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深夜のベッドからの転落コール

2017年09月07日(木)

在宅医療に従事していると、「夜間のベッドからの転落」が時々ある。
たいてい真夜中なので、男性でないと持ちあげられないので往診する。
しかしこんなことでいちいち救急隊を呼ぶ家族もいる。
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昨日は少しばかり悲惨な夜だった。
普段の行いが悪いのだろう。

ひと晩じゅう尼崎の町をウロウロしていた。

そろそろ寝ようかと思った午前0時に「死にたい!」と
訴える患者さんの家族から往診依頼の電話が鳴った。

「これはなんとしても行かないと」と駆けつけた。
往診が在宅医療の柱だと自分に言い聞かせながら。

思わず小澤竹俊先生の言葉が頭に浮かんできたが
そんな優しいガラでもないし、第一眠いし・・・。


「注射で眠らせて欲しい」と患者さんが目を見て訴える。
その目には「殺してください」と書いてあることを感じる。

痛みではない、全身倦怠感。
これは死が近づいている証拠だが、まだ「死の壁」では無い、と判断。

「睡眠薬は飲めない」と本人も家族も言うので
セルシン5mgを筋肉注射したが、眠らない。

しかし見ていると、やがてウトウトしはじめた。
やれられと帰路に着いたのは午前1時半だった。

しかし2時にまた別の携帯電話が鳴った。
今度は「血便が出た」というパニックになった家族からだった。

「死なへん、死なへん」と訳のわからない説明で納得して頂いた。
血便程度なら次の日に落ち着いて対応すればいいだけの話である。


そして3時にまったく別の家から電話が鳴った。
なんだか今夜は何かにとりつかれているのは間違いない。

途中で奥さんから「遅いよ!、救急車を呼ぶわよ」と怒られる。
「すみません。もうすぐです」と遅れた寿司屋の出前のように謝る。

同じ国道を車を走らせるのは、今夜、もう4回目になる。
退院したばかりで私はまだ訪問したことも無い人の家を深夜に探し回る。

まるで泥棒さんの気分。
静まりかえった午前3時半の下町をうろつくのも、ドキドキする。

呼び鈴を鳴らすと、パニックになった奥さんが出てくる。
床に滑り落ちた患者さんは話もできるし幸い骨折所見も無い。

「よいしょ!」とベッドに抱え上げるが、自分の腰がギクッときた。
それでも管だらけの患者さんを無事、 ベッドに戻せて役にたった。

喜んだ奥さんは、食べかけの半分のバナナを「食べなさい」と言ってくれる。
有難いが、とてもそんな気分にはなれない。

帰ろうとすると今度は「なぜレントゲン検査もしないで骨折が無いと分かるのか?」
という質問をつきつけられて、ここからまたアレコレといろんな話が始まった。

その患者さんは病院から帰宅してまだ数日しか経っていない。
病院と自宅が同じではないことを説明するも、なかなか納得されない。

それだけ患者さんを愛しているのか、
あるいは朗々介護の不安が強いのか。

家に帰るともう朝の気配が。
電車の駅の電気がついている。

ああ、朝じゃないか!
雨が降りだしたが、心の中も雨だ。

夜回り先生というより、夜間徘徊先生。
アラ還なのに、こんなことして大丈夫?

ちょと心配になるが、まあいつものことか。
まあ、少しは何かの役にたっているから神様から生かされているのだろう。

老々認々の時代の在宅療養を想像した時、燦々たる気持ちになる。
「いつまでこんなことやっているのか」と「やめどき」という文字が頭の中を躍る。


ケアマネもヘルパーも夜中に走ってくれない。
訪問看護師の力でも、持ちあげるのは無理だ。

近所もみな寝静まっている高齢者だらけ。
救急隊が正解なのかなあなんて気もした。

これまで同様な深夜の転落コールが何度かあった。
あまり気にせず対応したが、この歳ではキツイ!

昨夜(本朝)は、さすがに「これが最後かな」なんて思った。

「夜中には呼ばれない」と豪語する在宅医の話を聞くたびに
「ああ、僕にはそんな才能は無いなあ」と諦めの心境になる。



PS)
これから、当院の医局会だ。
男性8人による会議と親睦。











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※本ブログは転載・引用を固くお断りいたします。

この記事へのコメント

はじめまして。60才の専業主婦です。同居の91才の父の介護をしています。
私のかかりつけの内科の待合室に先生のご著書がおいてありました。有名なご本をたくさん書いていらっしゃるのですね。そして訪問診療をなさって、こんな詳しいブログまでお書きになっていらっしゃる。驚異的ですが、お体大変だとお察しいたします。くれぐれもご自愛ください。
これからブログを楽しみに読ませて頂きます。

Posted by CASIO at 2017年09月07日 07:36 | 返信

9月4日の「午前3時の不眠の電話」の記事にコメントさせていただこうと思いつつ、日が過ぎていきましたが、ここで私見を述べさせていただきます。


 どう考えても、一人の医師が、いつも24時間対応は無理ではと、誰もが考えると思うのですが・・・世の中不思議なものです。過労死はしないように、一応はサラリーマンなど、労働時間制限はなされている時代なのにと思いますが。


 義父を自宅で看取った時、「いつでも、駆けつけますか・・・」と医師と看護師さんに言われたときは、安心感ができて嬉しかったですが、よほどの時にと思ったくらいです。眠っている人を起こして、睡眠薬とのことを電話してくるなんて、あまりのことにびっくり。そのままにしておいて、病人が起きてしまって困る時に、睡眠薬と考えられなかった人にもびっくり。


 在宅医がまとまって、こんな必要でもない電話の夜間対応をしてくれるところはないのでしょうか。いよいよというときにだけ、担当の在宅医の出番とか。

Posted by 井上 at 2017年09月07日 09:07 | 返信

24時間対応といっても、一人の医師では無理に決まっているから、何人かで8時間ずつ回り持ちにしないと続かないと思います。在宅医療を志す医師が増えないのも「いつでも駆けつけ」るのが当たり前みたいな印象があるからで、近隣の在宅医師が連携して担当時間を決めて対応するってことはできない・・・かな? 医者って、結構、協調性、ない人が多いですよね。一人で全部やらないと気が済まない・・・長尾先生みたいに「倒れるまで」。

Posted by 匿名 at 2017年09月08日 04:30 | 返信

テニス界の伊達公子さんが、二度目の引退を表明されました。
美しい記者会見でした。己と戦う姿を大衆に見せつけながら、
自らの目標を達成できた喜びと達成感を胸に、
「これ程、幸せなアスリートは、そうは居ないと思う。」と
日焼けし、年齢相応な面立ちで、けれど「まだ、やれるかも知れない。」
という余力と余韻を残しながらの達成感は、お見事な引退表明でした。
自分を鼓舞して、邁進する。「最大限に、やった!」と思える偉業です。

医療や福祉に於いては、どうやら、そのような清々しい達成感を得るのは
(筋)方向性が違うようです。自分と他者との価値観の相違があって、
その上で対応しなければならない、ある種の理不尽があるのは否めないの
でしょう。自分が行った何かがストレートに反映されて、感謝され、
達成感を得ることができる..。そのような喜びを得ることができる社会で
あれば、人材不足に陥るということは無くなるでしょうに..と思います。
老舗の商売であっても、お客様が店を育てるという、Win & Win な関係が
あってこその賜物と聞きます。結局のところ、何事に於いても、
礼儀礼節が肝要・肝心なのだと節に思いますし、熟成した社会であるのか否かを
秤にかける必要もあると思います。個人の良心が、未熟な土壌の中に埋没していって
しまうのは、とても残念なことだと思います。

Posted by もも at 2017年09月08日 06:50 | 返信

長尾先生が素晴らしすぎて 感動です
読んでいて 涙が出てきます

今の自分も いつ倒れるんだろう…と思いながら 仕事と向き合っています
曜日の感覚がなくなり
これはやばいなと思いながらも がんばるきゃなくって〜
なんとかしなくちゃっと思っても なんともならない現実があって…


ほんとに ベッドから転落された時
無力な自分がいて…それでも馬鹿力でなんとかしちゃう自分がいたり…

現場は 非常に過酷です…苦笑

Posted by 訪問看護師 宮ちゃん at 2017年09月10日 06:26 | 返信

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