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医師も金融老年学を学ぶ時代

2018年03月14日(水)

日本医事新報3月号は、「医師も金融老年学を学ぶ時代」で書いた。→こちら
医療や介護など、なんやかて言うても最後はみんなゼニの話になる。
在宅医はファイナンシャルプランナーたれと檄を飛ばす日々である。
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日本医事新報3月号  医師も金融老年学を学ぶ時代
 
 
増加する認知症裁判
 
 最近、親の認知症の有無を巡る子供間の争いに巻き込まれることが増えてきた。町医者としてしっかり本人・家族と話し合い穏やかな在宅看取りが終わった後の話である。その大往生に寄り添い1~2年も経ってから突然、弁護士さんを通じてカルテ開示の請求が来ることがある。「なにか医療ミスでも?」と一瞬身構えるが決してそうではない。兄弟・姉妹間で遺産相続争いをしているという。その最大の争点とはなにか。息子や娘さんが他の兄弟に黙って遺言を書かせたり親を連れて預金をおろしに行った時などに、本人に認知症があったか無かったかについて尋ねられる。90歳を過ぎた要介護5の人がいくらしっかりしていると言っても、認知症の有無を問われたら「あるといえばあるし、無いと言えば無い」としか答えられない時がある。有無ではなく程度の問題だ。忙しい外来の中、双方の弁護士さんから何度も電話がかかり難しい書類が届く。「カルテを見れば認知症があるか無いかくらい医者なら分かるでしょう」と迫られる。それぞれの子供たちは自分に有利なほうの判断を強く求めてくる。しかし、一方を肯定することは同時に他方を敵に回すことになる。一生懸命に看取りまでやり遂げた後に、こんな認知症裁判に巻き込まれると本当に煩わしいし情けない。いくら終わりが良くても、平穏死以後が怖い。

 一方、亡くなってた後ではなく、生きている間の軽度認知機能低下の高齢者の資産管理をめぐるトラブルに巻き込まれることも増えている。親の銀行預金の引き落としを巡り銀行側から認知症の有無の判定を迫られたという子供からの相談も持ち込まれる。かなり煩雑そうだと思った時は、運転免許の更新の同様に、認知症疾患センターに紹介する。しかし紹介されたほうもきっと困ることだろう。あるいは成年後見人制度の利用を勧めるが、まだ充分に市民権を得た制度とは言えない。私自身は、成年後見人制度の鑑定を年間数件程度引き受けているが、「補佐」「補助」「後見」のどれに判定するか迷うことも少なくない。子供に「忖度」するかしないか悩ましい。また「申立人」と「後見人」などの意味を知らない医師もいる。そもそも医師は患者さんの資産保全や財産分与に関する教育を受けていない。成年後見人制度を推進する団体から講演を依頼されたことが何度かあった。後見人をめぐって弁護士や司法書士や市民らが競合している現状を見て、どこを頼ればいいのか迷う。
 

金融老年学とは
 近年、認知症や高次脳機能障害の方が通帳・印鑑を繰り返しなくしたり、預金を盗られたと訴えることも増えている。またパラサイト家族から認知症の人が経済的虐待に遭っているような事例も多発している。また認知症の方が転倒・骨折や肺炎入院となった場合、医療機関にとっては独居でも家族が居るか、お金を払ってくれるのかが重要で、きちんと対応できなければ医療を提供を断る病院側もある。医療機関にとっては損金問題は死活問題にもなる。生活困窮の患者さんから「先生、僕の保証人になってくれ」と頼まれることもある。在宅医療の現場にいる多職種は、利用者のお金の管理にどこまで介入すべきなのか、できるものなのか。最近では金融機関側もそうした時の対応を研究し始めている。認知症や平穏死の講演を頼まれて出張すると、会場には必ず金融関関係係も聞きに来られている。終了後に名刺交換すれば、今度は金融関係者を対象とした終末期医療の講演をお願いされる。認知症の人の資産管理に関する法的整備はまだ充分とは言えない状況にある。

 こうした課題に対して、最近、フィナンシャル・ジェロントロジー(金融老年学)として進展を見ている。高齢者を対象とした医学には老年医学、老年薬理学、老年歯科学などがある一方、社会的・経済的な側面には金融老年学という分野もある。両者は決して独立したものではなく、高齢者の生活を支えるために車の両輪となるべきだろう。

 
 
資産有効活用の環境整備

 国の高齢社会対策大綱(2月16日に閣議決定)に「認知能力が低下した高齢者の資産の保護」が盛り込まれた。高齢期に不安なくゆとりある生活を維持していくためには、それぞれの状況に適した資産の運用と取崩しを含めた資産の有効活用が計画的に行われる必要がある。このため、それにふさわしい金融商品・サービスの提供の促進を図る。あわせて、住み替え等により国民の住生活を充実させることで高齢期の不安が緩和されるよう、住宅資産についても有効に利用できるようにする。また、低所得の高齢者世帯に対して、居住用資産を担保に生活資金を貸し付ける制度として、都道府県社会福祉協議会が実施している不動産担保型生活資金の貸与制度の活用の促進を図ることとされている。高齢投資家の保護については、フィナンシャル・ジェロントロジー(金融老年学)の進展も踏まえ、認知能力の低下等の高齢期に見られる特徴への一層の対応を図る、と謳われている。しかし現実には、国の大綱が整備されるまでには相当なハードルがあるだろう。

 「下流老人」という本がベストセラーになったが、健康格差と経済格差の相関性が指摘されている。末期がんの患者さんの家に訪問した時に最初に聞くことは、民間のがん保険への加入の有無である。もし加入していたら「余命6ケ月」の診断書を書けば生前に死亡保険金が受け取れる「リビング・ニーズ」が適応できるかどうかを聞く。「お医者さんなのにお金の心配までしてくれるの」と喜ばれるが、経験が豊かな在宅医は普通にお金の相談にも乗っている。はやり先立つものが無いと安心して療養生活が送れない。

 あるいは在宅患者さんの施設入所を真剣に考える時、その人の経済状態によって選択肢は限られてくる。本人とご家族の関係性だけでなく、それぞれの就労状況、収入、貯蓄などを詳細に聞く。病院にはMSWなどの専門職が配置されているが、開業医には稀だろう。今後、在宅医療に従事する医療者は、自身もファイナンシャルプランナーの知識が無いと良いケアを提供できないと考える。

 
地域包括ケアと金融老年学
 
 もはや認知症ケアに必要な知識は、医療・介護・福祉だけにはとどまらない。認知能力が低下した高齢者の運転転免許に関する知識だけでも、虐待の早期発見と対応にや後見人制度の知識にはとどまらない。認知症や社会的弱者の資産の保護に関してまで実に幅広い知識が無いと、貧困高齢者を地域で支えることは困難な時代になりつつある。

 以前、要介護高齢者の要介護費や個人資産を介護事業所が組織ぐるみで奪っているケースに遭遇した。御近所さんと一緒に、行政や警察に通報したが結局、相手にされずその高齢者は泣き寝入りするしかなかった。反社会勢力がその介護事業所のバックについていたからだ。
地域包括ケアの推進のためには約20の専門職同士の連携が必要である。しかしそれだけでは不十分である。こうした事例もあるので多職種と地域の救急や警察との官民を越えた連携も急がれる。死後のことを考えると葬儀屋とも連携しないといけない。もちろん連携だけではなく知識も必要な時代だ。冒頭紹介したような認知症訴訟に巻き込まれないためには、金融老年学の知識が必要となる。たとえば生活保護の手前にある貧困者には無料定額診療が使える。その国家制度の恩恵に預かるためにMSWさんが必要である。しかしもはやお金の問題はMSWだけでは扱えないし、残念ながら地域に出ているMSWさんは少ない。医師もケアマネも金融老年学をベースにしたケア論も学ぶ時代であろう。地域包括ケアの推進が謳われる中、多職種にも金融老年学的知識が必要であると考える。


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この記事へのコメント

えっ!認知症訴訟に巻き込まれる?????

これはたいへんです
良かれと思ってケアをしたのに こんなことに巻き込まれ こんなことに時間を費やすのはご勘弁です

人間って 死んでも 良くも悪くも 生き続けるってことですね

Posted by 宮ちゃん at 2018年03月15日 12:03 | 返信

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