きらめきプラス10月号の連載は、「家に帰れない」
と言われたいう質問に関して私の経験を書いてみた。
実は、頻回にある質問である。
『きらめきプラス Volunteer vol.78』在宅医療は健幸医療
最終的には在宅医との話し合いや関係性により決まります。
家に帰れないことはない、はずです。
→こちら
きらめきプラス10月号
今回は石川県小松市で食堂を営んでいる女性(59歳)からのご相談です。
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Q)
3年前母が亡くなってから88歳の父と二人で実家で暮らしていますが、
2月に父が脳梗塞で緊急入院。
意識は戻りましたが、会話が困難になり、右麻痺、嚥下障害が残りました。
その後リハビリでお粥が食べられるまで回復してきた時に、
今度は水頭症が見つかり手術。
現在、鼻チューブからの栄養摂取です。意識はあまりないように感じますが、
時々苦しそうにしています。熱も下がりません。
病院からは「ステロイドの影響だと思われるが、薬を急にやめることはできない。
今はこれ以上出来ることがない」と言われました。
以前、長尾先生が「基本的にはどんな病気でも在宅医療は可能です」
「死を覚悟して家に帰ること、管を外し口から食べることにトライするという
選択について、みんなが納得、満足するか、しっかり確認をしあいましょう」と
おっしゃっていたことを思い出し、姉二人と父の兄弟6人で話し合い、
チューブをはずし父を自宅で看取ることを決めました。
しかし、病院からは痰の吸引や熱が下がらないなどの理由でやめたほうがよいと
言われました。ケアマネや市の在宅医療相談窓口でも相談しましたが、病院と同じような内容で反対されました。以前私と同じような質問をされていた方がいらっしゃいましたが、やはり自宅での看取りは難しいのでしょうか。よろしくお願いいたします。
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A)
脳梗塞後遺症の慢性期医療についてのご相談です。私も同じような患者さんを何人か在宅で診ています。せっかくの水頭症の手術をしてもあまり効果が見られなかったようですね。本来なら胃ろう栄養に変更すべきでしょうが、鼻から栄養の管のままになっている理由として
1)その病院では胃ろうが造れない
-
予後不良なので、胃ろうを造れない、ないし意味が無い
-
意識レベルが低下しているので将来的に口から食べられる可能性が極めて低い
などが考えられます。
さて、在宅看取りを前提としたご質問のようですが、諦めるのが少々早すぎるのではないかと思いました。つまり、本当に終末期なのか、という話です。
現在、誤嚥性肺炎を起こして抗生剤に加えて呼吸困難を緩和する目的でステロイドも投与されているのかなと想像しましたが、肺炎さえ収まればまた小康状態を保てる可能性があると思います。ただし、現在、鼻からチューブからの栄養剤の注入量が多いのではないでしょうか。痰が多く発熱しているのは、注入量が多すぎて「溺れて」いる可能性は無いでしょうか。体格や年齢にもよりますが、88歳でもし体重が50kg程度であれば、注入量は1日1200~1500mlでカロリーは、1日800~1000Kcal程度で充分ではないかと考えます。もしそれより多いのであれば、少し「絞る」ことで心不全や肺水腫が改善することを時々経験します。もっともこれはお医者さんに言う事であり家族に言うべきことではないかもしれませんが、一度注入量に関して主治医とよく相談する余地はあるかと思いました。
鼻からの管を外すのは簡単です。しかし家に帰る=管を外す=看取る、ではないと思います。早計な判断に感じました。家に帰ってからも病院と同じように慢性期管理を続けると、多少なりとも現在よりも改善する余地があるのではないでしょうか。少なくとも私はお父様と同じような方を在宅で診ていますが、家に帰ったあと、自宅効果に加えて意識レベルを上げる薬剤を使うことで全身状態が改善することを経験します。
「家に帰り管を外し口から食べることにトライするという選択」には一つの前提条件があります。それは意識レベルがある程度保たれていることです。老衰ではある程度保たれている場合が多く、再び食べられる可能性があります。しかし脳梗塞と水頭症により意識レベルが低下している状態なら、食べる以前に意識レベルを上げることを考えます。つまり、チャンスが大きいならチャレンジしますが、小さいならチャレンジしない、という意味です。時と場合、病態により、食べる食べないの判断は異なるので、お手紙を読んだだけで単純化はできません。そこを誤解しないようにお願いします。
結論を申せば、鼻から管の栄養を続けながら、注入量を減らしてから自宅に帰ってはどうでしょうか。呼吸状態が多少でも改善すれば上を目指せばいいし、万一、経過が悪化の一途であれば注入量を減らし、もし余命いくばくかと判断されたなら、そこではじめて注入量をゼロにするか管を外すことを考えればいいのではないか(同じことですが)。というのは、家族の一人が「管を抜いたから亡くなった」という自責の念に密かに悩続ける可能性があるので、こんなまどろっこしい言い方をしています。
最終的には在宅医との話し合いや関係性により決まります。経験豊富な在宅医なら家族の気持ちを尊重した提案をしてくれるはずです。以上はあくまで私自身の考えかたに過ぎず、医師によって考え方にかなり幅があると思います。貴方と相性がよく事前に充分相談に乘ってくれる人がいい在宅医です。自分で探すしかありません。
ただ、「最期は自宅で迎えさせてあげたい」という気持ちはできるだけ応援したいですね。ご家族には、1)管からの注入を自分たちがするという肉体的負担と、2)看取りになるかもしれないという精神的負担がかかります。在宅療養期間があっという間かもしれませんし、今のような状態が何ケ月も続くかもしれないし、今より多少は改善したけども経口摂取不能の状態が年単位で続く可能性もあると思います。しかし万一、長期療養になればまた別の療養形態を考えればいいことです。そうなれば、そこで胃ろうの造設を考慮する可能性もあります。とりあえず「だいたい現状のまま家に帰る」ことをお勧めします。家に帰れないことはない、はずです。
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この記事へのコメント
父親がほぼ同じ状態です。
質問者の方とも同じようなことを思っていたので
こちらの記事を読み、納得できました。
ありがとうございました。
Posted by 匿名 at 2022年02月21日 03:58 | 返信
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