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誤嚥性肺炎と胃ろう

2017年08月18日(金)

グループホーム協会の機関誌「ゆったり」に連載しているが
8月号では「誤嚥性肺炎と胃ろう」に関する質問に回答した。→こちら
どこに講演に行っても質問はほぼこれなので勉強して欲しい。

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ゆったり 7、8月号  長尾和宏
 
Q)
 認知症で入所している90代の女性です。徐々に食べられなくなり衰弱してきました。誤嚥性肺炎を2回おこしましたが入院加療で改善しました。子供さんたちは親の老いを受け入れてくれていますが、どうやら親戚から胃ろうを勧められて迷っておられるようです。3年間お世話してきたケアスタッフとしてどのように対応をすればいいでしょうか?

 
A)
 胃ろうの適応に関する質問ですね。胃ろうは最も優れた人工栄養法で、小児の先天性食道閉鎖症やALSなどの神経難病が適応であり、認知症の終末期にはあまり適応がありません。そもそも胃ろうを造設しても誤嚥性肺炎は防げません。主治医がそのような説明をするかと思いますが、ケアスタッフもその意味を理解して最期まで口から食べるという人間の尊厳を大切にしてください。トロミなど食材の工夫をするとともに、歯科医や歯科衛生士の指導を受けながら口腔ケアと嚥下リハビリを行ってください。下手な食事介助ではムセます。進行すれば「手づかみで食べる」という方法もあることを忘れないでください。

 一方、水分摂取量が低下すると脱水を心配する人も出てきます。しかし人生を長いスパンで見ると、「脱水とは低栄養への旅」です。人間は生まれたときには、体重の約8割を水分が占めていますが、成人すると6割に減り、高齢者になると5割になります。そしてがんも認知症でも終末期に近づくと4割にまで減ります。水分含量の観点から言えば、人生とは80年という長い年月をかけて水分含量が8割から4割へとゆっくりゆっくり減っていく過程とも言えます。

 私は講演では平穏死寸前の状態のことをよく「干し柿」にたとえて説明します。脱水があれば心臓に負担がかからないからです。心臓も80年間休むことなく動き続ければ、疲れきっていて潜在的に心不全になりかけています。もし過剰な水分を人工的に入れると心臓の仕事量が増えるため心不全傾向になりますが、生理的な脱水があると心不全にならなくて済みます。つまり生理的な脱水により心機能が長持ちするのです。

 一方、エネルギー効率の観点から見ると、歳を取るということはハイブリッドカーになることです。そもそも高齢になるほど運動量が減るので、エネルギー需要も減ります。加えてエネルギー効率が良くなります。リッターあたり10kmしか走らない車が20km、いや40kmも走れるように進化するので、若い時ほどのカロリー量は要らなくなります。逆にカロリー補給過剰になると活性酸素が発生して寿命を短くします。熱中症のように短期間に進行する脱水は絶対に避けないといけません。しかし終末期以降に自然に緩やかに進行する脱水や低栄養は、穏やかな最期を迎えるために決して悪いものではありません。

 現在の日本人の死因の第一位ががん、第二位は心筋梗塞、そして第三位は肺炎です。従来まで脳卒中が第三位でしたが肺炎にその座を奪われました。そして後期高齢者の肺炎の9割は誤嚥性肺炎です。通常の肺炎は、病原体が外部から侵入してきますが、誤嚥性肺炎は口腔内にいる雑菌が気管に垂れ落ちて起こります。歳をとると気道と食道の切り替えが上手くできなくなり誤嚥します。誤嚥というと食事中に話をしてムセる姿を連想するかもしれません。我々もムセますが肺炎になることはありません。ひとつには咳をしっかりして食べ物を痰として出すからです。あと食塊はそもそも細菌の塊ではありません。食事中にムセ易くなった高齢者が誤嚥性肺炎をおこして入院すると「もう食べられないから胃ろうを造りなさい」と言われます。しかし胃ろうにしても誤嚥性肺炎のリスクは減りません。実は高齢者の誤嚥性肺炎は、夜寝ている間に口腔内の唾液や胃から口に逆流したものが気管内に垂れこんで起きます。昼間ならばムセて咳をするので痰として排出できますが、睡眠中はそうした喉の反射が低下するため雑菌が肺に垂れこんでくるのです。

 では、誤嚥性肺炎を予防するにはどうすればいいのか。第一に、口腔内を綺麗な状態に保つことです。歯垢1mg中になんと10億個もの雑菌が生息しているそうです。特に食後は口腔内の雑菌が増えるので、食後の歯磨き、口腔ケアなどのオーラルケアをしっかりやることです。第二に逆流性食道炎に注意してください。胃の内容物が食道~口腔内へと逆流した結果、誤嚥します。内臓肥満(メタボ)も逆流性食道炎の危険因子ですし胃切除後の方も要注意です。食後の体位を平らであるほど逆流が起き易くなます。第三に睡眠薬をなるべく飲まないことです。睡眠薬を飲んで寝ると夜間睡眠中の不顕性誤嚥が確実に増えます。
以上を参考に、認知症が進行しても最期まで口から食べることを諦めないで下さい。

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この記事へのコメント

長尾先生、はじめまして。
悩んで悩んで、先生のブログにたどり着きました。
私の母親は腹膜原発不明がんと診断を受けました。
痛みもなく食欲もあり、普通に暮らしておりました。
大腿骨を骨折し両方の足が不自由でベッドの上で過ごしております。
先週、高熱を出し、病院を受診しましたら誤嚥肺炎との診断を受けました。
直ぐに入院をしましたが、先生からもう口から食べ物を入れることは出来ないと言われました。
今回、熱を出すまでは普通に食べて飲んでいましたので、とても困惑しています。
食べることが何より好きで、食事を楽しみにしています。

医師からは、がんの影響で筋力が弱っていて喉の飲み込む筋肉も弱っているという
事を言われました。
しかし本人は食べたい、何でもいいから口からたべさせて、と訴えます。

病院側はまた誤嚥肺炎のリスクが高くなる、と一点張りです。
退院させて身内がすべての責任を取るというなら
連れて帰って食べさせるのはご自身の責任で行って下さい、と言われました。

ものすごく大きな責任を突きつけられて判断が出来ません。
でも食べさせて上げたいです。

先生のブログの内容に、最後まで口から食べる事を諦めないで下さいと
ございましたので、
諦めたく無いです。
しかし、医師からの言葉は強烈に気持ちを動揺させます。
誤嚥肺炎を繰り返しますよ、窒息してしまうかも知れないですよ、と。

怖いです。
しかし人らしく最後まで口から食べさせて上げたいです。

Posted by 匿名 at 2017年08月18日 04:17 | 返信

「食べれないんです…」とご家族から言われることがよくあります
そういう方に限って口腔ケアをしていないんですよね

Posted by 訪問看護師 宮ちゃん at 2017年08月18日 11:30 | 返信

「残暑見舞い」ではありませんが、A3に拡大して、老友たちに、発送したところです。
わが老人クラブでも、嚥下障害トレーニングを取り入れています。
往年の、アナウンサーや歌手が毎日やっているような、ボイストレーニングなどは、知りません。
そこで、鼻の塩うがい、鼻呼吸で、出息入息時の鼻腔内を湿度100%に。
とくに、肺から鼻腔上部に流れる、出息時の湿り気のある暖かい流れが、頭蓋に響く、共鳴感を大事にしています。
「ナウリ」はできませんが、横隔膜トレーニング、胸鎖乳突筋マッサージ、肩甲挙筋気功などは、
いつでもどこでも手軽にできるので、欠かさないようにしています。
先生ご指摘の、「就寝時の唾液誤嚥」予防は、むつかしそうですね。
せめて、「質のいい唾液」をつくるため、耳下腺・顎下腺のマッサージ、
舌を上歯のウラにつける舌下腺刺激ぐらいでしょうか。

Posted by 鍵山いさお at 2017年08月20日 07:31 | 返信

Nスペ『東京・戦後ゼロ年』を、観た。
「戦前」「戦中」「戦後ゼロ年」「戦後72年」が、みごとに、つながっている。
小学校の「道徳」時間で、子どもたちに見せてほしい。

東京ではなかったが、母親との買い出し帰り、着いた駅で、
母親が、列車の窓から、ボクを突き落とした。
ホームから線路を伝い、必死で逃げた。
一張羅?のモンペが、やぶれた。
ボクの「戦後ゼロ年」。
「朕ハタラフク食ッテイル。ナンジ臣民ウエテ死ネ。」

Posted by 鍵山いさお at 2017年08月20日 10:50 | 返信

鍵山さん、なんと言えば良いのか分からない戦後ですね。
どういう風に慰めて良いのか分かりません。
お母様にはお母様の理由があるのかも知れません。
コシノジュンコさんや小篠綾子さん一家の戦前、戦中、戦後のお話がNHKの「カーネーション」で放映していまして、戦争直後の東京には親に捨てられた子供が何万人も、いたと言っていました。
現在の感覚では想像できない社会だったのでしょう。

Posted by 大谷佳子 at 2017年08月22日 08:28 | 返信

人間の記憶、とくに幼少の頃の記憶は、どこまでさかのぼれるのでしょうか。
想起するたびに、記憶が変容しているかもしれません。
Nスペ『東京・戦後ゼロ年』のなか、
駅で待ち構える「慈悲深い警察」、買い出し女性たちの抵抗むなしく、没収。
これらの連続シーンが、当時のボクの記憶を、呼び起こしたように思います。
心臓病みの母親は、車内に隠していた「荷」のいくつかを、ボクのあとに放り落とし、
なんとかうまく、かいくぐったのだろうか。「記憶にない」のです。
ご心配いただき、ありがとうございました。

じつは、「1億総特攻」のため備蓄していた2年分の物資(ベトナム米もふくむ?)が、
戦後政財界復活のヤミ資金に化けたとか。
権力の「棄民」政策は、日本の内外で、かくも、徹底していたようです。

米国軍事マフィアと結託した日本軍事費倍増計画が、大手を振って進む。
むかし、昭和天皇の真珠湾攻撃に待ってたホイ。
いま、金王朝の「グアム攻撃」に、笑いが止まらない。

Posted by 鍵山いさお at 2017年08月24日 07:55 | 返信

日本だけじゃないでしょうか?戦後の食糧難なのに、親戚を頼って田舎から買い出しに行った人のものまで警察が没収するなんて、おかしな国です。今でもおかしい国です。
それはきっと、買い出し品物を募集されまいと、本能的にお母さんが息子と食べ物を掘り出したんだと思います。ちゃんと聞いてみればよいと思います。
鍵山さんの年齢からすると、もう亡くなられたのですか?
お母さんの周囲の人に聞いてみる訳には、行かないのですか?
どう考えても、その状況では、お母さんが、息子を殺そうとしたとは考え難いですね。

Posted by 大谷佳子 at 2017年08月26日 07:31 | 返信

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