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1月30日(金)

2009年01月30日(金)

すでに亡くなっている人でも一旦蘇生し始めたらどこかに搬送するしかないのは救急隊の宿命か?

 朝8時半、携帯電話が鳴りました。悪い予感。外来通院中のある高齢患者さんが家族が朝見にいくと自宅で亡くなっていて119番されて、既に救急隊が蘇生処置をしているが、どうしたらいいかという問い合わせでした。

  3日前まで当院にヘルパーさんに車椅子を押してもらい通院していましたが、この半年間はかなり衰弱していた様子でした。救急隊員さん曰く「まだ少し温かいのでとりあえず蘇生処置を始めました」とのことでした。

 
 「私が往診して死亡確認しますから蘇生をやめて少し待っていてください」と言いましたが、「それはできません。長尾クリニックに搬送してそこで死亡確認して欲しい」とのこと。「では私が着くまで蘇生処置を続けて頂き、着いたら私の指示で蘇生を中止しましょう」と提案しましたが、
「勘弁してください。とにかく長尾クリニックまで搬送させて下さい」と半ば懇願されました。

  しかたがないので、救急隊員さんの言う通り目と鼻の先の距離の当院に搬送頂き死亡確認をしました。失禁していたので看護師さんが死後の処置もしました。自宅はすぐそこなのですが、自宅に帰るためにわざわざ寝台車を呼びました。なにか腑に落ちません。「おちおち寝ている間にポックリ死ぬこともできない世の中なんだな」なんて思いました。よく考えてみると

1)救急隊とは呼ばれた限りは、いつ死んだか分からず温かかったら蘇生処置を始めるのがそもそもDNAである。

2)一旦始めた蘇生処置(救急救命士はそれが可能)は、救急隊の判断では中止できない。

3)救急隊はそもそも搬送する事が仕事であり、搬送のための蘇生であり、搬送しない限り実績にはならない?
など、考えてしまいました。

 当院の救急専門医に聞くと、「不搬送という選択肢もありますが」と教えてくれました。「不搬送?」と思わず聞き返しました。「不搬送には家族に承諾書を書いてもらうことが多い」そうです。承諾書がないと救急隊が訴えられるかもしれない世の中なのです。何でも訴訟が前提となるアメリカ並みの世の中なのです。
 
 クリニックから目と鼻の先にあるご自宅で、10年前から本人が強く望んでいた通りやっとポックリ死ねたのに、蘇生処置と救急搬送されてすぐに寝台車でまた帰ることしかなかった尼崎の現実に直面しました。

 はっきり言って、そんな暇があればもっと意味があることをして欲しいです。朝9時と言えば心筋梗塞の発症時間です。もし同時刻に本当の救急搬送が重なったら、その病人はお気の毒としか言いようがありません。
  
 
 昨年から私は「開業医や在宅医と救急隊の連携」を言い続けています。昨年12月の読売新聞にも「救急車を呼ぶとどうなるか」で掲載して頂きました。「救急隊員さんよ、在宅医療について勉強しませんか?私はいつでも講師で行きますよ」と救急隊に電話したり、消防署に直訴しにも行きましたが、変人扱いされるばかりで全然相手にされません。

 救急隊員さんは「救急搬送は患者さんと病院とのもので、開業医や在宅医療なんて全然関係なーい」という見解です。しかしはっきり言って間違っています。タクシー代わりに救急車を呼ぶ市民が間違っていれば、無駄な救急搬送に不感症なお役所主義の消防署の責任者も少し考え直して頂きたいと思います。


 尼崎の救急搬送率は兵庫県下ワーストワン、全国でワースト7位です。そんな尼崎こそ、救急隊と開業医や在宅医ともっと連携すべきだと思います。

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