萎縮が進むのです。注目すべきは、糖尿病の人はたとえ認知症状を発症していなくても画像上では海馬が萎縮している事実です。町内に住む高齢者の脳の容積を頭部MRIで測定したとろ、萎縮している人の多くが糖尿病でした。糖尿病歴が長いほど脳の容積が小さいことが分かりました。海馬の容積を比較すると、糖尿病歴が10~16年だと糖尿病の無い人に比べて3%、17年以上だと6%小さいといいう結果でした。

 多くの場合、糖尿病は無症状です。口が渇くという症状は血糖値が400~500以上になった場合で重症糖尿病での話です。無症状だからと放置している人がいます。特に産業医をしていると定期健診でかなりの糖尿病を指摘されても放置している人を見かけます。そんな人には「がんや認知症になるぞ!」と言います。そして糖尿病の人こそがん検診、認知症検診なのです。
 
 
キーワード 海馬
脳の中にあり、唯一細胞分裂を繰り返す神経細胞が集まる器官。入力された情報の整理、取捨選択や記憶を司っている。形状がタツノオトシゴに似ていることからこの名がついた

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産経新聞糖尿病シリーズ第二回  糖尿病の2つの原因
                なぜHbA1c(ヘモグロビンエイワンシー)なのか  →こちら
 
 「インスリン」と聞くと糖尿病の人が打っている注射を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかしインスリンとは自分の膵臓のランゲルハンス島のβ細胞から出ているホルモンの名前で、今から95年前の1921年に発見されました。ブドウ糖は血液によって全身の様々な細胞に取り込まれてエネルギー源として利用されます。血液中のブドウ糖が肝臓、筋肉、脂肪組織に取り込まれる時にインスリンの働きが必要です。もし取り込まれないと血液中のブドウ糖は増えたままになり、異常に高い状態が続くのが糖尿病です。

 糖尿病の原因は大きく分けて2つあります。ひとつはインスリンがせっかく膵臓から出ても現場で働かない状態で、少し難しい言葉ですが『インスリン抵抗性』と言います。特に肥満がある人はせっかくインスリンが出ても肥大した脂肪細胞から様々な悪い物質が出てインスリンが上手く働かないように邪魔をします。肥満には皮下脂肪型と内臓脂肪型の2とおりありますが、特に内臓脂肪がインスリンの働きを邪魔します。メタボ検診では必ず腹囲を測りますがこの数字は内臓脂肪をある程度反映しています。ちなみに日本人の腹囲の正常値は男性85cm女性90cmで、それ以上は内臓肥満とされます。

 もうひとつの原因はインスリンの分泌が低下したり遅れることです。これは遺伝や加齢など肥満以外の原因です。生まれつきインスリンを分泌する能力が低い人がいますし、歳とともに分泌能は低下します。そもそも日本人はインスリンを出す力が弱い民族です。ですから少し太っただけでもインスリンの分泌が追いつかなくなります。肥満になればなるほど糖尿病になりますが20歳の時の体重より10kg以上増えた人が危険です。肥満の指標とはBMI。日本人はBMIが25程度の小太りでもインスリンが枯渇して糖尿病になり易い民族。もちろん糖尿病に関連する遺伝子にもよります。100近くある糖尿病関連遺伝子をたくさん持っている人ほど糖尿病になり易いことも分かっています。糖尿病は以上の2つの原因が重なってなります。人によって2つの原因の割合は異なるので、自分がどちらの原因が大きいのかを知っておくことは自分に適した治療を考える上で重要です。

さて血糖値は食事によって大きく変動します。早朝空腹時が同じ100でも食後2時間が150の人がいれば250の人もいます。血糖の上昇を感知してインスリンが分泌されるのですがその反応は小さかったり遅かったりブレーキの具合は人によって様々なのです。砂糖水を飲んで2時間後の血糖が200を超えていると“糖尿病“と診断されます。空腹時血糖が126を超えていても糖尿病と診断されますが、それが正常値でも食後血糖のピーク値を見ないと糖尿病かどうかは分かりません。ですから時には食後2時間血糖も調べてください。いずれにせよ1日3食なら血糖値にも3つのピークがあり、その変動の”面積“が大切です。過去1ケ月の血糖値変動の総面積を反映する指標がHbA1cという検査値で、6.5%以上が糖尿病です。だから血糖値に一喜一憂するのではなく過去一ケ月間の成績を反映しているHbA1c値をよく見てください。野球でいえば打率のような数字です。医療現場ではHbA1cを指標にして治療や指導や評価が行われています。
 
 
キワード BMI
BMI(Body mass index)とは身長の二乗に対する体重の比で体格を表す指数。男女とも22の時に高血圧、高脂血症、糖尿病等の有病率が最も低くなる。BMI25以上を肥満と判定している。


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産経新聞・糖尿病シリーズ第三回  血糖値の管理目標       
                高齢者のHbA1cは7%台が最も安全  → こちら
 
 糖尿病患者さんが増えている原因のひとつは高齢化です。歳をとるほどに膵臓のβ細胞が疲弊して血糖の上昇に呼応してインスリンを出す力が弱まります。町医者として同じ患者さんを10年、20年と診ていると、肥満や生活習慣の乱れが無くても年々血糖値が上昇して気が付いたら糖尿病になっていたという人が多くおられます。もちろん食事や運動を見直すのですが、薬を希望される方も多くおられます。しかし薬には大きな落とし穴もあります。今日は高齢者の血糖管理はどれくらいがいいのかというお話しです。

従来、過去1ケ月の血糖値の平均点に相当するHbA1cの目標値は、若い人も高齢者も一律6.5%以下でした。しかし本年6月、日本糖尿病学会と日本老年医学会は「高齢者の血糖コントロール目標」を発表しました。それによると元気な高齢者で飲み薬やインスリンを使っている人が目標とすべきHbA1cは前期高齢者は7.5%未満で、後期高齢者は8.0%未満とされました。これは目標値ですが下限値も設定されました。つまり前期高齢者は6.5%未満、後期高齢者は7.0%未満は下げすぎとのこと。またすでに中等度の認知症があるか寝たきりの人なら8.5%未満が目標で7.5%以下は下げすぎであると。HbA1cが8%というと、従来の基準では劣等生でしたが、新しい基準では認知症高齢者であれば優等生へと変わったのです。詳細はネットで検索するとすぐに出てきます。要はHbA1cは高値でも低値でも転倒、骨折のリスクが増大するので良くないということです。

前々回、糖尿病は認知症のリスクを高めると書きました。しかし薬で血糖が下がりすぎて起きる低血糖も認知症の大きなリスクになります。高齢者やすでに認知症の人の場合には低血糖を起こしていても本人も気がつかないことがよくあります。特にインスリンやSU剤という血糖降下剤を使用していると無自覚性低血糖を繰り返す場合があることが知られています。あるいは重症低血糖を起こすと転倒、骨折となり、時には命にかかわります。その結果、長期的にみれば、厳格すぎる血糖管理はかえって死亡率を高めるので今回、目標値が大はばに緩和されたのです。

最近は軽い認知症がある独居の方が増えています。インスリンを打ったかどうか本人も分からないが誰かが訪問すると低血糖を起こして倒れていたなんてこともあります。このような事態を回避すべく2つの学会が協働しての緊急声明ですが、まだ十分に周知されていません。とりあえず「高齢者のHbA1cは7.0~7.9%が最も安全。認知症があり薬を使っている人は8.5%未満でもOK。7.0%以下の下げすぎは良くない」と覚えておいてください。
最後にお知らせです。災害看護師とした活躍された故・黒田裕子さんを偲び、3回忌の日に「黒田裕子記念・神戸フォーラム2016」を9月24~25日に神戸国際会議場で開催します。メインテーマは「認知症でもがんでも最期まで住み慣れた地域で暮らす」。大変興味深い企画が目白押しで他では聞けない衝撃的な内容です。事前申し込みは終了しましたが当日参加も歓迎です。詳しくは大会ホームページでご確認ください。私は大会長として歌も歌います。問い合わせは日本ホスピス・在宅ケア研究会078-335-8668まで。
 
キーワード 低血糖
糖尿病の薬などで血糖値が60~70以下に下がると発汗や震え、時には意識レベル低下などの低血糖症状が起きる。甘いものを食べるかブドウ糖の注射をするとすぐに改善する。

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この記事へのコメント

私は、まさにHbA1cが、7.1%なんですけど、高齢者なんで、この数値で良いのだと安心しました。
でも体重が70Kgより下がらないので、困っています。遺伝的なものもありますけど、お酒が止められないのと、運動不足なのかなあと思っています。
犬が生きている時は、お正月の三日間、六甲山を駆け回っていましたが、今は猫ばかり寄って来て、散歩することがありません。近所の主婦からも「犬がいた時はスマートやったのに、今はブタみたいにふとってるやん!」と、手厳しく言われています。なんとかしなくちゃ!

Posted by 匿名 at 2016年09月14日 07:13 | 返信

猫が寄ってくる匿名さんへ
猫も散歩します。
以前、犬を室内飼い、猫は自由に出入り、でした。
犬を散歩に連れ出すと、散歩の時間をどこかで待っていたのか、いつの間にか猫がついてきました。

このごろ、猫や犬をベビーカーに乗せて歩いている人をよく見かけます。
犬も年をとると、散歩に連れ出してもデクンと座り込んで動かないのですよ。

Posted by 匿名 at 2016年09月14日 02:56 | 返信

おかげで
大分
分かりました。
理解
深める、
って、大切
ですね。
おぎようこ
おこらんど
墨あそび詩あそび土あそび

Posted by おこ at 2016年09月14日 05:24 | 返信

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