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倉本聰さんの想い出
2026年10月09日(金)
脚本家の倉本聰さんが亡くなられた。
一度、お会いして話したことがある。
今、倉本さんをしみじみ偲いでいる。
日本尊厳死協会でもお世話になった脚本家の倉本聰さんの訃報が届きました。享年91。
9月18日、北海道富良野市の自宅で、多臓器不全のため息を引き取ったといいます。
僕が副理事を拝命していた当時、日本尊厳死協会で倉本さんのインタビューをさせていただいたのは、今から9年前。2017年のこと。
(↓以下、日本尊厳死協会のHPにとびます↓)
https://songenshi-kyokai.or.jp/archives/1332
インタビュー・倉本 聰さん
| 公益財団法人 日本尊厳死協会
(インタビューより抜粋)
・・・・・・・・・・・・・
――倉本聰さんは、終末期医療とか緩和ケアのドラマなどもいくつか書かれています。健康とか死については、どんなお考えを?
倉本
そうね、『風のガーデン』のドラマの時に、緒形拳さんが大滝秀治さんに「健康と元気は別のもんだ」と言われたと、僕に言ったことがあるんですが、確かに健康と元気が違うという気はしますね。元気だと、いろんな判断が冷静にできるという気がする。 だけど健康でも元気がなくなると判断はできなくなると思うんですよ。だから元気なうちに判断をしておくほうがいい。
僕は体がガタきてますけど、まだ一応元気だから、「終活」を始めましたよ。遺書も書いたし墓も買いました。尊厳死協会にも入るつもりでいます。 尊厳死については、もっと解釈を広げていいんじゃないかと思うなあ。生きる望みを失っちゃうというか。もう十分生ききったと思ったときは、人間は自裁してもいいような気がするんですよ。
『生命が一番尊い』とよく言うんだけど、果たしてそうなのかという疑問が、僕にはいささか湧いてきてるんです。 ――ただ生きていることだけでは尊くないということでしょうか。
倉本
まあ、そうでしょうね。義理の弟が骨髄がんで何年も苦しんで、最後はホスピスに入ったんです。その日からコロッと変わってね。暗かった顔が明るくなった。ホスピスは最期に何でもしていいんでしょ、酒もタバコも。笑いも出てきました。そして3ヵ月くらいでなくなりました。これは正しい死に方かな、と思いましたね。ほんとに意識がなくなれば自裁もできませんから、一つ前の段階でいろいろ決めなくてはいけないと、僕は思うんです。なにかやりたくて長生きするわけでしょ。そういう目的がないのにただ長生きするというのは、よくわからないんですよ。
――ずっと以前から、そういうお考えでしょうか。
倉本
いや、75、76歳くらいからかな。そんな気がしています。 ・・・・・・・・・・・・・
(抜粋 ここまで)
普通は、歳を取るほど「生」に執着するものなのに、倉本さんはどうやら違ったようです。 『北の国から』『前略おふくろ様』『昨日、悲別で』『優しい時間』『風のガーデン』──。
皆さん、それぞれに思い出すドラマがあるでしょう。 倉本さんの訃報記事から、あらためて晩年の発言を読み返してみると、ずっと「老いること」と「死ぬこと」を考えていたのではないでしょうか。その大きな転機となった作品の一つが、2008年に制作された『風のガーデン』だったのではないでしょうか。テーマは緩和医療でしたね。 https://www.fujitv.co.jp/b_hp/garden/
末期がんに侵された麻酔科医(中井貴一)が、死を前に故郷・富良野へ帰り、絶縁していた家族とのつながりを取り戻す、重厚なドラマでした。中井貴一の父親を演じた緒形拳は、在宅医の役でした。「その人にとって 本当に幸せな最期を迎えられるように」と町の人々の最期に寄り添い続けて生きてきた男です。
そして......末期がんで実家に帰ってきた息子と久しぶりに向き合う。 倉本さん自身、この作品について「死ぬということについて考えた作品」と説明しています。 このドラマの脚本を書くために、倉本さんは緩和医療の医師や患者たちを丁寧に取材したといいます。そこで直面したのが、「人はどのように死ぬのか」という現実でした。
『風のガーデン』に出演した緒形拳さんは、ドラマ放送中の2008年に亡くなりました。その後も、倉本さんと仕事をしてきた俳優や友人たちが一人、また一人と世を去っていく。 若い頃には観念だった「死」が、80歳を過ぎる頃には、自分のすぐ隣に座っているものになっていたのでしょう。 あるインタビューで、倉本さんは、こんなことを語っていました。
「僕は、人間には2つの死があると思うんです」 一つは肉体的な死。そしてもう一つは、 「他者の中からその人の存在が完全に忘れられるという死」 であると。僕も同じことを、今まで何度も本に書いてきました。「あの人、どうしているかな」と誰かが思い出してくれる間は、その人はまだ、この世界のどこかにいる。 逆に生きていても、誰の記憶からも消えてしまったと感じたとき、人はもう一つの「死」に近づく
──その問題を真正面から描いたのが、82歳のときに書いた『やすらぎの郷』でした。舞台は、かつてテレビや映画の世界で活躍した俳優、歌手、脚本家などだけが入居できる架空の老人ホーム「やすらぎの郷 La Strada」。石坂浩二、浅丘ルリ子、加賀まりこ、八千草薫、有馬稲子、野際陽子、藤竜也、ミッキー・カーチス......かつてテレビの中心にいたスターたちが、老人になって老人を演じる。すごいドラマでした。
しかし倉本さんが描いたのは、決して「穏やかな老後」ではありませんでした。老人だって恋をする。嫉妬もする。昔の自慢話もする。喧嘩もする。酒も飲む。人を嫌いにもなる。そして当然、性欲だってある(ちなみに、この世界にあこがれて、実際に高級老人ホームに入ったが、現実は全く違っていたよ、というお話を先日、ロフトの創業者・平野悠さんにニコニコ「長尾チャンネル」でお話ししてもらったところでした) https://live.nicovideo.jp/watch/lv351373566
若い頃と同じように生きていきたい。でも、昨日一緒に笑っていた友人が死ぬ。そして何より怖いのは、自分が世間から忘れられていくこと。かつて大スターだった人間が、若い職員から「誰ですか?」と問われる。それはある意味、肉体の死よりも残酷なのかもしれません。 『やすらぎの郷』は、単に老人ホームを題材にしたドラマではありません。
「高齢者を透明人間にするな!」という、倉本聰さんからテレビ界、そして社会全体への異議申し立てだったように思います。高齢者は、「社会から不要になった人」ではありません。 一人一人に恋愛があり、仕事があり、失敗があり、秘密があり、誇りがあり、人生がある。 そんな当たり前のことを、倉本さんはドラマで突きつけました。
一方で、倉本さんは自分自身の「死」についてはかなり具体的に考えていました。2018年、日本尊厳死協会の顧問に就任され、ご自身もリビング・ウイルを登録されました。つまり、治る見込みがなく死期が迫った場合、ただ生命を引き延ばすためだけの延命治療は望まない、という意思を文書化していたのです。
倉本さんは85歳のとき、こうも語っています。
「いい加減、どこかで『やりつくした』『ここまでやったんだからもういいでしょう』という気にならないと」 簡単に答えの出る問題ではありません。晩年の倉本さんが問い続けたのは、「生きる時間の長さ」だけが人間の幸福なのか、ということだったのだと思います。 2021年4月には、日本尊厳死協会にこんな緊急提言を寄せています。
「そしてコージは死んだ」
https://songenshi-kyokai.or.jp/archives/4993
とてつもなく重いメッセージです。 2025年、90歳になった倉本さんは富良野で終末医療について講演し、地方にももっとホスピスが必要だと訴えています。命を延ばすことだけでなく、苦しみを取り除くことも医療ではないのか? 『風のガーデン』から十年以上が経っても、倉本さんは、問い続けておられました。
そして今年7月27日。 亡くなる約2カ月前、倉本さんは富良野の森の中のアトリエで、結果として人生最後となるインタビューを受けています。その日の朝、体調が悪化し、いったん取材は中止になりました。ところが数時間後、「予定通り取材を受けたい」とご本人が言い、取材が行われたといいます。
鼻には酸素吸入のチューブ。時折、苦しそうに胸を押さえながら、それでも約40分、創作への想いについて語ったそうです。そして酸素の管を指さしながら、笑ってこう言いました。
「息が苦しくてね。管が取れないものだから、写真を撮ってもらえやしない(笑)」
最期まで、自分自身を観察し、言葉にしようとした、なんとも倉本さんらしいエピソードではないでしょうか。
倉本さんは、『北の国から』で生きることを描き、『風のガーデン』では、死ぬことを描き、そして『やすらぎの郷』では、その二つのあいだをつなぐ、「老いる」という長い時間を描きました。 そう考えてみると、人間の人生のステージをほとんど全部書き尽くした人だったのかもしれません。
若者だけが人生の主人公ではない。70歳にも、80歳にも90歳にも、その人にしかない物語がある。そして最後には、死がある。
倉本さん、素晴らしい作品の数々をありがとうございました。お疲れ様でした。
PS)
僕がお会いした時はとても穏やかな人でした。
倉本さん、ありがとうございました!
ご冥福をお祈りいたします。

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