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医師と薬剤師の連携

2019年03月01日(金)

国は、医師と薬剤師の連携を求めている。
患者さんはかかりつけ薬局を勧めている。
日本医事新報2月号に、そんな事を書いた。→こちら
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日本医事新報2月号  医薬連携の現状と未来  長尾和宏
 
国が本腰を入れ始めた
厚生科学審議会における「医薬品医療機器制度部会」は昨年12月25日に「薬機法等制度改正関するとりまとめ」を公表した。地域包括ケアシステムの構築が進む中、薬剤師・薬局が医師・医療機関等の関係機関との情報共有や連携を深めることを求めている。例えば、服薬状況等に関する情報を医師へ適切な頻度で提供するよう努めるべきだと明確に指摘している。同日に公表した「医薬分業に関するとりまとめ」では、在宅医療の需要の増加が見込まれる中で、薬物療法の提供が大きな課題であるとし、かかりつけ薬剤師・薬局の機能を重要視している。なお厚労省は薬機法改正案を国会に提出するという。そんななか、在宅医療も行う町医者から見た医薬連携の現状と未来について論じてみたい。
町医者として薬剤師さんとの連携については問題山積であると日々感じている。個人的にはジェネリック医薬品の問題とポリファーマシーも問題が喫急の課題であると考える。現在、経済的理由から生活保護受給者への投薬はジェネリック医薬品に限られている。もし違反すると個別指導になるといわれるが、先発品でないと効果を実感できないと言い張る患者さんもいる。困り果てた薬剤師から相談されるが、現場ではとても厄介な問題だ。現在の調剤薬局はどこも先発品と後発品の2種類の在庫を抱えなければならず、調剤スペースやデッドストックに悩んでいる。
 5年前、終末期医療の講演で台湾を訪問した時、診療所の外来や在宅医療を見学する機会を得た。台湾の診察券は銀行のキャッシュカードのようなもので、診療所の受付でリーダーに入れると保険者番号と同時にお薬手帳の内容が画面に表示された。医療情報が無くても、投薬情報があればおおよその医療情報は想像できる。薬歴情報がカードに一元化されると多重受診や多重投薬や併用禁忌のチェックが容易である。またポリファーマシーの状況が国家レベルでも把握もできるので、減薬への道筋が見通せる。
 一方、日本ではお薬手帳を何冊も持っている患者さんがいる。薬局は新たに発行するたびに報酬を得られるからか、一冊への統合は決して容易ではない。医師や薬剤師がいくら「かかりつけ薬局」や「かかりつけ薬剤師」を啓発してもいかんせん強制力がないので市民には定着していない。いっそ台湾を見習ってキャッシュカード型の診察券を国が造ってはどうだろうか。そして日本医師会が開発したオルカのような全国共通の電子カルテシステムを進化させて、それとお薬手帳を連動させるべきではないか。日医総研に期待している。
 
 
門前ならぬ「門内」薬局は?
 開業して24年になるが、当初の10年間は院内処方で頑張っていた。患者負担を考えたとき院外処方という選択肢は全く無かった。しかし病院からの紹介状には続々と出る新薬の処方依頼があり薬剤在庫は増える一方だった。またジェネリック医薬品に対応するためには院内調剤を諦めざるをえなくなった。決して経営上の理由ではなく、単純に患者さんのニーズに応えられなくなった。調剤スペースや人手といった物理的要因も加わり、院外処方への転換を余儀なくされた。院外処方にした途端、驚くほどストレスが減った。薬剤の購入や管理、調剤スタッフの労働管理などの煩わしい業務から見事に解放された。
しかし失ったものは大きかった。患者さんの自己負担や動線の増加など多大な迷惑をかける状態が今も続いていてとても心苦しい。なによりお薬の現物との距離ができてしまった。そのためか残念なことに投薬数が増えてしまった。複数医師で診療しているが皮肉にも医師数の増加と比例している。現物を見ずにパソコン画面に向き合っているとポリファーマシーは実感されにくい。だから今、もし院内調剤に戻れるものなら戻りたい。しかし戻れない。
 
医薬分業は院内でも可能
3.11のあとのGWに気仙沼の大島という島にボランテイアに伺った。島に1軒しかない診療所には立派な薬局があり、薬剤師さんが不在とのことで調剤を少し手伝わせて頂いた。しかしそれは院外薬局ではなく純粋な院内処方と聞かされ、驚いた。その経験から、「門前」ではなくいっそ「門内」に薬局があれば医師も患者さんも両方がハッピーになるのではないかと考えるようになった。薬剤師さんが「門内」にいれば口頭で意見交換できるなど連携しやすい。
ポリファーマシーを見かけても減薬作業は現実には困難である。臓器別縦割医療という要因だけでなく多重受診など患者さん側の要因もある。20種類もの退院時処方が一包化された形で在宅に帰ってくることが時々ある。認知症が高度なら昼夜逆転などで服薬コンプライアンスが低くなる。どう考えても不要と思われる薬をピックアップして優先順位をつけて徐々に減薬していくが、その時に頼るのが薬剤師である。一包化された中からどう考えても不要であろう特定の薬を一包化された袋から取り出してルーペで拡大して見つけ出す作業は私にはできない。また減薬を進める一方で新たに必要なお薬を加える時も、訪問して服薬管理をしてくれる薬剤師が必要だ。
そもそも医薬分業とはお薬に関しては薬剤師の専門性に委ねるという意味だろう。特定の薬局と癒着してはいけないというが、現実には医療機関の前には薬局が立ち並び、問前薬局と呼ばれている。では門内、すなわち医療機関内に薬局があれば患者さんはどれほど助かるだろう。医師と薬剤師が密接に連携するためには距離が近いほどいい。両者の密接な連携が謳われる一方、特定の薬局と懇意になりすぎてはいけないといわれる。もし癒着が心配であれば、むしろ正式に門内薬局の開業を認めたほうがスッキリするのではないか。気になる調剤料は現在の院内処方と院外処方の中間あたりに設定してはどうか。その代わりに薬剤師の配置基準を大幅に緩和する。薬剤師がいない院内調剤に比べたら薬剤師がいる門内薬局のほうがリスク管理上も優れている。
 
ナラテイブも共有したい
患者さんとの信頼関係はその人の生活や人生観を知ることでより深まる。時間が許す限りその人の「ものがたり(ナラテイブ)」にじっくり耳を傾けることが大切だ。患者さんの想いに共感できることが「かかりつけ医」や「かかりつけ薬剤師」の条件であろう。かかりつけ医の仕事の大半は高齢者診療である。外来診療も在宅医療も、複数の疾患を有する高齢患者さんのマネッジメントは疾患別ガイドラインどおりには決していかない。病気の枝葉末節にとらわれることなく、QOLや予後をも俯瞰した判断の連続である。そこで重視すべきはナラテイブである。訪問や在宅看取りはその延長線上にある結果にすぎず、決して目的ではない。
秋田県医師会は在宅医療・介護連携ICTツールとして「ナラテイブブック秋田(自分手帳)」を開発した。「ナラテイブ=本人のものがたり」で、「ブック=まとめる」という意味だ。電子カルテの医療情報共有とは別物である。これは連携のための情報共有ではなく、本人が主体となった記録管理システムである。本人の想いを言葉だけでなく写真や絵も添えてクラウドシステムに書き込んで造られるナラテイブブックは、本人と家族はもちろん多職種も閲覧している。その詳細は秋田県由利本荘医師会のHPにアップされているので是非参照して欲しい。ナラテイブが医師と薬剤師の間で共有されると自然と在宅看取りに至りやすいという。ACPの愛称が人生会議と決まったがナラテイブブックは人生会議そのものだ。ACPとはナラテイブ診療と表裏一体であろう。だから薬剤師とは医療情報だけでなくナラテイブの共有も目指したい。それが地域包括ケア時代における医薬連携のあるべき姿であると考える。
 

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この記事へのコメント

長尾先生、こんにちは!
鹿児島で薬局薬剤師をしております沼田です。
医薬連携、薬薬連携は患者さんのために、どうしても薬剤師が働かねばならないところだと、私自身、常日頃思っておりますので、コメントさせていただきます。

今の薬局薬剤師の働きは、一般的にはわかりづらく、非常に物足りないものがあるのもよくわかります。
これではいけない、と思います。
しかし、基本的に薬剤師という職業人は、まじめな人間が多く、その分受け身なのでこういう現状なのかもしれませんが、ただ、いいかえれば、忠実にこなしていく、という部分もあり、能力的にも国家資格なので、ある程度の働きができる人材が大多数のように思います。
ただ、薬剤師自身が国に対して、自分自身がそういった人材であることを認識しておらず、その能力をまだまだ世の中のために発揮できていませんし、活かしていくという意識ももっていないように思います。

薬局の在り方についてはいろいろと議論の多いところではありますが、世界に類を見ない超高齢社会を迎える大変な時代に、なんとか「薬剤師」という職能を世の中に活かしていきたい、利益云々ではなく、国民にとって必ず役に立つことがあるはずだと思うのですが、それにはどのようなかたちがよいのか、悩むところです。

長尾先生にも今後ともご指導いただきながら、薬局や薬剤師の在り方活かし方について考えていきたいと思います。

Posted by 沼田 真由美 at 2019年03月02日 11:13 | 返信

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