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先制医療
2016年11月02日(水)
医療タイムス11月号 開業医にも必要な先制医療の視点 長尾和宏
従来から「予防医療」という言葉がある。しかし保険診療では予防医療は原則禁じられている。最近、「先制医療」という言葉も時々見かけるようになった。先日、血圧や血糖に早期に介入した研究成果を聞く機会があった。赤ちゃんの時から減塩食にしていると大人になってから高血圧になりにくいという。あるいは壮年期の高血圧を降圧剤で厳格にコントロールしておくと、薬剤中止後もある程度効果が持続し、これを遺産効果(レガシー・イフェクト)と呼ぶらしい。血糖値に関しても早期から介入することで後がいいことが分かっており、遺産効果が確認されている。血圧であれば腎臓の細動脈付近に血糖であれば膵β細胞に記憶細胞があるとのこと。こうした「臓器の記憶」を利用した「時空医療」や「先制医療」という概念を聞きながら、保険診療でやれることは何なのかと考えた。
まず思いついたのは禁煙治療だ。2020年の東京五輪に向けて受動喫煙対策の推進とともに喫煙率の低下は加速する。すなわち禁煙治療に参加する人は今後4年間、増加の一途だろう。次にピロリー菌除菌療法である。ピロリー菌除菌により胃がんのリスクが3分の1に低下するとのことだがこれほど安価で簡便ながんリスク軽減法は他に無い。賑薬(ボノサップ)の登場で一次除菌成功率は9割まで上がった。そしてボノピオンによる二次除菌成功率も95%なので、2次除菌までやるのであれば99.5%の確率で除菌ができる時代になった。ターゲット層は高齢者ではなく若年者。若ければ若いほど対象になり後期高齢者は対象とはしない。ピロリー菌で胃がんができるまで20年程度かかるからだ。便中ピロリー抗原でスクリーニングして陽性者を同定して除菌することは大きな意味がある。芸能人の胃がん報道を見るたびに悔しい思いをしている。あるいは小学校の前を通るたびにピロリー菌が気になって仕方がない。
3番目に想うのは、外来診療における「血糖値スパイク」の検出である。「血糖値スパイク」とは空腹時は正常血糖でも食後1時間血糖が140を超えること。この「血糖値スパイク」こそが動脈硬化の真犯人である。「血糖値スパイク」は糖尿病の予備軍ではなく独立した病態である。「血糖値スパイク」が毎日毎日繰り返されることで血管内皮に活性酸素が発生し炎症が惹起されることはNHKスペシャルでも放映されているので一般市民の認知度は高い。「血糖値スパイク」の発見には血糖簡易測定器が必要だ。1万円も出せば血圧計と同様に誰でも入手可能であるが、指先の穿刺が購入のネックになる人が多い。ならば、開業医で積極的に「食後1時間血糖値」を測定してみればどうか。簡易測定なので保険請求はできないが、試験紙100円程度の負担で人間ドックや健康診断でも検出できない重大な病態をたった1分で発見できるのだ。やせ型の若年女性でも2割に「血糖値スパイク」を認めるので中年以降であれば陽性者はさらに多い。眠っている簡易測定器を毎日フル稼働させるためには、「血糖値スパイク」やそれを改善する食事や運動法に関する啓発が必要だ。それをしないと食後1時間ピッタリに来てはくれない。まずは職員で実験してみればいい。恥ずかしながら私自身もHbA1cは正常範囲だが、立派な「血糖値スパイク」保持者である。若年~壮年期からの先制医療への参画がいつかは「かかりつけ医」につながるのではないかと考える。
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この記事へのコメント
医院や診療所や保健所などで血糖値スパイク検査が気軽にできるようになるのは大賛成です。
ただし、お薬好きな一般市民である被験者がたとえ希望しても、薬は出さない、まず生活改善。
投薬依存症のお医者様に、できるかな?
長尾先生の主張が曲がって伝わることもあると思います。
今まで除外されてきた必要な検査を一般化するのは良いけれど、
好ましくない結果に対してどう対応するのか、
現状では処方薬が増えるだけのように感じます。
まずは、薬に頼らない予防、生活習慣改善によって、薬を飲まなくても(飲まないほうが)症状は改善する(ことが多い)という事実を、医療者、受診者ともに認識することが必要です。
Posted by 匿名 at 2016年11月02日 03:16 | 返信
ロハスメディカル刊 ” 町医者だから言いたい! vol.1 " を 時に開いて読みます。
長尾理論の土台だと思うので、枝葉が伸びて色々な事を仰っている昨今のように見えても、
一貫してブレていないのが改めて分かります。連載・日記であっても、随筆として読み易く
なっています。印象的なことには、禁煙についてを繰り返し述べてらっしゃいます。
内科医として、肺の病を重篤に診ていらっしゃったからでしょうか。
『禁煙』: 街で囲いの中で、ひしめきあって喫煙するのを見掛けたりもしますが、
情けない光景です。煙害も嫌ですが、販売に携わる人の呼気が煙草臭なことには辟易です。
『血糖値スパイク検査について』: 食後一時間という限定は難しさもありそうですが、
予約制にして頂いて、数百円で計って頂けるシステムであれば嬉しいかも知れません。
予防という前向きな、明るい接点で医療機関と付き合えるのは、病院との付き合い方に
変化をもたらしてくれそうです。
最近、個人の医院が「○○○カフェ」と称して、予防的なお話を聞かせて下さる催し、お知らせ
を見掛けたりしました。悪くなる以前にかかる関係性の方がよさそうです。
Posted by もも at 2016年11月02日 06:11 | 返信
長尾先生って、減薬推進・管無し平穏死の伝道者・アンチ過剰医療という側面と、したたかに町中クリニックを繁盛させる腕利きの開業医が同居している。
歪んだ性格だけ先鋭化していく老いた家族にどう対応すべきか、ぼんやり考えながらネットを眺めていて、こんなブログに行き当たりました。
「白衣を脱いだ大阪の看護師からのメッセージ」
http://ameblo.jp/mineral358/entry-12212492179.html
「薬を全部やめたら病気は完全に治るけど、
医師がクビになるから本音を
患者さんには言えない???」
医療産業従事者の中にも、「気づいている人」は、確実に存在しているのです。
「気づいているが、収入のために患者を苦しめる仕事を続けている。」
そういう医療産業従事者が、「患者の幸せのための医療」を目指して職場を変える受け皿が、長尾クリニックであってほしいと願っています。
Posted by 匿名 at 2016年11月02日 06:43 | 返信
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