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バッドニュースは伝えないことも

2017年02月15日(水)

きらめきプラスの3月号には、バッドニュースの伝え方を書いた。→こちら
「伝えないほうがいい」という場合もあり、ケースバイケースだ。
今夜も夜遅くまで、終末期の患者さんと対話をしていた。
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きらめきプラス3月号

新潟市在住の女性(48歳)からの質問です。
 
【質問】

母(69歳)が脳梗塞で救急搬送され先日手術の運びとなりました。手術は無事成功しましたが、担当医師からは長期入院が必要と言われています。母の病気のことを特養に入っている祖母(91歳、認知症あり)に何といって話そうかと考えていたのですが、介護経験のある友人から「余計な不安や心配を与えるのでおばあちゃんにはおかあさんの病気のことは伝えない方がいいよ」と言われました。ただ12年ほど前に祖母を初めてショートステイに預けたときに、祖母が「もう捨てられたんだと思った」と言って泣いていたという話を母から聞いていましたし、いつも顔を出していた母の顔が急に見えなくなったら祖母はどう思うのか。祖母の気持ちを考えるたびにどうすることが一番良いことなのか大変迷っています。認知の度合いや個人の性格など、一概に答えの出せることではないかと思いますが、ぜひ先生のご意見を伺いたく、よろしくお願い申し上げます。
 
【回答】

お母さんが脳梗塞に倒れられたとのこと。おそらく心房細動に伴う脳塞栓症で、超急性期に行われる血栓溶解療法が奏功したのではないかと想像します。69歳でそれに至る背景には相当なストレスがあり無理をされたのではないでしょうか。心原性脳塞栓症は一般に悪性脳梗塞とも呼ばれ予後が厳しい病態です。しかし無事に手術(カテーテル手術?)が成功されたとのことでしたから、とりあえずは最悪の事態を免れたのでしょうか。以上の視点からはまだ良かったのではないかと思いました。しかし「長期入院が必要」と言われたとのこと。おそらくリハビリ目的なのでしょうが、脳梗塞の急性期リハビリには様々なやり方があるので、是非とも積極的なリハビリの恩恵に預かれることをお祈りしています。

さて、そんなお母上の病状を祖母に伝えるかどうか、というご質問ですが、とても難しい問いだと思います。以下、あくまで私自身の価値観として書かせて頂きます。
 
バッドニュースは伝えないことも

そのようなケースの場合、私は事実を積極的に伝えることはあまりお勧めしていません。なぜなら、祖母のショックが大きいからです。「じゃあ見舞いに行く」とか「どんな病状なのか」と質問攻めにあったり、穏やかな日々が阻害される可能性があります。ただ認知症があるとのことですからすぐに忘れる可能性もあります。しかしどうでもいいことは記憶できなくても、自分にとって大切な情報はちゃんと覚えている場合があります。

もし祖母のほうから母親のことを聞いてきた場合にどう答えるかです。「仕事が忙しい」とか「旅行に行っている」とかその場しのぎの嘘をつくのも、アリだと思います。認知症のためにすぐに忘れてしまい何度も同じ質問をする場合もありますが、何度でも嘘をつけばいいだけです。要はわざわざこちらからバッドニュースを伝えることはせずに、聞かれたら心配させないための嘘をつくのです。あくまで祖母のためです。

配偶者や子供が亡くなることもありますが、その時も同じです。ショックを与えないために黙っている場合が多くあります。「知らぬが仏」ではないですが、バッドニュースはそのままの形では伝えないほうがいい場合を多く経験してきました。
 

「永遠の嘘をついてくれ」

2016年11月23日にエンドオフライケア協会主催の講演会が都内で開催されました。私はがんの余命告知について話しました。本人から余命を聞かれた時にどう答えるか。私は「ちょっと厳しいなあ」と思っても本人には「よく分からない」と答えることが多いように思います。もちろんケースバイケースですが。家族には正直な印象を話しても、本人には嘘をつきとおすこともあります。あまり意識せずにそうしてきたような気がします。

もしかしたら現在の医学教育では、「情報をそのまま伝えることが医師の役割」と習うのでしょうか。病院の医師は結構ハッキリと本人に余命告知をしているようです。なかには「あなたの余命は3年です」と宣告した研修医もいました。しかしはじめて会ったばかりの本人に「あなたの余命は○ケ月です」なんて話すことは町医者の私の日常ではまずありません。もし本人からしつこく聞かれたら、「1ケ月位かなあ」と思っても「いやー、10年は無理かもね」とはぐらかします。余命○ケ月と本人に明確に言わない理由はいくつかあります。1つは画期的な治療法の開発で余命2ケ月と宣告されたステージⅣの肺がんの患者さんが8年に延長したケースを経験したからです。イレッサという分子標的薬がその人には劇的に効いたのです。それは特別良く効いた例外だったのかもしれませんが、医学の進歩とともに余命は益々分かりにくくなります。だから家族には心の覚悟をしてもらう目的である程度の幅を持たせて告げなければいけませんが、本人には明確な言いかたはしません。2つめは「余命○ケ月」と言うことでなにか「呪い」をかけてしまうような気がするからです。それを前向きに捉える人もいればそうでない人もいます。在宅医療は支える医療なので、医師は患者の苦痛に寄り添う同伴者です。だから「告知」という言葉の響きにさえ「上から目線」と感じるので、「対話」とか「言葉のキャッチボール」という捉え方をします。

というわけで、私は「嘘」をつきまくっています。そしてそのまま亡くれば「永遠の嘘」となるわけです。だから講演会では吉田拓郎と中島みゆきのデユエット曲「永遠の嘘をついてくれ」という曲を替え歌にして歌いました。しかし歌っているうちに亡くなった人、永遠の嘘をついた人の顔がフラッシュバックしてきて涙が止まらなくなりました。どこか懺悔の気持ちもありました。会場の人も一緒に泣いてくれたので、少しは理解して頂いたのかもしれません。
 
 
認知症の人につく「嘘」

デイサービスに行くのを嫌がる認知症の人に「スナックに行こう」と言う場合があります。あるいはショートステイのことを「温泉旅行」と言って誘う場合も。それで気分良く行ってくれるのであれば、これは在宅療養に必要な嘘だと思います。決して認知症の人を馬鹿にしているつもりは無く、本人が理解しやすい言葉に翻訳しているつもりでいろんな言葉を使っているだけです。

同様な理由で、認知症の人のご家族が急病になったり最悪の場合、亡くなられた場合、状況に応じた嘘をつくことが日常になっています。そんな私は嘘ツキの悪人でしょうか。そう言われても私は全く構いません。本人のショックを和らげたり、無用なストレスを回避するためには仕方がないことだと思います。もちろん本人の受け止める力にもよります。案外、バッドニュースを受け入れることができる人も多いので一概には言えませんが、あくまで平気で嘘をつく場合もいくらでもある、という話です。

ですから貴方の場合も最初から「言う」「言わない」の2者択一ではなく、祖母の様子を見ながら少しずつ話してみる、といいのではと思います。もちろん言わなくてもいい、という趣旨で回答しました。ただし以上はあくまで私の個人的な考えにすぎないので参考程度に留めてください。
 

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※本ブログは転載・引用を固くお断りいたします。

この記事へのコメント

近年、自分が年をとったせいか、御年輩の方と話す機会も増えてきました。
印象としては理詰めを好む方であっても、難しい話には表情が険しくなっていきます。
事実や現実というものは、やはり厳しい茨の道ではないでしょうか。
苦労話や辛い話は「もうたくさん..。」というのが本音でしょう。
それよりは「あの時は楽しかった。」という話の方が弾む話題となり(当たり前かも知れませんが)
同じ話を何度も繰り返して話されます。
達観した方を多く見掛けます。「このあとは余生だから、楽しく過ごすワ!」と。
それでいいんじゃないでしょうか。それが周囲も幸せだと思います。

Posted by もも at 2017年02月15日 08:52 | 返信

こんばんは。

今日のブログを読んでそういえば優しい嘘という言葉が
あったなと思い出しました。

でも先生安心して下さい。家族も本人に悟られない様に
たくさんの嘘と演技をしてきたと思いますよ。
(家族が余命宣告を聞いた場合)

今日のブログを読んで私も色んな事をなつかしく思い出しました。

Posted by 匿名 at 2017年02月15日 11:54 | 返信

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