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"ACP原理主義"への懸念

2018年04月17日(火)

日本医事新報4月号は「終末期ガイドラインを「忖度」する」で書いた。→こちら
どこに行っても、ACP花盛りであるが”原理主義”にならないか懸念する。
また意図的に隠ぺいされている言葉があることも敢えて指摘しておきたい。
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日本医事新報4月号   新しい終末期ガイドラインを「忖度」する   ”ACP原理主義”への懸念
 

とりあえず一歩前進

厚労省は、「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン(GL)」を公表した。2007年に初版が作成され11年ぶりに大幅改訂された。今回の終末期ガイドラインをどう活かすべきか、町医者の立場で考えてみたい。

従来のGLは主に病院仕様であったが、今回は在宅や介護施設などでの活用も想定した内容に改変されている。1)患者の考え方が変わり得ることを踏まえ患者との話し合いを繰り返す、2)患者が自らの意思を伝えられない状態になる可能性を踏まえ、「患者の意思を推定する者」を事前に話し合う、3)病院以外の介護施設や在宅の現場も想定し、話し合った内容はその都度、文書にまとめておく、となっている。「本人の意思を推定する者」については、「自分が決められない時に備えて決めておくということで1人ではなく複数でもよい」とするなど大認知症時代を想定したGLとなっている。多死社会をアドバンスケアプラニング(ACP)を主体にして乗り越えようという強い意思を感じる。終末期医療に携わる一町医者として、政府見解がとりあえず一歩前進したことは評価したい。

すでに新聞や雑誌の見出しには「終末期は話し合いを重視」などの活字が躍っている。またこれを受けて各医学会の終末期ガイドラインも適宜改訂を重ねることになるのであろう。しかし従来の各医学会のGLは医療者だけでなく市民への周知が不十分であった。あるいは現場では使いにくい、との意見もあった。今回の改訂をより実践的なものにブラッシュアップして広く市民に啓発するためには、まだまだ多くの課題がある。
 

本人意思は「忖度」されるか?

新聞の見出しには「本人意思の尊重」とあるが、いくら本文を読んでも「本人の意思」を記した文書、つまり「リビングウイル(LW)」や「アドバンスデイレクテイブ(AD)」の扱について触れられていない。本人の意思が明確に示されている場合への言及を避けている。その理由とは「人の気持ちは揺れ動く」からだという。しかしACPの結果、LWやADが否定されてもいいのだろうか。ちなみに婚姻届や離婚届は、あとで気が変わっても有効な文書である。

「本人意思が不明な場合」の対応が詳しく述べられているが、もし家族がいなければ医師主導のパターナリズムに陥らないのか。天涯孤独のおひとりさまは私の周囲では決して稀ではない。筆者はたとえMMSEが0点の認知症の人でも療養の場や延命治療に関して意思決定可能である事実を啓発してきた。在宅看取りをする町医者の立場からは、訪問看護師とケアマネが協働して本人意思、つまりLWを引き出す力が求められていると感じている。既に多くの行政や医師会が主導して本人の意思をLWという文書で表明してもらいそれを土台にACPを行なった結果、成果をあげている。

終末期医療の意思決定を3分の2は家族が、3分の1は医師が行っている現状が、ACPという美名のもとに持続するのではないかと危惧する。急性期病院の若い医師は、「ICを取る」というようにやがて「ACPを取る」と言うのだろうか。すでに一部の在宅医は「ACP原理主義」に対して懸念を示している。具体的には病院の研修医が未熟なACPをするよりも、熟練した在宅医が短時間でACP(それをLCPと呼ぶ、L=late)を行ったほうが患者満足度が上がる、と主張している。

そもそもLWは本当に無意味なのか。というのも今回のGLにLWという単語が一切登場しないのは不自然ではないか。LWという文字は「隠ぺい」されたのか。あるいは何らかの意図をもって「削除」されたのだろうか。「本人意思の尊重」はヒポクラテスの時代から医療における生命倫理の普遍的な大原則である。在宅看取りに携わる者としては、本人意思がLWとして明示されている人の方が家族との話し合いが断然し易い。一方、我が国の国会におけるLWの法的担保に関する議論はこの数年間、停止している。それどころか内閣府は現在「LWがあると医師の訴訟リスクが高まる」との見解を東京地裁に提出している。さらに日本救急医学会の幹部は「LWは救急現場には迷惑だ」と公言している。そんな中、今回のGLはLWに反対している内閣府や日本救急医学会に「忖度」した産物にも映る。しかし本来、医療者がすべきは本人意思の「忖度」ではないのか。
 
 
救急隊員の苦悩

4月1日の毎日新聞朝刊の一面には、“「蘇生拒否」消防6割遭遇“という大見出しが躍った。
― 全国の主要自治体を管轄する消防本部や消防局で、心肺停止の高齢者を救急搬送する際、現場で蘇生処置を希望しないとの意思を示された経験がある消防機関が全体の6割にあたる46機関あったという。さらに8割の60機関が蘇生不要の意思を受けた場合の対応で「苦慮する」と回答した。消防法令は蘇生措置の実施と、死亡と判断して搬送しない場合しか想定しておらず、蘇生中止に関する法的規定はない。救命任務と本人の意思尊重との間で救急隊員が苦悩している現状が目に浮かぶ。―


看取りのはずだった在宅患者さんが何かの間違いで119番要請された場合、救急隊員は内心不要だと思っても心肺蘇生処置(CPR)をせざるを得ないのが現状だという。いわゆる心肺蘇生不要の指示(DNAR)があっても、救急隊員が心肺停止に立ち会った時にCPRを行わないと、救急医やメデイカルコントロル(MC)に処分されたり、最悪の場合、逮捕される可能性があるという。つまりDNAR指示より消防法が優先するのが、多くの自治体における実態である。もちろんDNAR指示はLWに含まれている。紙面には「中止容認の提言も」という小見出しが躍る一方、LW尊重に否定的な意見がしっかり掲載されていた。心肺蘇生を嫌い「延命処置お断り」と胸に入れ墨をしている終末期患者さんの願いは消防法の前では無意味である。しかし患者さんの意思より救急医の意思の方が優先する国は世界中で日本だけである。在宅医療と救急医療の連携が求められるが、残念ながらあまり進んでいない。今こそ市民の声を真に反映した法整備を期待している。
 
 

「成年後見制度の罠」

最近、「成年後見制度の罠」(長谷川学氏と宮内康二氏の共著 飛鳥新社)という本を読んだ。成年後見制度が高齢者や障害者を食い物にしてその家族の人生も狂わせている実態だけでなく、被害者の救済マニュアルも記載されている。実際、認知症の人の成年後見をめぐるトラブルに家族だけでなく町医者も巻き込まれる機会が増えている。介護保険制度とともに2000年に誕生した成年後見制度だが、次々と負の側面が露呈している。筆者は成年後見人の鑑定書依頼を受けているが、もしかしたら悪事に加担しているのではという不安が常にある。認知症の人をめぐっては医療・介護制度だけでなく、財産管理に関する新たな法整備が必要であろう。多死社会のピークである2040年まであと22年である。まさに前回述べた「老年金融学」が求められている。

しかし我が国はLWやDNARの議論を避けたまま、ACPだけで多死社会を乗り切ろうとしている。果たして厚労省のGLや各医学会のGLだけで叶うのだろうか。終末期の医療・介護は多分に社会的な要素が強くお金の問題抜きでは到底考えられない。私たち在宅医療に携わる者はファイナンシャルプランナーであることも求められる時代である。つまり医療代理と金融代理を一体化した法整備も急がれる。人生100年時代における療養形態は多様化する一方である。それに呼応すべく終末期支援だけに留まることなく、包括的な支援体制の構築に議論を進めるべきであろう。
 

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この記事へのコメント

Facebookで引用させて頂きました。

Posted by 桑原英眞 at 2018年04月29日 10:23 | 返信

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