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コロナで亡くなられた有名人

2020年05月12日(火)

夕刊フジの金曜日に「ドクター長尾のニッポン臨終図鑑」
の連載を始めて4年目になるが、最近はコロナ死が続く。
まさか、岡江氏や志村氏の訃報を書くとは思わなかった。

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岡江久美子さん  →こちら


 シャボン玉飛んだ…有名な唱歌『シャボン玉』。のどかな歌に聞こえますが、作詞家の野口雨情が幼くして死んだ娘を想って書いた作品だそうです。

 「屋根まで飛んで 壊れて消えた…なぜか今、この歌を口ずさんでしまいます。太陽のような明るさと春風のような優しさを持つあの人が突然、しゃぼん玉のようにはじけて消えてしまいました。大切な人がしゃぼん玉にならないように皆さま、くれぐれもご用心ください」。俳優の大和田獏さんが、親しい方に送ったメッセージです。

 大和田さんとおしどり夫婦で知られた女優の岡江久美子さんが、4月23日に、新型コロナウィルスによって都内の病院で亡くなりました。まだ63歳の若さでした。
私と同年代。美人で天真爛漫な岡江さんのファンでもあったため、この訃報には、ことさら衝撃を受けました。御自宅の前で岡江さんの遺骨を受け取り、報道陣に頭を下げた大和田さんの姿にも、涙が止まりませんでした。

 見舞いもできず、お看取りもできず、葬儀もできない…愛する人がある日突然、シャボン玉のようにいなくなってしまう。新型コロナが、人の終末期の在り方を、突如大きく変えてしまいました。
 テレビなどの報道で、岡江さんの病状の経緯はご存じだと思うのでここでは振り返りません。

しかし、24時間365日、いつでもすぐに電話ができる「かかりつけ医」を持っていたら、自宅で重症化することはなかったのでは? もっと早期にできる治療があったのでは? タラレバですが、一町医者として悔しくてなりません。志村けんさんの訃報の際も、同じ悔しさを覚えました。

 大病院の主治医とは別に近所でもかかりつけ医を持つことは、制度上問題なし。私も、通院でがん治療中の多くの在宅患者さんを、日々サポートしています。ちょっとした体調の変化から、治療への不安や疑問など、どんな悩みも引き受けるのがかかりつけ医の役割。

 岡江さんは、昨年末に初期の乳がん手術をし、1月末から2月半ばまで放射線治療を受けていたとのこと。体力と免疫力が落ちていたことは間違いありませんが、それと新型コロナ重症化との関連性は、誰も証明ができません。

 今、がん治療中の人は、悩ましい日々が続くと思いますが、自己判断で治療をやめることだけはしないようにお願いします。そして、 がん闘病中の人だけでなく、元気な人にも岡江さんの死を重く受け止めてもらいたいと思います。

 あなたが陽性ではないという保証はどこにもありません。そしてあなたが、どこかでがん患者さんに感染させていたとしたら?  悲劇を一つでも減らすため、GWはステイホームをお願いします。
 

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志村けんさん →こちら


 まさか、この人のことを、この病名で書くことになるとは……。

 志村けんさんの訃報に、日本中が悲しみにくれました。
 3月29日に都内の病院で死去。享年70。死因は、新型コロナウィルスによる肺炎との発表でした。

 私が、「新型コロナウィルスで、日本も早晩大変なことになるのでは…」と感じ始めたのは2月の下旬、ダイヤモンドプリンセス号の乗客から死者が出た頃です。

 そこから、刻一刻と状況は変わっていきました。当初は、11年前の新型インフルエンザと比べてそれほど毒性は高くないと思っていましたが、感染拡大とともに毒性がどんどん強くなっているように感じています。

 新型コロナウィルスにはL型、S型の2種類があるというニュースが広まりましたが、約100種もの遺伝子変異があるそうです。2月までは高齢者などのハイリスクの人しか感染しないといわれていましたが現在は若者や小児など全世代が続々と感染しているのは変異と関係しているのでしょう。

 そうした観点から、多くの命を守るためには外出を避けて、極力家でおとなしくしていてくださいと患者さんや市民に、SNSを通して呼びかけ続けた3月でした。
 だけど世間の多くの人が、「自分は関係ない」「自分だけは罹らない」と思っており、町医者のオッサンの御願いなどまともに取り合ってはくれませんでした。「大げさ」とか、「不安を煽りすぎ」と揶揄されたこともありました。

 しかし、志村けんさんの死によって、この国の空気は一変したように思います。

 何百人の医者や専門家が警告を発するよりも、一人の有名人の死が世の中を大きく変えることがある・・大変悲しい出来事ですが、まざまざと志村けんさんがどれほど日本国民に愛された大スターだったのかを身をもって感じました。

 今、この原稿を書いているのは4月5日(日)の夜ですが、志村さんの死から一週間、毎日毎晩、志村さんの過去の出演番組が流れており、在宅患者さん達が、「悲しいねえ」と涙を流しながらも、バカ殿や変なおじさんのコントを見て笑っているという、不思議な現象が起きているのです。

 日本全国、泣き笑いの一週間。新型コロナウィルスの恐ろしさとともに、この鬱々とした世の中に、死んだ後もまだまだ、笑いを届けてくれている志村さんは、本当にすごい芸人さんだったと思います。

人間は、悲しくて辛いときこそ、ホッとする出来事や笑いが必要です。外出は自粛してほしいですが、笑いを自粛する必要は全くありません。テレビ局にはどうかしばらくの間、志村さんの番組を流して私たちを笑わせてください。オリンピックの代わりに、ずっと。

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立石義雄さん →こちら

 医療現場では、相変わらずマスクや防護服が不足がちです。マスクに関しては、皆さんも相当にお困りでしょう。しかし、「先生、使ってください」と、送ってくださる善意の人が何人もおられて、感謝の言葉もありません。

 一方、メルカリなどのサイトでは、体温計やパルスオキシメーターを買い占め高値で転売している人がいるそうです。この状況でお金儲けかと、怒りさえ覚えます。

 大手電機メーカー、オムロンの元社長で名誉顧問をされていた立石義雄さんが、京都市内の病院で4月21日に亡くなられました。享年80。死因は、新型コロナウィルス感染との発表です。

 この連載で、新型コロナウィルスで亡くなった方を書くのは、これでもう3人目です。立石さんは、4月5日に医療機関を受診したところ肺炎だとわかりました。PCR検査の結果、翌日、新型コロナウィルスと判明したといいます。

 志村けんさんや岡江久美子さんも、入院してから2週間前後であっという間に旅立ってしまいました。症状が出てから病状の進行が早すぎる……これが、新型コロナ感染の恐ろしいところです。
 新型コロナの場合、軽度の肺炎を起こしていても、息苦しさ(呼吸困難感)をあまり感じない人が多いようです。

 人間の動脈血中には、本来、酸素濃度を感知する受容体があり、舌やのどの神経などと連絡を取り合っています。しかし、新型コロナは、この受容体をも攻撃するため、息苦しいと感じる機能を麻痺させてしまうようです。あくまでも仮説ですが、嗅覚や味覚が低下するという特有な症状も、それぞれの知覚神経が攻撃されているのでしょうか。

 そして、自覚症状が出たときにはかなり重症化しているので、日々悲劇が起きているのです。

 こうした状況を忌避するためには、低酸素状態を簡単に発見できるパルスオキシメーターが有効です。血中の酸素量を、指に挟むだけで簡単に測れるこの電子機器は日本で開発されたものです。在宅医療にはかかせない機器のひとつで、血圧計と同様、1万円前後で市販もされています。

 政府は、マスクよりもまず、体温計とパルスオキシメーターを全家庭に配布するべきだと私は考えています。今大切なのは、国民全員にPCR検査を! と叫ぶことより、新型コロナウィルスによる隠れ肺炎を見つけて、重篤化する前に厳重に管理、介入することではないでしょうか。

 「企業は社会の公器であるべき。利益はあくまで結果。大切なことは社会の役に立つこと」をモットーに、こうした医療機器を作られた立石さんの想いを、無駄にしたくありません。
 
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岡本行夫さん


 元外交官で外交評論家の岡本行夫さんの訃報が届きました。

 4月24日、新型コロナウィルス感染により逝去。享年74。

 5月8日付の石破茂代議士のブログを一部、引用します。
〈冷静な分析力、透徹した確固たる歴史観、祖国日本と人々に対する限りなく温かい眼差しを持った方でしたし、いつの時にも心のこもった見事な文章やスピーチを披露される方でした。特に2003年、イラクにおいて奧克彦・外務省参事官(当時。没後大使に特進)が射殺された際、「君は死んで英雄になったのではない。英雄が死んだのだ」とスピーチされたことは強烈に印象に残っています〉

 死んで英雄になったのではない。英雄が死んだのだ――胸に沁みる言葉です。どう死んだのかはさほど問題ではない。大切なのは、どう生きたかであると考えておられたのでしょう。

 冷静沈着、現場主義、情に厚い真の愛国者…保守もリベラルも、様々な著名人や政治家が、立場を越えて岡本さんの人間性を賞賛し、その死を悼んでいます。その「常に冷静な判断力」によって絶大な信頼を得ていたことがわかりました。今、我々に必要なのはまさにこの力です。

 岡本さんに敬意を払い、今回は冷静に、我が国の新型コロナの死亡率について考えましょう。

 日本総研主席研究員の藻谷浩介氏の調査によれば、5月4日時点で人口百万人あたりの日本の死者数は4人。欧米各国は3桁台と、大きな差があります。日本は死者数を隠蔽していると騒ぐ人もいますが、もし倍の死者数がいたとして10人に満たないのです。

 一方、我が国のインフルエンザでの死者数は人口百万人あたり27人。肺炎による死者数は、同759人(誤嚥性肺炎を除く)。がんによる死者数は同3千人。自殺者は同161人(いずれも2018年)。
 「コロナでだけは死にたくない」と思う人は多いでしょう。 実際問題、コロナで死ぬ人は非常に少ないのです。にもかかわらず、日本は封じ込めに失敗したと騒ぎ立てるメディアや一部専門家が、犯人捜しを始めています。懸念すべきは、この空気に圧され大切な記録が官僚の手により改ざん、抹殺されてしまうこと。

 岡本さんは、3月放送のテレビ番組で、財務省文書改ざん問題に触れ次のように語っていました。「私は長いこと役人をしていました。役人は、徹底的に正確な記録を書くことを叩き込まれます。文書と記録は役人の命です。ましてや、その文書を改ざんするなどとは考えもしません」。貴重な遺言です。ウイルスより恐ろしいのは、恐怖心が生み出す「空気」です。
今こそ冷静な判断力を、岡本さんから見習いたいと思います。


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みなさんコロナ。
書いていて、寂しい限り。

ところで・・・

「この連載を楽しみにしているよ」
と言って下さるのは、全員男性だ。

そう、オッサンの新聞だから女性には無縁。

よろしければ過去記事も読んでください。→こちら




PS)

普通のご遺体は、亡くなってから24時間経たないと、焼けない。

しかしコロナで亡くなれば、4~5時間後に焼かないといけない。

切ない。






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この記事へのコメント

岡本行夫氏、大変惜しい傑人を亡くしたと感じます。
彼のような人物がこのコロナ禍において首相補佐官か特命大臣であればな、とも感じます。
補佐官や大臣など国の中枢を預かる人間に必要な心が今はどこにもないような気がします。

Posted by マッドネス at 2020年05月12日 11:22 | 返信

今日の記事、しみじみ拝見しました。
タイムマシンでもあれば、救えたかもしれないと思うと、
切なくなります。

先生のブログは女性も愛読していますから〜
私は、多分先生と同じくらいの年齢です。
若く無くてごめんなさい。笑

かかりつけ医は、都内区内の人口密集地では、とても難しいですね。
風邪の時などは、よく近所の小さな病院にかかりますが、
その時の処方のみです。
世間話などしませんし、
携帯を教えてくれる先生などいません。
大学病院が混まない為だけの処置が、区内でのかかりつけ医の役目です。
こんな優しい信頼出来る先生が、世の中にいらっしゃる事に驚いています。
先生のそばに引っ越したいくらいです。
携帯を教えてくれて、いつでもかけていいよ〜なんて〜
身内以上に親身になってくれる先生がそばに居るなんて〜
区内では、ちょっと聞いた事がないです。
先生のご近所の方々が、とっても羨ましいです。

先生、一つ教えていただきたい事があります。
コロナウイルスなのに、それがわからないから、ただの風邪だと思って、
自宅にあった、非ステロイド系消炎剤が配合されている風邪薬を飲んでしまう。
すると、悪化してしまいますか。
この件に関しては、様々なブログで語られていますが、
公の発表は有りません。

これについての、先生のお考えを、
差支えない程度でご教示頂けたらと思います。
よろしくお願いします。

Posted by 匿名 at 2020年05月12日 01:19 | 返信

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