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透析中止報道に想う まずは事実を知りたい
2019年03月09日(土)
毎日新聞が、「透析中止で患者死亡」と一面で報じた。
なんか医者が無理やり中止して悪いという風な書き方。
そりゃ中止すれば死ぬだろうが、何があったのか?
なんか医者が無理やり中止して悪いという風な書き方。
そりゃ中止すれば死ぬだろうが、何があったのか?
<毎日新聞 3月7日朝刊>
https://mainichi.jp/articles/20190307/k00/00m/040/002000c
医師が「死」の選択肢提示 透析中止、患者死亡 東京の公立病院
東京都福生市と羽村市、瑞穂町で構成される福生病院組合が運営する
「公立福生病院」(松山健院長)で昨年8月、外科医(50)が都内の
腎臓病患者の女性(当時44歳)に対して人工透析治療をやめる選択肢
を示し、透析治療中止を選んだ女性が1週間後に死亡した。
毎日新聞の取材で判明した。
病院によると、他に30代と55歳の男性患者が治療を中止し、
男性(55)の死亡が確認された。患者の状態が極めて不良の時などに
限って治療中止を容認する日本透析医学会のガイドラインから逸脱し、
病院を監督する都は6日、医療法に基づき立ち入り検査した。
ガイドラインから逸脱 都が医療法に基づき立ち入り検査
外科医は「透析治療を受けない権利を患者に認めるべきだ」と話している。
病院側によると、女性は受診前に約5年間、近くの診療所で透析治療を受けていた。
血液浄化用の針を入れる血管の分路が詰まったため、
昨年8月9日、病院の腎臓病総合医療センターを訪れた。
外科医は首周辺に管を挿入する治療法と併せ、
「死に直結する」という説明とともに透析をやめる選択肢を提示。
女性は「透析は、もういや」と中止を選んだ。
外科医は夫(51)を呼んで看護師同席で念押しし、女性が意思確認書に署名。
治療は中止された。
センターの腎臓内科医(55)によると、
さらに女性は「透析をしない。最後は福生病院でお願いしたい」と内科医に伝え、
「息が苦しい」と14日に入院。
ところが夫によると、15日になって女性が「透析中止を撤回する」と話したため、
夫は治療再開を外科医に求めた。
外科医によると、「こんなに苦しいのであれば、また透析をしようかな」という発言を
女性から数回聞いたが、苦痛を和らげる治療を実施した。
女性は16日午後5時過ぎに死亡した。
外科医は「正気な時の(治療中止という女性の)固い意思に重きを置いた」と説明。
中止しなければ女性は約4年間生きられた可能性があったという。
外科医は「十分な意思確認がないまま透析治療が導入され、
無益で偏った延命措置で患者が苦しんでいる。治療を受けない権利を認めるべきだ」
と主張している。
日本透析医学会が2014年に発表したガイドラインは透析治療中止の基準について
「患者の全身状態が極めて不良」「患者の生命を損なう」場合に限定。
専門医で作る日本透析医会の宍戸寛治・専務理事は「(患者の)自殺を誘導している。
医師の倫理に反し、医療とは無関係な行為だ」と批判している。
外科医は女性について「終末期だ」と主張しているが、
昨年3月改定の厚生労働省の終末期向けガイドラインは医療従事者に対し、
医学的妥当性を基に医療の中止を慎重に判断し、患者の意思の変化を認めるよう求めている。
東京都医療安全課の話 生命尊重と個人の尊厳保持という医療法の理念通りに病院が適正に管理されているかを確認している。
厚労省地域医療計画課の話 一連の行為は国のガイドラインから外れ、現在の医療水準や一般社会の認識からも懸け離れている。
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以下、まぐまぐの有料メルマガから特別に引用。
昨日は、終日、マスコミ各方面から意見を求められました。
はこの報道をどう扱っていいのか戸惑っているようですが、
私も同じです。情報が少ないからです。
まず私は、毎日新聞の記事を読み、
内容が本当に正しいのかな?と疑いました。
・本当に医者のほうから「中止」を勧めたのか?
患者の意向を受けて同意しただけなのか
・中止してから亡くなるまで、特に亡くなる前日に本人、
家族と医師の間でどんな話し合いがあったのか?
詳細を知りたいと思いました。
もしかしたら医師を貶めるために恣意的な見出しをつけたのではないか、
とさえ思いました。
死の前日に透析を再開しなかったから医師が患者を殺した、と
いう前提での報道であるならかなりおかしいと思います。
1週間中止して全身状態が悪ければ透析再開ができない。
透析中に亡くなれば今度は「透析中に死亡」となるのか。
亡くなってから半年後になぜ第一面にスクープ記事として載せたのか・
。
毎日新聞は過去に医師や病院のグレーゾーンの事案(?)を
思い切り煽って悪者として書いてきた過去があるので、
申し訳ないけど記事の信ぴょう性が気になりました。
そのうえで個人的な感想を書かせて頂きます。
1 本当に医師が中止を勧めたのか?
「患者意思の尊重」が医療の大原則なので、
透析医側から延命治療の中止を提案することは、基本、ありえません。
患者さんが「やめたい」と訴えて話し合いの結果、「同意したのなら、
「勧めた」とか「提案した」いう表現はちょっと違うかなと思います。
2 果たして終末期だったのか?
基本的なこととして「シャントが詰まったこと=終末期」ではありません。
透析患者さんの終末期とは透析学会も言っているように
全身状態が極めて悪い多臓器不全の状態です。
本当に死期が迫っている終末期であれば、
患者さんの意思で中止することは日本においてもいくらでもあります。
高度の認知症などでもはや意思表示ができない人に限っては
家族や知人が意思決定する場合もあります。
全身状態がどうだったのかを知りたいです。
3 ACP(人生会議)が、何回くらい行われたのか
透析を中止した2日後、3日後、4日後の、本来の透析日にも
二度目、三度目の話し合いがあったのでしょうか。不明です。
私の場合は、透析を中止した方は、毎日医師ないし看護師が訪問して
何度も意思確認を繰り返します。
また中止ではなく、透析導入を拒否して在宅看取りを希望される場合も同様です。
ACP(人生会議)が、何度行われたかです。
そしてどんな内容だったのでしょうか。本当に寄り添えたのか。
4 透析を中止したあと、どのように死に向かうのかを説明したのか、
亡くなるまでにどんな苦痛が予想されるのか、を話しあっていたのでしょうか。
死の前日に夫に送ったメールがそのまま報道されていますが、
もはや意識状態が低下したせん妄状態に陥れば
「苦しい、助けて!何かして!」と訴えるでしょう。
あらかじめ予想されることですが。
ときには拙書『痛い在宅医』で描いたように
「死の壁」の前で書いたメールかもしれません。
本にも書いたように、モルヒネ座薬や安定剤での座薬、
時には鎮静でそれに対応することを家族は聞いていたのでしょうか。
中止後のアフターケアも緩和ケアです。
それが無いと家族は後悔するでしょう。
5 死亡前日の本人・家族からの透析再開の要請に
どう対応すべきだったのでしょうか。
どんな時でも医療者は申し出に自分の意見を押し付けるのではなく
丁寧に向き合うべきです。
死の直前なので全身状態が極めて不良で透析をしたくても
もはや透析ができない状態であったと推測します。
ならばその旨を丁寧に説明すべきだったと思います。
新聞記事は前日のメール時点を問題にしていますが、
その手前である中止後数日間の対応こそが重要なのです。
6 そもそも、ですが……、
40歳代という年齢を考えるとなぜ「腎移植」という選択肢を
示さなかったのかという疑問も残ります。
10年もの透析期間があったのならば、
腎移植が可能であったのではないか。
あるいはシャントが詰まったなら、腹膜透析という選択肢もあるし。
つまり代替方法の説明があったのかについても触れられていません。
新聞記事に基づくならば、問題があるとすれば、
・医師が自分の死生観を押し付けたこと
・中止までに、そして中止後も充分な話し合いが行われていない。
・医師が患者さんや家族の最期の願いに向き合わなかったことも。
・マスコミはそもそも今、なんのために蒸し返すのか、
なぜ事件として報じるのか、という疑問が残ります。
・またなぜ行政や、もしかしたら警察が立ち入り調査に入るのかも理解できません。
終末期医療の問題に素人が入っても解決しないと思います。
もし第三者を入れるのであれば「透析学会」や「医療メデイエーター」でしょう。
あれだけの情報だけでは「透析医学会のガイドラインを逸脱」とは言い切れないのでは、とも思います。
本当に終末期であった可能性があります。
つまり、シャントの閉塞とは関係なく終末期であったかどうかも
焦点を当てるべきです。
人工透析をめぐるこうした問題はあります。
私も透析の非開始や中止例を時に経験しますが、問題はおきていません。
つまり医療内容の是非とともに、医師と患者のコミュニケーションが不足していたように思いました。
中止後も、いや中止後こそより一層丁寧なコミュニケーションが必要です。
私の場合は毎日往診して意思確認をし、
家族とも十分なコミュニケーションをとっています。
しかしこのケースは十分なACP(人生会議)がなされていなかったように思いました。
疑問点が多い報道ですが、ひとつだけいいことがあります。
それは「透析のやめどき」という当事者には切実な問題に
我が国で初めて光が当たったことです。
東海大学事件にせよ射水市民病院事件にせよ、患者さんの意思を尊重した
医師が悪者にされたことがきっかけで、終末期議論が一歩前に進みました。
そういう意味においては、意味があります。
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この記事へのコメント
8日昼頃にネットでこの記事を読んで、う〜〜〜んと唸ってしまった。
日本人は情報の浅い部分だけですべて理解したような気分になって、大騒ぎしてゴ〜ッと流される傾向が強い。
この次はおそらく延命治療肯定論が優勢になるのだろうな、と感じた。
あと、首周辺に管を挿入する治療をした外科医と、センターの腎臓内科医が出てくるのだけれど
当事者の女性の主治医は誰だったのだろう、と疑問に思った。
腎臓人工透析患者の主治医が外科医なの???
「外科医(50)が都内の腎臓病患者の女性(当時44歳)に対して人工透析治療をやめる選択肢を示し」と
書いてあるけど、人工透析を必要とするような重症の腎臓病患者になぜ外科医が出てくるのかしら?
素人にはまったくワカラナイ。
はっきり感じたことは、この外科医先生はものすごく意思疎通が下手な人なのだろうと。コミュニケーション能力ゼロ。
Posted by 匿名 at 2019年03月09日 01:24 | 返信
先生の仰るように詳細が分からないので、意見の持ちようがない報道です。
患者の意思の問題、尊厳死の問題も絡んでくるような気がします。
がん患者としては、陰に陽に、抗がん剤治療を諦めて、緩和ケアというバスに乗りなさいと言われる現実と、どういう違いがあるのだろうかと考えました。
緩和ケア医の中には、透析をやってる最中、止めた後に緩和ケアを受けたのかと、そちらに引き付けての論を発した人もいます。
医師の人生観の押しつけの問題は、このケースにあったのかないのか、詳細はわかりません。マスコミには予断を持って報道してほしくないです。
しかし、病気になった患者は、その病気の治療で名のある医師の、特定の人生観の押しつけの様なものを感じる時があるのも事実です。先の見えたがん患者などは、年がら年中、終活を勧められますから、時々、メディアを駆使するがん治療や緩和ケアの専門医から、自死を勧められているような気持ちがする時があります。
医師も、患者の意思も守られるべきです。
一人の医師が生贄に上がって、それで御終いにはならないでほしいです。
それでは、医師も患者もどちらも救われません。
Posted by 樫の木 at 2019年03月09日 04:56 | 返信
とりあえず、やってみちゃう。実行が大原則かのような行動は、いささか疑問です。
既に「契約書を交わしましたよねっ!!」的な発想は、短絡的な勇み足のように思います。
イメージとしては、作家・医師 渡辺淳一さんが執筆された小説:安楽死 がテーマな
物語があったような気がします。患者の安楽死を実行してしまう医師の物語だったと
思うのですが、題名は思い出せません。
何につけても「根回し」が大事だと、どこかで誰かが言っていました。
Posted by もも at 2019年03月10日 12:25 | 返信
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