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抗認知症薬少量処方容認、その後 

2016年11月08日(火)

日本医事新報の連載に「抗認知症薬少量処方容認、その後」で書いた。→こちら
毎日毎日、増量規定の被害者の救済に忙しいが、それ自体がおかしい。
この件に関して11月18日13時~厚労省で記者会見を行うことになった。

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日本医事新報11月号 抗認知症薬少量処方容認、その後   長尾和宏
 
少量処方容認後の臨床現場

 かつて、4種類ある抗認知症薬には増量規定なるものが定められていた。共同通信社の調査によるとアリセプトを規定どおりに増量しないと保険審査で査定される都道府県が9県もあった。しかし規定どおりに増量していくと易怒性や歩行障害や徐脈などの副作用が表れる人が必ずいる。抗認知症薬に対するアルツハイマー型認知症の人の感受性はまさに百人百様であるが個別性を考慮した処方は保険診療では認められていなかった。そこで抗認知症薬を医師の裁量で適量処方できることを求めて現場の医療・介護者が集まり2015年11月23日「一般社団法人抗認知症薬の適量処方を実現する会」が設立された。ホームページ上で全国から増量規定による副作用事例を呼び掛けたところ沢山の事例が集まりそのまま公表された。そしてこの問題は国会の厚生労働員会においても議論された。会の設立からわずか半年後の2016年6月1日に厚労省から「個別性を重視した投与を認める」との事務連絡が出て事実上、少量処方が容認された。信濃毎日新聞をはじめ第一面や大きく報じる地方紙が相次ぐ一方、大手紙はスポンサーに配慮してかほとんど報じなかった。その結果、この連絡を知る医療者や市民はまだ少ない。

 この事務連絡以降、臨床現場は変わったのであろうか。残念ながら相変わらず増量規定に従った処方が続いており、あまり周知されていなのが現状だ。私の外来にも明らかに最高量の抗認知症薬による副作用が前面に出た人が相談に来られる日々が現在も続いている。抗認知症薬を中止するだけで困った症状が速やかに改善するので家族から神様のように感謝されるのだが、そもそもおかしな話である。6月1日の事務連絡により事実上、抗認知症薬の適量処方が実現した、と言いたいところではあるが臨床現場への周知度は低い。今後、抗認知症薬の副作用や適量の探し方などに関して、製薬会社主導ではなく現場の医師主導による啓発が急がれる。
 

医学会の反応は・・・

 6月1日の厚労省からの事務連絡に対する各医学会の反応はどうだろうか。日本認知症学会や日本老年精神医学会などの認知症関連学会からは特にコメントは出ていないようだ。ただ一部の学会幹部が「少量投与すべきは間違い」や「この通達が悪用される恐れがある」との小文を発表している。しかしこれらの小文はいったい何を意味するのだろうか。筆者は何度も読み返したが、真意を理解できないでいる。

 まずは「少量投与すべきは間違い」とのタイトルであるが、「なんでもかんでも少量投与すべき」という趣旨の発言は私たちも厚労省も誰もしていない。「主治医がその患者さんの個別性を勘案して適量と判断した量が標準量より少くてもレセプトにその旨を書けば保険診療で認める」という趣旨の通達である。考えてみれば当たり前のことなのだが、それまでが当たり前でなかった、というだけのことだ。あるいは「この通達が悪用される」との警告であるが、そもそも「悪用」とは何を意味するのか。「製薬会社の利益のために副作用を無視してでも沢山を処方してはいけない」という意味での「悪用」であれば理解できるが、患者さんのために薬をサジ加減することは医療の基本であり決して悪用ではない。

 欧米では抗認知症薬の適応とされるアルツハイマー型認知症は2~3割程度とされていた。しかも最近その有用性評価自体が急速に低下している。上田諭先生が説かれる「治さなくてもよい認知症」に抗認知症薬は不要であろう。あるいは「MMSE10点以下になれば中止すべき」というガイドラインを謳う米国老年医学会のような中止基準は日本では見当たらない。「胃ろうになっても死ぬまで抗認知症薬」とは日本だけの話である。
 

適量処方は当たり前のこと
 
  増量規定なるものが定められた薬剤は抗認知症薬だけである。もし降圧剤や血糖降下剤に増量規定があったらどうなるのか?たとえば「アムロジンは2.5mgで始めたら2週間後には必ず5mgに増やしてそして10mgまで増量しなくてはいけない」とか「アマリールは0.5mgで開始したら必ず段階的に6mgまで増量しなければならない」。そんな規定はあり得ない。また抗認知症薬と同じく脳に作用する薬であるオピオイドや睡眠薬ではどうだろう。「がん性疼痛があるのでモルヒネを5mgで開始したら機械的に必ず100mgまで増量しなければならない」とか「ハルシオンは0.125mgで開始したら必ず0.5mgまで増量しなければならない」。そんな規則もあり得ない。その時のその人の痛みを緩和するために必要なモルヒネの量を探し出し、あるいはその人の睡眠を改善するために必要な最小量を投与することは当然のこと。しかしなぜか抗認知症薬だけは、体重30kgも60kgも、年齢50歳も100歳も、要支援1も要介護5もまったく区別せずにただただ機械的な増量だけを義務づけられてきた。さらにピック病などの抗認知症薬の適応外の病態にも平気で誤投与され、易怒性や暴力などの興奮性の副作用が前面に出ても「効いていない」と判断されて増量された上に抗BPSD薬として抗精神病薬が上乗せされてきた。また薬剤過敏性が特徴のレビー小体型認知症においては我々の検討ではアリセプトの適量は1.5~3.0mgであるが、なぜか5mgでも10mgでも構わないことになっている。さらに皮肉なことに新・オレンジプランがこうした過剰投与を後押ししているのだ。

 なぜそんな変な規則が誕生して日本だけに定着してきたのだろうか。アリセプトの増量規定誕生を知るべく開発治験データを調べてみた。するとフェーズⅡ相試験においてアリセプト1mg群で56%、2mg群で57%が軽度改善以上と判定されていた。(臨床評価.26巻2号145-164頁 1998.)しかし統計学的に有意差が出なかったので5mgが治療量と定められたようだ。しかし臨床現場では95%から逸脱する例外が必ず存在する。その時には個別性を尊重することは医療の基本中の基本である。一方「3mg継続では5mgで得られるはずの患者さんの利益を逸する」という主張もみられるが、至適容量設定(タイトレーション)や利益と不利益のバランスという視点から論理的な思考ではない。

 
プレドニゾロン1mg錠にならえるか
 
 関節リウマチや慢性の皮膚疾患に副腎皮質ステロイド内服薬が長期間使われることがある。1日5mg錠を続けると骨粗しょう症などの副作用が出やすいが、2~3mg以下ならば副作用が出にくいとのことである。そこで1mg製剤(プレドニゾロン1mg錠)が誕生し、1~3mgの適量で上手く維持されている患者さんを見かける。つまり副腎皮質ステロイド内服薬の少量投与は容認されている。これを「悪用」と言う専門家はまずいない。またレセプトの摘要欄にいちいち「言い訳を書かないと通さない」という審査員もいない。ならば同様に「塩酸ドネペジルも1mg錠があればいいし、言い訳は不要に」が臨床現場の生の声である。正義感溢れる議員さんが国会の場で塩酸ドネペジル1mg錠についても議論しているという。しかし肝心の専門学会が少量投与容認に懐疑的な姿勢のままであることは残念である。標準量では副作用が出るが少量なら調子がいいという患者さんやご家族にどう説明すればいいのだろうか。

 最後に多剤投与について少し触れておきたい。抗認知症薬は使ってもメマリーを含む最大2剤である。一方、抗パーキンソン病薬には8~10系統あり数種類もの多剤投与、しかも最大量での投与が珍しくない。介護施設にそうした患者さんが入所されてくる。多剤投与や適量処方という命題は今後は抗パーキンソン病薬に向けられるであろう。高齢者の多剤投与対策が急がれるなか、たとえば抗パーキンソン病薬の多剤投与は「神経内科の専門性」というベールに覆われ専門外にはアンタッチャブルな世界であった。しかしそのまま在宅医療に紹介されてくる時代である。当然、副作用などのマイナス面が浮上するだろう。よく「医療界の常識は世間の非常識」と言われるが、製薬会社主導による増量規定や多剤大量投与という洗脳からそろそろ目覚める時ではないだろうか。

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この記事へのコメント

私の劣悪な頭では、想像できませんが、この「抗認知症薬の適量処方を考える会」の方向は、「始まりの始まり」という気がします。
例えば埼玉医科大学神経内科教授荒木信夫総編集「パーキンソン病外来」MEDICAL VIEW刊 神経内科外来シリーズ2のp92 福岡大学神経内科学教室 藤岡伸介、坪井義男の研究論文「鑑別診断薬剤性パーキンソニズム」の中に
外来のポイント
●薬剤性パーキンソニズムの多くは、原因薬剤投与開始から3週間以内に発症する。
●パーキンソン病とは異なる臨床症状の鑑別点は、急性から亜急性の発症で、左右対称性、振戦が少ない、REM期睡眠行動異常症の欠如、嗅覚が正常である点などである。
●純粋な薬剤性パーキンソニズムであれば、頭部MRIやドパミントランスポーターDATシンチグラフィーで、異常所見を示さない。
●治療中止により、中止から数ヶ月程度で症状が消失することが多い。
●DATシンチグラフィーで異常を認める症例や、休薬後の症状再発例では、subclinical drug-exacerbated parkinsonismを考えると前置きして「表2」を上げています。
表2の要約
①:抗精神病薬(フェノチアジン系、ブチロフェノン系、ベンザミド系、SDA,MARTA,DDS)
②:抗うつ薬(三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、SSRI,SNRI,その他の抗うつ薬、)
③:循環器用薬(抗不整脈薬、カルシュウム拮抗薬、中枢作用性降圧薬)
④:胃酸分泌抑制薬(H2受容体、
⑤:制吐薬(5-HT3受容体拮抗薬、D2受容体拮抗薬)
⑥:免疫抑制薬、抗癌剤(免疫抑制薬、アルキル化薬、代謝拮抗薬)
⑦:抗てんかん薬(分子脂肪酸系)
⑧:抗認知症薬(ピぺリジン系=アリセプト)
⑨:麻酔薬(塩酸プロカイン)
⑩:抗真菌薬(アゾール系、ポリエン系)
⑪:眼科用薬(ビスダイン)
文献1)より引用改変
1)重要副作用別対応マニュアル 薬剤性パーキンソニズム(錐体路障害、錐体外路症状)厚生労働省。
以上は表2の要約した内容です。
私はこれらの事を考えると最近の難病に原因にお薬の副作用があるのかも知れないと思いました。勿論すべての病気には遺伝性もあるし、ウイルス性もありますし、現在では不明な原因も多くあるでしょうけれど。
ですから私達患者は、コレステロールの血液検査や血圧の数値を計測して自分で薬の量を加減した方が良いように思います。
でも結果は自己責任です。

Posted by 匿名 at 2016年11月10日 10:33 | 返信

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